851年~
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「…何だか、向こうは騒がしいね…。」
大方一部の兵士が、作戦は成功したと騒いでいるのだろう。成功…と言っても遜色はないだろう。ジークを奪い、エレンも奪還した。その上、こちらの死者は6名に抑えられたのだから。だが、なぜだろうか。エルヴィンの指揮でエレンを取り返した時ほど、喜びがないのは。
ガチャ、
「…、…え…?…誰?」
「…ガビ…ファルコ…、…なぜここにいる?」
「…ロボフさんを殺し、立体機動で乗り込んで来ました。そして…この子にサシャが撃たれて…もう、助かりそうにありません…。」
「…!」
そんなバカな…。さっきまで一緒に戦っていた、サシャが?いつも明るく周りを和ませている、サシャが?私とリヴァイの事を祝福してくれたあの、サシャが…?
思わずグラ、と頭が揺れたが、リヴァイがそれを支えた。リヴァイも、辛いだろう。誰よりも、仲間想いだから。
「それで、全ては計画通りってわけですか、ジーク・イェーガー。」
操舵室からやってきたハンジさんを見て、思考を今作戦へと無理やり引き戻す。これまでと変わらない。悲しむのはあとだ。
「…大筋は良かったが、誤算は多々あった。」
「……イェレナ。顎と車力は、あなたが拘束する手筈になっていたんじゃないの?なぜ二人とも戦場に?」
「…すみません。確かに二人を穴に落としたんですが…脱出されてしまいました。私の失態です。」
「その余波で獣が予定より多めに石つぶてを俺達にくれてやったわけか…。道化にしては大した即興劇だった…なぁ、髭面?」
「そう睨むなよリヴァイ…。小便ちびったらどうしてくれんだ?お前こそ大した役者じゃないか。俺を殺したくてしょうがなかっただろうになぁ…。」
私とリヴァイが怒りを隠し切れないのは、当たり前だ。イェレナが任務を中途半端に行い、そのおかげで死傷者が出たのだから。我々調査兵団の被害はもちろん、顎と車力のおかげで向こうの被害も甚大だろう。
「マーレ軍幹部を殺し、主力艦隊と軍港を壊滅させた。これで時間は稼げたはずです。」
「敵がパラディ島に総攻撃を仕掛けてくるまでの時間かい?…私達は君が敵に捕まる度に命懸けで君を取り返した。どれだけ仲間が死のうとね…。それを分かっておいて自らを人質にする強硬策を取るとは…お望み通り、こちらは選択の余地無しだよ。君は我々を信頼し、我々は君への信頼を失った。」
「だがこうして始祖の巨人と王家の血を引く巨人が揃った。全ての尊い犠牲が、エルディアに自由をもたらし、必ず報われる。」
「…なにが、尊い犠牲だ。」
ゴッ──
奴を殺す事が叶わない今、せめてこの虚しさだけはと、跪いてちょうどいい高さにあるその頭を力いっぱい蹴飛ばした。こんな奴に、尊い犠牲なんて言葉を言って欲しくない。コイツはただ自分のやった事を、正当化したいだけだ。
「私は…納得できない…!それが本当に犠牲になった人々を思って出た言葉なら……、私はあなたと、一生分かり合えない。」
安楽死計画。やはりそんなもののためにエルヴィンが殺されたなど、とてもじゃないが受け入れられない。彼はまだ、死ぬべきじゃなかった。生きるべきはこんな奴なんかじゃなく、エルヴィンであるべきだった。人類が、生き残るためには。
ガチャ、
「……サシャが死んだ。」
「…え?」
「コニー…サシャは…最後、何か言ったか?」
「……肉…って言ってた。」
「…くくっ…。」
船内に響き渡る、エレンの笑い声。私を含むみんながエレンに視線を向け、部屋の中の空気はピンと張り詰めた。
「…エレン。」
「エレン。お前が…調査兵団を巻き込んだから、サシャは死んだんだぞ?」
しゃがみ込んで下からエレンの表情を覗き込むと、悔しそうに唇を噛んでいた。それで分かった。彼が笑ったのは、バカにして笑ったのではない。ただ自分が無力でどうにもできなかったのを、自嘲していたのだ。
「おい…、ユニ…?」
何も言わず、エレンを抱きしめた。私もエレンも何も言わないものだから、リヴァイは戸惑ったように私を呼び、その手は宙をさまよった。エレンはエレンで抱き締め返したりはしなかったが振り払う事もせず、ただただそれを受け入れた。
あれから、数日。イェレナ率いる義勇兵はピクシス司令を中心とする駐屯兵団へ囚われ、各所で拘束された。エレンも地下牢へ入れられ、ジークは秘密裏に、巨大樹の森へとその身を隠された。
リヴァイがジークの見張りとして巨大樹の森へと駆り出されて行ったが、私はまず、ピクシス司令のいる駐屯兵団へとやってきていた。私は彼に、話さなくてはならない事があったからだ。
「…ピクシス司令。お時間を頂き、ありがとうございます。」
「おぉ。先の作戦、ご苦労だったのぅ。して、今日は何の話を?」
重々しい私の空気を察してか、いつもの雑談は省かれ、本題を促した。私もその方が助かると、司令の正面のソファへと腰掛けた。
「…前提として、私はイェレナやジークを、殺したいほど憎んでいる…とだけ、先にお伝えいたします。」
「ふむ…申してみよ。」
「…私は、エレンが私達の元を去ったあと、イェレナと話をしました。それは、ピクシス司令もご存知のはずですね?」
「あぁ。確か、何も話さなかったのであろう?」
一度、ぐ、と奥歯を噛んだ。私はあの時、ピクシス司令にイェレナが話した事を報告しなかった。いや、虚偽の報告をしたのだ。
「…あの時私は…本当は…イェレナから、ジークの思惑を聞き出していました。」
「なんと…!」
「申し訳ありません。私が私情を絡め、何も話さなかったと…虚偽の報告をしました。」
「…それを、なぜ今になって…。」
「…隠し続ける理由が、なくなったからです。私は…エルヴィンが何のために殺されたのか、その命に見合うだけの大義があったのか、知りたかった。でも、そんなものはなかった。少なくとも、私からしてみたら。今作戦は成功したと報じられていますが、とてもじゃないけど喜べない。むしろ…最悪な気分です。なぜエルヴィンは、死ななきゃならなかったんでしょうか?」
話は結局、そこに戻る。私にはどうしたって、エルヴィンが必要なのだ。4年経った、今でも。
「ジークを捕らえたら、殺すつもりでした。でも、できなかった。奴を前にしたら、エルヴィンの事が頭を過ぎって…どうしても殺せなかった。殺してしまったら、いよいよエルヴィンが死んだ意味が無くなってしまう気がして…。」
「…随分とお主は、生きづらそうじゃの…。エルヴィンの事を忘れてしまった方が、よっぽど楽に見える。」
「そんなの、無理ですよ…。ルーカスだっているんですから。最近ますますエルヴィンに似てきたんです。…それに例えルーカスがいなくとも、彼を忘れるくらいなら死んだ方がマシです。」
「…そうか。…して、そのジークの思惑とやらは一体?」
私とリヴァイの間に留めていた秘密を、洗いざらい全て話した。そうして話し終えた頃には胸が少し軽くなっていて、もっと早く話していればよかったと後悔した。
「これが、私が聞いた全てです。」
「そうか…。…お主はこれから、やる事があるじゃろう?もう戻って良いぞ。」
「え…?あの、隠匿罪で地下牢行きでは…?」
「夫の命を奪った奴の目的が取るに足らなかった事に深く絶望し、茫然自失。気づいたら時が経っておった…という筋書きじゃ。」
「…ピクシス司令…。…夫じゃなく、恋人です。」
「おぉ、そうじゃったか!すまんすまん。」
「ありがとう、ございます…。」
「この話を事前に聞いておったとしても、エレンが居なくなったあとでは変わらんじゃろうて。戻ってきた今、話してくれた事に感謝する。」
「そんな…隠していた事には変わりません。」
「…ところで、リヴァイとの結婚はいつじゃ?」
「って…、いつまでそのネタを言い続けるおつもりですか?」
「ほっほっほ!お主が結婚するまでじゃ。」
感動的なシーンかと思っていたのに、最後はやはりこのネタを入れてくるのか…。でも、これはきっと罪悪感に苛まれている私に対する優しさなのだろう。
「それなら…その時が来たらいずれは…とだけお答えいたします。」
「!?なんと…!!」
「では、リヴァイが待っていると思いますので、失礼します。」
今日一の反応を見せたピクシス司令に深々と頭を下げ、駐屯兵団本部を後にした。なんだかんだ、ピクシス司令も私に甘い。