851年~
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「ごめんなさい…エレンの異変に気づいていながら、阻止する事ができなかった。」
予兆は、僅かながらあった。それは本当に微々たるものではあったが、私はいち早くそれに気づいた。その上でどう説得すればいいか迷い、あとでまた話を聞こうと問題を先延ばしにした。平和な日常を過ごしていた結果が、これである。
「エレンはミカサに、自身がミカサにとってどういう存在なのか聞いたと言っていたけど、なんて答えたの?」
「……家族、だと…。」
「それが、アイツの望む答えじゃなかったってのか?」
「いや…。エレンは、ミカサに確認したい事があったと言っていたから、ミカサの返答はただのきっかけにすぎないんだと思う。エレンの中ではきっと、ジークの元へ行く事はほぼ決まっていたんだと思うよ。」
エレンはただ、最後のひと押しが欲しかっただけだ。ミカサが何と答えたとしても、エレンは私達から離れていっただろう。
「はぁ…。…私は帰るよ、パラディ島へ。」
「…帰ってどうする。」
「イェレナに会うよ。今さら遅いかもしれないけど、あの時から今まで、彼女は裏でエレンと接触していたはず。そこで何を話したか、聞き出さなきゃ。」
「……なら、俺も行く。異論ねぇな?ハンジ。」
「あぁ、頼むよ。」
ここからしばらくの間、ハンジさんとは別行動だ。そうと決まればここにいる意味はないと、速やかに帰国の準備をし、数日間滞在させて貰ったキヨミ様に頭を下げた。
「このような事になってしまって…何と申し上げれば良いか…。」
「お気になさらないでください。キヨミ様にも立場というものがありますし。…後手に回るのも、もう慣れました。ミカサの事、よろしくお願いしますね。」
こうなってしまったからには、どうにかするしかあるまい。そういう事は我々調査兵団にとって、もう慣れた事である。悲しい事に。
エレンがいなくなってしまった事に責任を感じているミカサの事も気がかりではあるが、彼女にはアルミンがついているしミカサを気にしてくれるアズマビト家の人達もいる。彼らは事ミカサにおいては、何よりも信頼できる。
最後に深々と頭を下げて、大きなお屋敷を後にした。まずは船でパラディ島に帰って、ヒストリアに急ぎエレンの失踪を知らせねばならない。その後に、イェレナだ。
「…こんな時エルヴィンがいれば…と考えてるな?」
「!…バレた?」
「まぁな。」
「あはは。…こういう時エルヴィンならどうするか、いつも考えるんだけど…私の頭じゃ、何も思い浮かばないんだよね…。」
「当たり前だ。お前はエルヴィンじゃねぇんだからな。」
「……そうだね。」
船の甲板の手摺に凭れて目を閉じると、久しぶりにエルヴィンに抱きしめられたくなった。エルヴィンはエレンが奪われるたび、犠牲を払いながらも毎回取り返してきた。それもこれも、エルヴィンがいたからできた事だ。
(エルヴィン。私達はこれから、どうしたらいいでしょうか?私は……何をすればいいでしょうか?)
答えは、返ってはこない。もう何年も、ずっとそうだ。だから残った者達で、考えて動くしかない。
「ユニ。」
「…リヴァイ。」
パチ、と目を開くと、えらく真剣な表情のリヴァイが私を覗き込んでいた。エルヴィンの事を思い出し俯いた私を、心配してくれているのだ。
「俺はエルヴィンのようによく回る頭があるわけじゃねぇが…一緒に考えたり、肩を並べて戦ったり、そういうのはできる。俺はお前を、絶対に一人にはさせねぇ。」
「…ふふ…頼もしいね。他でもないリヴァイが言うんだから…何よりも信用できる。私、もうリヴァイがいないと生きていけないかも…。」
「そうか。なら、お前を生かすためには俺も死ねねぇってわけだ。」
「うん、そうだよ。」
「承知した。これからはそれを胸に刻んで生きよう。」
リヴァイがいなければ生きていけないというのは言葉の綾ではあったが、珍しくリヴァイが乗ってきてくれたので訂正する事はしなかった。優しく包まれた彼の腕に、身を委ねた。
「何と…エレンが…。」
「申し訳ありません。まさかエレンがそのような行動に出るとは…。現在もハンジ団長がマーレに残り、104期生と共に行方を捜索中ですが…、…エレンは、ジークの元へ向かった可能性が高いかと思われます。」
「そんな…。」
緊急で執り行われた王政会議は、一気に重々しい空気に包まれた。エルヴィンが兵士達の命を賭けて守ってきたエレンが、我々の敵だと認識していたジークの手に渡ってしまった。その事実が、この場にいる全員にのしかかる。なぜこのような事になったのか、誰にも理解が及ばなかった。私にも、ミカサやアルミンにも、誰にも。調査兵団に来た頃のエレンは、純粋で真っ直ぐで感情的で、分かりやすかった。しかしここ数年のエレンは、人が変わったかのようだった。私達の見ているものとエレンの見ているものが全く違うような、そんな──
「…あの礼拝堂の地下で…エレンとヒストリアが触れ合った時、過去の記憶が蘇ったんだったよね?…エレンが変わったのは確か、勲章を頂いた時だった…。」
あの時の事は、よく覚えている。あの時を境に、目に見えて変わってしまったから。
「あの時エレンは、何か新しく記憶を思い出したんじゃ…。」
「…今となっては、確かめようがねぇな。」
可能性は、大いにある。そのせいで深く絶望を感じてしまったのだとしたら、人格すら変わってしまう事だって、ありえてしまうだろう。
リヴァイの言う通り、こうなってしまったあとでは、確かめようがないが。エルヴィンであればその可能性にもっと早く気づいて、私にそれを探るよう仕向けていた事だろう。
「これからどうするつもりじゃ?」
「…ひとまずは、イェレナに事情聴取をします。ジークとエレンの間に入れるのは今のところ彼女だけですから。私達の知らぬところで接触があったとしても、おかしくはないでしょう。」
「お主の見立てでは、奴は口を割りそうか?」
「……どうでしょう?のらりくらりと躱す気もしますが…案外すんなりと全てを話すような気もします。私と彼女は性質が似ているようで全く似てないので、その辺りの見極めはリヴァイに任せようかと。」
「そうか…奴は底知れぬ想いをその胸に秘めた奴じゃ。くれぐれも用心するんじゃぞ。」
「そうですね、承知しました。行こう、リヴァイ。」
王宮を出て向かうは、ルーカスのいる家。トロスト区から海のあるあの街まで鉄道が開通した事で、馬で移動するよりも遥かに速く目的地に行く事が叶う。慣れない乗り物の揺れに揺られながら、リヴァイと肩を並べ、少しでも旅の疲れを取ろうと、目を閉じた。