845年~851年
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ドドドドド───
馬の駆ける足音がどこか遠くから聞こえてきて、ハッと顔を上げる。
気を失っていたミカサや他の兵士達も続々と目を覚まし、逸る気持ちを抑えながら、静かにその時を待っていた。そんな時。
「!!…ッ、エルヴィン団長!!」
長時間ハンジさんの頭を乗せていた太ももは痺れていたが、そんなのはお構いなしに馬から降りるエルヴィン団長の元へと駆け寄った。
「ユニ。…無事で何よりだ。現在の状況は。」
「はい。取り急ぎ重要な情報だけ、先に報告いたします。超大型巨人と鎧の巨人は、ベルトルト・フーバーとライナー・ブラウンで間違いありません。彼らが巨人になる瞬間を、何人もの兵士が目撃しています。そしてその2人にエレンと…同じく巨人になれるというユミルを、奪われました…!彼らが逃げたのは向こうで、足跡を追えば向かった先は突き止められるかと。しかし、彼らが逃走してから5時間は経過しています。…私の力不足で、申し訳ありません。」
深々と、頭を下げる。少しして頭を上げると「いや、君が謝る事ではない。ご苦労だった」と頭をポンと撫でられ、団長の胸へと引き寄せられた。
「君は、よくやっている。巨人はいつも、我々の想像を越えてくる。ただ、それだけの事だ。」
「でも……、でも…、」
私は何も…何もできなかったのに。
思わず、団長のジャケットの裾をぎゅ、と握った。ここが人前で、私が団長代理だなんて、今はどうでもよかった。私は易々と、エレンの身柄を明け渡してしまった。エルヴィン団長の期待に応えられなかった絶望感や申し訳なさ、情けなさでいっぱいで、エルヴィン団長に抱き寄せられた今、他の事を考える余裕なんてなくなってしまった。
「気持ちを切り替えるんだ、ユニ。私もこうして戻った事だし、増援も来た。ここからどうにかして、エレンを連れ戻そう。今度は私のために、君の真価を発揮してくれ。」
「!」
エルヴィン団長の、ために…。その言葉に顔を上げると、さっきハンジさんが言っていたように団長がひどく優しい顔で私を見下ろしていて、冷たかった指先に少しだけ熱が戻ってくるような感覚がした。
「君が輝けるのは、団長という立場ではない。そうだろう?」
「…はい。団長は、エルヴィン団長じゃないと、嫌です…。私は使うより、使われる方がいい。」
「私は君を使っているつもりはないが…。」
「…すみません。言葉の綾です。でも、私はそれでも構わないですよ。…あの、手を握って頂いてもよろしいですか?」
差し出した両手を、エルヴィン団長の大きな手が包む。そしてするりと指を絡め取られ、思わずドキリと心臓が跳ねた。
団長の手は温かくて、じわじわと私の手にもその熱が移ってくる。
「これから、エレンを取り戻しに行くんですよね?気を失う前のハンジさんから言伝を預かったので、このまま聞いて頂けますか?」
「あぁ。頼むよ。」
その体勢のまま、ハンジさんの言っていた仮説を話し始めた。
ここでの戦いで敵はかなりダメージを負っているため、どこかで休息を挟みたいはず。
そしてあの足跡の向かった先はおそらく外…ウォールマリアよりも向こう側と仮定する。
ならば、巨人が活動をやめる夜まで、この先にある巨大樹の森で休息を挟む可能性が高いのではないか。
…これが、ハンジさんからの伝言だ。
ハンジさんの推測は、確かだ。巨人化の能力は、無制限にできるわけではない。特に超大型巨人は体を燃やし続けた事でかなり消耗したのではないだろうか。…という希望も含まれているが、5時間も経っているのだから、そうでなければどっちみち、エレンに追いつくのは不可能だ。
「…エルヴィン団長。」
「うむ…それでいこう。むしろ、それしかない。…ユニ、行けそうか?」
確認するようにぎゅっと、繋がれた両手に力が篭もる。これからすぐに出発する。そんな時に私が迷っていては命を落としかねないと、心配してくれているのだ。
「はい。…ごめんなさい、もう大丈夫です。」
手にはもう、温かさが戻っていた。
後悔するのは、まだ早い。まだここから、エレンを取り返す算段がついたのだから。エルヴィン団長が、来てくれたから。
「行きましょう、エルヴィン団長。ご指示を下さい。」
繋がれた手を離して、敬礼をする。気持ちを無理やりにでも切り替えて、体を動かさなくては。
エレンを…人類の希望を、もう一度取り返す。
馬は既に、次々と下へ降ろし始めている。そしてまもなく、全て下ろし終える。
「小規模だが索敵陣形を組む。信煙弾を使用するため、まずは配布を頼む。」
「承知しました。…憲兵団、並びに駐屯兵団の者に、これから信煙弾を配布する!それを受け取り次第下に降り、馬に乗って待機!巨人を見つけたら赤!進行方向の変更は緑!それだけ分かれば良い!煙弾を確認次第、同じ方角に同じ煙弾を打ち上げる事!」
夜までだ。日が沈み巨人が活動をやめるまで。それまでに森に着ければ、まだエレン奪還の可能性は十分にある。
「エルヴィン団長。私は先に下に降りて、巨人が集まってくる前に、下にいる奴らを片付けます。」
「あぁ、頼む。」
憲兵団は特に、巨人を見た事がない者がほとんど。それでもいないよりはマシだとエルヴィン団長は判断し、ここまで連れてきた。なら、私は彼らを守ってやらねばやるまい。本当に心臓を捧げたのかも、怪しい彼らを。
1体1体丁寧に処理し、あらかた周囲の巨人を退けた辺りでエルヴィン団長へ手を上げる。
「出発だ!これより、エレン並びにユミルの奪還作戦を開始する!心臓を捧げよ!」
なんだか、壁外調査みたいだ。エルヴィン団長の合図で、一斉に馬が走り始める。私も壁から滑らかに滑り降り、自身の馬へと跨った。
「小規模だが陣形を作り、巨大樹の森を目指す!エルヴィン団長の合図で、団長を中心に全員等間隔で展開せよ!」
索敵陣形の詳細説明をしている余裕はない。ここはもう壁外で、時間に限りもあるから。
馬の駆ける音を響かせ突き進んで、やがて索敵陣形を展開。とはいえ訓練をした調査兵ばかりではないため、巨人と遭遇した憲兵達は次々と、瞬く間に食われていった。
「ユニ!建物や木のない今、無茶をするな。ここで君がやられてしまっては、いざエレンを取り返す際、ガスや刃を切らすぞ。」
「……はい。」
「もうすぐ、巨大樹の森だ。」
確かに他の兵士に比べ、私はガスも刃も使った。そもそもこの索敵陣形は巨人と戦わないために考案されたもの。これではこの陣形の意味がないという団長の考えも、確かだ。エルヴィン団長に従い、ブレードを鞘へと収めた。
「!森の奥から、光が…!」
「…間に合ったか。」
まもなく巨大樹の森の入り口というところで、森の奥から眩い程の光が差した。ライナーかベルトルトか、あるいはエレンかユミル…そのうちの誰かが巨人化した光だ。
「総員散開!!エレンを見つけ出し、奪還せよ!敵は既に巨人化したものと思われる!戦闘は目的ではない!何より奪い去る事を優先せよ!!」
「単独行動はするな!!落ち着いて進め!!」
こうしている間にも、憲兵や駐屯兵がどんどん減っていく。しかし今は人命より、エレンの奪還が最優先…!
この先にエレンがいる事を信じ、私達は進んだ。