余談
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キース団長が、調査兵団第12代団長の座を退く。そして次の第13代団長の座は、我らがエルヴィン・スミス分隊長へと明け渡される。
壁外調査から戻ってきたばかりの壁の中──シガンシナ区の街中で「エルヴィン…団長をやってくれるか?」という一世一代の会話を突然目の前で繰り広げられ、心の準備も何もしていなかった私は思わず「えっ?」と聞き返してしまいそうになった。なんせ犠牲者をたくさん出してしまった壁外調査だったためその場で素直に喜ぶわけにもいかず、本部に着くまで何食わぬ顔で帰ってはきたが…頭の中はずっと、大騒ぎだった。
コンコン、
「ユニか?入れ。」
まるで事前に私が来るのを分かっていたような返答だ。「失礼します」と一声かけてから扉を開け中に足を踏み入れると、つい今しがた帰ってきたばかりだというのに彼は執務室のデスクに向かい仕事を始めているようで、声を掛けるのを一瞬躊躇してしまった。
「分隊長。なにか、お手伝いできる事はありますか?」
「そうだな…信煙弾に関する資料を取ってくれるか?確かそっちの棚に…。それと、紅茶を頼む。」
「かしこまりました。」
別にエルヴィン分隊長に呼ばれて来たわけではない。エルヴィン分隊長が団長になるのだと思うといてもたってもいられなくて、私が勝手に来ただけだ。エルヴィン分隊長がお仕事をしているのなら、それを邪魔するわけにはいかない。むしろ私ができる範囲で、なにかお手伝いをしたい。
すぐさまエルヴィン分隊長の部屋の本棚から長距離索敵陣形に関するファイルを抜き取り、信煙弾に関するページに栞を挟み分隊長へと手渡した。相変わらずその視線は手元へと向けられていたが、たった一言「ありがとう」と言われ、僅かではあるが力になれた事が嬉しかった。
次に部屋の奥の給湯室に向かいお湯を沸かしながら、しばし考える。
エルヴィン分隊長の部屋に置いている紅茶は、どれもリラックス効果が得られるものばかり選んでいる。いつもデスクに向かい書類仕事ばかりの彼に合わせようとすると、どうしてもそうなってしまうのだ。
今しがた壁外調査から戻ってきたばかりで、肉体的に疲労している中での書類仕事。
ここに置いてある茶葉の中から選ぶとしたら……特に甘みのある、オータムナル、だろうか。
そうと決まればあとは淹れるだけだ。
極力音を立てぬよう静かに紅茶を淹れて執務室へ戻ると、ちょうどエルヴィン分隊長がペンを置き軽く背中を伸ばしているところだった。
「お疲れ様です。ちょうど、紅茶が入りましたよ。」
「あぁ、すまない。いつもありがとう、ユニ。」
「いえ、大した事は何も。」
机の端に書類を寄せて立ち上がったエルヴィン分隊長は、ようやく帰ってきてから着たままだったジャケットを脱いだ。それをいつものように受け取ってハンガーへと掛けてから紅茶をカップへと注ぎ込み、分隊長の方へと置いた。
「いい香りだな。…味も、その辺の店で飲むのより美味い。」
「ふふ。エルヴィン分隊長に褒めて頂けるのが一番嬉しいです。ありがとうございます。」
「先日自分でも淹れてみたんだが、とてもじゃないが君のようにはできなくてな。リヴァイも紅茶が好きなんだろう?彼も淹れるのが上手そうだな。」
「はい。上手ですよ。私には滅多に飲ませてくれないですけど。」
紅茶を飲みながらの、なんて事ない雑談。ようやく壁外から帰ってきたのだと実感して、肩から力が抜ける。が、そもそもここには雑談をしに来たわけではないのを思い出し、ティーカップをテーブルに置いた。
「…エルヴィン分隊長。いよいよ、分隊長ではなくなるんですね。」
「…あぁ、そのようだな。これから忙しくなるな。」
「おめでとう、ございます…。私…、今まで以上にサポートいたします…!」
胸がいっぱいで、言葉が詰まる。ここまで数ヶ月間、エルヴィン分隊長と同じ分隊長という立場で何とかがんばってきた。それもこれも、エルヴィン分隊長がいずれエルヴィン団長になる予定だと、事前に聞いていたからだ。別にキース団長をその座から引きずり下ろすつもりはなく今まで過ごしていたが、やはりその座を退くと聞いてまず思ったのは、キース団長への労いの気持ちではなくエルヴィン分隊長への祝福の気持ちであった。これはもう、隠しようのない事実だ。
「ユニ…泣くんじゃない。引き継ぎはこれからなんだ。」
「仕方ないじゃないですか…。私…エルヴィン団長に、一生ついて行きますからね…。」
「…全く…。まだ団長じゃない。外では言わないでくれると助かるんだが。」
「はい…それは、もちろん、抜かりなく。」
「はは、優秀だな。さすがは団長補佐になる人間だ。」
団長補佐。これまでそのような役職は無かったが、エルヴィン分隊長が団長になった暁に新しく設けられる予定の役職。その役職に、私が就く。今まであまり実感が湧いていなかったが、それが急に現実味を帯びてきて、リラックスしかけていた体に力が入った。
コンコン、
「失礼する。エルヴィン、……ユニ?…エルヴィン、お前…。」
「リヴァイ!ノックしたら返事があるまで待ちなさい…!まさかあなた、いつもそうなの…!?」
エルヴィン分隊長に借りたハンカチで涙を拭いつつ、突然返事も待たずに入室してきたリヴァイを見る。今の感じは、いつもこんな風に入ってきていると思わせるには十分なくらい慣れた動作だった。エルヴィン分隊長は今までそれに対して何も言わなかったのだろう事も分かった。が、エルヴィン分隊長が許しても、常識的にダメなものはダメだ。
「なぜユニが泣いてる?場合によっちゃ、団長になる前に怪我をする事になるが?」
「待ってリヴァイ。これはエルヴィン分隊長が団長になる事が決まって、感極まって涙が出ただけだから。」
「…そうか。なら良い。」
「いや待って。リヴァイ、まさかエルヴィン分隊長の部屋に入る時はいつもそうなの?私の部屋に尋ねてくる時はいつも返事を待つじゃない。」
「あぁ、それはエルヴィンが─」
「ははっ、君らは本当に仲が良いな。だが、そのためにここに来たんじゃないだろう?」
「それは、そうですが…。リヴァイも兵士長になるのですし、最低限のマナーは身につけておくべきでは?」
「…ふむ、一理あるな。」
これでは、他の兵士に示しがつかない。リヴァイが、ではなく、エルヴィン団長が、だ。
エルヴィン分隊長に意見するのは初めてで軽く手が震えたが、これはエルヴィン分隊長の威厳を保つためのもの。私も団長補佐になるのだし、これくらいの意見はちゃんと口に出して、団長に伝えたくてはならない。そう考えてみると、なんとも重い役職だ。
「お前がそこまで言うのなら、改めよう。次からは必ず。」
「…ふぅ…分かってくれて良かったよ。」
「早ければ1週間前後で体制は変わるだろう。その間、君らには新役職の仕事を覚えてもらわなくてはならない。頼んだぞ、二人とも。」
「はい。全力を尽くします。」
「あぁ。」
エルヴィン分隊長が、エルヴィン団長──調査兵団のトップに。私がその、団長補佐に。そして調査兵団の兵士達の上に、リヴァイが立つ。
これまでとは全く違う、調査兵団となる事だろう。その事に不安が無いわけではないが、エルヴィン団長がいれば、きっとすべてが上手くいくだろう。私が今まで信じてついてきて、すべてが上手くいってきたのだから。私はこれまで通り、エルヴィン・スミスを信じ、ついていくだけだ。