851年~
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「ほ…本当に…良いのかい?」
「良いんです。一思いにやっちゃってください。」
「くっ…、っうおぉぉお!」
ザク、パサ、
パラパラと零れてくる、自身の髪の毛。毎日手入れを怠らず、枝毛や切れ毛とは一切無縁でここまで伸ばしてきた、私の分身のようなもの。それが次々と切り落とされ、地面へと落ちていった。
「はぁ…、はぁ…、…綺麗な髪の毛だったのに…。」
「…どうしてハンジさんが泣いてるんですか?」
「そりゃあそうだろ!!この髪は、君がエルヴィンのために…!!っ、ああもう!!やっぱり切らなきゃ良かった!!」
切ったハンジさんが涙をボロボロ流して後悔しているものだから、私はむしろ冷静になれた。冷静になった事で、リヴァイに刺さった荷馬車や雷槍の破片を取り除き、その痛々しい傷を綺麗に縫う事ができた。
「本当に、良いんです。エルヴィンのために伸ばしていたのは事実ですが、そのエルヴィンに触れてもらえないのであれば、彼が亡くなった時点で本当は不要なものでした。それに…リヴァイはきっと、ショートカットの方が好みですよ。」
「へ…?…そうなの?」
「起きてから聞いてみないと分かりませんが、何となく。もし違ったとしても、リヴァイはどんな私でも愛してくれます。…私がこんなに傷だらけのリヴァイでも、愛するように。」
「…そりゃ、そうかもしれないけど…。」
「さ、ハンジさん。向こうを向いててください。体の傷の具合も見ないと。」
最低限の処置が終わったら、食料の調達に行かなければならない。それと、綺麗な包帯や着替えなども必要だ。街に出るには私もハンジさんも、顔が世に出回りすぎていた。だから髪を切って見た目を変え、少しでも発見を遅らせたかったというのもある。
「これとこれ、ください。」
「まいど。おつかいかい?こんな時に、偉いねぇ。おまけにこれもつけてあげよう。」
「いいの?ありがとう!」
髪を切った事で、余計に幼く見られるのだろうか?いつもの調査兵団の制服ではなくラフな格好というのも手伝って、今の私の状態はこの状況に思いの外役立つらしい。この際、使えるもんはなんだって使おう。
「ただいま…、ハンジさん…。」
「おかえ…、えっ!?何この大荷物!」
「いや…、なんか、こんな状況でおつかいがんばってて偉いねって、みんながどんどん物をくれるから…。最終的に一人では運べなくなって途方に暮れてたら、もういらない荷車があるからってくれた人がいて、ここまで引っ張ってきたんです…。…疲れた…。」
もう、歩けない。確かに色んなお店は回ったが、だからといって荷車がいっぱいになるなんて、誰が想像できただろう。こんなに大変な買い出しになるとは、私もハンジさんも思わなかった。
「お…お疲れ様…。今日はもうリヴァイの隣で休んでていいよ。あとは私がやるから。ありがとう、ユニ。」
「…この顔が役に立って、何よりです…。」
応急セットを手に、リヴァイの隣へと腰掛ける。その中からガーゼと消毒液を取り出して傷口の消毒を済ませて、買ってきたばかりの包帯を巻いてから横になった。
「リヴァイ…綺麗な顔に傷なんてつけちゃって…。私リヴァイの顔、結構好きだったんだから…。」
頬を撫でて、口付ける。その体温は川岸で見つけた時よりも温かく、リヴァイの生命力の強さに安心した。
「…乾燥してる…。水を飲もうね、リヴァイ。」
少量の水を口に含んで、口移しで飲ませた。本当はスプーンなどで飲ませたかったが、買ってきたばかりのスプーンは荷車に埋もれていて、とてもじゃないが探す気にはならなかった。
「…みんな巨人にされたけど、君だけ生き残った。この怪我でまだ生きているのも、同じだろうね。君がアッカーマンだからだ。」
「!」
「…ユニ?どうかした?」
「……いえ、何でも…。」
アッカーマンという単語に、リラックスしていた体はビクリと反応した。まだ、リヴァイとその話はできていない。だから一刻も早く、リヴァイには目を覚まして欲しかった。
「…いっそ、みんなでここで暮らそうか。」
「はは…リヴァイと私の新婚生活の邪魔をしないでくださいよ。」
「…え、…えっ!?君達ついに結婚するの!?ぷ、プロポーズはどっちから!?」
「うるさいですよ、ハンジさん…。プロポーズは、まだです。ただ…結婚の決定権は私にあるようなので、私からになるでしょうね。…正直、リヴァイの方からして欲しいですけど。」
「君って意外と、ちゃーんと女の子だよね!かわいいなぁ、ユニ!このままリヴァイが目覚めなかったら、私と結婚しよう!」
「縁起でもない事言わないでくださいよ!全く…私は少し横になります。見張りはお願いしますよ、ハンジ団長。」
結婚……リヴァイが許してくれるなら、したいと思った。でもリヴァイはどうだろうか?彼は優しいから、自分の欲望とは別にエルヴィンの事を気遣って、断られる可能性だってある。それに、アッカーマンの習性の事だって…。
悶々とした思いで寝付けずにいると、やがてカンカンという金槌の音が聞こえてきて、余計に眠れなくなる。まぁ、いいか。横になって目を瞑っているだけで、多少は休まるのだし。
『すべてのユミルの民に告ぐ──』
「っ!?なに…、エレン…!?」
空耳にしてはいやにハッキリとしたそれに、思わず上体を起こす。すると風景が急に切り替わり、不思議な景色へと一変した。
『俺の名はエレン・イェーガー。始祖の巨人の力を介し、すべてのユミルの民へ語りかけている。
パラディ島にあるすべての壁の硬質化が解かれ、その中に埋められていたすべての巨人は歩み始めた。俺の目的は、俺が生まれ育ったパラディ島の人々を守る事にある。
しかし世界はパラディ島の人々が死滅する事を望み、永い年月をかけ膨れ上がった憎悪はこの島のみならず、すべてのユミルの民が殺され尽くすまで止まらないだろう。俺はその望みを拒む。
壁の巨人はこの島の外にあるすべての地表を踏み鳴らす。そこにある命を、この世から駆逐するまで───』
「…!ハンジさ、…!」
「…獣の…クソ…野郎は…どこだ……。」
風景が元へと戻った瞬間ぎゅっと手を握られ、リヴァイが目を覚ましたのだと知る。そして起き抜けに上体を起こそうとするので、やんわりとそれを制した。
「大丈夫…、…大丈夫だよ、リヴァイ…。」
「ユニ…、悪い…。ヘマをした…。奴に…死を選ぶ覚悟がある事を見抜けずに…また…逃がした…。」
「無念で堪らないだろう…。でも今は…」
「このまま逃げ隠れて…何が残る…。」
「…なんだよ。聞こえてたのか。」
「……えっ?」
「…おい待てユニ…。その髪はなんだ。何があった。」
違う違う。絶対に今はそっちじゃない。
ハンジさんの言った「みんなでここで暮らそうか」は聞いているのにその後の会話を聞いていないなんてそんな都合のいい話、あるだろうか?慌てふためいているのは私だけで、ハンジさんはニヤニヤし始めるしリヴァイは髪の毛が気になって仕方がなさそうだし…!
「き、気分転換にちょっとね!!」
そう答えるしか、なかった。