851年~
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「ユニさん。おはようございます。」
「イェレナ、おはよう。みんなもおはよう。こんなに狭いところに押し込んじゃって、ごめんね。もう少しすれば、状況も変わるだろうから…。」
「捕虜の私達にそんな言葉をかけてくださるなんて、ユニさんはとても慈悲深い方なのですね。」
「…本当は、こんな事したくはないからね。人同士の争いなんて…無駄じゃない。」
「…そうですね。全くです。」
捕虜のいるテントへ入ると、真っ先に声をかけてきたのはイェレナであった。一見気さくに話しかけているようだが、その表情や声色は全く読めず、やはり恐ろしい印象を受ける。私は隙のない笑顔を浮かべて本心を隠すタイプだから、彼女とは真逆。イェレナは本心を隠そうとして隠しているというのが、ありありと伝わってくる。
「これから我々は壁の中へ行って王政会議へ参加するんだけど…くれぐれも、大人しくしててね。少しでも変な事をすれば、どうしても報告しなきゃいけなくなっちゃうから…。そうなれば、あなた達の待遇も今よりも劣悪なものに──」
「えぇ、心得ていますよ。心配なさらずとも、問題を起こせばジークさんの計画のご迷惑になってしまいますので、そのような事は絶対にありえません。」
ジッと、イェレナの黒い瞳を見つめる。彼女は、ジークをひたすらに信じていると聞いた。それこそ、私みたいに。だから私自身に置き換えて考えてみると、彼女の今の言葉が嘘ではないと分かる。彼女は、ジークの障害となりえる事は、絶対にしないだろうと。
「…それもそうか。私の杞憂だったね。」
「!…失礼ですが、もしかしてあなたにも、何よりも信じられる…神のような存在の方がいらっしゃいますか?」
「!」
イェレナには、私とエルヴィンの話なんてしていない。だというのに彼女の質問は確信めいていて、思わず目を見張った。彼女も私に、なにかを感じたのかもしれない。
「……うん、いるよ。」
「やっぱり…!その方は今、どちらに?ぜひ一度、お会いしたいです。もしかして昨日会った方々の中に──」
「…もう、いないよ。あなたの信じるジーク・イェーガーに、殺されたの。」
穏やかなまま話そうとはしたが、憎しみの念が隠しきれず、声色に漏れ出てしまった。しかしこれはいずれ彼女達も知る事になる、事実だ。今私がバラしたところで、何も変わりはしない。それに私がいま言わなくとも、いずれリヴァイが言うだろう。
「…そうですか…。…それは、申し訳ない事を…。」
「…あなたが謝る事じゃない。謝られたってもう帰ってくる事はないのだし、そもそも私が憎んでいるのはあなたじゃなくて、ジーク・イェーガーの方なんだから。」
「……そうですね。」
空気が、ピリ、と鋭いものに変わる。中にいた捕虜達もその空気を感じとり、一言も声を発さず姿勢を正した。そうしてしばし睨み合ったのち、その空気を壊すように入ってきたのは、ハンジさんの明るい声だった。
「おはよーみんな!お、ユニじゃないか!昨日はリヴァイのテントで寝たんだって?」
「…はぁ…。おはようございます、ハンジさん。確かに事実ではありますが、要らぬ誤解を生む可能性があるので、あまり大きな声で言わないで頂けますか?」
「あぁ、ごめんごめん。」
「それで、そろそろ出発ですか?まだ朝食を摂れていないので、できれば食べてから出発したいんですが…。」
「あぁ、いいよ。君の準備が済んだら出発しようか。」
「良かった。リヴァイはもう起きてますか?」
「起きてるけど、君が来るのを待っているみたいだよ。」
「えっ、早く言ってくださいよ!」
ハンジさんはすごい。本人はきっと自覚していないのだろうが、先ほどまでのピリピリとした空気は既に消え失せ、むしろ柔らかくなっている。人の緊張を解すのが、本当に上手だ。
「じゃあ、またあとでね、イェレナ。」
「えぇ。ぜひまたお話しましょう。」
先ほどまでの空気が嘘のようにお互い手を振って、笑顔で別れた。終始あの空間にいた者はきっと、混乱した事だろう。
「ユニ…いつの間にイェレナと打ち解けたのさ。」
「…打ち解けるわけないでしょう。ただ、私達はお互いをよく理解できるってだけです。」
「へぇ…。よく分からないけど、彼女の対応は任せてもいいかい?」
「嫌です。」
彼女とはきっと顔を合わせる度、ああいう雰囲気になるだろう。これが俗に言う、同族嫌悪というやつか。
「!…美味しい…。リヴァイ、これ、食べてみて。」
あれから、数日。会議の結果、やはり現状はジークの提示した条件を飲むしかないという事になり、捕虜達の待遇はいくらか緩和される事となった。そして今、その捕虜の内の料理人がマーレの料理を振舞ってくれているところである。彼らはパラディ島の料理を散々「不味い!」と言っていたが、マーレの料理を食べたらそれはそれは美味しくて、これならあの文句が出るのも仕方がないと納得せざるを得なかった。
「マーレでは、こういう料理が家庭でも普通に出てくるの?いいなぁ。」
「おい。いい歳した大人が、口の周りにつけてんじゃねぇ。」
「えっ嘘!どこ?」
「そこじゃねぇ。こっちだ。」
あぁ…いい歳した大人がいい歳した大人に口を拭われるなんて…。その上それを最近会ったばかりの人達に見られるなんて…。威厳なんて、あったもんじゃない。
「…パラディ島の奴らは、可哀想だな。いや、逆に羨ましいな。この程度の飯で、そんなに喜べるなんて。」
「…ふふ、そうかも。ねぇ、この料理に使ってるエビ?ってやつは、簡単に捕れるの?これをパラディ島に流通させるには、どうしたらいいかな?」
「そ…、そういうのは、俺に聞かれても困る。けどまぁ…ちょっと海に入っただけでこんなに捕れたんだ。比較的たくさんいるんだろう。」
「そっか、ありがとう!ヒストリアにも食べさせてあげたいな。あとはリーブス商会も呼んで…、…リヴァイ、これも美味しいよ。」
「…食うか喋るか、どっちかにしろ。」
「ん…、じゃあ食べる。」
「お前…、…変な奴だな。」
こんなに美味しいご飯を毎日食べたら、たくさん食べたくなってさすがに太ってしまいそうだ。でもそれでも、美味しいものを前にしたらそんなのどうでも良くなってしまう。
「ん〜、エルヴィンにも食べさせてあげたい!」
「エルヴィンか…。アイツは自分で食うより、お前が美味そうに食ってるのを見てる方が幸せだろうよ。」
「そう?…そっかぁ。じゃあ、どっちも幸せだから問題ないね。」
「そういう事だ。」
なんだか、事態が少しだけ、いい方に向かっている気がする。こういう時こそ油断は禁物だが、美味しいものの魔力は恐ろしい。今だけはイェレナやジークの真の思惑の事なんて頭の隅に追いやって、ただ目の前の料理に舌鼓を打った。