845年~851年
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体に優しく手が触れる感触が気になり目を開けると、薄暗い中で私の体に何かを塗るエルヴィン団長と目が合った。団長は「すまない、起こしたか」と優しく瞳を細めるので「いえ…」と返しつつ体を起こそうとして……全身が、ひどく痛んだ。そういえば、リヴァイとの対人格闘技の訓練をした後にここに来てあんな事をしたのだった。そりゃあ体が痛むはずだ。
「…それは…塗り薬…ですか?」
「あぁ。さっき医務室で貰ってきたんだ。」
「えっ…?エルヴィン団長が…?」
「そうだが。」
「そんな…!す、すみません、お手を煩わせてしまって…!」
「これくらいの事、別に構わない。それよりも、せっかく起きたのなら夕食を食べなさい。できるなら先にシャワーも……薬はその後で良かったな。」
「はっ…!し、シャワーを浴びて来ます!すみません!」
そういえば汚れた体でここまで来たのだった。慌てて今度こそ身を起こしてはみたが、やはり身体中が痛い。
「歩けるか?君さえ良ければ着替えは私が持ってくるから、シャワーを浴びたらここで一緒に食事を摂ろう。」
「…何から何まで、すみません…。申し訳ないです…。」
「……そんなに謝らないでくれ。私も私で君に何かしてやりたいんだ。いつも君にしてもらってばかりだからな。」
「そんな事は…。」
「…この話は後にしよう。腹も減った事だしな。」
確かに、お腹は空いている。今すぐにでも食事にありつきたかったが、まずは体を清めてからだ。促されるままにシャワー室の前まで行き服を脱ぐとまぁ酷い有り様で、この体を見られたのかと思うと少し気持ちが沈んだ。
「わ……、何から何まで、ありがとうございます…!」
シャワーを浴びて脱衣所へ行くと綺麗に畳まれた自身の服が置いてあって、おまけにそれらを着て執務室へ行くと温かい食事まで既に用意されており団長のしごでき具合に軽く涙が出そうだった。同時に私も見習わなきゃ、と気が引き締まった。
「なんて事はない。君がいつもやっているような事だろ?」
「私がやるのとは、わけが違います…!団長なんですから、普段は部下である私がやりますからね…!?」
「ははっ、分かった。君だけにしかしないよ。」
ドキ、と心臓が音を立てる。言われている言葉は嬉しい言葉ではある。とても。しかしそれを素直に受け取る事ができるかどうかはまた別の話で、どう反応したら良いか、またどんな顔をしたら良いかも分からなかった。
「…私が言った言葉が、信じられないか?」
「そんな、事は……。…いえ、すみません。さっきのだけは正直…信じられないとかではなく、戸惑っています。」
さっきの、とは、先ほど交わっていた際に言っていた「君を大切に思っている」という言葉を指していた。"大切に思っている"というのは抽象的で、エルヴィン団長をそういう意味でお慕いしている私からしてみれば願ってもない言葉ではあるが、大切に思うというのは色んな意味でも捉えられるしその言葉の真意をストレートに聞くのも憚られる。第一、もし万が一私と同じ気持ちだったとして……関係が変わってしまうかもしれないと思うと、怖かった。
「私は……エルヴィン団長をお慕いしています。それは事実ですし、この際なので認めます。…でも、私はエルヴィン団長の恋人になりたいだとか、そういう事は望んでいません。」
このままにしておいても拗れるだけだと、両想いであると仮定して話を進めると、エルヴィン団長は特に顔色を変えず、また否定する事もしなかった。それどころか普通に食事を摂っていて、まるで私がおかしいのではないかと錯覚するほどだった。
「それは、なぜ?」
「なぜ、って……、…エルヴィン団長は、私の指標、道標なんです。そんな人と恋仲になるだなんて、恐れ多いというか…。」
「…私は、…最初こそはかわいい部下だと思っていたが、いつからか対等な立場だと思っていたよ。上司と部下という関係を飛び越えているものだとばかり…。」
「!…そ…、そう言って頂けるのは光栄ですが、私は今の関係が幸せで…、いえ…、…私は、エルヴィン団長の手足となって動くのが好きなんです。…私の、生き甲斐なんです。」
「なら、問題ないな。」
食事の手を止め、エルヴィン団長はまっすぐな視線をこちらに向けた。そして、問題ない、と…。一体何に対しての"問題ない"なのかは言ってくれず、私の頭の中では"?"ばかりが浮かぶ。しばしの間そうして見つめあったのち、ようやくエルヴィン団長はその言葉の意味を話し出してくれた。
「君は私を好いてくれていて、私も君を好いている。その上私達は既にキスもそれ以上の事もしている。それは既に、恋仲だと言って良いと思うのだが。」
「…やめてください…。私には、エルヴィン団長を納得させられるだけの話術はありません。だから、諦めてください…。」
「自慢じゃないが、私は諦めが悪い。それは君も知っているはずだ。」
そうだ。エルヴィン団長はこう見えて、諦めは相当悪い。なんなら諦めた振りをして対象が安心したところを横から刺すのが、私の知るエルヴィン・スミスだ。
「君は今まで通り、変わらなくていい。私の元で、私のために働いてくれ。その上で私からの愛を受け入れてくれれば、私としてもこれ以上の幸せはない。」
「…そ…、…それは、あまりに私優位ではないでしょうか…?」
「そんな事はない。私もそれを望んでいるからな。…他に質問がなければ私達は晴れて恋人同士という事なるが、構わないか?」
お皿の横に置いた私の手にエルヴィン団長の手が優しく触れて視線を上げると、その目はまっすぐだけど優しくこちらへと向けられていて、体が動かなくなった。何かを言おうと口を開いても、もうなんと言っていいかわからなくて、結局そのまま閉じられた。
「君は案外、押しに弱いな。」
「…エルヴィン団長にだけです…。私が団長に敵うわけ、ないじゃないですか…。」
「フ…、なら安心だ。もっと早くに、こうしていれば良かったよ。…さ、もうほとんど冷めてしまったが、食事を再開しよう。今日の仕事はもういいから、早く休みなさい。」
なんだか、夢みたいだ。体中は痣だらけで少し動かすだけで痛いので夢なんかじゃないのは確実だが、でも、愛するエルヴィン団長も私の事を好いていてくれていたなんて……幸せすぎて、私に都合のいい夢なのではないかと疑ってしまうのは仕方がない事じゃないだろうか?
流されるままに食事を摂り、食休みとしてお喋りをしながらまた薬を塗り直して貰っている間も私の頭はボーッとして上手く回らなくて、でも体は痛いし団長から向けられる視線はとても優しくて、段々と現実を受け入れ始めた頃にようやく眠気がやってきた。
「そろそろ寝ようか。」
そう言って促された寝室のベッドシーツは既に綺麗なものに取り替えられていて、包まると清潔な香りに包まれた。そしてその布団を一度剥がされたと思ったらエルヴィン団長が隣に体を横たわらせて腕枕までしてくれて、なんて幸せな光景なんだろうと心臓の鼓動が速まった。
「おやすみ、ユニ。」
あぁ、これはやっぱり、幸せな夢なのかもしれない。この体の痛みは実は錯覚で、次に目を覚ましたら全部が私の勘違いなのかもしれない。
しかし次に目を覚ました時には変わらずにエルヴィン団長の腕の中にいて、寝る前と同じように「おはよう…ユニ…」と優しいキスをされたので少し、泣きそうになった。
こんな展開を作ってくれたリヴァイには、むしろ感謝したい気持ちだ。