845年~851年
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ニック司祭は、壁の中に巨人がいる事を知っていた。にも関わらず、それを今まで黙っていた。それがなぜなのかは言えないが、この状況を自分の目で確かめてみてなお口を閉ざし続けるのか、はたまた話せる事は話すのか、とにかく、決断を下すつもりらしい。…と、出発前にエルヴィン団長から聞いた。ニック司祭は、我々に同行するつもりなのだと。一体何があれば、話せないなんて選択ができるのだろう。人類滅亡よりも重要な何かが、あるとは思えないが。
しかしまぁ、自分の目で見て判断したいという心意気は良い。教団の規則を守らなければきっと殺されてしまうのだろうし、それを冒してまで話してくれる可能性が僅かでもあるのなら、それは喜ばしい事ではないだろうか?
「それで…この状況を見て、何か心境の変化はありましたか?」
エルミハ区。ウォールローゼ内で巨人の姿が多数目撃されたため、そこに住む住人が次々とここへ避難してきている。日が落ちた、今もだ。駐屯兵団がその避難民達の誘導、受け入れを担ってくれているが入ってくる人があまりに多く、みな不安を胸に抱えている。誰の目から見ても、だ。おそらく、備蓄している食料では持って1週間程度。それを過ぎればこの避難民達はいずれ、飢え死にしてしまうだろう。巨人から逃げて、安全な場所に来たにも関わらず。
「…私は、話せない…。他の教徒もそれは同じで、変わる事はないだろう…。」
「……そう。」
まさか、ここまでとは。この状況を目の当たりにしてなお口を開かないとなれば、もはやニック司祭には何を聞いても無駄だろう。と、踵を返そうと思った時──
「それは、自分で決めるにはあまりにも大きな事だからだ。我々には、あまりにも荷が重い。」
と、そう言葉を続けた。
「我々は話せない。だが…壁の秘密を話せる人物の名を教える事ならできる。」
「!」
彼が元々ここに来た理由は、この状況を自分の目で見てなお"口を閉ざす"のか"話せる事は話す"のかを見極めるためだ。何も彼自身が話すとは言っていない。彼は今、話せる事を話そうとしている。
「その子はまだ何も知らないが…壁の秘密を知り、公に話す事を選べる権利を持っている。…今年、調査兵団に入団したと聞いた。その子の名は──クリスタ・レンズ。」
「え…。」
「あ、あいつが…?」
「彼女を連れてこい。彼女なら、我々の知り得ない真相さえ知る事ができるだろう…。その上で、それを話すかどうかは彼女次第だが…。」
「……なるほどね。ありがとう。…私は、あなたを信用する。」
これは、彼なりにそれなりの覚悟の上話した我々に教えられるギリギリ…下手したらアウト寄りの情報のはず。だってそのクリスタは調査兵団に所属しているのだから、我々調査兵団に寄り添った決断をする可能性が高い。そうなればクリスタは世間に巨人に関する事実を公表するだろうし、それはつまり、ほぼ喋ったのと同義だ。
「……ずいぶんと嬉しそうだな、ユニ。」
思わず口角が上がったのをリヴァイに見られ、慌てて口元を隠した。
「…あぁ、うん。エルヴィン団長の夢が叶うかもしれないと思って、つい。」
「…夢……?」
「…こっちの話。…さぁ、そうなれば次に私達がすべき事は、クリスタの保護だね。104期生は今、最前線で奔走しているはず。すぐに向かおう。リヴァイはここまでね。」
「…チッ…。クソが…。」
今の舌打ちは…この作戦に参加できない事への苛立ち…だろうか?何となく…本当に何となくだが、それだけではないような気がする。が、今はそれを聞く余裕はないし、聞いても話してはくれないだろう。
「…ミケさんは巨人を発見してからトロスト区、クロルバ区へと兵を送り避難指示を出した。その後はおそらく、壁に沿って端から内側に向かって穴の確認に向かったはず…。だとすると…合流するとしたらこの辺り…。」
傍にあった地図を広げ、指でなぞる。トロスト区とクロルバ区から壁の穴を探しながら移動したとして、万が一穴を見つけられなかった場合は…と指さした辺りには、城跡があるようだ。時間も時間だし、もしかしたら双方合流し、ここで体を休めているかもしれない。確証はないが、確認のため向かう価値は十分にある。
「我々はここ、ウトガルド城を目指す。もしもここにクリスタがいなければ、こちらも二手に分かれクリスタの捜索をするしかないね。…それでいいかな?」
パッと地図から顔を上げ視線を巡らせると、ガシ、と頭を掴まれる感覚。私にこんな事をする奴は、ただ1人。リヴァイだ。
「いいかな、じゃねぇ。俺達はお前の指示に従う。これで行く、でいい。しっかりしやがれ、団長代理。」
「あ…、そう、だね。」
「お前はエルヴィンに、託されたんじゃねぇのか。その力が十分にあると、奴に認められてるんだ。なら、そのエルヴィンの期待を裏切らねぇようにやれ。」
「!」
「…いつも通りでいい。いつもの壁外調査の、分隊長としてのお前でいい。どうせ今の調査兵団は、ここにいる俺らと104期生、ミケ班しかいねぇんだからな。」
「…うん。…そうだね、リヴァイ…ありがと。…それでえぇと…言いにくいんだけどリヴァイ、顔が近い…かな。」
「…!」
私を鼓舞しようとしたのであろうリヴァイは、言葉を紡ぐぎながらだんだんと顔を近づけてきた。今やもう、頬が触れ合いそうな程に。ハッと息を飲んだ彼はス、と離れていったが、内心少し気まずそうな表情だ。だから言いにくかったのだ。
しかし、おかげで肩の荷がおりた。
「よし、じゃあ今すぐ──」
「ユニさん!!お待ちください!!…っはぁ…間に合った…!」
慌てた様子で駆け込んできた団員の手には封筒が握られており、どうやらそれを私に届けるために、エルヴィン団長が向かわせたようだった。
「団長から…!これは…アニの…、…!……ハンジさん!エルヴィン団長から、これが。」
封筒の中に入っていたのは、アニ・レオンハートの身辺調査の結果。中身を読んでみるとかなり詳しく書かれており、アルミン達に見せ意見を聞くべきだと双方、判断した。
ライナー・ブラウン。そしてベルトルト・フーバー。彼らはアニ・レオンハートと同郷で、先の壁外調査では2人とも、誤った作戦企画書でエレンが右翼側にいると知らされていた。女型の巨人が最初に姿を現したのも、右翼側。私達がこの情報を見ただけでは「怪しい」止まり。しかしアルミン達なら、その怪しさを疑い、ひいては確証へと持って行けるかもしれない…というわけだ。
「アルミン。出発の前に、これを確認してくれる?」
エルヴィン団長は既に確信していて、次に備えて動いている事だろう。だから急ぎ、この書類をここまで届けた。私達もモタモタしている場合ではない。一刻も早くアルミン達に確認を取り、次の行動に移らなければ。