~844年
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「エルヴィン分隊長っ!」
壁外の、とある古城。今日の休息拠点であるここに到着し隊員の点呼を取った報告がてらエルヴィン分隊長を見つけ、人気のない廊下に行ったところを後ろから捕まえた。エルヴィン分隊長の事だから捕まえたというには心許ない拘束だが、振りほどきはせずに緩やかに体をこちらへと反転させた。
「ユニ。奇行種の討伐、見事だったな。」
「ありがとうございます。リヴァイくんとの連携、どうでしたか?」
「素晴らしかったよ。彼らに君をつけて、正解だった。君は本当に、人の力を引き出すのが上手い。」
ス…と頬を撫でるエルヴィン分隊長の手が暖かくて大きくて、気持ちよくてもっと触れて欲しいと頬を擦り寄せた。幸せだな…。ドキドキして、生きていると実感させられる。
「本当ですか?リヴァイくん、元々なんでもできましたけど…。」
「そんな事はない。彼も君を見て学んでいる。…私が嘘を言っていると思うか?」
「嘘だなんてそんな…!私、誰よりもエルヴィン分隊長の事を信じてます!」
「ふ…、君は本当にかわいいな。」
優しく微笑んでから近づいてくる、エルヴィン分隊長の凛々しいお顔。少し背伸びをして目を閉じるとまた「フッ…」と笑ったような吐息が聞こえて、唇に温かいものが触れた。
エルヴィン分隊長といると、生きている実感が湧いて、安心する。
「…すまない。団長に呼ばれているから、そろそろ行かなければ。」
「……はい。フラゴン隊、生存者6名です。」
「承知した。またあとでな。」
エルヴィン分隊長は忙しい。今回は特に新しい陣形のテストのための調査で、エルヴィン分隊長はその要なのだから。
最後にヨシヨシと優しく頭を撫でてもらって、扉の前で分かれた。私も分隊長になれば、この中に入れるのだろうが……、やはり私はエルヴィン分隊長の下で、人類のために心臓を捧げたい。
だから、これでいい。これが最善。
そう、いつものように自分に言い聞かせた。
「なにか上達する秘訣とかあるの?」
人が集まっているだろう講堂のような場所へと歩を進めると、やはり中には数名の兵士が揃っていてリヴァイくん達に視線が集まっていた。
え?まさかなにか問題でも起きてる…?と周囲を見回すとどうやらそういう雰囲気ではないらしく、リヴァイくんのそばにいるハンジ分隊長は笑顔を浮かべていた。…あんな優しい笑顔、初めて見た。
「皆君達の戦いを見て、やり方によっては人間だって巨人に負けないって勇気づけられたんだよ。」
「……、へへへ!兄貴、すげーだろ!?見直したか!?」
「ふふっ。」
イザベルの純粋に喜ぶ姿に、思わず笑顔が漏れる。リヴァイくん達の視線がこちらに向き、さすがに無視はできないと私もその輪に加わった。
「見直すも何も、リヴァイくんは元々すごい人だったよ。」
「そうだよな!?やっぱ俺、ユニの事好きだ!」
「あはは、ありがと。」
「ユニも。今日のリヴァイとの連携、素晴らしかったよ!今までよりもやりやすいように見えたけど、実際どうだった?」
ハンジ分隊長からの問いに、奇行種を倒した時の事を思い返す。犠牲者は出てしまったが、言われてみると確かに、いつもよりもスムーズだったかと思う。
「そうですね…リヴァイくんなら絶対に一撃で倒してくれると確信がありましたし…。倒してくれると信じていたから、あの時飛び出せました。」
「君達、この数ヶ月の間に随分信頼関係を築けたんだね。これは名コンビの誕生か…?」
「それは…、少し困りますね。私はエルヴィン分隊長の隊にいたいので。…エルヴィン分隊長がそうしろというのなら、そうしますが。」
「あー、うん。それは今はいいや。」
「チッ。」
うん?今リヴァイくん、舌打ちしなかった?
「それでリヴァイ。強さの秘訣を知りたいんだが、教えてくれないかな?」
「断る。俺は我流だ。人に教えるようなものじゃない。」
脱線しそうになった話を元に戻そうとするハンジ分隊長の問いを、リヴァイくんはストレートに突っぱねた。粗暴な雰囲気を醸し出すリヴァイくんだが、彼の言う事には意外と表裏がなく気持ちがいい。彼のそういうところが、私は案外好きだ。
「悪い。もう疲れた。」
「そうね。今日はもう休もう。じゃあおやすみ、3人とも。」
3人とも、初陣で疲れただろう。それに目の前で人が巨人に食われるところを目撃してしまったのだから、精神的にも疲弊しているはずだ。少しでも体を休ませてあげなくては、明日からの作戦に支障が出てしまう。
私も寝る支度を整えて、それから瞑想でもしてエルヴィン分隊長が来るのを待とう。
エルヴィン分隊長の計らいで用意された個室に足を進めながら、夜眠るまでの予定を頭に思い描いた。
「…エルヴィン分隊長!」
「まだ起きてたか…良かった。」
夜22時過ぎ頃だろうか。そう遅くない時間に控えめにノックされた扉を開けると部屋を訪れたのはエルヴィン分隊長で、少し眠くなってきたかな…と感じていた僅かな眠気は一瞬で吹き飛んだ。とはいえ、夜更かしはできない。が、やはり眠る前に会えた事が嬉しくてエルヴィン分隊長の胸に飛び込んだ。
「甘えん坊だな、ユニは。」
「エルヴィン分隊長の前でだけですよ。」
「また君はかわいい事を言う。これでは、帰るに帰れないな…。」
「…帰っちゃうんですか…?」
「……いや、今日はここで眠ろうかな。明日は新しい陣形のテストだからな。一緒に眠るだけだ。」
「はい…!」
嬉しい…!エルヴィン分隊長と同じベッドで眠るなんて、随分久しぶりだ。宿舎では他の兵士に見られるのを警戒していつも各々の部屋に戻ってから眠るので、本当に久しぶりな事だ。
「…眠る前にこんな話をするのは良くないとは思うんだが…。」
エルヴィン分隊長の脱いだジャケットを丁寧に畳んでいると、突然言いづらそうに言葉を紡ぐので自然と手を止め、そちらを向いた。一体どんな話だろうかとエルヴィン分隊長を見つめると、彼の口からは信じられないような言葉が飛び出してきた。
「…リヴァイ達の事なんだが。」
「はい…リヴァイくん達が、何か…?」
「実は、彼らは私の命を狙っているんだ。」
「えっ…?……え?」
一体何の話かと、エルヴィン分隊長の言葉を頭の中でゆっくりとリプレイした。しかし何度再生しても理解が追いつかなくて、言葉が出てこない。だって、リヴァイくん達がエルヴィン分隊長を殺そうとしているなんて……突拍子もなさすぎる。
「とある貴族の横領に関する書類を持っている。彼らは、その書類を使って逆にその貴族を脅そうと考えている。…恐らくな。」
「……私は…。…私は、何をしたらいいですか?」
今この話を私にしたという事は、近いうちに何かが起こるかもしれないという事。そしてその時に、私に何かやるべき事があるという事。…だと思う。
「頭がいいな、君は。だが、君は何もしなくていい。ただ、彼らを信じてやってくれれば。」
「え…と、どういう…?」
「…彼らは、騙されているだけなんだ。」
……しばしの間口を閉ざし、全ての事実を頭の中で並べた。そうして、ひとつの結論が導き出された。
「分かりました。」
エルヴィン分隊長は、私の心を守ろうとしてくれているのだ。
リヴァイくんの元へつけたはいいが、私がリヴァイくん達と思っていたよりも仲良くなってしまったから…きっと事前に伝える事で精神的ダメージを負わぬよう、配慮してくれている。
「エルヴィン分隊長…、ありがとうございます…。」
トン、と胸にもたれ掛かると、大事なものを扱うかのように優しく背中に腕が回された。エルヴィン分隊長のそういう優しさが、大好きだ。
「いつも君には感謝している。こちらの方こそ、ありがとう、ユニ。」
いつも通りに振る舞いながら、リヴァイくん達の様子は気をつけて見てみよう。
タイミングが悪ければ万が一の事も、ありえない事ではないのだから。
……その時は、刺し違えてでも…私は…。
いや、今は考えるのはよそう。そうなったらその時、考えよう。
今の幸せな時間を噛み締めるよう、不穏な思考は頭の外へと追いやった。