845年~851年
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「今日はみんなに信煙弾の使い方を教えるね。みんな、今日もまずは立体機動装置を外してね。」
またか…と内心思っていそうな空気。…今度からは事前に、最初は立体機動装置を着けなくても良いと言っておこう。信煙弾を装填している間に全員立体機動装置を外し、地面に腰を下ろしていた。ちょうどよくカチャ、と装填を終えて、口を開いた。
「信煙弾とは、色の付いた煙を空に打ち上げ、遠く離れた仲間に現在の状況を知らせる調査兵団独自の連絡手段です。」
バシュゥゥウ─
空へ真っ直ぐと伸びる、赤の信煙弾。団長には、事前に使用許可を頂いている。
「赤の信煙弾は、巨人の発見。巨人を見つけ次第、班員1名が空に打ち上げます。それを見た別の班の班員が打ち上げる事で、中央にいる団長が巨人のいる方向を知る事が可能になる。そして、赤の信煙弾を確認した団長が次に撃つのが──」
バシュゥゥウ─
続けて打ち上げたのは、緑の信煙弾。赤色のとは違って、斜め上へと打ち上げた。
「緑の信煙弾。この色は、進行方向を示すもの。この場合、君達から見て左に進路を変えた、という事だね。この信煙弾が確認でき次第、班員1人が同じ方向へと向けて打ち上げる。そうする事で隊全体が大きな塊のまま、進路を変えられる。そして、そうする事で巨人との戦闘を比較的避けられる。…しかし、そう上手くいかない事もある。それがなぜか、分かる者は?」
「奇行種、ですか?」
「正解!奇行種は厄介でね。目的がまちまちで、いきなり陣形の中央目指して突進するような奴もいたりする。そういう時に上げるのが、黒の信煙弾。奇行種を見つけ次第、打てる者が打つ。そしてそういう場合は、戦闘しなくてはならない。…万が一中央にいる団長がやられる事があれば、隊は壊滅。指標を失うからね。そこまで入り込まれぬよう、隊列の外側で巨人の進行を食い止めるのが大事って事。」
未だ壁外調査で、そこまで入り込まれた事はない。しかし毎回その最悪の事態を想定して、我々調査兵団は壁外調査へ挑んでいる。
「そして残りの2つは…いつも使う事にならない事を願っているんだけど…。紫の信煙弾は、緊急事態が起こった際に打ち上げる。馬を失った…とか、班が壊滅…とかね。そして最後が、作戦続行不可能を示す、黄色の信煙弾。基本的に最初に打つのは団長。これが見えたらすぐさま同じ信煙弾を打ち上げ、陣形を縮小。団長の指示で、すぐさま帰還。もしくは戦闘。…今のところ、最後の2つは使った事はないけどね。」
ホッ─と空気が軽くなったのが、肌で分かった。未だ使用した事はないが、いつそうなるかは誰にも分からない。そうなった時のために、教えていかなくてはならない。
「それと……全員、軽く耳を塞いで。」
私の指示に従い、両耳を塞ぐ新兵達。ちゃんとそれを確認してから、自身の耳を塞ぎ打ち上げたのは、音響弾。
キィィィイイン───
耳を塞いでいるというのに甲高い音が辺りに響き、森からは一斉に鳥たちが飛び立った。
「これが音響弾。雨が降れば、信煙弾は意味を成さない。これが聞こえたらすぐに音のする方に…、っ!エルヴィン団長!」
団長室の窓からこちらに顔を覗かせた団長を見つけ、つい顔を緩ませ大きな声でその名を呼んでしまった。ブンブンと両手を振ると控えめに手を振り返してくれた。優しい。音響弾の音が聞こえたので様子を見に顔を出したようだった。やがて団長の姿が見えなくなったところで、今は新兵の訓練中であったと思い出した。いけないいけない。これでは、面目丸潰れである。
「…えぇと、音響弾の音が聞こえたら、すぐさま音のした方に移動─実質、陣形の縮小だね。時間はかかるけど、徐々に縮小していき、最終的にはひとつの塊になる。これが、エルヴィン団長の考案した信煙弾を用いた長距離索敵陣形の概要だね。陣形については、あとで座学で詳しく教えるね。さて、立体機動の訓練に移ろうか。」
パン、と手を叩くと、みな一斉に立体機動装置を装備し始めた。その間私は信煙弾をポーチへとしまい、軽く準備運動をした。幸いリヴァイとの訓練は数日間お預けで、体の痛みもだいぶ引いてきていた。
「今日は、巨人との戦闘を意識した立体機動の練習をしよう。着いてきて。」
緩やかに、森へとアンカーを飛ばす。立体機動装置は速く移動するのに向いているが、意外と緩やかな移動ができたりする。サシャやジャンなんかは既にできているが、これが意外と、巨人との戦闘中には役に立つ。
「ガスを吹かす量を調節する事で、速く飛ぶ事も緩やかに飛ぶ事も可能になる。立体機動装置はね、意外に繊細な動きもできるんだよ。」
ゆっくりと落ちていきながら、キュルキュルとワイヤーを巻き取っていき地面に接触する直前に前方にアンカーを飛ばし地面を滑る。巨人の足元を移動する時によく用いる飛び方だ。これのおかげでブーツをいくつかダメにしているためあまり多用はできないが、生き残るためには必要な時もある。
「巨人は足元が苦手なの。みんな、足元を走り回るネズミを捕まえるのは難しいでしょう?それと一緒で、二足歩行の巨人であれば腰よりも低い位置を飛び回った方が掴まれる確率は格段に下がる。そして脚の腱を切り落とせば、体勢を崩す。これも、人間と一緒だね。」
皮肉な事だが、巨人は人間が苦手としている動きが苦手。だが逆に、人間と同じだからこそ弱点が分かり易い。右腕を伸ばして来たら、左側に逃げる。左腕を伸ばして来たら、その逆。そして、顔から突進してきた奴は、上へ。
「それと大事な事!ガスは有限だから、節約して使う事!いつでも安全に補給できるとは限らないからね。以上!残りは自由に、立体機動の訓練に励んで!何か質問があれば都度教えるから、気軽に私のところに来てね。」
伝えたい事だけ伝えて、元いた地点まで戻る。そうして数分待機して、やってきたのはアルミンであった。
「アルミン。どうかした?」
「はい。ユニさんに、ぜひアドバイスを頂きたくて。」
聞くと、そもそもアルミンは立体機動があまり得意ではないという事であった。直線的な動きしかできないのだと。
「うーん…。…アルミン、ちょっとトリガーを借りても?」
「は、はい!」
カチャカチャと、木の上でパーツを外し、トリガー部分を自分の物と付け替える。そしてアルミンの使っていたトリガーを引くと、私の物よりもだいぶ固いのだと分かった。
「…アルミン、これ多分、アルミンの体に合ってないよ。この固さだと遊びが少なすぎて、あなたの手のサイズでは調節が難しいの。訓練兵時代からこれで慣れてしまっているから、今から新しいのに慣れるのは大変だけど…変えた方が飛びやすいし、結果的に生存率が上がるはず。」
「トリガーの調節ができるんですか!?これは…みんなにも教えないと!」
「ふふ…そうね。あとは…考えすぎ、かな。アルミンはまだ、あまり巨人との戦闘経験がないから想像するのが難しいかもしれないけど……巨人を前にしたら、みんな冷静ではいられなくなる。目の前で仲間が食われたりしていたら、なおさら。」
「…ユニさんにも、そんな経験が?」
トリガーを元に戻そうとカチャカチャ弄っていた手を止め、空を見上げる。今日はあの日とは違って、よく晴れた気持ちのいい空だ。
「もちろん、あるよ。あの時はリヴァイが私を呼んだから正気に戻れたけど……あのままだったら、私も死んでいたかもね。」
私が分隊長になる前─エルヴィン団長がまだ分隊長だった頃の、記憶。リヴァイが調査兵団へ入団する事になった、喜ばしくもあるが、忌まわしい記憶だ。
無意識に、隊服の上からあの時の傷痕を撫でる。あの時の傷痕は、今もまだ戒めのように残っている。
「さ、トリガーも戻したし、訓練に戻って、アルミン。」
「あっ、はい!」
リヴァイは今、何をしているだろうか。あの時使っていた調査兵団旧本部で、昔の事でも思い出しているだろうか。
「ふふ…、絶対に、大掃除をしてるだろうな。」
潔癖症な彼のする事は、手に取るようにわかる。