851年~
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「エレンはどこ?」
アズマビト様のお屋敷に着いたのは夜になってからで、慣れない船旅、それと昼間走り回ったせいでみなクタクタになり、人様のお屋敷だというのにかなり寛いでいた。そんな中、マーレのエルディア人に対する想いや思想、今後の作戦遂行にあたっての最終確認事項などを話し合っている最中、ミカサの口から飛び出したのは上記のセリフ。リヴァイが常に私の行方を探しているように、ミカサも数分エレンを視界に入れていないから心配して言ったのだと思っていた。しかし、状況はどうやらもっと深刻らしい。話し合いが始まった時は、確かに部屋の中にいたはず。だからつまりは、エレンが自分の足で屋敷を出、姿を晦ました…という事だ。
「二手に分かれて、手分けして探すぞ。何としてでも見つけ出せ。」
リヴァイはそう言うが、何せここは初めての地。そして立体機動装置もない。この状況でエレンを見つけだす事なんてできるのだろうか。
「…もしかしたらエレンは…ジークの元に行ったのかもね…。だから探さない、なんて事はしないけど…。」
「…あぁ。とにかく今は全力で探す事だ。万が一見つからなかったら…それはその時に考えよう。」
そうしてリヴァイとハンジさん、オニャンコポンと共に手当り次第探し回って1時間を超えた頃、ようやく見つけた。エレンを含む104期生の面々が、酔い潰れて眠っているところを。
「えぇ…。こんなに探し回ったのに…どういう状況…?」
「よく分かりませんが…エレンもいるみたいだし、良かった…。」
「チッ…世話が焼ける奴らだな…。」
よく見ると昼間リヴァイが助けた少年も一緒に転がっている。ますますわけが分からないが、エレンがいたのなら何でもいい。
「…で、どうする?このまま置いて帰るわけにもいかないし…。」
「……この子らが起きるまで、ここで待たせてもらおうか。なんなら疲れたから、横になろう。今さら私達が増えたところで、彼らも気にしないだろう。」
「…正気か?」
リヴァイとしては、こんなところで眠るなんて考えられないだろう。野営の時だって、私が言わなければ絶対に横にはならないのだ。
「…いいよ。リヴァイは私の膝で寝ればいい。」
「却下だ。俺は座って仮眠が取れればいい。お前は横になって寝ろ。」
「じゃあ、私も座って寝るよ。お互い支え合って寝れば、負担も半分でしょ?それで決まり。」
「…あぁ、承知した。」
「決まったなら、もう寝るよ。オニャンコポンは戻って、エレンが見つかったとアズマビト様に報告してくれ。朝方になったら、迎えに来てくれるかい?」
幸い、アズマビト様の屋敷とここはそんなに離れてはいない。オニャンコポンを見送って壁の端の方に座るとハンジさんは既に眼鏡も眼帯も外して横になっていて、もう半分微睡みの中に身を沈めているところだった。調査兵団はよく野営を強いられるし、壁外調査がない時でも定期的に野営訓練が行われ、どのような環境でも眠れるようになっている。慣れていると、こういう時に役立つ。
「おやすみ、リヴァイ。」
「あぁ。おやすみ、ユニ。」
リヴァイと肩を寄せあって、目を閉じる。そうしてしばらくじっとしていると不意にバランスを崩しかけたが、その体はリヴァイの腕がしっかりと支えてくれて、事なきを得た。そしてそっと手が握られた気がしたところで、眠りへと落ちた。
次に目を開けたらもう明るくて、思いのほか長い時間睡眠を摂ったな…と視線を巡らせ、はたと気づく。
私の視界には今、天井とリヴァイが映っている。彼は目を閉じて腕を組み、バランスを取りながら眠っている。対する私は、リヴァイと肩を寄せあい三角座りで眠っていたはずだというのに体は床に転がされ、頭はリヴァイの膝の上。見事に体勢が変わっているではないか。
「…、…起きたか、ユニ。」
「ん…起きた…。私、なんで横になってるの…?」
「俺がそうした。お前があまりにも前後に転がるから、あのままだと仮眠すら取れねぇと思ってな…。」
「ご、ごめん…。」
「気にするな。元々俺はこうするつもりだった。」
「ん〜…不甲斐なし…!」
よく見たらリヴァイのジャケットも掛けられているし、どうやら私だけはしっかりと眠ってしまったらしい。
「リヴァイも少し、横になる…?今度は私が膝枕するよ。」
「いや…大丈夫だ。少しは眠れたしな。」
「じゃあ……もう少しこのままでいてもいい?」
「フ…、あぁ、好きにしろ。」
組んでいた腕が解かれ、その手で私の頬を撫で、私の手を包んだ。104期生が眠っている今はまだ、私を甘やかしてくれるらしい。
もう一度ウトウトと微睡みに身を任せてしばらくすると、やがて彼らは一人、また一人と動き始めた。その衣擦れの音や唸り声を聞いていたらさすがに目が覚めて、今度こそ体を起こした。
「…ん…、…おはよう、ユニ…。君は寝起きでもかわいいな…。」
「…おはようございます。それは分かってますから、早く起きてください。またエレンがいなくなったら、私はもうキヨミ様のお屋敷に帰りますからね。」
「はは…それは困るな…。よいしょっと。お、いるいる。全く…君がいなくなって、私達がどれだけ探したと…。」
「おはよう、エレン。」
「…おはよう…ございます…。…う…。」
「うわっ、酒くさっ…!」
「おい…ユニから離れろ、エレン。」
「うぅ…頭が…。」
ずいぶんたくさんのお酒を飲んだのだろう104期生達は、個人差はあれどみな一様に顔を青くさせ、頭を抑えたり口に手を当てたり。完全に二日酔いである。
「ほら、みんな帰るよ。キヨミ様にご迷惑をかけてるんだからね。」
「オニャンコポンがそろそろ、車で迎えに来てくれるはずだ。あぁほら、噂をすれば。」
遠くから聞こえてきたそれは紛れもなく昨日聞いた車の音。テントのような住居から這い出でると、ちょうどオニャンコポンがその車から降りてくるところであった。
「おはようございます、ユニさん。」
「おはよう。ごめんね、うちの若いのが迷惑かけて…。ちゃんと言って聞かせるから。リヴァイが。」
「了解だ。おいお前ら、そこに正座で並べ。今すぐにだ。」
「反省の色が見られた人から帰れるからね〜。」
朝起きて、それも二日酔いでリヴァイからの説教なんて、体に堪えるだろう。でも反省してもらわなくては困る。特にこの大捜索の元凶である、エレンには。
「ミカサに見つかったあと…俺がみんなを誘いました。すみません。」
「!…リヴァイ、エレンには私から話すから、他の子らをお願い。」
「あ?……承知した。」
ふと、エレンに対して違和感を感じリヴァイからエレンだけを受け取った。何に違和感を感じたのか、いつもと違うところがあるだろうかと考えたが、残念ながら彼と付き合いの浅い私には分からなかった。だけどなぜだかとても気になって、そして同時に、不安感に襲われた。それは怖さにも似ていたが、エレンが怖いかと考えると、そんな事はない。だけどただ漠然と、怖いもののように感じたのだ。
「…エレン…どうして、勝手にここに?」
「親父の記憶で、ここに来た事があって…確かめたくて。」
「そう…。じゃあ、どうしてみんなを誘ったの?エレンはいなくなっちゃうし、みんなも帰ってこないし…心配したんだよ。」
「ミカサに、確認したい事があったんです。それに、みんなと酒を飲んでみたかったから。」
「確認したい事…?」
「…ミカサにとっての俺は、どういう存在なのかと。」
「……みんなと飲んだお酒は、美味しかった?」
「…はい。それに、楽しかった…。」
エレンに感じた恐ろしさの正体が、分かった。最近はいつも、どこかボーッとしていてまるで過去の私のようだった。しかし今のエレンは、とても穏やかな表情を浮かべている。穏やかな表情なのは喜ばしい事のはずなのに、それが迷いを捨てて何かを決断したかのような表情に思えて、嫌な予感を感じたからだ。
「…エレン、帰ろう。アズマビト様のお屋敷に。」
「…はい。」
思わずぎゅっと握った手は、優しく握り返された。歩き出すと着いてきてくれて、胸の中にあった嫌な予感は気のせいだったのだとホッと胸を撫で下ろしたというのに、やはりこの時感じた嫌な予感は的中していたらしい。
この日、エレンは私達の元を去った。
マーレ人の集まる集会所へ行きパラディ島の悪魔に関する演説を聞いている最中、またしても彼は抜け出した。しかし今度はどれだけ探しても見つける事ができず、また、自らの足で帰ってくる事もなかった。
ただ一通の手紙を寄越し、そこには"ジークに全てを委ねる─"とだけ記されており、エレンは自分からジークの元へと向かったのだと察するには、十分であった。