851年~
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「…お久しぶりです、ユニさん。そろそろ来てくださる頃だと思っていました。」
顔を合わせるなり、イェレナはそう言いながら嬉しそうに顔を綻ばせた。そうして一歩こちらに踏み出したのをリヴァイが制し、椅子へと座らせた。なぜ彼女は私に会うたびにここまで喜ぶのだろうか。私としてはその真意が分からないので、警戒せざるを得ないのだが。
「私が来るのが分かっていたみたいだけど、あなたはいま何が起こっているのか、分かってるって事?」
「さぁ…何かあったんですか?」
「私達がマーレに敵情視察に向かったのは、知ってるよね?そこでエレンが、失踪したの。私は、あなたがその経緯を知っているんじゃないかと思ってる。イェレナ、私達の預かり知らぬところで、エレンとの接触はなかった?」
もう、隠す気もない。隠せばのらりくらりと躱されて面倒だと思ったから。イェレナみたいなのには、ストレートに聞くのが精神衛生上にも、一番手っ取り早い。
「…えぇ、しました。尤も、こちからではなくエレンの方からですが。」
「エレンの方から…。そこでどんな話をしたのか、教えてくれる?」
イェレナはジッと私の目を見つめ、そしてチラリとリヴァイを見た。まさかリヴァイがいれば話さない、という事だろうかと僅かに眉間に皺が寄ったが、そのまさか。「ユニさんにだけなら、お話します」と。
「ふざけるな。それを俺が許すと思うか?」
「許さないでしょうね。でも、あなたはユニさんの言葉には逆らえないのでは?ユニさんがそうしろと言えば、そうするはずです。」
驚いた。私の事だけでなく、リヴァイの事をそこまで理解しているなんて思わなかった。他視点からしてみればリヴァイはただの私に過保護な人で、私に危険が迫れば言う事も聞かずに暴れるだろうと思うはず。それが何があっても私の指示は聞くと正しく理解しているなんて、イェレナはやはり、只者じゃない。
「…私に話した事は全て、リヴァイやハンジさんに共有されるけど…。」
「構いません。私はあなたと二人でお話がしたいだけなのです。何も秘密のやりとりをする気はないですよ。」
「…ドアの前で、私が呼べばすぐに飛び出せるところに待機させる…という条件ならば。」
「ユニ!」
こうなれば、呑むしかない。そうしないとイェレナは、本当に何も話してはくれないだろう。私達は一刻も早くエレンが去ってしまったわけを知りたい。そうしなければ、また次の対応が遅れてしまうかもしれないからだ。
「安心してください。ユニさんに暴力を振るったりはしませんから。」
「…リヴァイ、私は大丈夫だから。」
「…チッ…クソが…。おい、ユニに指一本でも触れてみろ。ただじゃ置かねぇからな。」
リヴァイとしては、面白くないだろう。その気持ちは、痛いほど分かる。私もかつて、そうだったから。
「…さぁ、本題を話してもらいましょうか。あなたはエレンと、何を話したの?」
「…それはもちろん、ジークの目論見です。」
「そう。…あなたの信仰する、そのジーク・イェーガーの目論見は、私にも教えてくれるかしら?」
「えぇ、いいですよ。ユニさんにも賛同を得られれば、私も嬉しい事この上ないですから。」
ジークの目論見。それはエレンとジークを引き合わせ、ゆくゆくはエルディア人を絶滅させる事。突拍子もない話だが、王家の血を引くジークの能力を行使すれば世界の理をも変える事が可能なのだという。その能力を行使し今後一切エルディア人から子供が産まれないようにすれば、エルディア人は緩やかに絶滅の一途を辿る。彼らはそれを、エルディア人安楽死計画、と称していた。
「安楽死…といえば聞こえは良いけど、結局地鳴らしも行使するのよね?」
「はい。地鳴らしを発動しなければ、いつマーレが攻めてくるか分かりませんからね。」
「…エレンは…それを受け入れたと…?」
「はい。…これを聞いてユニさんは、どう思われましたか?」
「……分からない。どうすれば良いのか…何が最善なのか…教えて欲しいよ…。」
私はまだ、エルヴィンを求めてしまう。一人では、何も決められない。どうしていいか、分からない。エルヴィンがいてくれたら…私は自信を持って、行動できるのに。
「良いですね…。ユニさんが神に縋るところを見られて、嬉しいです。本当にあなたは人間らしくて、かわいらしい。」
「っ!」
ガシ、と両手を包まれて、キラキラした瞳に覗き込まれる。今の話とは関係なく私だけを見つめるその瞳に、恐ろしさを覚えた。
「っ、リヴァイ!」
バァン!ドッ─!
扉を壊す勢いで部屋に飛び込んできたリヴァイに、イェレナは瞬く間に拘束された。それでもなお笑顔でこちらを見つめてくるので、ますますイェレナという人間が分からなくて、怖くなった。
「テメェ…!」
「リヴァイ、帰ろう。」
「あ!?」
「大丈夫だから、帰ろう。」
このままでは、リヴァイがイェレナの腕や足を折りかねない。何より、リヴァイと二人になりたかった。
「…分かった、そうしよう。イェレナ。テメェはしばらく、外出禁止だ。」
「仕方ありませんね。ユニさんに触れてしまったのですから。自分を抑えられず…すみません。」
そう言って両手を上げるイェレナは、反省しているようには全く見えない。が、もうそれはそれで良い。
やはりイェレナと会うと、最悪の気分になる。そうなる事が分かっていたからここへ来る前にルーカスに会って事前に癒されてきたというのに、これではプラスマイナスゼロどころか、マイナスだ。
家に帰るまでの間余計な事を言わぬようにと口を閉ざしていたが、それがかえってリヴァイを不安にさせてしまったらしい。家に着いてすぐイェレナに触れられた手を念入りに洗われたあとはぎゅ、と強く抱きしめられ、背中を優しく摩られた。まるで子供を慰めるかのように。しかしそれは効果覿面で、あっという間に沈んだ気持ちは浮上してきた。リヴァイがいてくれて良かったと、心から思う。
「無茶しやがって…。」
「…ただ、話をしただけだよ?」
「だが、最終的に俺を呼んだだろうが。」
「リヴァイがいたから、なんともないの。ただ……そんな事のために、エルヴィンは殺されたのかと思うと、やるせなかっただけ…。」
「…そのクソみてぇな話は、いま話せそうか?」
「その前に…たくさん、甘やかして欲しい…。」
「あぁ、承知した。」
このままでは話せないし、とてもじゃないがルーカスにも会えない。リヴァイの首に腕を回すと子供を抱き上げるようにいとも簡単に持ち上げられて、やがてソファへと降ろされた。そうしてブランケットでぐるぐる巻きにされて蹲っている間に紅茶が淹れられ、静かにテーブルに差し出された。
「…リヴァイ、紅茶を淹れるの、上手になったね。」
「あぁ…もう何年もお前に淹れてるからな。上手くならなきゃ困る。」
モゾモゾと上体を起こして隣に座ったリヴァイの膝の上に収まる。リヴァイは何も言わずそれを受け入れ、むしろ落っこちないように優しく抱きしめてくれた。
「私を甘やかすのも上手だね…。」
「馬鹿言え。お前が甘え上手なだけだ。」
リヴァイに身を委ねていたら気持ちはみるみる落ち着いて、軽い眠気までやってくる始末。やりすぎた。
「…ジークの思惑だけど……、…王家の血を引くジークと、始祖の巨人の力を持つエレンがいれば、地鳴らしの発動ができるって、言ってたじゃない?」
「そうだな…。エレンも、それは可能だと。」
「なんでもその条件が揃えば、なんでも出来るみたいなの。例えば、世界の理をも変えるような事でも。」
「…それで、奴は何を考えてるんだ?」
「……今後一切、エルディア人からは子供が産まれないようにすると…。いずれ滅んでいく我々を守るためには、地鳴らしが必要不可欠だと。…彼らはそれを、安楽死計画、と呼んでいるみたい。」
「……。」
リヴァイはとうとう、口を噤んだ。私も、言葉は続かなかった。その安楽死計画が良いか悪いか、そんなものは今はどうでもいい。
「そんなもののために、エルヴィンは死ななきゃいけなかったの…?…安楽死というなら、なぜ…。……私は、エルヴィンが生きてさえいてくれれば……。」
何が、安楽死計画だ。そのためにたくさんの人を殺しておいて、最後には安楽死?安らかに死ねる?笑わせるな。そんなの、納得できるはずがない。
「それなら、巨人の存在をこの世から無くしてしまう方が、ずっと良い…。」
そもそもの始まりは、この世に巨人の力が生まれてしまった事にある。こんなものがあるから、人々は争い続ける。
「王政やハンジさんがどのような決断をするかは分からないけど…必ず、ジークを仕留めよう、リヴァイ。」
「あぁ、もちろんだ。」
近々、何かが起こるはずだ。そうなれば、また誰かが命を落とす事は避けられない。
平和な日常は、今日で一旦お終いにしなければ。