余談
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▽兵長が調査兵団に入った頃のお話
────────────────
「……すごい…。」
エルヴィン分隊長から任命された"新人教育"の、その新人に該当する3人は誰も彼も立体機動装置の扱いを既に心得ていて、基本中の基本は全てできていた。特に一番上手なのはリヴァイくんで、彼はもはや私が教える事などないのではないかというくらいに器用に装置を使いこなし、身のこなしにも非の打ち所がない。
戻ってくるように合図を送るとややあってから3人は私の元へと帰ってきて、「どうだった?」と評価を求めた。
「まず前提として、3人とも全員、かなりレベルが高いね。今年入った新兵と同レベルか、もしかしたらそれよりも高いかも。」
正直な感想をまず述べると、みな微妙な反応を示した。特にイザベルなんか、不満ですとかわいらしい顔を歪めた表情が物語っている。
「言っとくけど、調査兵団に入団する子はここに来る前に訓練兵団に3年通って、兵士になるための訓練を受けて初めて入団する事ができるの。あなた達が特例なだけでね。ここにいるみんな、3年間訓練を積んだ兵士達だという事を念頭に置いてね。」
「まじ?」
考えている事が顔に出るイザベルはきっと、「3年も訓練しといて俺らより下手なのかよ」と考えている事だろう。無理もない。地下街出身という彼らの身体能力が高いだけで、だいたいの兵士はただ何となく生き、なんの苦労も知らず何となく兵士になった者達ばかりなのだ。それでも外の世界を夢見て調査兵団に入団してくれたのには感謝するが。
「それで、各々の評価だけど…、まずイザベル。勘が鋭く、感覚で飛び回っているのが長所でもあり短所でもある。細かい調節なんかができるようになれば、もっともっと上手くなるよ。」
「まじかよ…これ以上上手くなれんのか!」
「ふふ…。続いてファーラン。あなたはとても冷静で視野が広い分、判断が一歩遅れがちかな。とはいえ実戦経験を積んでいけば自然と身についていくだろうから、今はそこまで気にしなくていいかもね。」
「なるほどな…了解。」
「そして最後。リヴァイくんだけど……。」
リヴァイくんの方に向き直り、言葉を切った。彼は意外にも既に聞く体勢に入っていて、じっと私の目を見つめた。正直彼に関しては、何も言うことがない。が、何となくアドバイスをしてほしそうに見える。器用だが力強く飛び回る彼に、私に言えることなんて果たしてあるだろうか。
「リヴァイくんは、とても器用に使いこなせてるよね。左が逆手だけど、不便はないの?」
「ねぇな。あったとしても、もう慣れた。問題ない。」
人体の構造上、人差し指や中指より薬指、小指は握る力は弱いはず。それなのに問題はないなんて、もしかしてリヴァイくんは、とても握力が強いんじゃないだろうか?
「リヴァイくんは……私と一緒に飛び回っていれば、自ずと学んで、吸収していくと思うよ。」
「あ?なんだそりゃ。」
「ごめん。現段階では改善すべきところが見つからなくて…。リヴァイくん、戦いに関してはなんでもできそうだし言う事はないかな。私の技術を目で見て盗んで、活かせるものは活かしてくれればいいよ。もちろん、自分で気になるところがあったりコツが知りたいとかがあればその都度聞いてね。私でよければいくらでも教えるよ。」
「……それだけか?」
「うん。むしろ私の方もリヴァイくんから技術を盗みたいから、お願いします。」
「まじか!アニキすっげー!さすがだぜ!!」
毎日一緒に訓練をしていれば、もしかしたら今はまだ見えないところも見えてくるかもしれない。その時はその都度指摘すればいいし、向こうも聞きたい時に聞いてくれればコミュニケーションも取れて一石二鳥だ。
そうして、彼らと私の訓練の日々は始まった。幸い3人とも立体機動装置を使った訓練が一番好きなようだし、あれやこれやと話しているうちに気がつけば最初に出会った時より少しずつではあるが心を開いてくれているような気もする。
「リヴァイくんのそれ、自分で考えたの?」
「…それ?」
「空中で回転するやつ。」
「あぁ…まぁな。」
なるほど。リヴァイくんはすごいな。ガスの噴射する勢いを利用して自分の体を支点に猛スピードで回転するなんて、なかなか思いつくものではない。訓練ではいつも、ワイヤーを巻き取る勢いで直進し、その慣性を利用して項を切り落としていたのだから。彼の独特なグリップの握り方は、理にかなっていたという事だ。
「……それ、私にもできるかな?」
「さぁな。」
とはいえ、グリップを逆手に持つのは私には向いていないだろう。あれはリヴァイくんの握力があってこそできる芸当だ。であれば、順手で持って回転を加え、効率よく項を削ぐには………。
「…分かった。縦回転をすれば良いんだ。」
「あ?」
「リヴァイくん、ちょっと重心の移動を見たいからいつものようにやってみてくれない?」
何が何だか分からないといった顔のリヴァイくんであったが、「やってみてくれない?」という私の言葉に素直に従い立体機動装置を使い何度か空中でクルクルと回った。やはり彼の技術は素晴らしい。ただ回ればいいという訳ではなく、中心を軸に綺麗に弧を描いている。
「お、おい…そろそろ止めてやってくれないか?」
「え…、あっ、ごめん!リヴァイくん、戻ってきて!」
あまりに綺麗に飛ぶものだから、思わず食い入るように眺めてしまった。その間リヴァイくんは何度か木に着地はしたもののすぐにまた飛び上がり、続けざまに何度も何度もクルクルと回転してみせた。私としてはとても助かるが、あんまり長時間、何度もやるものではないだろう。
「ごめんね、ありがとう。おかげで助かったよ。座って。はい、タオルと水。お礼は紅茶の茶葉でいい?」
「…いらねぇ。」
「ダメです。そんなの私が許しません。」
「…なら、それで良い。」
リヴァイくんは案外大人で、合理主義者だ。私が譲らないのを分かって、大人しく引き下がってくれた。こういうのは、言ったもん勝ちなのだ。
「じゃあ、3人とも今日はもう戻っていいよ。」
「アンタは戻らないのか?」
「私は今見たものを練習して、再現したいから。気にせず戻ってて。お疲れさま。」
3人の今日の訓練は、全て終了した。炊事当番でもないはずなので、夕飯の時間までは自由に過ごせる時間。休める暇があれば、休んでおいた方がいい。
イザベルとファーランは早々に背を向け「お疲れ」と歩き出したが、ただ一人、リヴァイくんだけは数秒間じっとこちらを見つめたのちに、遅れてようやく歩き始めた。何か、言いたいことでもあったのだろうか?とはいえ明日もまた顔を合わせるのだから、何かあったにしても機会はある。と、3人の背中を見送った。
「あれ、リヴァイくん?」
それから30分ほど経った頃だろうか。先ほどまでいた立体機動訓練用の森へ、リヴァイくんだけが戻ってきた。忘れ物でもしたのかな?と思ったのだが、彼はさっきと変わらず立体機動装置を身に着けているのでその線は消えた。では、一体なぜ?
「着替えと、ガスの補充に行っただけだ。」
「え?」
「…盗めるものは盗んでいいと言ってただろうが。俺だけ盗まれるのも癪だからな。」
言い方は素直じゃないが、言っている事は驚くほど素直。
「フ……。そうだね。それじゃ不公平だったね。ごめんね。」
「フン…、分かれば良い。行くぞ。」
日が沈むまでは、まだ時間がある。私もリヴァイくん達の教育係として、また調査兵団の立体機動の担当教官として恥ずかしくない飛び方をしなければと、グリップを握る手に自然に力が入った。
リヴァイくんがこうして一緒に飛んでくれていれば、私も今よりもっともっと立体機動装置を器用に使いこなせるかもしれない。それこそ、鳥が翼を使って羽ばたくように。
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「……すごい…。」
エルヴィン分隊長から任命された"新人教育"の、その新人に該当する3人は誰も彼も立体機動装置の扱いを既に心得ていて、基本中の基本は全てできていた。特に一番上手なのはリヴァイくんで、彼はもはや私が教える事などないのではないかというくらいに器用に装置を使いこなし、身のこなしにも非の打ち所がない。
戻ってくるように合図を送るとややあってから3人は私の元へと帰ってきて、「どうだった?」と評価を求めた。
「まず前提として、3人とも全員、かなりレベルが高いね。今年入った新兵と同レベルか、もしかしたらそれよりも高いかも。」
正直な感想をまず述べると、みな微妙な反応を示した。特にイザベルなんか、不満ですとかわいらしい顔を歪めた表情が物語っている。
「言っとくけど、調査兵団に入団する子はここに来る前に訓練兵団に3年通って、兵士になるための訓練を受けて初めて入団する事ができるの。あなた達が特例なだけでね。ここにいるみんな、3年間訓練を積んだ兵士達だという事を念頭に置いてね。」
「まじ?」
考えている事が顔に出るイザベルはきっと、「3年も訓練しといて俺らより下手なのかよ」と考えている事だろう。無理もない。地下街出身という彼らの身体能力が高いだけで、だいたいの兵士はただ何となく生き、なんの苦労も知らず何となく兵士になった者達ばかりなのだ。それでも外の世界を夢見て調査兵団に入団してくれたのには感謝するが。
「それで、各々の評価だけど…、まずイザベル。勘が鋭く、感覚で飛び回っているのが長所でもあり短所でもある。細かい調節なんかができるようになれば、もっともっと上手くなるよ。」
「まじかよ…これ以上上手くなれんのか!」
「ふふ…。続いてファーラン。あなたはとても冷静で視野が広い分、判断が一歩遅れがちかな。とはいえ実戦経験を積んでいけば自然と身についていくだろうから、今はそこまで気にしなくていいかもね。」
「なるほどな…了解。」
「そして最後。リヴァイくんだけど……。」
リヴァイくんの方に向き直り、言葉を切った。彼は意外にも既に聞く体勢に入っていて、じっと私の目を見つめた。正直彼に関しては、何も言うことがない。が、何となくアドバイスをしてほしそうに見える。器用だが力強く飛び回る彼に、私に言えることなんて果たしてあるだろうか。
「リヴァイくんは、とても器用に使いこなせてるよね。左が逆手だけど、不便はないの?」
「ねぇな。あったとしても、もう慣れた。問題ない。」
人体の構造上、人差し指や中指より薬指、小指は握る力は弱いはず。それなのに問題はないなんて、もしかしてリヴァイくんは、とても握力が強いんじゃないだろうか?
「リヴァイくんは……私と一緒に飛び回っていれば、自ずと学んで、吸収していくと思うよ。」
「あ?なんだそりゃ。」
「ごめん。現段階では改善すべきところが見つからなくて…。リヴァイくん、戦いに関してはなんでもできそうだし言う事はないかな。私の技術を目で見て盗んで、活かせるものは活かしてくれればいいよ。もちろん、自分で気になるところがあったりコツが知りたいとかがあればその都度聞いてね。私でよければいくらでも教えるよ。」
「……それだけか?」
「うん。むしろ私の方もリヴァイくんから技術を盗みたいから、お願いします。」
「まじか!アニキすっげー!さすがだぜ!!」
毎日一緒に訓練をしていれば、もしかしたら今はまだ見えないところも見えてくるかもしれない。その時はその都度指摘すればいいし、向こうも聞きたい時に聞いてくれればコミュニケーションも取れて一石二鳥だ。
そうして、彼らと私の訓練の日々は始まった。幸い3人とも立体機動装置を使った訓練が一番好きなようだし、あれやこれやと話しているうちに気がつけば最初に出会った時より少しずつではあるが心を開いてくれているような気もする。
「リヴァイくんのそれ、自分で考えたの?」
「…それ?」
「空中で回転するやつ。」
「あぁ…まぁな。」
なるほど。リヴァイくんはすごいな。ガスの噴射する勢いを利用して自分の体を支点に猛スピードで回転するなんて、なかなか思いつくものではない。訓練ではいつも、ワイヤーを巻き取る勢いで直進し、その慣性を利用して項を切り落としていたのだから。彼の独特なグリップの握り方は、理にかなっていたという事だ。
「……それ、私にもできるかな?」
「さぁな。」
とはいえ、グリップを逆手に持つのは私には向いていないだろう。あれはリヴァイくんの握力があってこそできる芸当だ。であれば、順手で持って回転を加え、効率よく項を削ぐには………。
「…分かった。縦回転をすれば良いんだ。」
「あ?」
「リヴァイくん、ちょっと重心の移動を見たいからいつものようにやってみてくれない?」
何が何だか分からないといった顔のリヴァイくんであったが、「やってみてくれない?」という私の言葉に素直に従い立体機動装置を使い何度か空中でクルクルと回った。やはり彼の技術は素晴らしい。ただ回ればいいという訳ではなく、中心を軸に綺麗に弧を描いている。
「お、おい…そろそろ止めてやってくれないか?」
「え…、あっ、ごめん!リヴァイくん、戻ってきて!」
あまりに綺麗に飛ぶものだから、思わず食い入るように眺めてしまった。その間リヴァイくんは何度か木に着地はしたもののすぐにまた飛び上がり、続けざまに何度も何度もクルクルと回転してみせた。私としてはとても助かるが、あんまり長時間、何度もやるものではないだろう。
「ごめんね、ありがとう。おかげで助かったよ。座って。はい、タオルと水。お礼は紅茶の茶葉でいい?」
「…いらねぇ。」
「ダメです。そんなの私が許しません。」
「…なら、それで良い。」
リヴァイくんは案外大人で、合理主義者だ。私が譲らないのを分かって、大人しく引き下がってくれた。こういうのは、言ったもん勝ちなのだ。
「じゃあ、3人とも今日はもう戻っていいよ。」
「アンタは戻らないのか?」
「私は今見たものを練習して、再現したいから。気にせず戻ってて。お疲れさま。」
3人の今日の訓練は、全て終了した。炊事当番でもないはずなので、夕飯の時間までは自由に過ごせる時間。休める暇があれば、休んでおいた方がいい。
イザベルとファーランは早々に背を向け「お疲れ」と歩き出したが、ただ一人、リヴァイくんだけは数秒間じっとこちらを見つめたのちに、遅れてようやく歩き始めた。何か、言いたいことでもあったのだろうか?とはいえ明日もまた顔を合わせるのだから、何かあったにしても機会はある。と、3人の背中を見送った。
「あれ、リヴァイくん?」
それから30分ほど経った頃だろうか。先ほどまでいた立体機動訓練用の森へ、リヴァイくんだけが戻ってきた。忘れ物でもしたのかな?と思ったのだが、彼はさっきと変わらず立体機動装置を身に着けているのでその線は消えた。では、一体なぜ?
「着替えと、ガスの補充に行っただけだ。」
「え?」
「…盗めるものは盗んでいいと言ってただろうが。俺だけ盗まれるのも癪だからな。」
言い方は素直じゃないが、言っている事は驚くほど素直。
「フ……。そうだね。それじゃ不公平だったね。ごめんね。」
「フン…、分かれば良い。行くぞ。」
日が沈むまでは、まだ時間がある。私もリヴァイくん達の教育係として、また調査兵団の立体機動の担当教官として恥ずかしくない飛び方をしなければと、グリップを握る手に自然に力が入った。
リヴァイくんがこうして一緒に飛んでくれていれば、私も今よりもっともっと立体機動装置を器用に使いこなせるかもしれない。それこそ、鳥が翼を使って羽ばたくように。