余談
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▽ウォールマリア最終奪還作戦前後の団長と兵長
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背中越しに閉じた扉。その扉の向こう側からは「え…?」というユニの戸惑いの声が聞こえてきたが、構わず鍵をかけた。俺は今、目の前の男とどうしても話さなきゃならねぇ事がある。それはユニに関係のある話題ではあるが、ユニのいる空間では話せない、俺と、エルヴィンだけが話すべき内容だ。
「気の早い話だが……ウォールマリアを奪還したあとはどうする?」
「何より防衛策の確立が先だと思うが…、その後は、脅威の排除だ。」
長々と調査兵団団長として正しい言葉を並べている、目の前の男。確かにこの男は、調査兵団団長としてはこれ以上ないほどに正しいセリフを並べている。
「だからさっき言った通りだ。地下室に行ったあとに考えよう。」
そこまで言い切った奴の顔は正しく調査兵団団長、エルヴィン・スミス。だが、俺が聞きたかったのはそんな言葉ではないと、コイツも分かっているはずだが。
「…お前がそこまで生きてるか分からねぇから聞いてんだぜ?その体はもう、以前のようには動かせねぇ。現場の指揮はハンジに託せ。お荷物抱えんのはまっぴらだ。お前はここで果報を待て。」
未だ扉の向こうにいるユニにとっても、人類にとっても、それが1番確実で、希望のある選択のはずだ。俺にとってコイツの夢だなんだは関係ない。ただ唯一気がかりなのは、やはり、ユニの事だけだ。
「それでいいな?」と念押しするが、エルヴィンは納得いかないとでも言うように視線を下げ、挙句の果てには「ダメだ」と食い下がってくる。コイツの一度決めたら最後までやり切るところは高く評価すべきところではあるが、逆に一度決めた事は最後までやりきらねぇと気が済まねぇところが悪いところでもある。今のは後者だ。
「行けば、死ぬかもしれねぇんだぞ。…分かってんのか?」
「……あぁ、分かってる。」
「なら……この作戦で万が一お前が死んだら、ユニは…、…ユニとガキの事はどうなる。」
「あの子は…、大丈夫だ。…少なくとも、死にはしない。」
「おい。アイツの腹の中にいるのは、アイツと、お前のガキだろうが。お前は出すだけ出して、あとは知らんぷりか?」
「…そう思ってくれて構わない。」
そこで気がついた。コイツには何を言っても、もう無駄なのだと。コイツの頭の中ではもう自分が死んだ時のプランがあって、既にそのプランの根回しは済んでいるのだと。…随分と頭の回る事だ。腹が立つほどに。
「この世の真実が明らかになる瞬間には、私が立ち会わなくてはならない。」
「……それが、そんなに大事か?てめぇの家族より?」
「……あぁ。」
「人類の勝利より?」
「あぁ。」
それだけユニが自身を信頼している事を確信し、また自身もユニを信頼しているからこそ、できる決断だという事か。そう思うと、やるせない気持ちでいっぱいだ。だが──
「エルヴィン…お前の判断を信じよう。」
お前の判断を信じる、ユニを信じるほかない。
「エルヴィン…。反撃の手数が何も残されてねぇって言うんなら、敗走の準備をするぞ。」
ユニと別れた、その数時間後。気味が悪いくらいに順調にウォールマリアを塞いだ直後に、敵が出現。あっという間に辺りは戦場と化し、壁のこちら側ははるか遠くからの投石により既に何人もの兵士達が命を散らした。未だその猛攻は止む事はなく、辺りには仲間だった者達の肉片が飛び散り逃げ惑う兵士の悲鳴が響き、文字通り地獄のような光景が広がっている。
「新兵とハンジ達の生き残りが馬で一斉に散らばり…帰路を目指すのはどうだ?それを囮にして、お前らを乗せたエレンが駆け抜ける。」
「リヴァイ…。お前はどうするつもりだ?」
「俺は獣の相手だ。奴を引きつけて──」
「無理だ。近づく事すらできない。」
「だろうな。だが…お前とエレンが生きて帰れば、まだ望みはある。」
俺とエルヴィン。どちらがこの先必要かと問われれば、俺なら迷わずエルヴィンと答える。エルヴィンほどに頭の回る奴を、俺は他に知らない。というか、今後現れるとは思えない。しかし、俺は違う。俺がダメでも、エレンがいる。ミカサもいるし、今は身重だが、ユニだっている。俺の代わりとなり得る人物は、いくらでもいるのだ。
「…既に状況は、そういう段階にあると思わないか?大敗北だ。正直言って、俺はもう誰も生きて帰れないとすら思っている。」
作戦は、失敗した。こちらが策を講じ準備する時間があったという事は、向こうにもその時間があったという事だ。ハンジが以前調査兵団は勝った事がないと言っていたが、今回もまた、そうだったらしい。
「あぁ…。反撃の手立てが、何も無ければな…。」
「……あるのか?」
「…あぁ。」
「…なぜそれをすぐに言わない?…なぜ、クソみてぇなツラして黙っている?」
「この作戦が上手く行けば…お前は獣を仕留める事ができるかもしれない。…ここにいる新兵と、私の命を捧げればな。」
…なるほど。そりゃあ確かに、クソみてぇなツラにもなる。脳裏に、別れ際に見たユニの寂しげな顔がチラついた。
「お前の言う通りだ。どの道、我々は殆ど死ぬだろう。いや…全滅する可能性の方がずっと高い。それならば玉砕覚悟で勝機に懸ける戦法もやむなしなのだが…、…そのためにはあの若者達に、死んでくれと…一流の詐欺師のように体のいい方便を並べなくてはならない。私が先頭を走らなければ、誰も続く者はいないだろう。そして私は、真っ先に死ぬ。……地下室に何があるのか、知る事もなくな…。」
「……は……?」
こんな地獄のような状況で何を言い出すのかと思えば、エルヴィンの口から出たのは"地下室"という単語。それはユニとのやり取りで、何度か耳にした単語で、おそらく奴の"夢"と、深く関わりのあるものだ。
エルヴィンは密かに心の中で葛藤しながら重いため息を吐き、すぐ側の木箱に腰掛けた。
「俺は……このまま、地下室に行きたい…。」
珍しく弱々しい声で発されたのは、エルヴィンの本音だった。今話しているのは調査兵団団長としてのエルヴィン・スミスではなく、ただの1人の人間としての、エルヴィンの本音だ。
「俺が今までやってこれたのも…いつかこんな日が来ると思ってたからだ…。いつか…"答え合わせ"ができるはずだと…。何度も、死んだ方が楽だと思った。それでも…父との夢が頭にチラつくんだ。そして今、手を伸ばせば届くところに答えがある。…すぐそこにあるんだ…。」
静かに葛藤するエルヴィンを見て頭の中で思い浮かべるのは、ユニの事。エルヴィンの夢を叶えるのを手伝うのだと言っていた、ユニ。それが自身の夢でもあるのだと言っていたユニは、どんな想いでエルヴィンを送り出したのだろう。そして今、どんな想いで1人で待っているのだろう。
「だが…、リヴァイ。見えるか?俺達の仲間が…。…仲間達は、俺らを見ている。捧げた心臓がどうなったか、知りたいんだ。まだ戦いは、終わってないからな…。」
これまでエルヴィンの指揮で、数え切れないほどたくさんの兵士達が命を落とした。その命は決して、無駄ではない。だがだからといって、死んでよかったなんて事はない。そんな事は、あってはならない。
エルヴィンの言う「死んだ方が楽だと思った」という言葉は、その通りだったはずだ。それでもやってこられたのは、ユニと話したであろう、夢を叶えるため。
「すべては俺の頭の中の…子供じみた妄想にすぎない…のか?」
まるで、子供だ。欲しいものを目の前にした、子供。
「……ユニ…。」
縋るように漏れたのは、ユニの名前。
無理もない。俺達は今まで、コイツに調査兵団団長として重すぎる枷を背負わせすぎた。なにも死なせたくて死なせたわけじゃない。必要な犠牲だった。それをコイツにばかり背負わせた責任を、誰かが取らなくてはならない。
「…お前は、よく戦った。おかげで俺達は、ここまでたどり着く事ができた。」
すまない、ユニ。俺はお前から、エルヴィンを奪う事になる。
「…俺は選ぶぞ。」
俺がエルヴィンの影を全てを背負うから、ユニ、お前だけは、エルヴィンの夢だけを、代わりに叶えてやってくれ。
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背中越しに閉じた扉。その扉の向こう側からは「え…?」というユニの戸惑いの声が聞こえてきたが、構わず鍵をかけた。俺は今、目の前の男とどうしても話さなきゃならねぇ事がある。それはユニに関係のある話題ではあるが、ユニのいる空間では話せない、俺と、エルヴィンだけが話すべき内容だ。
「気の早い話だが……ウォールマリアを奪還したあとはどうする?」
「何より防衛策の確立が先だと思うが…、その後は、脅威の排除だ。」
長々と調査兵団団長として正しい言葉を並べている、目の前の男。確かにこの男は、調査兵団団長としてはこれ以上ないほどに正しいセリフを並べている。
「だからさっき言った通りだ。地下室に行ったあとに考えよう。」
そこまで言い切った奴の顔は正しく調査兵団団長、エルヴィン・スミス。だが、俺が聞きたかったのはそんな言葉ではないと、コイツも分かっているはずだが。
「…お前がそこまで生きてるか分からねぇから聞いてんだぜ?その体はもう、以前のようには動かせねぇ。現場の指揮はハンジに託せ。お荷物抱えんのはまっぴらだ。お前はここで果報を待て。」
未だ扉の向こうにいるユニにとっても、人類にとっても、それが1番確実で、希望のある選択のはずだ。俺にとってコイツの夢だなんだは関係ない。ただ唯一気がかりなのは、やはり、ユニの事だけだ。
「それでいいな?」と念押しするが、エルヴィンは納得いかないとでも言うように視線を下げ、挙句の果てには「ダメだ」と食い下がってくる。コイツの一度決めたら最後までやり切るところは高く評価すべきところではあるが、逆に一度決めた事は最後までやりきらねぇと気が済まねぇところが悪いところでもある。今のは後者だ。
「行けば、死ぬかもしれねぇんだぞ。…分かってんのか?」
「……あぁ、分かってる。」
「なら……この作戦で万が一お前が死んだら、ユニは…、…ユニとガキの事はどうなる。」
「あの子は…、大丈夫だ。…少なくとも、死にはしない。」
「おい。アイツの腹の中にいるのは、アイツと、お前のガキだろうが。お前は出すだけ出して、あとは知らんぷりか?」
「…そう思ってくれて構わない。」
そこで気がついた。コイツには何を言っても、もう無駄なのだと。コイツの頭の中ではもう自分が死んだ時のプランがあって、既にそのプランの根回しは済んでいるのだと。…随分と頭の回る事だ。腹が立つほどに。
「この世の真実が明らかになる瞬間には、私が立ち会わなくてはならない。」
「……それが、そんなに大事か?てめぇの家族より?」
「……あぁ。」
「人類の勝利より?」
「あぁ。」
それだけユニが自身を信頼している事を確信し、また自身もユニを信頼しているからこそ、できる決断だという事か。そう思うと、やるせない気持ちでいっぱいだ。だが──
「エルヴィン…お前の判断を信じよう。」
お前の判断を信じる、ユニを信じるほかない。
「エルヴィン…。反撃の手数が何も残されてねぇって言うんなら、敗走の準備をするぞ。」
ユニと別れた、その数時間後。気味が悪いくらいに順調にウォールマリアを塞いだ直後に、敵が出現。あっという間に辺りは戦場と化し、壁のこちら側ははるか遠くからの投石により既に何人もの兵士達が命を散らした。未だその猛攻は止む事はなく、辺りには仲間だった者達の肉片が飛び散り逃げ惑う兵士の悲鳴が響き、文字通り地獄のような光景が広がっている。
「新兵とハンジ達の生き残りが馬で一斉に散らばり…帰路を目指すのはどうだ?それを囮にして、お前らを乗せたエレンが駆け抜ける。」
「リヴァイ…。お前はどうするつもりだ?」
「俺は獣の相手だ。奴を引きつけて──」
「無理だ。近づく事すらできない。」
「だろうな。だが…お前とエレンが生きて帰れば、まだ望みはある。」
俺とエルヴィン。どちらがこの先必要かと問われれば、俺なら迷わずエルヴィンと答える。エルヴィンほどに頭の回る奴を、俺は他に知らない。というか、今後現れるとは思えない。しかし、俺は違う。俺がダメでも、エレンがいる。ミカサもいるし、今は身重だが、ユニだっている。俺の代わりとなり得る人物は、いくらでもいるのだ。
「…既に状況は、そういう段階にあると思わないか?大敗北だ。正直言って、俺はもう誰も生きて帰れないとすら思っている。」
作戦は、失敗した。こちらが策を講じ準備する時間があったという事は、向こうにもその時間があったという事だ。ハンジが以前調査兵団は勝った事がないと言っていたが、今回もまた、そうだったらしい。
「あぁ…。反撃の手立てが、何も無ければな…。」
「……あるのか?」
「…あぁ。」
「…なぜそれをすぐに言わない?…なぜ、クソみてぇなツラして黙っている?」
「この作戦が上手く行けば…お前は獣を仕留める事ができるかもしれない。…ここにいる新兵と、私の命を捧げればな。」
…なるほど。そりゃあ確かに、クソみてぇなツラにもなる。脳裏に、別れ際に見たユニの寂しげな顔がチラついた。
「お前の言う通りだ。どの道、我々は殆ど死ぬだろう。いや…全滅する可能性の方がずっと高い。それならば玉砕覚悟で勝機に懸ける戦法もやむなしなのだが…、…そのためにはあの若者達に、死んでくれと…一流の詐欺師のように体のいい方便を並べなくてはならない。私が先頭を走らなければ、誰も続く者はいないだろう。そして私は、真っ先に死ぬ。……地下室に何があるのか、知る事もなくな…。」
「……は……?」
こんな地獄のような状況で何を言い出すのかと思えば、エルヴィンの口から出たのは"地下室"という単語。それはユニとのやり取りで、何度か耳にした単語で、おそらく奴の"夢"と、深く関わりのあるものだ。
エルヴィンは密かに心の中で葛藤しながら重いため息を吐き、すぐ側の木箱に腰掛けた。
「俺は……このまま、地下室に行きたい…。」
珍しく弱々しい声で発されたのは、エルヴィンの本音だった。今話しているのは調査兵団団長としてのエルヴィン・スミスではなく、ただの1人の人間としての、エルヴィンの本音だ。
「俺が今までやってこれたのも…いつかこんな日が来ると思ってたからだ…。いつか…"答え合わせ"ができるはずだと…。何度も、死んだ方が楽だと思った。それでも…父との夢が頭にチラつくんだ。そして今、手を伸ばせば届くところに答えがある。…すぐそこにあるんだ…。」
静かに葛藤するエルヴィンを見て頭の中で思い浮かべるのは、ユニの事。エルヴィンの夢を叶えるのを手伝うのだと言っていた、ユニ。それが自身の夢でもあるのだと言っていたユニは、どんな想いでエルヴィンを送り出したのだろう。そして今、どんな想いで1人で待っているのだろう。
「だが…、リヴァイ。見えるか?俺達の仲間が…。…仲間達は、俺らを見ている。捧げた心臓がどうなったか、知りたいんだ。まだ戦いは、終わってないからな…。」
これまでエルヴィンの指揮で、数え切れないほどたくさんの兵士達が命を落とした。その命は決して、無駄ではない。だがだからといって、死んでよかったなんて事はない。そんな事は、あってはならない。
エルヴィンの言う「死んだ方が楽だと思った」という言葉は、その通りだったはずだ。それでもやってこられたのは、ユニと話したであろう、夢を叶えるため。
「すべては俺の頭の中の…子供じみた妄想にすぎない…のか?」
まるで、子供だ。欲しいものを目の前にした、子供。
「……ユニ…。」
縋るように漏れたのは、ユニの名前。
無理もない。俺達は今まで、コイツに調査兵団団長として重すぎる枷を背負わせすぎた。なにも死なせたくて死なせたわけじゃない。必要な犠牲だった。それをコイツにばかり背負わせた責任を、誰かが取らなくてはならない。
「…お前は、よく戦った。おかげで俺達は、ここまでたどり着く事ができた。」
すまない、ユニ。俺はお前から、エルヴィンを奪う事になる。
「…俺は選ぶぞ。」
俺がエルヴィンの影を全てを背負うから、ユニ、お前だけは、エルヴィンの夢だけを、代わりに叶えてやってくれ。
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