~844年
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「全隊、長距離索敵陣形に展開せよ!!」
エルヴィン分隊長の指揮の元、ついに新しい陣形「長距離索敵陣形」が展開された。
エルヴィン分隊長、かっこいい…。私も、次はエルヴィン分隊長の元で動きたい…。
などと頭の隅で考えながら、陣形を展開させた。
私達フラゴン分隊長の隊は、次列四・伝達。突然戦闘が起こるような配置場所ではないが、安全ともいえない位置。ここが崩れてしまっては全体の崩壊に繋がってしまうだろうと、安易に想像がつく。何としてもエルヴィン分隊長考案のこの陣形での調査を成功させなくては…!と、今一度気合いを入れ直した。
「!信煙弾、赤確認!」
前方にいくつか、赤の信煙弾。どうやらここを進んだ先には、巨人がいるらしい。少しすると緑の信煙弾が打ち上がり、進路が左へと変わった。
今のところ、順調だ。……今のところは。
チラリ、とリヴァイくん達の方へと視線を向けると、エルヴィン分隊長の考案した陣形について賞賛の声が上がっていてホッと胸をなでおろした。しかし3人で話す時は何を話しているのか聞き取る事ができず、やっぱり内心焦る。
それに……空の様子が気になる。
「嫌な雲…。」
空には黒々とした雲が広がりつつあり…なんだか、嫌な予感がする。
「!」
視線を前に戻したところで、こちらを見るリヴァイくんの視線とかち合った。昨日の話もありドキリとしたが、かち合った視線はすぐに逸らされた。…今の私の反応、怪しかったかな…と少し心配になったが、直後にそんな事はどうでもよくなる程の事態が起こった。
「っ!…雨…!!」
突然の雨。それも、かなりの豪雨。
いきなり降り始めた雨はバケツをひっくり返したかのように土砂降り。今の今まで降っていなかったのが嘘かのように、雨粒が地面を叩く。
「リヴァイくん!!離れないで陣形を小さく!縮小して!!」
自然と集まってきたフラゴン分隊長とサイラムの姿を目視して次にリヴァイくん達に視線を戻すと、もう姿は見えなくなってしまっていた。嫌な予感が、頭を過ぎる。ただでさえ視界が悪いのに、霧まで出てきている。
「フラゴン分隊長、私…っ、私、エルヴィン分隊長の元へ行かなくてはなりません!!」
「は!?お前正気か!?今は任務中…っ、おい!!」
どこにいるのか正確な位置は、分からない。それでも私は、行かなくてはならない。
私の思い過ごしで、何もなければそれでいい。勝手に持ち場を離れた事を叱られはするだろうが、エルヴィン分隊長が無事ならばなんでもいい。全て受け入れる。
しかし…もしもエルヴィン分隊長に何かあったら…。私は、生きる希望を失ってしまう。
頭の中の大まかな陣形図を頼りに、前も見えぬまま一直線に馬を走らせた。向かうは次列二、エルヴィン分隊長の元だ。
「っ、これ、は…!」
巨人の、足跡。エルヴィン分隊長のいる隊を目指していた先にあったのは、それだけ。
雨は弱まり、霧も少し薄れてきた。しかし、事態は何も良くはなっていない。
「これは…、ユニ…!?」
「!っ、リヴァイくん…!」
なぜ、リヴァイくんがここに?なんて、聞くだけ無駄だ。きっとリヴァイくんは、エルヴィン分隊長を殺そうとここまでやってきた。リヴァイくんがここにいるという事は、エルヴィン分隊長を殺す事は叶わなかったようだ。ひとまずは、ホッとした。しかし…しかしだ。地面にある巨人の足跡は後方へと向かっている。来る時には気が付かなかったが、霧に紛れてすれ違う巨人を見逃したのだと分かりサァッと青ざめた。
「イザベルとファーランは!?」
「!」
私が声をかけるとほぼ同時に、リヴァイくんは馬を後方へと走らせた。私もすぐに動き出し、揃って無言でフラゴン隊へと一直線に戻った。
やがて見えてきた人影はフラゴン隊の隊員達で、しかし同時に巨人の影もあり、今まさに、戦闘中であった。
「サイラム!!」
「お元気で!!僕はお先に──」
バキッ!という嫌な音が響く。雨のおかげで、血飛沫は上がらなかった。
「ファーラン!イザベル!」
「っ、ファーラン!前!!」
ドシャッ
ファーランが落馬する。地面と倒れた馬の間に挟まった足を抜こうともがくファーランの元に近づく、巨人。リヴァイくんの馬も、体勢を崩す。
全部が全部、悪い方向へと作用している。
作戦を立てるよりも早く、最悪の事態へと。
「イザベルっ…!!」
とうとう私の馬も泥濘に足を取られ、体が数m吹き飛んだ。
どうしよう。一体、何から対処すれば…!
「ユニ!!手を貸してくれ!!」
「…リヴァイくん!」
1体倒したフラゴン分隊長の元に、もう1体の巨人の影が揺らめいたのが見えた。ここからなら、間に合うかもしれない…!
痛む体にムチを打ち、トリガーを引いてアンカーを打ち込んだ。巻き取るスピードは、最速で。
ギュィイイ、と、普段の自身の立体機動装置からは出ないような音が聞こえる。ザシュッ、という音。手応えはあった。案の定巨人の体はドサリと音を立て倒れ動かなくなったが、これで終わりじゃない。
ファーランを掴んだ巨人には、リヴァイくんが向かっている。そのリヴァイくんを狙う他の巨人は、私が倒さなくてはならない。
そこからはもう、地獄のようだった。
動けるのは私とリヴァイくんだけだったし、雨や霧の他に巨人から立ち上る蒸気でほとんど何も見えず、ただただ向かってくる巨人の手を避け、隙があれば項を削ぎ落とす。
そうしてやっとリヴァイくんが最後の巨人を討伐した頃にようやく霧が晴れ雨も弱まり、絶望感と安堵から膝から崩れ落ちた。
──フラゴン隊6名の内、生存者、2名。
私の判断ミスで、こうなった。私が残っていればリヴァイくんが戻るまで持ち堪えて、生き残れたかもしれない。
「誰か生存者はいるか!」
「!!…エルヴィン、分隊長…!!」
良かった…!生きてた…!!
この絶望的な現実を前に喜ぶべきではないのは分かってはいるが、無事にその姿を視界に捉えられた事が何よりも嬉しく、瞳には情けなく涙が膜を張った。
ドッ、
「!?っ、リヴァイくん…!!」
勢いよく飛び出したリヴァイくんの手により、エルヴィン分隊長は馬から落馬した。幸い馬は足を止めていて大事には至らなかったが、完全にリヴァイくんの動きは私からしてみれば誤算で、飛び出すのが出遅れてしまった。
「来るな」というリヴァイくんの忠告を無視し、間に割って入る。人からブレードを向けられた事なんかなくて、体が震える。それでも、例え怖くとも、退くわけにはいかない。リヴァイくんは今、確実にエルヴィン分隊長を殺そうとしているから。
「どけ…、ユニ。俺は今、エルヴィンを殺すためにここにいる。」
「そんな事を言われたら、なおさら退くわけにはいかない。この人は私にとっても調査兵団にとっても、大事な人だから。」
「なら……てめぇも殺す。」
肩口にブレードの刃がくい込んで、熱くなる。私からは見えないが、きっと血が出ているのだろう。
「ユニ…君が傷付く事はない。下がっていなさい。」
「絶対に下がりません。安心してください。そこまで痛くないです。…どうぞ、このままお話を。」
「……ニコラス・ロヴォフに関する書類だ。」
パチャ、とぬかるんだ地面に小さい書類が落とされた。恐らくあれは昨日言っていた、貴族の横領について書かれている書類。だが、中身は白紙。本物は既にザックレー総統の手元にあるというのだから、リヴァイくんからしてみれば誤算中の誤算。さすがエルヴィン分隊長。相手の何手も先を読んでいる。本当に頭の回転が早くて、尊敬する。
「…命捨てるのに割に合わねぇ。くだらない駆け引きに巻き込まれたもんだ。…てめぇもな。」
「っ!…エルヴィン分隊長…!」
一瞬肩の傷が深くなったかと思ったら、すぐに刃の感触が離れていった。代わりにビシャッと飛び散ったのは、エルヴィン分隊長の血。私の後ろから素手で、刃を押し返したからだ。
「くだらない駆け引き?私の部下を、お前の仲間を殺したのは誰だ?私か?お前か?共に私を襲いに来ていれば、2人は死なずに済んだと思うか?」
「…、そうだ…俺の驕りが…、俺のクソみてぇなプライドが──」
「違う!巨人だ!!」
「!」
リヴァイくんに向けられたエルヴィン分隊長の言葉は、私の心を揺さぶった。私は……きっとリヴァイくんも、隊を離れた事を後悔している。私達以外全滅したのを、自分のせいだと責めている。責任を感じている。
エルヴィン分隊長はただ、リヴァイくんを調査兵団へ引き入れたくて言っているだけなのかもしれない。だけどそれでも私は今、その言葉に救われた。
あぁもう…これ以上エルヴィン分隊長を好きになるなんて、無理だと思ってたのに。
「調査兵団で戦え、リヴァイ!お前の能力は人類にとって必要だ!!」
きっとリヴァイくんも、エルヴィン分隊長の言葉に少なからず救われたに違いない。
エルヴィン分隊長の言葉は重く、心に響くから。
「…大丈夫か、ユニ。これから荷馬車班まで向かう。…この傷では乗馬は危険だな。私の馬に乗るといい。」
「…、ありがとう、ございます…!」
「よし…生きて帰還するぞ!」
今になってようやく、遅れて痛みがやってきた。さっきは本当の本当に、痛くなかった。嘘じゃない。
しかし今は……めちゃくちゃ痛い。それに雨に打たれて体が冷えたのもあり、頭がクラクラしてきたし…とても寒い。
ギュッとエルヴィン分隊長に抱き寄せられた気がしたのは、私の夢だろうか?