845年~851年
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ガンッ
エルヴィン団長の部屋で、一夜を明かした。未だ夢なのではないかというほどに幸せなひと時を過ごし、着替えるために自室に戻ろうかという頃─団長室のドアを蹴るような音が響いた。
一体何なのだろうと眉間に皺を寄せると団長は慣れたように「リヴァイだな。入れ」と。エルヴィン団長の言う通り乱暴に開かれた扉の向こうから現れたのはリヴァイで、目が合うなり鋭い視線を向けられたがエルヴィン団長が前に立ち塞がりその視線から私を隠した。
「ユニ、てめぇ…。」
「待て、リヴァイ。ユニに君との訓練を進言したのは私だ。そうユニを責めるんじゃない。彼女は、自分なりに私やリヴァイの期待に応えようとしたんだ。」
「それでも、やると決めたのはコイツだ。それを今さらできねぇなんて、俺は許さねぇぞ。」
リヴァイのいう事は、ご尤もだ。しかし対人格闘技の件に関しては、こちらとしても譲る事はできない。
「…仕方がないな。ユニ、腕の痣を見せなさい。」
「えっ、はい…。」
先ほど着替えたばかりのジャケットを脱ぎソファの背もたれへと置き、シャツの袖ボタンを外し腕を捲る。そこには昨日の訓練の際についた痣が広がっており、赤色から紫色に変色している途中段階であった。
「驚いたか?彼女の体には、これが全身に広がっている。肩や背中、腹にも、脚にもだ。昨日の、君との訓練中にできたものだ、リヴァイ。」
リヴァイの顔には、程度は分からないが少なからずショックの色が滲んでいる。無理もない。自分の上司相手に、こんな傷を負わせたのだから。
「…リヴァイの対人格闘術は、私だってできる事なら会得したいよ…。…でも、いつかはなれる可能性があるかもしれないけど、すぐにはそうなれない。それはリヴァイが元々そういうのが得意だったのと…長年、そういう環境に身を置いていたからこそ会得できたものだから、なんだよ。…リヴァイの期待に応えられなくて…、ごめんなさい。」
スッと、頭を下げる。昨日もこうして、冷静に話せば良かった。団長補佐が冷静に話もできないなんて、聞いて呆れる。己の昨日の行いを恥じ、考えを改めた。
「リヴァイが優しく丁寧に教えてくれるというなら…教え方を教えてあげても良いけど?」
「それはいい案だな。ユニは教育係としてもとても優秀だ。人に何かを教える事に関しては、私もとても敵わない。」
「そんな、やめてください。」
そんなに手放しに褒められては、ムズムズして居心地が悪い。確かにこと教育に関していえば、人よりも優れていると自負してはいるが…それでも、団長に言われるとやっぱり、照れくさい。
「それで…リヴァイはどうしたい?下りるというのなら、とりあえずはミケさんに教えてもらおうかと──」
「いいや、俺が教える。他の奴は、信用ならねぇ。」
食い気味に返ってきたのは、リヴァイ自身の訓練続行の言葉。信用ならねぇ、って…仮にもミケさんは分隊長で、私よりも先輩なのだが。まぁ、本人の前で言ったわけではないから、今はとりあえずいいか。
「なら、今日は人に物事を教える際の教え方からだね。この後はエレンのところに行かなきゃだし、昨日の訓練の後遺症が、長引きそうだからね。」
晒しっぱなしだった腕を隠し、ボタンを留めジャケットを羽織る。そしてソファに置いていた立体機動用のベルトを持ち「では、またあとで」と一言残し部屋を後にした。何とか話が纏まって、良かった…と思ったのもつかの間。「オイ」と肩を掴まれ振り返ると、さっきエルヴィン団長の部屋に置いてきたばかりのリヴァイがいて、どうやら、私を追って着いてきたらしい。
「てめぇ、昨日はエルヴィンの部屋で寝たのか?」
「えぇっと…大きな声で言わないでくれる?そうだけど、なに?」
「いや……、…悪かった、と思ってな。」
話に脈絡がなく、一瞬何に対しての謝罪かと思ったが、リヴァイはこういう奴だ。まず素直に、謝罪の言葉を言えないのだ。今に始まった事じゃないし、彼なりに謝っているのだから私は気にしない。が、他の人には通じないだろうと思う。
みんな、苦労しているんだろうな…。
「…いいよ。リヴァイの言う通り、そもそも私がやるって言ったんだから。…じゃ、私着替えてくるから。先に──」
「待つ。」
「え?」
「待っててやるって言ったんだ。早くしろ。」
食い気味に「待つ」と言ったリヴァイ。それは、私が着替え終わるのを待つ、という事だろうか?とりあえず自室へと歩き出すと後ろを黙って着いてくるので、そういう事だと捉える。なんか、かわいいかも。……猫みたいで。
「あれ…?エレンは目覚めたんじゃなかったんですか?」
審議所の地下牢。そこにエレンは収容されていた。檻に入れられ手錠までされて、まるで大犯罪者の扱いである。彼が巨人になれる人間なのだから仕方のない措置なのだが、その姿はまだ青年にはなりきれていない少年で、心が痛む。
「ユニ、座りなさい。」
「えっ!?…いや、いくらなんでも私が座るわけには…!」
「君は怪我人なんだ。遠慮せず座りなさい。」
エルヴィン団長の命令口調、そして肩を押し無理やりにでも座らせようとする仕草に根負けし「……失礼します…」と椅子に腰を下ろしたが、エレンがなかなか目を覚まさず、堪らず立ち上がった。
「私…、椅子を借りてきます…!」
なぜここには、椅子が1脚しかないんだ…!私の両脇にエルヴィン団長とリヴァイが立っているなんて、誰が見たって、どう考えたっておかしい!!
「……これで満足か?ユニ。」
「…リヴァイも座りたいなら、自分で借りてきてよね。」
「いらねぇよ。…!」
「!エレン…!」
「…目が覚めたか?エレン・イェーガー。」
ようやく、エレンが目を覚ました。彼は目を覚ましたのち、パチパチと目を瞬かせ視線を巡らせ、やがてこちらを見てビクリと体を震わせた。私達以外にも、見張りとして憲兵団の兵士が数名いる。その全ての視線が自身に向いているのだから、仕方のない事だ。その不安や恐怖を少しでも和らげるように私だけは笑顔を浮かべると、少しばかりホッとした表情へと変わった。例え巨人になれるのだとしても、本人はただの少年─子供なのだ。
「──君が昏睡状態だった3日間に起きた事は、このくらいか…。エレン、何か質問はあるか?」
エルヴィン団長の言葉を聞き、視線を巡らせ、そしてまた私を見る。エルヴィン団長が聞いているんだから、早く何か話すのよ、という念も込めて笑顔を浮かべると、彼の口から出たのは「あ…あの…、ここはどこですか?」という質問。まずは状況の把握から、か。うん、悪くはない。そして「これからどうなるんですか!?」という質問には、「これから我々がする事は…あまり今までと変わらないな」とエレンの持ち物であった地下室の鍵を掲げて見せた。
「君の生家…シガンシナ区にあるイェーガー医師の家の地下室。そこに、巨人の謎がある。そうだね?」
「はい…おそらく…。父がそう言ってました。」
「…お前は記憶喪失で親父は行方知れずか…。随分、都合のいい話だな。」
「…リヴァイ。」
「彼が嘘をつく理由はないとの結論に至ったはずだ。」
「…チッ。」
なんの舌打ちだ、なんの。ハンジさんよりはマシだが、リヴァイもリヴァイで話が進まない可能性が出てきた。こういう時はエルヴィン団長にすべて任せていれば、事は上手く運ぶのに。
「まだまだ分からない事だらけだが…今すべき事は、君の意志を聞く事だと思う。」
「…!俺の意志、ですか?」
「君の生家を調べるためには、シガンシナ区ウォールマリアの奪還が必要となる。破壊されたウォールマリアを速やかに塞ぐには、飛躍的手段…君の巨人の力が必要になる。…君の意志が鍵だ。この絶望から、人類を救い出す鍵なんだ。」
思わず、聞き入ってしまった。こういう時のエルヴィン団長は、かっこいい。いや、かっこよすぎる。それに、人の心を揺さぶるのが本当に上手だ。こんな事を言われては、エレンだけでなく私だってその気になってしまう。
「オイ…さっさと答えろグズ野郎。お前がしたい事はなんだ?」
グググ…とエレンが、伏せていた顔をゆっくりと上げる。そうすると彼の顔がだんだんと見え始め、私もリヴァイもその鬼気迫るエレンの表情に目を見開き息を飲んだ。
「調査兵団に入って…とにかく巨人をぶっ殺したいです。」
「ほぅ…悪くない…。」
リヴァイの言う「悪くない」は、「良い」と同義。つまりは、エレンを気に入ったという事だ。一体今の何が良かったのかサッパリだが、嫌うよりかは良いだろう。
「…エルヴィン。コイツの世話は俺が責任持つ。上にはそう言っておけ…。」
コツ、コツ、と自ら牢へと進むリヴァイ。責任を持つと言い切るなんて、どうやら本気でエレンを気に入ったらしい。
「俺はコイツを信用したわけじゃない。コイツが裏切ったり暴れたりすれば、すぐに俺が殺す。上も文句は言えんハズだ…俺以外に適役がいないからな。…認めてやるよ。お前の、調査兵団入団を…。」
目の前のリヴァイの醸し出す雰囲気に耐えられず、エレンが私を見る。まるで、助けを求めているかのように。これは笑顔を浮かべたくらいじゃどうにもならなそうだと、ひとつため息を吐いた。
「リヴァイ、エレンが怖がってる。ただ普通に話せば良いだけなのに、必要以上に怖がらせないでよ。」
「あぁ?俺がいつ─」
「今。そんな眉間に皺を寄せて怒らなくてもいいでしょ。…エレン、私は待ってるからね。」
「あ…、あの時の…。あの時は、ありがとうございました。俺、ところどころ覚えてなくて…。」
「大丈夫大丈夫!エレンが無事調査兵団に入れたら、またお話しようね。」
ヒラヒラと手を振ってリヴァイの腕を掴み、エルヴィン団長の方に向き直る。そもそも今日はエルヴィン団長が話すと言っていた。エルヴィン団長が話し終えたのなら、もう退室しても良いだろう。
「じゃあ、我々はそろそろ行こうか。」
「はい。エレン、ゆっくり休んでね。こんなところで難しいかもしれないけど、あまり、考えすぎないようにね。…また、会いに来るね。」
その時はここで、審議を開く事になるだろうが。