851年~
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あの地獄のような戦いから数ヶ月あまりが経ち、ようやくリヴァイの退院の許可が降りた。マーレから船と蒸気機関車を乗り継ぎ久しぶりに帰ってきた。かつて壁の中だったところは懐かしく思ったが、ウォールマリアの壁が無くなったため、不思議な景色だ。なんというか、世界が広がったような、そんな感じ。
街の復興には、まだまだ時間がかかる。街中には駐屯兵団が忙しなく走り回り、それを見てようやく帰ってきた感覚がした。
「ユニさん!」
「ジャン。迎えにきてくれてありがとう。」
「いえ。兵長、お久しぶりです。」
「…もう、"兵長"じゃねぇよ。」
「それはそうっすけど…兵長は兵長というか…。あ、この馬車です。」
「ん。…リヴァイ、立てる?」
「あぁ、悪いな…。」
入院している間ほぼ寝たきりだったリヴァイは筋肉が落ち、歩く事が困難になった。しかし後遺症はあるが怪我は完治したため、リハビリをすればいずれ歩けるようになる。だからこの車椅子生活は、きっと今だけだ。
リヴァイの体を支えて車椅子から馬車に移すのは、あまり難しくはない。リヴァイは筋肉が落ちた影響で体重も落ち、以前ほどの重さがないからである。内臓も損傷していたため入院中あまり食べられず、怪我の影響はあまりにも大きすぎた。本人は内心それを相当気にしているようだが、私は極力無理をさせないよう努めた。
「勲章の授与式は明日なんだよね?調査兵団本部に行く前に、行きたいところがあるんだけど…いいかな?」
事前にメモしておいた紙をジャンに渡すと、「いいっすよ」と言った後にそのメモを見て、みるみるうちに顰められた。
「えーと…、花屋に駐屯兵団本部、慰霊碑にナイルの家って…、本当に今からぜんぶ回るんスか…?」
「……ダメかな…?」
「…、…はぁ…。…行きますよ。行けばいいんでしょ!?」
「…!ありがとう、ジャン!あぁあと、途中休憩を取りたいから、適当なお店で紅茶を飲ませて。お願い!」
「分かりましたよ!付き合いますよ!!あー…帰んのは夜になりそうだな…。」
ゴリ押しではあったが、何とか要求が通った。良かった、と安堵してリヴァイに視線を向けると窓枠に頬杖をつきながら優しい笑顔でこちらを見ていて、思わずこちらも笑顔を返した。
そうして大量の花束を馬車に買い込みまず向かったのは、駐屯兵団本部。ピクシス司令と、その部下達のためだ。慰霊碑は慰霊碑で別の場所にあるが、どうしてもピクシス司令には個別に花を手向けたかった。
壊れかけた兵団内には簡易的な祭壇のようなものが設置され、もうあれから時間が経っているのでお供え物は疎らだったが、そこに先ほど買ったばかりの花を供えた。
「…ごめんなさい、ピクシス司令。お酒は、買い忘れてしまいました。花なんかに興味は無いと思いますが、これで許してください。それと…、…私、ようやく結婚します。リヴァイと。エルヴィンに…、早く言ってくれないからだぞ、って…言っておいてください。」
「あぁ…本当にな。ざまぁねぇな、と…伝えておいてくれ。」
祭壇にはお酒の入っているであろう瓶が一箇所に集められており、それがピクシス司令の人望を現している。だけどピクシス司令=お酒なのだと思うと、みんなの共通認識が少し面白くて笑ってしまった。
「みなさん、立派な兵士でした。共に戦えた事を、誇りに思います。今はただ安らかに、お眠りください。」
敬礼をしようとして、やめた。私はもう兵士ではないし、彼らも、それは同じだからだ。
深々と頭を下げて手を合わせて、冥福とやらを祈った。
コンコン、
「……はい、どなた?」
「!…ここは…ナイルさんのご自宅でお間違いないでしょうか…?」
兵士でもない友人でもない、元恋人の親友の奥さんというほぼ他人である女性との対面に、少しばかり緊張する。私とナイルの関係値も極めて微妙…むしろ悪かっただけに内心気まずくはあったが、来ないわけにもいかないだろうと、こうして足を向けた。
「突然の訪問になってしまって、申し訳ありません。私は、ユニ・クラインと申します。」
「!…あぁ、エルヴィンの。どうぞ。」
「は、はい。お邪魔します。」
促されるまま、リヴァイの車椅子を押し中へと入る。さすが憲兵団の師団長を務めていただけあって家の中は広く、そして綺麗だった。子供が3人いるというのは嘘なのではないかと思うほどには。
というか、エルヴィンの、って何?私だけではなく、リヴァイも気になった事だろう。
「えぇと…こんな物を渡されても困らせてしまうかもしれませんが、良かったら…。」
「…綺麗ね。ありがとう。」
私よりも年上だが、綺麗な人だ。ナイルには勿体ないくらい。私が彼女に手渡した花束はきっと、私よりも彼女の方が似合うだろう。
「ナイルさんとは…お仕事の関係で何度かお会いさせて頂いた事があって…。エルヴィン団長とも、親交が深かったと伺っています。この度は…なんと申し上げて良いか…。」
謝るのは、違う。しかしさっきみたいに冥福を祈るのも違う気がするし、お悔やみを言えば良かっただろうか?言葉を探すうちに視線は下に落ち、結局謝っているみたいになってしまった。せっかくここまで来たのに、上手くいかない。
「…取り繕わなくて、大丈夫よ。あなたの事はナイルからも、エルヴィンからも聞いているから。」
「え…、……えっ…!?」
その言葉の意味を聞いて、あるひとつの仮説に行きつき、青ざめる。二人から聞いてるって…!!
「ふふっ、あなた、ナイルの事無能だって言ったんでしょう?」
「……!!!あ、…あの…、…すみません…、事実では、あります…!」
思わず、両手で顔を覆った。後ろに控えるリヴァイが鼻で笑った気がしないでもないが、私はもう居た堪れない気持ちでいっぱいだった。
「謝らなくていいのよ。事実なんでしょうし。言われた日に相当落ち込んでたから、本人も自覚があったんでしょ。」
「いえ…、あの…あの時はエルヴィン団長の事で色々あって…、頭に血が昇って…!」
「本当に大丈夫だって。それに、エルヴィンも嬉しそうに話してたんだから。」
「…エルヴィン、団長が…。」
「あぁ、ごめんなさいね。私が10代の頃、ナイルとエルヴィンがよく、私の働いていた酒場に来てたのよ。それから付き合いが続いててね。」
「あぁ、そういう…。そうなんですね…。」
エルヴィンからは、そんな話は聞いた事がない。私の知らない、若かりし頃のエルヴィンを彼女が知っているのだと思うと、少しばかり悔しい。それが伝わってしまったのだろう。彼女は私を見て、笑みを深めた。
「あなた、かわいいのね。エルヴィンの言ってた通りだわ。」
「え…?」
「なんの疑いもなく自分を信じてついてきて、従い、守って。小さくてか弱いのに気が強くて、そんなあなたの事がかわいくて仕方がないって言ってたのよ。うちに来る度に惚気けてたんだから。」
「え…、エルヴィンがそんな事を…。」
かーっと顔が熱くなるのは、仕方がないと思う。エルヴィンが誰かに私の話をして、それが惚気話だったなんて…嬉しくないわけがない。
「エルヴィンのために生きてたあなたがナイルに噛み付くのは、仕方ないわ。調査兵団と憲兵団は、そういうものなんだから。」
「はは…そう、ですね…。」
「…その指輪、私も一緒に選んだの。」
「!」
「それを着けてるって事は…エルヴィンだけを想って生きていくって意味かしら…?それとも…。」
彼女が、チラリとリヴァイの方を見る。これまで一言も発さずに後ろに控えているのだから、意味があると察するだろう。
「彼は…調査兵団の、リヴァイ兵士長です。私も彼も、もう兵士ではありませんが…、…エルヴィンと、私の部下でした。今は、私の恋人…、いえ、婚約者です。」
「……そう。エルヴィンから結婚式の招待状がなかなか届かないから、てっきり振られたのかと思ってた。でも…意気地無しなだっただけだったのね。」
「…本当ですよ。エルヴィンの意気地無し…。」
「……ふっ…、あははっ!」
彼女の笑い声を聞き一瞬驚いたが、楽しそうに笑うので私もつられて笑ってしまった。ここに来たのは、こんなつもりじゃなかったのに。
「はぁ…。…ユニちゃん、また来てね。今度はゆっくり、エルヴィンの昔話をするわ。」
「!本当ですか…!?あの、コーヒーと紅茶はどちらがお好みですか?紅茶で良ければ、マーレで珍しい茶葉をいくつか見繕って買ってきます!」
「ふふ、じゃあお願いするわね。」
ナイルの話をしに来たのに、途中から完全にエルヴィンの話になってしまった。彼女が、気を回してくれたのだろう。思わぬところで茶飲み友達が増えた喜びを噛み締め、ナイルの邸宅を後にした。一旦休憩して、日が沈む前に慰霊碑へ行こう。