845年~851年
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ガァァァアアア!!
「!?っ、今のは、巨人の咆哮…!」
先ほどの女型の巨人の声とは違う、もっと低い声。という事はエレンが、巨人の力を行使したという事だ。エレンには、巨人化するのは自分の身に危険が迫った時のみだと言い聞かせているはず。ならばエレンは今、危険な状況に置かれているはずだ。
「危険だから、離れてて。事が済んだらまた呼び戻すからね。」
女型の巨人は、何頭もの馬を殺したと聞いた。近くにいてはまた、足を奪うために攻撃されるだろう。幸いここはまだ巨大樹の森の中。手綱を離し、自身も立体機動へと移る。
「あっちだ。」
リヴァイの後へつき、彼の先導でエレンの元へと急ぐ。
「…っ!!」
なにかあった。そう思うのに十分な、惨劇の跡。
グンタ、エルド、オルオ、ペトラ──
私が自ら選んだ、私の班員が全員、見事にやられてしまっている。調査兵団たるもの、いつかはこうなると覚悟はしていた。だが、それがこんなに急に、それも全員一度に失うなんて…思ってもみなかった。一体そんなの、誰が想像できただろう。
「お前は、死ぬなよ。」
「リヴァイは、死なないでよ。」
長い沈黙のあと発したのは、お互いがお互いを案じる言葉。タイミングも見事に揃っていた。
これだから、私は安心してリヴァイに背中を預けられる。リヴァイも同じように思っててくれたら嬉しい。
悲しみ嘆くのは、あとだ。今は死なずに、エレンの護衛の任務を全うしなければ。
「!…ミカサ!!」
破壊された頭部から顔を覗かせるエレン。それを齧りとる、女型の巨人。そして、女型の巨人の巨人に立ち向かう兵士が1人。目を凝らしてみると、それはミカサであった。刃が通らないというのに何度も立ち向かい、その必死さを見るに冷静さを失っているのは一目瞭然であった。
「同じだ。一旦離れろ。」
力づくでリヴァイがミカサを女型の巨人から引き離し、距離を取って敵の後ろを取る。
「大丈夫?ミカサ。リヴァイ。止めるにしても、もう少し優しくしてあげて。女の子なんだから。」
「ゲホ…、大丈夫です…。」
「…項ごと齧り取られていたようだが、エレンは死んだのか?」
「エレンは…生きてます。」
どうやらミカサは、リヴァイに相当な恨みがあるらしい。そりゃそうだ。審議所であんな事をしたのだから。私だってエルヴィン団長にあんな事をされたら、ミカサみたいになる自信がある。
「目標には知性があるようですが、その目的はエレンを連れ去る事です。殺したいのなら、潰すはず。目標はわざわざ口に含んで、戦いながら逃げています。」
「連れ去る…一体どこに…。いや、考察はエルヴィン団長に任せよう。エレンは調査兵団…ひいては、人類の希望。エルヴィン団長が人類滅亡の危機から人類を救うには、エレンの力が必要不可欠。なら、絶対に渡すわけにはいかない。リヴァイ。」
「てめぇ…こんな状況でもエルヴィンエルヴィンと、うるせぇぞ。…だが、そうだな。…目的をひとつに絞るぞ。まず…女型を仕留める事は諦める。」
「ヤツは…仲間をたくさん殺しています。」
「ミカサ。それは今、関係ない。あなたはエレンを取り返したいんでしょう?我々が戦って勝てる勝算は、残念ながら無い。勝算があるなら、こうはなってないの。それに、死んだらエレンは取り返せない。それは分かるね?」
「……。」
少し残酷すぎただろうか?しかし、これが現在の調査兵団の考えだ。いちいち私情を挟んでいては、何も得ることはできない。失うものの方が大きい。
「…エレンが生きている事に全ての望みを懸け、ヤツが森を抜ける前にエレンを救い出す。俺とユニが、ヤツを削る。お前はヤツの注意を引け。」
即席のリヴァイ班の、エレン奪還作戦スタートだ。
ギュィィイイ、という音を立て、ミカサが女型の巨人の前へと飛び出す。私も遅れてミカサの後を追うように飛び出し、足元へと忍び寄る。敵の注意は、ミカサ──ではなく、リヴァイの方へ向いた。さすが、知性があるだけある。この中で確実に仕留めなければならないのは、リヴァイである事に間違いはない。
その隙に足首から太腿にかけての筋肉を断ち切ると、ヤツはズシン、と巨木を背に座り込んだ。視界は、リヴァイが奪った。次に右肩と左肩の筋肉をそれぞれ断ち切ると、いとも簡単に両腕がダランと垂れ下がる。あとは、顎周りの筋肉を…と思ったところで、ミカサが項を狙っている事に気がついた。
「!よせ!」
「ミカサ!!」
先に飛び出したのは、リヴァイ。なら、ミカサはリヴァイに任せ、私は女型の巨人を…!
ズバッ!と勢いよく顎を支える筋肉を一刀両断すると、ようやくエレンの体が視界に移った。ミカサの言った通り、生きてはいるようだ。
「っ、リヴァイ!!」
私では、エレンを持って飛べない…!このまま無理して飛んでも、きっと唾液で滑って取り落としてしまうだろう。
「チッ…!だからあれほど、筋肉をつけろと…!」
ガッ、とリヴァイは私ごと掴み、女型の巨人の口の中から離脱した。リヴァイは小さいのに、力がありすぎる。
「もうヤツには関わるな。撤退する。作戦の本質を見失うな。自分の欲求を満たす事の方が大事なのか?お前の大切な友人だろ?」
「ちょっ、リヴァイ!!もう少し優しく降ろしてくれない!?」
ミカサに向かってそれらしい事を言いながら、リヴァイは乱雑に私を離した。文字通り、離した。空中でだ。落とした、と言った方が正しいかもしれない。エレンはしっかり担いでいるのに、変に器用な奴。さすがに少し、ヒヤッとした。
「あ、私の馬…。」
ちょうど進行方向に、自身の馬を見つける。ピィーーと指笛を吹くとまっすぐ向かってきてくれ、無事合流を果たした。
「リヴァイ、乗って。」
「あ?お前の馬だろ。」
「いいから、乗って。エレンを乗せたいけど、私じゃ気を失ったエレンを支えられないし。」
「…チッ。本格的に、対人格闘技の訓練だな。」
本当は気づいていた。リヴァイが怪我をしている事を。さっきの戦闘でミカサを庇い、左足をやったようだ。なんて事ない顔をしていて分かりづらいが、左足を庇って飛んでいるのに、すぐに気がついた。
「!エルヴィン団長!!」
「ユニ、リヴァイ。無事だったか。…他の者は?」
「……エルド・ジン、グンタ・シュルツ、オルオ・ボザド、ペトラ・ラル。以上4名、エレン・イェーガーの護衛任務を遂行中、女型の巨人と交戦になり…そこで、死亡を確認しました。」
「……そうか…。ご苦労だった。」
「…っ、いえ…。」
ポン、と団長の大きい手が、私の頭に乗せられる。ほんの一瞬だったが、それが何よりも温かく、胸に沁みた。まだ、泣いてはダメだ。ここはまだ、壁の外なのだから。
「ここでしばしの休息ののち、カラネス区へ帰還する。…安全が確認でき次第、動ける者で回収可能な遺体をできる限り回収する。」
「っ…はい!…あ、リヴァイは…足を怪我しているようなので、無理に動かぬよう説得をお願いいたします。私が言っても、きっと認めないでしょうから…。」
「……私の命令も、素直には聞いてくれないんだがな…。」
結局、リヴァイの説得は私達2人がかり。エルヴィン団長が命令し、私が従うよう指示してようやく。本当、リヴァイの扱いは手がかかる。