851年~
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「アルミンを捕らえた巨人は、尾骨の方にいるはず。」
「ピークさんは!?」
「頭骨の方だ。」
今やるべき事は、アルミンの奪還。もしくは、項の爆破。どちらが確実かは、分からない。
「両方…だ。両方…やるぞ。」
「…リヴァイ。」
「…一方でアルミンを救助する…。超大型の爆発が頼りだ…。もう一方で、エレンを狙って項も攻撃しろ…。二班に分かれて…同時にやるぞ…。」
「…兵長?」
「もう…エレンを気にかける猶予はなくなった…。いや…そんなもの、最初からなかった…。」
「リヴァイ、無理しないで。」
血の混じった咳をするリヴァイの背を、優しく摩る。それに、リヴァイにこれ以上残酷な言葉を言わせたくはなかった。
「…分かって、ミカサ。エレンがこちらに歩み寄る意思がない以上…殺すしか、この地鳴らしを止める方法はない。獣の巨人が姿を見せるまで待つなんて、できない。それまでエレンが待ってくれるとは、到底思えない。」
「…ミカサ…。…エレンを…、……殺そう…。」
「ミカサ!アンタはアルミンを救う事だけを考えな!それ以外は、考えなくていいから…。」
「……うん。」
…仕方がない。仕方がない事だが、正直それで済ませたくはなかった。でも……仕方のない事なのだ。もしかしたらこれが、いつもエルヴィンがその身で感じていた事なのかもしれない。
「…リヴァイ。リヴァイはここで、ガビと一緒にいて。」
「は…?お前…っ、この期に及んで、俺をお荷物扱いか?」
「違うよ。リヴァイは、獣の巨人を仕留めるんでしょ?獣を倒すのは、リヴァイ。奴が姿を現すまで、ここでその機を待って。」
「っ…、姿を…現さねぇかもしれねぇ。」
「いや…それはないよ。今は姿を現せない事情があるのかもしれないけど、エレンを殺そうとすれば、必ず現れる。もしくは、殺した瞬間に、かもしれない。」
ここまで来て一切の反応を示さないのだから、姿を現さないのではなく、現せないのではないだろうか。もしそうならそれはきっと、エレンの意思だ。
「さっき言った事は、気にしないで。リヴァイに死んで欲しくないのは確かだけど、誰一人として死んで欲しくないのも本当だから。…だから、そんなに気負わないで。」
「……命令、してくれ…。エルヴィンみてぇに…。」
「え?…リヴァイ。我々が必ず、獣の巨人を外に出す。出てきたところを、確実に仕留めろ。」
「…承知した。…はは…、案外似てるじゃねぇか。」
「!…それは良かったよ。」
か、かわいい…。リヴァイはこういうのでも笑うらしい。これからはもっと積極的にやっていくのもアリかもしれない。
「来るぞ!今だ!!速度を上げろ!!掴まれ!!」
戦鎚の巨人の弓矢を避けながら、ファルコの顎の巨人はエレンの頭目掛けて突っ込んでいく。吹き飛ばされそうな速度でリヴァイが心配だったが、まだ子供であるガビが吹き飛ばされぬよう背を支えていたので、私はそのリヴァイの背を支えた。
ライナーとジャンを降ろしたあとはそのままの勢いで尾骨まで到達し、また一足先に飛び降りた。
ザザザッ、と大して手応えのない切り裂く感触。さて、アルミンを捕らえたヤツは、一体どこに…。
「ユニさん!向こうに!」
「!OK!」
ザッ、ガリガリガリ、
戦鎚の巨人が創ったものだからか、血も吹き出ないし肉の脂もない。という事は、毎回いい角度で切り続ければ実質、ブレードの切れ味は落ちないという事だ。それを意識してみると、実践する前に比べて消耗スピードは格段に落ちた。これは、いい気づきだ。
「!」
アルミンを捕らえた巨人が、頭の方に向かって抜けた。アニがそれにいち早く気づきミカサをぶん投げるのを見て、アニの足の間からそれを追いかけた。
切っても切っても出てくる巨人達。無垢の巨人とは比べ物にならない動きをするが、一体何体討伐したのだろう。
「!」
鎧の巨人だ。体が岩のようにゴツゴツしていて、刃は通りそうにない。武器をブレードから雷槍に持ち替えて、ミカサに向かう鎧の巨人目掛けて撃ち込んだ。
「ミカサ!避けて!!」
撃ち込んだ勢いで、直前にブレードを折ったミカサを回収し、起爆した。しかし今の討伐で、例の巨人との距離は離された。それも奴はよりにもよって、ベルトルトの超大型巨人の元へと向かっていた。
「…えっ!?」
ドオォォォ、と轟音と爆風を巻き起こし、ベルトルトの巨人の腕が振られた。しかしそれはこちらを攻撃するものではなく、むしろ他の巨人を狙ったように見えた。何が起こったのかは分からないが、何かが、変わったのだ。
「…っ、ジークさん!どこですか!?どこかにいるんでしょ!?私、ジークさんに会いたいです!!」
「…ユニちゃん、か…?」
「ッ!会えて…嬉しい…!」
ようやく、ジークが姿を現した。やはり何か理由があって出てこられなくて、その何かが変わった事で出てこられるようになったのだ。
「あなたにどうしても、会って欲しい人がいるの…。」
「どうせリヴァイだろ?ハァ…。…おーい!ここだ!俺に会いたかっただろ!?リヴァイ!俺は会いたくなかったけどな!!」
下の方で、アルミンが出てくるのが見えた。おそらくアルミンが自らの力で、何かを変えたのだろう。
「…いい天気じゃないか。…もっと早く、そう思ってたら…。まぁ…いっぱい殺しといて、そんなの虫が良すぎるよな…。」
「…そうね。エルヴィンを殺したあなたを、私は許さないから。」
上から、リヴァイが降ってくる。それを受け止めようと、腕を広げた。今度はエルヴィンの時みたいに筋肉断裂などにならぬよう、気をつけなければ。
ザッ──
「……ありがとう、リヴァイ…。」
「…やっと…あの時の約束を果たせたぞ…。」
ぎゅっと抱きしめると、強く抱き締め返された。空中で体を反転させて進行方向を見るとファルコの巨人がこちらに向かってくるところで、その背中に無事、着地した。
「…リヴァ、っ…!」
獣の巨人をようやく倒した喜びを分かち合おうと、下敷きにしたリヴァイから顔を上げた途端に腰と後頭部をものすごい力で掴まれ、抱きしめるようにキスされた。それはもうものすごい力で、ちょっとやそっとじゃ引き剥がせそうになかった。次々と104期生が回収されてきているのに…!!
「っはぁ…!っリヴァイ!!」
大きな声で名前を呼ぶと、目を見開いて驚いたような表情で私を見上げた。いや、驚いたのはこっちなんだが。
「…えぇと…、アルミンが、ぜんぶ吹き飛ばすって…。」
ドオッ───
言っている間に起爆装置が押され、無事に周囲が吹き飛んだ。しかしなぜだろうか。倒したという実感は、全く湧かなかった。
「……エレン…。」
「…やったのか…?」
「いや…あれで死ぬとは、思えないけど…。」
まだ、終わっていない気がする。どうなったのかは分からないが、どうしてもそんな気がしてならない。
やがてファルコの巨人は、人々が集まる岡の上に着陸した。そこに集まる人々はみな、マーレに住むエルディア人なのだという。みんな生きている喜びを分かち合い抱き合ったりして涙を流していた。
「…私達の目的は達成されたけど…ここまで来たら、最後までやりきろう。」
「…そうだな。」
「たぶん、エレン本体を殺さない限り──」
カッ──
「…本体を殺さない限り、終わらないだろうから。」
吹き飛ばした首から飛び出した、光る虫のようなものがウヨウヨと蠢いて、岡の麓で止まった。そして突然、蒸気のようなものを上げ──
「…!!…っ、リヴァイ。ミカサとピークちゃんを連れて…急いでここから離れて…!!」
「は…?どういう──」
「これは…ラガコ村と…同じやり方なんじゃ…。」
「っ!」
「…調査兵団内生存率ナンバーワンの私が…こんな最期なんてね…。…リヴァイ……ごめん…、ごめんね。…ルーカスを、お願いね…。」
「…ッ!」
眉間に皺を寄せ目を見開くリヴァイの表情は、絶望そのもの。当たり前だ。まさかこんな形で私の命が終わるなんて、誰も思ってなかった。予想すらできなかった。しかし、これが現実。しばし瞳を彷徨わせたのち、リヴァイは震える声で言葉を紡いだ。
「……あぁ、もちろんだ。…ユニ。俺はお前を……心から愛している。」
「…私も。」
「…行くぞ、お前ら。」
まさかこんな結末になるなんて。リヴァイを残していくのが、気掛かりで仕方ない。リヴァイはいつも私を一人にはしないと言ってくれるが、私だって、リヴァイを一人にしたくない。残される苦しみを、知っているから。
左手を太陽に翳すと、薬指の指輪がキラリと光った。その向こうの空も、エルヴィンの瞳みたいに綺麗だった。
「…ごめんね、リヴァイ。」