余談
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あの戦いから、1年。パラディ島は徐々に平穏を取り戻し始め、ようやく本当の平和な日常が戻ってきた頃。後遺症は残ったが、リヴァイの怪我もほぼ完治し、今ではひとりで難なく歩けるまでになっていた。それもこれも、この1年の間にリヴァイが努力した結果である。
「ユニ。」
「リヴァイ。…ふふ、リヴァイは何でも似合うのね。いつにも増して男前。」
「お前も、いつにも増して眩しいな…。誰が見ても、いい女だと言うだろうな。」
「リヴァイもそう思う?」
「あ?当たり前だろうが。」
白いタキシードのリヴァイと、白いドレスの私。そう。今日は待ちに待った、私達の結婚式だ。
「ママ、パパ。」
「わぁ!ルーカス…!かわいい…!!」
5歳になったルーカスも、別室でスーツに着替えさせられヘアセットも済ませて来たらしい。歳を重ねるにつれてエルヴィンの面影が色濃く出てきているのは、気のせいなんかじゃないだろう。
「二人とも、いつもとは別人みたい。」
「ふふ、ルーカスもね。今日はよろしくね。」
「うん。…ねぇパパ。ママ、綺麗だね。」
「フ…。あぁ、そうだな。」
わー……。二人とも、かわいすぎる。これが幸せか。ルーカスの純粋な笑顔とリヴァイの愛おしそうな笑顔が見られて、結婚式はこれからだというのに既に幸せいっぱいで胸がいっぱいだ。
「そろそろ始まるみたいだから、またあとでね、リヴァイ。」
「あぁ、じゃあな。………。」
「…っ!!」
別れる間際、視線を合わせたかと思ったら顔を近づけようとしたのち思い直したような素振りを見せたリヴァイ。どうしたのだろうと見守っていたら次にリヴァイは視線を彷徨わせ、最終的に私の左手を取って手の甲へとキスを落とした。あの、リヴァイが。
おそらくいま唇にキスをするわけにはいかないと思ったのだろうが、普段よりも男前になっている事も相まって、まるで王子様みたいだった。
一体どこでこんな事を……!!
私がそうやって惚けている間にリヴァイはそそくさと部屋を出ていってしまって、入れ替わりで入ってきたピークちゃんに「…兵長に、何か言われた?」と揶揄われた。
「…言われてはないけど……とんでもない破壊力だった…。」
あれが、元人類最強の男。その最強たる所以が、まさかすぎるタイミングで垣間見えた気がした。
「行ってらっしゃい、ユニさん。」
ピークちゃんに連れられてきた教会の、ドアの前。中からはオルガンの音が流れてきていて、もう挙式は始まっているのだと物語っている。行ってらっしゃいと背中を押されてようやく、緊張感に襲われた。
「…一生に一度なんだから、ちゃんとしなさいよ。」
母の言う事は、尤もだ。人生で大事な節目の一大行事で転んだりしようものなら縁起が悪いなんてもんじゃないし、何より恥だ。参列者たちに一生弄られるだろう。だけどそんな一大イベントだからこそ緊張しているわけで……初めての壁外調査よりも緊張しているような気さえする。
「…お母さん…、今まで、ありがとう。」
「それは後にしてちょうだい。ほら、扉が開くわよ。」
お母さんの言う通り、両脇に控えていたピークちゃんとヒッチの手がそれぞれ、左右のドアノブに掛けられた。扉が開くのは分かるが、もっとこう…感極まって言葉に詰まったりとか…、いや、私の母に限って、そんな事はないか。
ガチャ、と音を立てて開かれた扉の向こうはとても明るく、そして華やかだった。顔を伏せているのに、それが分かるくらいに。
私がいま歩いているバージンロードは、花嫁の人生を表しているらしい。扉から入ったところが、この世に誕生したところ。そして、そこから祭壇までの道のりはこれまで歩んできた人生。
コツ、コツ、と一歩ずつゆっくりと進んで行って、半分ほど進んだだろうか。産まれてからこれまでの半分ほどなら、ちょうどエルヴィンと出会っていたはず。リヴァイとの結婚式でエルヴィンを思い出すのは失礼極まりないが、私の人生を語る上でどうしても外せない大切な人なので大目に見て欲しい。
「ユニ。」
「…リヴァイ。」
あぁ、やっとリヴァイのお嫁さんになれる。
1年前のあの時、どちらが死んでもおかしくなかった。結婚を誓いあいはしたが、実際にどちらかが死んでしまっても仕方がないと思っていたフシがある…気がする。いま思えばなんてバカげているのだろうと、諦めずに何がなんでも生きろと言いたくはなるが、過去は過去。今は今。でもやっぱり、今が一番幸せかもしれない。
母の手を離してリヴァイの腕にちょこんと手を乗せると妙にしっくりきて、さらに一歩距離を縮めた。
そうして恙無く進行していく式。リヴァイは緊張とかしなさそうだな…なんて考えながら何の気なしにチラリと横目でリヴァイの方を見るとまさかの向こうも同じようにこちらを見ていて視線がかち合い、ふ…と目を細めるのでその綺麗さに見蕩れてしまうところだった。やっぱりリヴァイはいつでも、いつまでも純粋で、綺麗だなと改めて思う。きっと心が綺麗に澄んでいるんだ。
「新郎、リヴァイ・アッカーマン。」
「…はい。」
「あなたはここにいるユニ・クラインを妻とし、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「…あぁ、誓おう。」
「新婦、ユニ・クライン。」
「はい。」
「あなたはここにいるリヴァイ・アッカーマンを夫とし、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「はい、誓います。」
神の前で、誓った。リヴァイを愛し、一生添い遂げると。神様だけじゃない。こうして集まってくれた、後ろにいる参列者たちに、母に、そしてエルヴィンに誓った。二人で支え合い、最期まで共に生きると。
「では、二人の愛を永遠のものにして頂くため、永遠の愛の象徴である結婚指輪の交換を行います。」
その声に倣って私達の指輪を運んできたのは、ルーカスだ。指輪は結局、あのエルヴィンが購入したもののサイズを変えるだけに留めた。リヴァイもそれでいいと言ってくれたし、私としても別のものを着けてしまうとこの指輪を着ける機会が無くなってしまうので、それはそれで嫌だったのだ。
その指輪を大事そうに抱えたルーカスが運んできてくれて、そしてその姿がエルヴィンそっくりで、リヴァイとの結婚式だというのにまた彼を思い出してしまった。
向かい合ったリヴァイはじっとそんな私の目を見ていて、視線がかち合うと初めて見るような優しい微笑みを向けてくれて、リヴァイはなんて素敵な旦那さんなんだろうと思った。
差し出した左手とリヴァイの右手が重なる。本来新郎は右手で指輪を嵌めなければならないが、リヴァイは現在、右手の人差し指と中指が無い。1年前に失った。綺麗な指だったのに……と、私は未だにジークを恨んでいるが、当の本人はさほど気にしていないらしく、元々器用なのも相まってそれなりに順応しているのだから驚きである。アッカーマンの力がなくとも、リヴァイは最強なのだ。
リヴァイの左手でスッと嵌められた指輪を、思わずジッと眺める。エルヴィンが用意した指輪をリヴァイに嵌めてもらうなんて、変な感覚だ。プロポーズしてもらった時にも嵌めてもらったが、あの時はそんな事を気にする余裕は無かったから。丁寧にメンテナンスされたそれは、私が受け取った当初よりもキラキラ輝いていて、とても綺麗だ。
「…ユニ。」
「…!」
このままではボーッと指輪を眺めてしまうと判断したのだろうリヴァイの声掛けに、スッと現実に引き戻される。いけない。私もリヴァイに、指輪を嵌めなければ。
リヴァイの指輪は、私が選んだ。「…俺には必要ねぇ」と嫌がっていたが、「リヴァイが私のものだって目印つけとかなきゃ心配だから!」と押し切って私がリヴァイに似合いそうなものを選んだ。リヴァイは綺麗な顔をしているんだし、何より人類最強の男として名も広まっているのだから、そろそろ自覚してもらわなきゃ困る!
リヴァイの綺麗な指に映えるシンプルで華奢なデザインの指輪には、私のと同じ透き通るような水色の石と紫色の石が小さいながらも嵌め込まれている。これでどこからどう見たって、私のものと揃いの指輪。リヴァイの妻は私なのだと、嫌でも分かるだろう。
指輪を嵌めたリヴァイは私と同じようにジッと自身の左手を眺めて、そして私の方へと視線を移し「…悪かねぇな」と口角を上げた。素直なのに素直じゃないところは、リヴァイのかわいいところだ。
「最後に、誓いのキスを。」
「……チッ。」
え?舌打ち?……神様の前で、まさかね。私の聞き間違いか。でもお仕事を終えて去っていくルーカスも同じタイミングで振り返っていたし……さっきまでの幸せいっぱいのかわいらしいリヴァイはどこへやら。いつもの眉間に皺を寄せたリヴァイへと戻っていた。
「ふふっ。」
思わず笑ってしまったのは、許してほしい。だってプロポーズしてくれた時は、あんなに何度も人前でキスしてきたというのに。今さらここでするのは恥ずかしいなんて、なんてかわいいんだろう。
「リヴァイ……誓ってくれないの…?」
「…バカ言え。そんなわけねぇだろ。」
いつものリヴァイだ。優しく微笑むリヴァイも好きだけど、こうして仏頂面でぶっきらぼうなところも、リヴァイのいいところだ。
ベールアップをしてようやく目の前がクリアになって、リヴァイと視線を合わせる。リヴァイの瞳はグレーがかっていて、それなのに透き通って見えるから不思議だ。
「…エルヴィンが見たら、後悔するかな?」
「…そりゃするだろうが…、あいつが後悔すれば、お前も後悔するのか?」
「まさか。しないよ。神様にもエルヴィンにも、リヴァイへの永遠の愛を誓ったんだから。」
「…なら、良い。」
誰にも聞こえないような囁き声で最後の確認をして…リヴァイは本当に心配症だ。
「俺は簡単には死なねぇからな…。死ぬまで離さねぇぞ。」
「ふふ…、うん、分かった。」
結婚式なのに、ムードもへったくれもない。でも堅苦しいのは嫌だから、むしろその方が助かった。
最初の緊張感はもう完全に消え失せて、誓いのキスのあとはリラックスして式を進められた。私達の緊張が緩んだのが式場内に伝わったのか、拍手に混じって「うっ…兵長…、ユニさん…!」やら「おめでとうございます!」やらと歓声のようなものがちらほら。もう私達は正面を向いているから確認する事は叶わないが、この無邪気さからして104期生のうちの誰かだろう。
「新郎新婦が退場いたします。皆さま、その場にご起立頂き、祝福の拍手でお見送りください。」
そうして後ろを振り返って、ぎょっとした。隣を見るとリヴァイも少し驚いたように目を見開いていたが……なんで、みんなそんなに泣いているのだろうか。
「…ユニ。」
「あ…。」
せっかく綺麗にお化粧してもらったのに、みんなが泣くから…。でも、私と同じくらい、私達の結婚を喜んでくれている気持ちの表れだと思ったら、どうしても涙が出てきてしまう。
リヴァイと夫婦になるだけじゃなく、それを涙を流してまで祝福してくれる仲間がいて、これがまさに幸せの絶頂…というやつだろう。
「え…。」
「どうした、ユニ。」
不意にトン、と背中に触れられた気がしたが、リヴァイの腕は私が掴んでいる。じゃあ後ろに佇む神父様かと思ったが、祭壇を挟んだ向こう側にいるわけだし…。
「…いま、エルヴィンが…。」
「!…確かか?」
「…分からないけど、多分。」
多分彼だろうと頷くと、それを肯定するかのように清らかな風がスゥ、と吹いた。目を閉じて眠る彼を前にしたあの時も、確か風が吹いた。
「…ごめん。行こう、リヴァイ。」
「…あぁ。」
エルヴィンもきっと、祝福してくれているに違いない。それは私に都合のいい勘違いかもしれないが、訂正したいなら、目の前に出てきてくれないと。
バージンロードを通って退場するのは、私達のこれからの未来を表している。祝福の拍手に包まれた私達の未来は、きっと明るい。そう信じて、これからもリヴァイと共に歩んでいこう。