余談
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「お前の瞳は、珍しい色をしているな。」
キース団長が調査兵団団長としての立場を退き、エルヴィン分隊長がエルヴィン団長へと就任する、少し前。それぞれの新役職の仕事内容の確認のためエルヴィン分隊長の用意したマニュアルを読んでいる際に不意にそう発したのは、リヴァイであった。資料から顔を上げると隣から彼が前屈みになってこちらを覗き込んでおり、少々驚いた。
「リヴァイ…資料は読んだの?」
「あぁ、一通り目は通した。」
「読んで、それだけ?疑問点とかないの?」
「ねぇな。後々問題があったとして、その時に聞けばいいだろう。」
「そういうもの…?…いや、リヴァイはそれで良いのかぁ…。」
エルヴィン分隊長は、リヴァイを自由にさせている。それは放任しているのではなく、リヴァイにはその方がいいからだ。私も基本的には自由にしているが、これからはそうもいかなくなる。なんといっても、団長補佐になるのだから。役職名に"団長"の二文字が含まれており、それもその団長はエルヴィンなのだから、中途半端な仕事は許されない。他がなんと言おうが、私が許さない。
「…で、何だっけ。私の瞳の色の話?」
「そうだ。未だかつて、その瞳の色は見た事がねぇ。珍しいんじゃねぇのか?」
「まぁ…そうだね。そうそういないみたいだよ。」
集中力も切れたし、休憩がてらリヴァイの話に付き合おうと資料をテーブルの端に置いて体を伸ばす。今までリヴァイとは紅茶の話や仕事の話ばかりしてきたので、瞳の色の話をするのは少し新鮮だ。
私の瞳の色は、産まれた時は母に似てもっと赤に近い茶色だったのだが、成長するうちに色が変わり今ではすっかり紫色になっていた。10歳の時にはもう今の色だったので、ここから変わる事はもうないだろう。
「その瞳の色はかなり珍しく、人口の僅か1%にも満たないようだ。」
「そうなのか?そんなに珍しいなら、攫われて売られてもおかしくねぇな。」
売られる、なんて…おおよそ人を指して言う言葉ではないが、リヴァイが言うといやに説得力がある。地下街ではそういうのがままあったという事なのだろう。しかし地下街がどんなところかを実際目にしたわけじゃない私には、人が売られるなんて全く想像もつかない。
「怖い事言わないでよ。生まれてこの方、一度も攫われた事はないよ。ただ瞳が紫ってだけだしね。」
「何言ってる。珍しい瞳を持っていて、その上見た目も整っているとなれば高値をつけて飼おうとする奴らもいる。もっと危機感を持て。」
「……それって、私の事美人だって言ってる?」
不穏な話題だから少し冗談めかしてそう言ってみたが、リヴァイはより眉間に皺を深めた。
「…俺は心配して言っているんだが?」
「ふふ、ごめんごめん。でも一人で外を出歩く事はないから、安心して。」
「あぁ、常にリヴァイをつけていれば問題ないだろう。」
「俺はお前の用心棒か何かか。」
「そうそう。私が外に出るのなんて壁外調査の時か、エルヴィン分隊長と食事に行くかリヴァイと紅茶を買いに行くかぐらいしかないんだから。」
「まぁ…、そうか。なら良い。」
「私が団長になれば、内地や王都にも一緒に行く事もあるだろうが…まぁ、問題ないな。」
「な、内地に…。」
そりゃあそうだ。キース団長だって定期的に内地には顔を出していたのだから、エルヴィン団長だってそこは変わらないだろう。それには私も伴っていく事もたまにはあるわけで……やっぱり、団長補佐は大変なお仕事だ。
「さ。お喋りは終わりにして資料を読み込まなきゃ。」
こうしちゃいられない。エルヴィン団長が内地に行った時に隣にいる団長補佐は無能だなんて言われぬよう、完璧にこなしてみせなくては…!と、再び端に寄せた資料を手に取り、文字列を睨みつけた。
「リヴァイ、お気に入りの紅茶は買えた?」
数日後。今日はリヴァイと紅茶の茶葉を買いに馬で街へと繰り出していた。目的のものを購入し終えた帰りの道で、戦利品は無事買えたのかと尋ねた。
「まぁな。…お前、ハーブティーを淹れた事はあるか?」
「ハーブティー?うん、あるよ。気分転換したい時とか、たまに飲むし。」
「そうか…。実はハーブティーの茶葉を購入したんだが、俺は飲んだ事がなくてな。帰ったら淹れてくれねぇか?」
「え?まぁ、いいよ。珍しいね。」
飲んだ事がないのに、ハーブティーを?それほどリヴァイにとって、魅力的な品だったのだろうか?私の珍しいね、という言葉には「まぁな」としか返っては来なくて、真意を測り兼ねる。が、帰ってからいざ件のハーブティーを淹れてみると、ようやくリヴァイがわざわざ購入した意図を理解した。
「うわ……!…すごい…綺麗…。」
お湯を注いだ途端に、ティーポットの中のお湯が水色に変化した。そのままでもエルヴィン分隊長の瞳のような色でとても綺麗だったのに、カップに注いだあとにリヴァイの言う通りレモンを少し絞ると、みるみるうちに水色から青色、そして最後には紫色へと変化したのだ。
「これ、とても高価だったんじゃない?」
「まぁな。だが店主に見せてもらった試飲用のやつが、お前の瞳の色に似てると思ってな。気づいたら購入しちまってたんだ。」
「…そんな事を言われたのは初めてかもしれない…。…ん?試飲用のは飲まなかったの?」
「あぁ。まずお前に見せたかったからな。」
かっ…、かわ…いい…。リヴァイを猫に例えるなら、今はすっかり心を開き向こうからようやく擦り寄り始めてきたところだろうか。自分から多く語る事はないが、聞けば大体の事は素直に返してくれる。もしかしたら、今が一番かわいい時期かもしれない。
「この香りの感じは…豆、かな?…戴きます。」
一体どんな味がするのか全く想像がつかないが、恐る恐るカップに口をつけて少し口に含むと予想通りほのかに豆の香りがして、そしてすっきりとして飲みやすい。気分転換には良いハーブティーだ。
「…よく分かんねぇな…。だがお前が淹れたんだから、間違いねぇだろ。」
「ふふ、私は美味しいよ。書類仕事の合間に飲んだら、いい気分転換になりそう。」
「ふむ…今度試してみよう。」
「物足りないなら、蜂蜜をほんの少し入れても美味しいかもね。」
「蜂蜜か…高くつくな。」
「あはは、ここぞという時に飲むしかないね。」
「…半分、お前にやる。」
「えっ?いや…有難いけど、こんな高価そうなもの、貰えないよ。」
「俺はお前にこれを見せたくて買っただけだ。飲んでも正直、よく分からなかったしな…。」
まさかリヴァイが、飲めるかも分からないのにこの茶葉を購入したなんて。それが私に見せたかったからなんて……嬉しくないわけがない。が、やはり誕生日でもないのに高価なものを貰うのは気が引けるというか…。
「じゃあ…一緒に飲もうよ。飲んでいるうちに、リヴァイも美味しさに気づけるかもしれないし。」
「一緒に、か…。まぁ、それなら。」
「決まりね。じゃあ今日から毎日、一緒に寝る前に飲もう。」
「!…毎日、寝る前に、か…?」
「?ハーブティーだから、寝る前に飲むのがいいでしょ?」
「それはそうだが……お前、もっと危機感を持て。」
「え?えーと、分かったよ。」
危機感を持つ……リヴァイ相手に?とは思ったが、リヴァイが怒っているような雰囲気を醸し出すので口を噤んだ。
それからその約束通り毎日寝る前にはどちらかの執務室で例のハーブティーを1杯ずつ飲んでから眠るようになった結果、茶葉が無くなる頃にはリヴァイもハーブティーを嗜む程度には飲めるようになり、そして同時に、彼の不眠症は僅かながら改善された。私の作戦は、成功である。