余談
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「エルヴィン分隊長!…ご無事で、何よりです。」
調査兵団本部でエルヴィン分隊長の帰りを待つ間、私は気が気ではなかった。最近何か調べ物をしていると思ったら昨日になって急に「明日、地下街に行こうと思っている」と言い出し、理由を聞くと「どうしても調査兵団に引き入れたい奴がいるんだ」とか何とか。
詳しく聞くと憲兵団から立体機動装置を奪い、それを使って最近特に悪さをしているのだとか。地下街には地下街の生き方があるのは分かるが、兵団としては立体機動装置を奪われたままにはしておけないという事で調査兵団が協力する代わりにそのゴロツキ3人を全員調査兵団へ迎え入れるという驚きの策を講じていて、それをいよいよ実行するという事らしかった。そこで最近調べ物をしていたのはこのためだったのかと思い至った。私に言わなかったのは、私を地下街に連れていきたくなかったから、らしい。エルヴィン分隊長が私に事前に作戦を教えなかったのは教える必要がないと判断したから別に構わなかったが、憲兵団から立体機動装置を奪う実力の持ち主と対峙する場面に同行させてもらえないというのは、なかなかに堪えた。相手は一人ではなく、三人もいるのだ。代わりにミケさんを同行させるというので落ち着いたが、その提案がなければきっと、私は勝手にあとをつけて加勢していた事だろう。
馬車から降りてきたエルヴィン分隊長は「あぁ、今戻った」となんて事ない顔をしているが、本当に傷のひとつでもついてやしないか彼の周りをウロウロ歩き回って確認し、本当だと分かってからようやく、姿勢を正した。
「本当に…無茶をなさりますね。負傷者は?」
「心配をかけたな。負傷者は数名出たが、どれも軽度な怪我だ。向こうも、殺す気はなかったようだな。」
「エルヴィン。三人を乗せた馬車がそろそろ到着するぞ。あれだ。」
「あぁ。ユニ、すまないが彼らの教育を頼めるか?」
「えっ?…急ですね。でも…承知しました。エルヴィン分隊長の頼みならば、完璧にこなしてみせます。」
「はは、頼もしいな。だが、そんなに気負わなくていい。できる限り、自由にさせてやってくれ。」
「はい。分かりました。」
そうしてやがて馬車から降りてきた三人を見て、少し驚いた。憲兵団を打ちのめしたゴロツキと聞いていたから一体どんな屈強な男達なのだろうと身構えていたのだが、みんなどこにでもいそうな青年、少女で……私を教育係に任命した意味を、理解した。とはいえ憲兵団をやったのは事実。気を抜かず、だがある程度フランクに、関わっていこう。
彼らと数日間少し関わっただけで、彼らの関係が分かってきた。リーダーはリヴァイくん。小柄だが目つきが悪く、その視線だけで人によっては萎縮してしまうだろう。だけど私にはそれが威嚇している猫のようにしか見えない。申し訳ないが。無理やり連れてこられた調査兵団で、なぜこんな奴がここに?という不躾な視線を多く向けられているので、無理もない事だ。しかし理不尽な状況に置かれているというのに、威嚇するだけで問題を起こさないのは、意外だった。我慢をしているのだろう。そのわけは分からないが、せめて何か気分転換になる事をさせてあげられないだろうかと、色々と提案を試みた。
「ねぇ、立体機動は好き?」
「…別に好きでも嫌いでもねぇ。」
「じゃあ…ボードゲームとかは?」
「別に、興味ねぇ。」
「そう…。じゃあ何か、好きな食べ物とかある?あ、あんまり高価なものはナシね。」
「…ねぇな。強いていえば紅茶だが。」
「えっそうなの?私も好きでね、いくつか茶葉を持ってるから、良かったら今から飲まない?」
「……。」
「…決まりね。講堂で待っ…、いや、私の部屋でよければ、振る舞わせて。お茶菓子も少しあるから、良かったら二人も。」
講堂で待っててもらうのは、ナシだ。彼らにとっては居心地のいい空間とは言えないだろうから。それなら私の部屋へ招いた方が彼らにとっていいだろうと思ったが、リヴァイくん以外の二人は気まずそうに、リヴァイくんの様子を伺った。みんなの視線がリヴァイくんへと集まるなか数秒考えた彼は徐ろに立ち上がり「行かねぇのか」と。どうやら紅茶が好きというのは、本当らしい。
「今は3種類しかないんだけど、どれがいいかな?…リヴァイくんは、どういうのが好みとかある?」
「……紅茶には、種類があるのか。」
「そうなの。私も知らない茶葉もまだたくさんあるから、今度良かったら一緒に買いに行こうよ。」
「……考えておく。」
「ふふ。じゃあ今日はとりあえず、一番飲みやすいものを出すね。」
紅茶好きというリヴァイくんには物足りないかもしれないが、ダージリンティーの缶を開け、その中からスプーンで適量を掬いティーポットへと入れる。そうして時間をかけて紅茶を淹れているとイザベルから「まだ?」と催促の声が上がったが、リヴァイくんのひと睨みで諦めたように背中をソファの背もたれへとつけた。
「…お待たせ。お茶菓子も一緒にどうぞ。」
「やっとか!戴きまーす!」
「…戴きます。」
イザベルは紅茶よりも先にお茶菓子に手を伸ばし、ファーランは居心地の悪さを感じながらも静かに紅茶の入ったカップに口をつけた。リヴァイくんはというと、少しの間を置いてカップを上から持ち、その独特な持ち方のままカップの縁に口をつけた。
「……悪くない…。」
リヴァイくんからの感想は、それだけ。しかし瞳が僅かにキラリと光った気がするので、お気に召したようだった。きっと素直になりきれない彼なりの、最大限の褒め言葉なのだろう。そう思ったら少し、かわいく思えてきた。
「あれ?リヴァイくん一人?」
「……てめぇか。まぁな。」
珍しく一人でいるリヴァイくんを見つけキョロキョロと二人の姿を探してみたが、二人は馬の厩舎の掃除に出向いていて本当に今はリヴァイくん一人らしい。彼がいるとなかなか掃除が終わらないからと置いていかれたのだという。
「暇なら、この間新しい茶葉を買ってきたから一緒に飲まない?私もまだ飲んだ事ないんだけど。」
「ほぅ…。そうだな…まぁ、暇だしな。」
「これから休憩か。私も同席しても構わないか?」
「エルヴィン分隊長!」
「…チッ。……。」
「あっ、ちょっとリヴァイくん!紅茶は!」
突然のエルヴィン分隊長の登場に、私はとびきりの笑顔で喜んだが…対するリヴァイくんは舌打ちをし、眉間に皺を寄せそのまま立ち去ろうと背を向けて歩き出してしまった。
「…気が変わった。また今度で良い。」
こちらを見向きもせずそう言い捨てて、やがて廊下の角を曲がりその姿は見えなくなった。ようやく少し心を開きかけたのに、それを他者に邪魔されて、へそを曲げて去っていく。なんだか…本当に猫みたいだ。
「すまない。飼い慣らしている最中だったか?」
「いえ…。まだ全然です。あの…リヴァイくんは行ってしまいましたが、私の部屋で休憩…なさりますか?」
下心があり、無意識にチラリと上目遣いでエルヴィン分隊長にお伺いを立てた。分隊長はそれに優しい微笑みで「君の淹れる紅茶は絶品だからな。ぜひ」と、私の喜ぶ言葉を口にした。
「エルヴィン分隊長にお出しするのなら、いつにも増して美味しい紅茶をお淹れしなくてはなりませんね。」
「それは楽しみだ。来週内地に行く用事があるから、帰りにケーキを買ってくるよ。簡易的なお茶会をしよう。」
「えっ、本当ですか!楽しみです!」
リヴァイくんをダシにしたつもりはないが、急遽エルヴィン分隊長とティータイムを過ごす事ができ、更に来週はお茶会の約束までこぎつけてしまった。棚からぼたもちとは、まさにこの事。リヴァイくんにはお詫びに、今度少し高価な紅茶を振舞おう。