余談
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「エルヴィン。お誕生日おめでとうございます。」
日付が12日から13日に変わって少しした頃。悲しいかな未だ業務中ではあったが、エルヴィン団長がペンを置いたのを見計らってそう声をかけた。
それを聞いた彼は少しの間を置いてからこちらへと視線を向けたのだが、僅かにその瞳を見開いていて私の言葉を聞いていま思い出したのだと分かった。
「あぁ…、もうそんな時期か…。ありがとう、ユニ。」
「いえ。…少し、休憩しませんか?」
「そうだな…紅茶を頼む。」
「はい、すぐに。」
私が動き出したと同時にエルヴィンが硬くなった体を伸ばし、部屋の中にはバキ、という音が静かに響いた。長時間椅子に座り書類仕事をしていたので、淹れる紅茶はリラックス効果の高いものが望ましいだろう。
いつもよりも丁寧に紅茶を淹れて執務室へ戻ると既にデスクの上は片付けられており、エルヴィンもデスクの方ではなくソファに腰掛けていたのでローテーブルの方にトレーを置いた。そしてその横に、紙袋をひとつ。
「私から、エルヴィンに。」
「ありがとう。開けても良いか?」
「はい、もちろんです。」
口を止めるシールが剥がされ、中からは包装紙に包まれた箱がいくつか取り出されテーブルへと綺麗に並べられた。エルヴィンへの贈り物となるとあれもこれもと欲張ってしまって、ひとつには決められなかったのだ。だがそれはもう毎年の事なので、エルヴィンも特に言及する事はしなかった。
「これは…焼き菓子か。」
「はい。今、紅茶と一緒に戴きましょう。近いうちにケーキも食べに行きましょうね。」
1つめの箱は、焼き菓子の詰め合わせ。クッキーやカップケーキなど、日持ちするものを事前に買っておいた。
「…これは?キャンドル?」
「アロマキャンドルというもので、火をつけると良い香りが広がるんです。私も少し前から使っていて、良い香りだったのでエルヴィンも気に入ってくれたら嬉しいのですが。」
2つめは、アロマキャンドル。いつもリラックス効果のある茶葉ばかりを選んで買っていくため、茶葉を取り扱う店の店主がオススメしてくれたのがまぁ良かった。夜これを焚いてから眠ると寝つきがいい気がする…というのは、自身の体で確認が取れている。
ランプ用にと置いているマッチを擦ってキャンドルへと火を移すと、たちまち優しい香りがふんわりと部屋の中へと広がった。
「君のチョイスに間違いはないな。いい香りだ。」
「良かったです。香りは好みが分かれますから。」
アロマキャンドルは単に私が使ってみて気に入ったから、おまけのようなものだ。エルヴィンが気に入らなければ私が使おうと思っていたが、どうやらお気に召したようで一安心した。
そして、3つめの箱。
「今年のは、えらく精巧だな…。」
細長いケースから取り出されたのは、エルヴィンを象徴するループタイ。毎年誕生日にループタイを送るのが通例となっており、その年によって雰囲気の違うものを送り続けている。それで今年の誕生日はどうしようかと考えた時、1年を振り返ると怒涛の勢いで過ぎていった1年だったという感想が出てきて、その中でエルヴィンは団長としてこれ以上ない働きを担っていたと、贔屓目なしにそう思い至った。それこそ、女王からの勲章ひとつでは済まされない程に。
「これは……私がデザインをして、オーダーメイドで作ってもらったものです。」
「!…これを、君が……。」
金色の土台に獅子が彫られた所謂金細工と呼ばれるもので、正直かなり高価だった。しかし毎日調査兵団本部にばかりいてお金を使うこともなく暮らしていたため貯蓄はあったし、何よりこの1年のエルヴィンの功労を称えるというか労いたいという想いがあったため、私にとってはそこまで金額は重要ではなかった。ただ、エルヴィンが気に入ってくれさえすれば。
「…よければ着けてくれるか?」
「は、はい…。」
ドキドキしながらそのループタイを受け取って、いま着けているのが外されるのを待った。そもそもこのようなタイプのループタイを持っているのを見た事がないし、似合うかどうかすら分からないし……それがエルヴィンに気に入られるかなんて、もっと分からない。
綺麗な金髪に絡まないよう丁寧に首元まで下ろすと、とりあえず似合わないなんて事はなくてホッとした。髪色と金色がよく合うし、獅子の瞳はエルヴィンのと同じ水色の宝石にしたので、正真正銘これはエルヴィンのためのループタイだ。
「よく…お似合いです。」
「ありがとう、ユニ。大事にするよ。」
「あまり普段使いには向いていませんが……ここぞという時にぜひ。」
「感謝のしるしに、キスをしても良いだろうか?」
「…エルヴィンなら、いつでも大歓迎です。」
ソファに腰掛けるエルヴィンの前に立つと、当たり前だが私よりも視線が低く綺麗な瞳にジッと見上げられ少しばかり居心地が悪い。いや、慣れない構図に、緊張している。
キスってどうするんだっけ…と思い出そうとしたが、エルヴィンを待たせるわけにはいかない。ただその一心で、そっと私から口付けた。
「…せっかくだから、今日は1日これで過ごしたいな…。」
「えっ…、エルヴィンがそうしたいのなら、良いと思います。」
「そうか。ならそうしよう。」
気に入ってくれた…と解釈しても良いだろうか?少し冷め始めた紅茶を口に含むエルヴィンに倣って、私も一口口に含んだ。
「改めて、おめでとうございます。」
「いつもありがとう、ユニ。次の君の誕生日には、俺も少しがんばらなくてはな。」
「気になさらないでください。そういうつもりで贈ったわけではありません。」
「君がそういうつもりでなくとも、俺がそうしたいんだ。素直に受け取ってくれ。」
「…はい。楽しみにしてますね。」
そんな事を言われてしまっては、もう今から楽しみで仕方がない。センスのいいエルヴィンは、今度は私にどんな贈り物をしてくれるのだろう。
調査兵団にいながら未来の話をするのは少々不安を煽るが……それでも、もしかしたらそれが希望となり得るかもしれない。
「エルヴィンが生まれた今日が、最高な1日になりますように。」
来年も再来年も、今日という特別な日を一緒に喜びたい。
当たり前のようで当たり前じゃない、今日を。
2025/10/14 -yuno-