845年~851年
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「これより直ちに、カラネス区へ帰還する!!長距離索敵陣形、展開!!」
リヴァイの馬も森の奥で無事見つける事ができた。エレンを荷馬車へと寝かせて、各々の馬に乗って、今朝来たばかりの道を戻る。朝よりも、だいぶ人数が減ってしまった。エルヴィン団長の事だから、すぐにまた新しい策を講じるのだろうが…これでは調査兵団の支持率がまた下がってしまう。それと同時に、エルヴィン団長の信用だって…。エルヴィン団長は本当に、すごい人なのに。
「…今回ばかりは、敵がエルヴィンの想像を超えてきやがったな。」
「リヴァイ…慰めてくれてるの?」
「バカ言うな。ただの雑談だ。」
「ふふ、そう。でもね、私はそんなに落ち込んでないよ。あぁ、班員を失ったのは別。それは、後でたくさん泣くよ…。でもエルヴィン団長はもうきっと、次を見据えているから。すごいよね。本当にすごい人。…それなのに、上手い事いかなくてやきもきするというか…。今回の作戦だって、完璧だったのに…。」
「お前…エルヴィンの事になると本当によく喋りやがるな…。」
「え?あぁ、そうかもね。エルヴィン団長の話だったら、一生できるかも。ねぇ、今度付き合ってよ。」
「断る。」
そんな、バカな。リヴァイが付き合ってくれなかったら、一体誰が付き合ってくれるというのか。
「あ…壁が、見えてきた。」
まもなく門だ。ここまで巨人と遭遇する事なく、無事に戻ってこられた。向かう時はあれほど巨人に邪魔されたのに。
市街地を通り開門された門を通ると、市民の評価は聞くに絶えないものだった。みな馬を降り、重い足を引き摺って歩を進めた。
「かっけー!これがあの調査兵団か!あんなにボロボロになっても戦い続けてるなんて!」
ただ、羨望の眼差しをくれる子供達には私も笑顔を返した。手を振ると向こうも手を振り返してくれて、かわいらしく思う。あの子達には、調査兵団が人類を救う希望なのだと、信じていてほしいから。だから私はいつも、行く時も帰ってきた時も、変わらず笑顔を向ける。昔は私も、あの子達と同じだったから。
「エルヴィン団長!答えてください!」
「今回の遠征で、この犠牲に見合う収穫があったのですか!?死んだ兵士に、悔いはないとお考えですか!?」
「!…すみません、離れてください。皆さんのご意見は尤もで…っ!」
「ユニ…!」
「大丈夫です…市民の方も、わざとではないですし。ね?危ないので下がってください。こちらには馬もいますし、立体機動装置もありますし…危ないですよ。ご意見があれば、兵団にお手紙を下さい。私が全て目を通し、お返事も書きますから。」
エルヴィン団長を責めるなんて、私が許さない。エルヴィン団長が上に頭を下げるなら、私は市民に頭を下げよう。喜んで。それでエルヴィン団長へ向いていた怒りが、収まるのならば。
「全く君は…せっかく無傷で帰ってきたというのに、壁の中で怪我をするなんて…。」
「えへへ…エルヴィン団長直々に手当てしてくださるなんて、幸せです。」
「……気持ち悪ぃ。」
「リヴァイ、聞こえてるんだけど。」
「そうか。なら良かった。聞こえるように言ってるからな。」
市民の拳が、たまたま顔に当たってしまった。そもそも私が間に割り込んでしまったからで、本来であれば当たるはずはなかった。あれがもしエルヴィン団長を殴るために握られた拳だったなら、私も冷静ではいられなかっただろうが。
「それで、リヴァイの足は?」
「…折れてはいないが、ヒビが入っている。…クソが。」
「珍しく無茶したのね。…いや、無茶したのはミカサか。」
リヴァイの怪我は、ミカサを庇って負ったもの。本来のリヴァイであれば、こんな怪我は負わなかっただろう。なんだか、全てが悪い方へ向かっている気がしてならない。
「エルヴィン団長。次の策についてですが…。」
「あぁ、それなら──」
「エルヴィン!」
ガラッ、と医務室の扉が勢いよく開かれ、ハンジさんが焦ったように団長の名を呼んだ。そして─
「君と、責任者の王都への招集命令と…エレンの引き渡し命令が…!」
「来たか。早いな。いつだ。」
「明後日だ!なんだよも〜、予想してたか〜。あぁそれと、アルミンが君と話したがっているんだ。」
「そうか…団長室に通してくれ。ユニ、君も一緒に同席を頼む。」
「はい。リヴァイは?」
「リヴァイは、もう少しエレンを頼む。立体機動装置はなくとも、逃げたり反逆の意思はないだろうがな。」
「……。」
まただ。またリヴァイは、エルヴィン団長の指示を受けたのに、私に判断を委ねる。私が首を横に振る事なんて、絶対にないのに。
「任せたよ、リヴァイ。」
「あぁ…了解した。」
絶対に了解するくせに、このやり取りに意味なんてないだろうに。むしろ、余計な手間がかかっているだけだ。
「女型の巨人と思わしき人物を、特定しました。」
アルミンから告げられたのは、そんな、突拍子もない事。確かに104期生の中に敵がいると、我々は予想していた。しかし、アルミンはそれを知らないはずだった。話を詳しく聞くと、彼は今回の壁外調査では右翼側を担当しており、女型の巨人の襲来に立ち会ったのだという。そこで104期生の中に敵が潜んでいたのだと特定し、またその中から、被検体である巨人2体を殺したのが彼の同期──アニ・レオンハートであると特定に至ったのだという。
「……ユニ、嬉しそうだな。」
「え…?あぁ、ごめんなさい…!でも…、…っ、エルヴィン団長、アルミン、すごいでしょう?エルヴィン団長みたいに、すごい子なんです…!」
「…フッ、はは、そうだな。」
どうしても堪えきれなくて、空気も読まずにエルヴィン団長の目の前でアルミンを賞賛する。団長は笑ってくれたが、アルミンは少し気まずそうにしていた。アルミンは本当にすごい子なのに、謙遜しすぎている。
「アルミンは、窮地に立たされると頭が良く回るタイプなんです。エルヴィン団長とアルミンがいれば、調査兵団は安泰ですね。」
「そ、そんな事はないです。」
「アルミンは謙遜しすぎ。現に今、敵を見つけ出したのはアルミン、あなたでしょう?」
「しかし…、確証は…。」
「?エルヴィン団長を呼び出しておいて、確証がない?それは違う。あなたの中では、もう確信しているはず。あなたはただ、否定してほしかっただけ。他でもない、調査兵団団長、エルヴィン・スミスに。」
「…っ!」
途端にアルミンは、イタズラがバレた時の子供のようにバツの悪そうな表情になり、視線を逸らした。とても、かわいらしい。
「同期の……友人の中に敵がいるなんて、考えたくもないよね。疑っている自分が、嫌になってくると思う。でもそんな中でこうしてエルヴィン団長に伝えにきてくれた事、心から感謝するよ。ありがとう、アルミン。」
「私からも感謝する。君のおかげで、また希望を見いだせそうだ。」
個人が特定できれば、話は早い。エレンの身柄が憲兵団に引き渡される明後日までに、捕まえてしまえば良い。と、思ったのだが。
どうやら事は、私が思っているより複雑らしい。
「憲兵団所属のアニ・レオンハートを捕らえるには憲兵団に協力を仰ぐのが一番手っ取り早い…が、彼らは信用ならない。」
「信用…、それはそうですね。」
「何か策はあるのか?アルミン。」
「!」
エルヴィン団長が、アルミンに策を委ねた。アルミンにそれを託したのは意外だったが、エルヴィン団長もアルミンを認めてくれているのだと思うと、少し誇らしく思った。
「僕なんかの策で良ければ…聞いて頂けますか?」
アルミンは事前に策を講じていたようで、謙遜しながらもスラスラと話し始めた。まず、我々の王都招集のタイミングで、エレンとジャンをすり替えウォールシーナ内に入る。そしてアルミンとエレンがアニを地下通路まで誘き出し、調査兵団の兵力とエレンの巨人の力を使い、アニ──女型の巨人を拘束──
かなり大胆な作戦であったが、それを聞いたエルヴィン団長が「その作戦でいこう」とアルミンの策を採用し、トントン拍子に話が纏まった。
「ちなみに…王都招集には、君も含まれている。」
「えっ!?」
「責任者には、君とリヴァイの名が連名で記されているからな。エレンの教育担当として、あとから私が書き加えた。」
…私が見た時にはリヴァイの名前しかなかったはずなのに…なるほど…。
「では、私はこの作戦には不参加、という事ですか?」
「いや、参加自体はしてもらう。詳しくはあとで話すが…この作戦の指揮はハンジ、君に任せる。」
「えっ、私?まぁそうか、そうなるのか。分かった。アルミン、作戦の詳細を話してくれるかい?」
「その前に、リヴァイとエレンのところへ行こう。彼らも一緒に話した方が、話が早い。」
リヴァイはエレンと、講堂にいるはずだ。揃って下へと降り扉を開けると、やはり講堂に2人ともいて、リヴァイと視線がかち合った。そして──
「ユニ、紅茶。」
自分が今飲んでいるのはなんなのかと、問い詰めたくなった。態度も大きいし、色々おかしい。
「エルヴィン団長も、どうぞ。」
「あぁ、ありがとう。」
リヴァイの分を淹れるついでにエルヴィン団長の分も淹れ、テーブルへと置く。残念ながら、全員分淹れるのは面倒だった。それにみんな、今からする話を想像すれば、紅茶を飲む気分でもないだろう。
「女型の巨人と思わしき人物を見つけた。」
リヴァイとエレンのため、エルヴィン団長が簡潔に、そう話し始める。
「大まかに説明すれば、我々が憲兵団に護送される際にストヘス区中でエレンが抜け出し、目標を誘き寄せて可能なら地下で、巨人化させる事なく捕獲するのが目的だ。」
詳細はここで聞くと言っていたのに、エルヴィン団長の中ではもう、作戦が完成していたらしい。アルミンも驚いたように目を見張っているし、もしかしたらエルヴィン団長が事前に考えていた策も、これに近しいものだったのかもしれない。さすがはアルミンだ。
「女型の巨人だが…それを割り出したのはアルミンだ。この作戦を立案したのも彼で、私がそれを採用した。女型と接触したアルミンの推察によるところでは、いわく女型は君達104期訓練兵団である可能性があり、生け捕りにした2体の巨人を殺した犯人とも思われる。彼女の名は……アニ・レオンハート。」
エレンは、信じられない、という顔をした。いや、信じられないのではない。信じたくないのだ。彼も、例え巨人になれるのだとしても、人間。苦楽を共にした友人が敵だったなど、考えたくもないのだ。
本当に、現実とは、残酷なものだ。