845年~851年
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「みんな……回収できて、良かった…。」
リヴァイ班のメンバーの遺体は、比較的安全に回収する事ができた。女型の巨人は姿を消し、辺りの巨人も大人しくなっていたからだ。
「…リヴァイ。」
「……お前の部下を、死なせちまった。…すまない。」
私の隣に静かにしゃがみ込んだリヴァイは、リヴァイ班の遺体から自由の翼を切り取りながら、そう懺悔した。いつからだろうか。壁外調査が終わった時のリヴァイは、いつもこうだ。仲間を死なせた事を悔やみ、嘆き、私の前で懺悔する。こう見えてリヴァイは仲間を大切にする男で、責任感だって人一倍なのだ。
「…みんな、心臓を捧げた兵士。それに、私の部下でもあるけど、リヴァイの部下でもあるでしょ。リヴァイ班のみんなは、リヴァイが思ってるよりもリヴァイを慕って、信じてたよ。だから、自分ができなくともリヴァイ兵士長ならやり遂げてくれると、その意志を託してくれたと思うな。だからリヴァイは、それを持って帰るんでしょう?」
「……だといいがな…。」
「納得いきません!エルヴィン団長!!」
「っ、…ごめんリヴァイ、ちょっと。」
リヴァイのメンタルケアにもう少し付き合ってあげたいところだが、エルヴィン団長の方でも何か、問題が起こったようだ。彼は団長という立場があるゆえに、人から誤解を受けやすい。付き合いの浅い兵士相手には、なおさら理解されないのだ。
「どうかしたの?」
「ユニさん…!」
「イヴァンの遺体の…回収に向かわせてください!」
「駄目だ。」
「イヴァンの死体は…すぐそこにあったのに…!」
「巨人が、すぐ横にいただろう…!二次被害になる恐れがある…。」
「襲ってきたら、倒せばいいではありませんか!」
あぁ、なるほど…と納得する。気持ちは、分かる。痛いほどに。しかしエルヴィン団長の決断も分かる。むしろそうすべきだと思う。回収は、諦めるべきだと。
「ガキの喧嘩か…。死亡を確認したなら、それで十分だろ。」
誤解を受けやすい人が、もう1人。リヴァイの言いたい事も分からないでもないが、言い方はやはり、冷たいと思う。本当はリヴァイだって、自分にそう言い聞かせているだけなのに。
「イヴァン達は行方不明として処理する。これは決定事項だ。諦めろ。」
そう言って立ち去る、団長とリヴァイ。ポン、と肩に置かれた団長の手は、すぐに離れていった。今のはエルヴィン団長の「すまない、頼んだ」という合図。エルヴィン団長のためならこんなの、なんて事ないのに。
「…お2人には…、っ、人間らしい気持ちというものが無いのですかッ…!!」
その叫びを聞いて、胸が痛んだ。エルヴィン団長は、被害を最少にして、生きて帰れる者は可能な限り生きて帰さなければならない。団長である彼には、その責任がある。感情とは無関係に、そういう責務というものがある。それが、調査兵団団長という立場なのだ。それが分かるから思わず、涙が零れてしまう。
「……仲間の遺体を持ち帰って、家族に還してやりたい…。…その気持ちは、分かるよ。」
「!…なら…!」
「私だけじゃない。エルヴィン団長だって、リヴァイだって…きっと、私以上に連れて帰ってあげたいと思ってる。だってみんな、自分の考案した作戦で死んでるんだよ…?そんなの…、責任を感じないわけ、ないよ。」
だから、これ以上エルヴィン団長に怒りをぶつけるのはやめて欲しい。
「エルヴィン団長を、責めないであげてほしい。イヴァンの遺体の回収は、できないの…!回収に行ってまた死傷者が出れば、また、悲しむ人が増える…。私やリヴァイ、ミケさんが行けば、安全に回収できると思ってる?言っておくけど、たとえ私達でも、安全は保証できない。だってそんな事ができたら……そもそも、私達は班員を失ってないはずだもの…。」
「……っ、リ、リヴァイ班の援護があれば…!」
「そのリヴァイ班は、リヴァイ以外、全員やられたの。死んじゃったんだよ。……巨人って、そういう事ができる奴らなんだよ。団長はそれを正しく理解しているから、あなた達を巨人の元へ向かわせないの。イヴァンだって、自分の遺体回収に来たあなた達が巨人に食われたら……死んでも死にきれないよ…。」
勝手に死者の思いを想像し発言してしまったが、彼らが食い下がる事は、それ以上なかった。
代わりに2人の手を取って、ギュッと握った。
「イヴァンの分も、生きて。これからも、生き残るの。死んでしまったらもう、イヴァンを思い出す事もできないんだから。だから、私達は生き続けるの。きっとそれが、心臓を捧げたイヴァンにできる、唯一の弔い方。イヴァンの意志を継いで、次に繋げよう。」
「…っ、う…!!」
「ッくそ……!!」
「…悲しむのは、あと。無事に壁の中に、生きて帰ってから。…だから帰ったら、一緒に泣こうね。」
「っはい…!!」
事態は何とか、収拾した。壁外調査は肉体的消耗、体力的消耗はもちろん、精神的にもかなり消耗する。だからみなどうしても、帰りは悲壮感に包まれてしまう。今回の壁外調査に限っては、明らかな作戦失敗という結果も相まっているのだが。
「…見事だな。」
「あぁ…リヴァイ。見てたの?あまり歩き回らないでよね。」
「お前はいつも、人の事ばかりだな。」
「…そうかな…?…言われてみればそうかもね。でもそれがエルヴィン団長のためになるのなら、私はいくらでもやるよ。」
私が兵士達の不安の種を取り除く事で反乱分子が生まれないというのなら、私はいくらでも話を聞き、癒す。それが間接的にエルヴィン団長の、助けになるというのなら。
「あぁ…なっているだろうよ。兵士の大半は、お前のおかげで自分を保っていられているんだからな。」
「……でも、それにも限界がある。私がいくら奔走したところで、作戦の失敗は覆らない。失敗は失敗。それだけは、どうにもできない。」
「それをどうにかするのは、エルヴィンの役目だろ。」
「エルヴィン団長も、口が上手いからなぁ。」
失敗は覆らないが、この失敗を糧にしてまた彼は次の作戦を立てるだろう。そしてある程度は彼の思い通りに事が運ぶのが、安易に想像できる。
「…それにリヴァイの言葉も、ストレートで心に響くよね。だからリヴァイ班のみんなも、私よりもリヴァイの方を信頼してたんだよ。」
リヴァイはただ強いだけでなく、思いも人一倍だから。
一息つきたくて手頃な岩に腰掛けると、リヴァイもその隣へと腰掛けた。まだ壁外だというのに、しばらくここから動きたくない気分だ。
「そんな事はねぇだろ。お前がいない間もずっと、アイツらはお前の話をしていたぞ。」
「……そうなの?」
「あぁ。どういう経緯でお前に認められ、班の一員になったか、嬉しそうにエレンに自慢してたぞ。」
「えぇ…そんな…。私…、もうっ!壁外では泣かないって決めてるんだからっ…!泣かせるような事、言わないでよ…!!」
「……悪い。」
「ユニ、ここにいたのか。…!泣いているのか?」
「いえ…大丈夫です。エルヴィン団長のお顔を見たら、落ち着きました。」
「…あまり無理をするな。」
スリ、と団長の手のひらが頬を包んで、本当に止まっていた涙はむしろ引っ込んだ。彼の大きな手のひらは少しカサついていたが、とても、温かい。
「ふふ…本当に、もう大丈夫です。そろそろ出発しますか?」
「…あぁ。遺体の回収も、限界まで行った。カラネス区へ帰還しよう。」
パッと離れていくのは名残惜しかったが、頬の温もりは消えず、温かいままだった。
「さ、リヴァイ。帰ろう。帰ったら今度こそ一緒に泣いてくれる?」
「…泣くのはお前だけだが…まぁ、付き合ってやるよ。」
私達は、生き延びた。生き延びたからこそ、次がある。
作戦が失敗に終わった今、エルヴィン団長の考える次の策に、賭けるしかない。
私は、エルヴィン団長を信じる事しかできないのだから。