余談
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「おはようございます、エルヴィン。」
「!ユニ…。これはまた、美人だな。」
今日は決戦の日。朝起きてからスキンケアもヘアケアも時間をかけ、いつもはお団子を作るのだが今日は髪を下ろして横へ流すだけにした。毎日のケアのおかげで髪の毛はツヤを持ち、早起きしてがんばったおかげでいつもよりもサラサラしている。おまけに普段は塗らない血色感のある口紅と頬紅も薄く塗って、最後には眼鏡をかけて完成である。我ながら完璧だ。
「これで問題ないでしょうか?できる限りの事はしたのですが…。」
「あぁ、充分だろう。君は…どんな姿でも綺麗だな。」
「…そんなに良かったですか?普段からこうしようかな…。」
「いや、その必要はない。普段の君も充分魅力的だし、色々な君を見られて嬉しい、と言いたいんだ。」
「えぇと…、つまりは…?」
「どんな姿でも、君は綺麗だよ。」
下ろされた髪の毛をひと房持って、そこにちゅ、と口付ける。え?王子様?優しい微笑みも相まって、エルヴィンが王子様みたいに見えて仕方がなかった。
顔を赤くさせてそのかっこよさに眺めていたら今度は至近距離で目が合って、静かに唇が重なった。なんだかまるで、お姫様にでもなった気分だ。
カラン、
「いらっしゃいませ。…!エルヴィンさん!来てくださったんですね!」
当該の店に入るやいなや店の奥からは元気な挨拶が聞こえ、次にはパタパタと走る足音が響いた。事前に明るくて元気のある女性であるという事を聞いていたので、この声の主が例の女性なのだと結論づけた。目が合うなり怪訝な顔をされたので、こちらからニコリと微笑みを浮かべた。
「…そちらの女性は…?」
「あぁ、気にしないでくれ。彼女は私の大切な恋人でね。デート中なんだ。」
「!」
「エルヴィン…わざわざ言わなくてもいいじゃないですか。」
「すまない。久しぶりに君とこうして外出できて、浮かれているのかもしれないな。」
「でも……見ず知らずの人に見られるのは、恥ずかしいじゃないですか。」
ここへ来る道中、会話の内容はある程度打ち合わせた。エルヴィンが考えた内容なだけあって、聞いた相手は確実にダメージを食らっているようだった。それを確認するため一瞬視線を逸らした隙に額に柔らかい感触を感じて、驚いて視線を上げるとエルヴィンの完璧な微笑みがこちらを見下ろしていた。…これは、台本にはなかった。
「フ……、君があんまりかわいいから、つい。」
「っ…!…っもう…、人前ではやめてください。」
じゃないと、私の心臓がもたない。それに、こんなのばかりだと嬉しくて舞い上がってしまって、ボロが出てしまうかもしれない。
「おっと。君に気を取られて忘れてしまうところだった。先日オーダーしたシャツを受け取りに来たんだが。」
「…あっ、はい。ただいまお持ちします…!」
例の女性は、すっかり元気をなくしそれだけ呟いて今度は店の奥へと引っ込んで行った。なんというか、あまりにあっさりで、呆気ない。エルヴィンに話を聞き出そうとした時にあんなに渋っていたので、どんな相手なのかと身構えていたのだが…あとはシャツを受け取って、帰るだけだ。
「…このお店、意外とちゃんとしたお店なんですね。」
店内を見回すと、所謂紳士服というものだけでなく、生地やスカーフ、ネクタイなどが取り揃えられており素人目から見ただけではあるが案外造りはしっかりしているように見えた。例の女性がいるからどんな店なのかと思ったが、意外や意外、普通の仕立て屋である。
「ははっ。ここは、古くから代々やっている店なんだ。今の店主もそろそろ引退を考えているが、どうやら跡継ぎがいないらしい。それで一人娘の彼女は、焦って夫となり得る相手を探しているところのようだ。」
「…それでエルヴィンに目をつける辺り、見る目はありますね…。けど、こんな素敵な人に恋人がいないわけないのに。」
「そうだな。こんなにも素敵な恋人がいるんだがな…。」
グ、と腰を引かれて、半身同士がピッタリとくっつく。これは純粋な抱擁なのか、からかっているのか、作戦のうちなのか。エルヴィンのやる事は、私には分からない。
が、私は別になんだって嬉しいからオールオッケーだ。
「お待たせしました…。…こちらです。」
「あぁ、ありがとう。」
「確認のため、一度袖を通して頂けますか?試着室があちらに──」
「ありがとうございます。あとは私が。行きましょう、エルヴィン。」
すかさず紙に包まれたシャツを受け取り、エルヴィンの腕を引き試着室へと促す。エルヴィンの着替えを手伝おうなんて、私が許さない。たとえそれが仕事だとしても、絶対に阻止させてもらう。
「ふむ…問題なさそう…。エルヴィン、そのままゆっくり回ってもらえますか?」
「構わないが…、少し、恥ずかしいな…。」
「はぁ……よくお似合いです。やっぱり真っ白いシャツはエルヴィンの綺麗な金髪と碧眼を引き立てますね。完璧です。」
「……ユニ。サイズ感の確認をしてもらえるか?」
「はっ…!ごめんなさい、つい見とれちゃって…!」
帰ってから「やっぱりサイズ感が…」となってしまったら、またここに来なくてはならなくなる。そうならないために、サイズの確認はしっかりしなければ。
そうして改めて真面目に確認をして問題ないという結論に至りエルヴィンを残し試着室を出ると驚く事に例の女性が待ち構えていて、さすがにビクリと肩が跳ねた。
「問題ないそうです。エルヴィンが着替え終わるまで、店内を見て回っても?」
「あ、はい…。」
私が店内へ足を向けると、彼女は一瞬チラリと試着室の方へと視線を向け諦めたようにこちらへと着いてきた。いくらなんでもさすがに試着室へ入る事は憚られたようだ。
「…あ。」
紳士服についての知識はないが、好みはある。私の場合はエルヴィンに似合うか、身につけているところをみたいかという基準なので好みという言い方も違うかもしれないが、とにかく目を惹かれるという感情はある。
「これを贈り物に。同じラインのものがあればそれも一緒に包んでください。」
「かしこまりました。…あの、エルヴィンさんはこういうのがお好みなんですか?」
「?いえ、私の好みです。」
私の目を惹いたのは、綺麗な紫色の石がついたカフスボタン。彼女の手に収められたそれと同じラインのネクタイピンもクラバットピンも同様の透き通るような色味の紫色が綺麗だ。私と視線を合わせた彼女は少し驚いたように目を見開いたあと、一瞬……ほんの一瞬、眉間に皺を寄せた気がした。
「珍しいでしょう?」
「え?」
「この瞳の色です。昔はここまでハッキリした色じゃなかったんですけどね。」
「あ…、そうですね。」
「いつもこの瞳が綺麗だって言ってくれるから、気に入ってくれると思うんです。」
「…そうだと良いですね。」
嘘つけ。そんな事、1ミリも思っていない癖に。私の瞳の色はかなり珍しく、その話をすれば何も言い返せないのではないかと言ったのはエルヴィンだった。案の定彼女は口を噤んでしまったし、もうそろそろ諦めモードに入っていそうだ。入店直後に放っていた明るいオーラは、既に消えつつある。
「待たせたな。」
ふわりと優しく、後ろから抱きしめられる。エルヴィンもエルヴィンで、少々やりすぎではないだろうか。もう私はこの任務の事なんてそっちのけで、エルヴィンにメロメロなのだが。
「いえ、全然。支払いは済ませてあります。こちら、領収証です。それとエルヴィン、これをどうぞ。どうしてもエルヴィンに着けて欲しくて。」
「!君が選んだのか?子供のようでみっともないが、いま開けてみても?」
「えっ、はい。」
手渡した箱からすぐさまケースを出して蓋を開けて、しばしその中身を眺めたかと思うとフッと優しく微笑んで。その笑顔に思わず、蕩けてしまいそうだ。
「俺が一番好きな色だ。よく分かったな。」
そう言って額にキスまで落とすので、「あ……、わ……」と、そこでとうとう、思考回路が停止した。
例の女性を諦めさせるためにやっていたのに、エルヴィンはいつの間にかこの状況を楽しむ事にシフトチェンジしていた。リヴァイも「いつも通りでいい」と言っていたから、張り切っていたのはもしかして、最初から私だけだったのかもしれない。
「ユニ、この後は服屋に行かないか?俺も君に贈り物をしたいんだが。」
「えっ?そんな、私…、誕生日でもないのに…。」
「それを言うなら俺だってそうだ。特別な理由が必要と言うのなら、そうだな……俺が君を愛おしいと思った記念に、とか。」
「そ…、そんなの…!私、毎日プレゼントを贈らなくてはならなくなってしまいます…!」
「ははっ、俺はそれでも構わないが?」
エルヴィンってば、外でこんな…!外…、そう、外なのにも関わらず人目を憚らずに甘い言葉を囁き蕩けるくらいの微笑みを浮かべて……!ただでさえいつもドキドキさせられているのに、それを人前に晒しているなんて、私の心臓が持たない!!
「さぁ、用は済んだ事だし、そろそろ出ようか。」
「はい。…じゃあ、また。」
"また"
彼女に問題はあったが、この店自体に問題はない。むしろいい店、なのだろう。だからもしまたエルヴィンが新しくシャツやスーツを仕立てる際は、きっとここを利用するはずだ。私はその時もまた今回のように、エルヴィンにこうして同行するつもりだ。だから、きっとまた顔を合わせるはず。そう思い発した"また"という言葉は、正しく彼女に伝わっただろうか?