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世界は崩壊すれども時は巡り、秋もそろそろ過ぎ行きて、冬に差し掛かろうかと言う頃に───
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ガレキの塔・勝手口にて
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通常は屋上のみに門戸を開く筈のガレキの塔。しかし此処に、秘密裏に作られた裏戸口。其の扉を、先刻からしきりに叩く者が居る
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帝国兵
ケフカ様ー、ケフカ様ー
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ケフカ
ハイハイ、何よ
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帝国兵
ははあー(平伏)、本日もご機嫌麗しゅう
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ケフカ
お前の所為で麗しくも無くなったけど
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帝国兵
そう仰らずに。自分、ずっとキ印ブラック上司とばかり思ってた貴方様の偉大さにこの頃やっと気付きまして、ケフカ教に入信したんですよ!
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ケフカ
知らんわカス以下の一兵卒が
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帝国兵
そんなぁ…こうして貢ぎ物係として再び拝謁叶う様にもなったんですから、もっと喜びを噛み締めさせて下さいよー
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ケフカ
はい。んじゃ、御褒美ね
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元帝国兵に、カッパーを掛けてやるケフカ
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帝国兵
わあい、ケフカ様にカッパにして貰っちゃった!もう一生イエローチェリー食べないんだー!
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大喜びで帰って行く信者
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ケフカ
…さて、今回の貢ぎ物は何かしらん
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ケフカが軽く指を鳴らすと、山と積み上げられた木箱の蓋の一つが外れ、空中で四散する
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ケフカ
あ、リンゴだ。今の時期、美味しいよねぇ
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魔神
…………
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ケフカ
え?魔神、今日のオヤツ、焼きリンゴにしてくれるの?
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ガレキの塔・キッチンにて
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魔神
…………
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つやつやと紅いリンゴの芯を、ナイフで器用にくり抜いて行く魔神
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ケフカ
ぼくちん暇だから、側で見てようっと
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魔神
…………
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魔神は次に、ボウルの中のバターに干し葡萄と砂糖を加え、良く混ぜて行く
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ケフカ
へえ、其れをさっきのリンゴに詰めるんだ。美味しそ!
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魔神
…………
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リンゴの中央へ先のレーズンバターを詰めた上にシナモンスティックを刺し、更に溶かしバターとレモン汁を掛け回すと、
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其れを予熱したオーブンへ入れ、何時もの様に思念で語り掛けて来る魔神
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ケフカ
えー、この後焼き上がるのに40分も掛かるの?ヘイストしたら駄目?
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魔神
…………
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ケフカ
何?このままにしとけば、三時には丁度焼きたてが食べられるって?ハイハイ…
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キッチンに隣接するダイニングの一角にて、ケフカが手慰みにピアノなど弾いて待っていると、やがてオーブンより漂い来る、リンゴ、レーズンバター、シナモンの焼けるほっこりと甘い匂い
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ケフカ
この香しさ、しゅごい…楽しみ!
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セフィロス
良い香りがするな、ケフカ
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ケフカ
セフィ坊ってば相変わらずの唐突振り!しかしまぁ良い所へ
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ケフカ
もう直ぐリンゴが焼けるから、お前も食べて行きんさい
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セフィロス
…リンゴ…
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ケフカ
そう。もしやお嫌い?
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セフィロス
…いや
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ケフカ
んじゃ、其れが焼き上がる迄に一曲…『片翼の天使』でも
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セフィロス
フフ、聞かせて貰おうか
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ケフカ
お前も合わせて歌ってね
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セフィロス
何?!
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片翼の天使を、流れる様な指の運びで冒頭から弾き始めるケフカ
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セフィロス
(流石、見事な腕前だが、しかし…歌うとは…)
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セフィロス
…コホン(咳払い
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セフィロス
♪…エストゥアンスインテリウスイラウェーヘメンティ…
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ケフカ
お上手!
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セフィロス
(照)
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魔神
…………
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ケフカ
あ、魔神。もう出来るって?
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ピアノ演奏を、急に切り上げるケフカ
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セフィロス
♪セフィロ……!
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セフィロス
……コホン
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ケフカ
では私も、お茶の支度をしましょかね
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ケフカ
今回は焼きリンゴだから…ダージリンのセカンドフラッシュで
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温めておいたティーセットをテーブル上に並べるケフカの隣席に、腰を掛けるセフィロス
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セフィロス
菓子により、茶も決まって来るのか?
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ケフカ
そりゃ勿論。何にでも有るのですよ、相性ってものが
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セフィロス
ほう
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其処へ魔神がやって来て、出来立ての焼きリンゴを二人にサーブし終えると、自部屋へ帰って行く
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ケフカ
はぁ…素敵な香り。では頂きます、と
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ケフカ
うふ…何と素晴らしい味!
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セフィロス
…………
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ケフカ
どうしました?食が進まない様ですが
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セフィロス
……この果実を見ると、思い出す奴が居るんだ
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ケフカ
ふん?
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セフィロス
…親友だった。俺はあの時酷く取り乱し、苛立っていて……
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ケフカ
…まぁ取り乱す事はね、我々ラスボスに至る迄に長い過程を経るタイプにはね、有りますよね
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セフィロス
…ああ。ライフストリームの中で全てを知った今となっては、アイツのささやかな願い位は…聞き届けてやりたかったと思う
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ケフカ
願い?
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セフィロス
自らの親と共に…俺にリンゴを食わせたい、と言う……
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ケフカ
本当にささやかなものにしか聞こえませんが、其れを成就させる訳にも行かない経緯が、きっと貴方にはお有りなのでしょうね
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セフィロス
……………
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ケフカ
詮索はしませんよ…貴方が話したい所だけ、お話し下さい
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セフィロス
…ケフカ。お前は己がヒトでは無いと認識した時、どう考えた?
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ケフカ
どうもこうも、御覧の通り…私は何になろうと、私ですからねぇ
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ケフカ
魔導をどんどん取り込んで…遂には神になったからと言っても
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ケフカ
本来はもう必要としない、こうしたヒトとしての生活も、変わらず楽しめてますしね
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セフィロス
…………
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ケフカ
…と、言う事にさせて下さいよ、ふふふふ!
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セフィロス
…許せ。お前も本当は…俺の心のわだかまりなどに、付き合う余裕は無いだろうに
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ケフカ
いいえ、他でも無い貴方の事です。そちらの宜しい所迄、お付き合いさせて下さいな
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セフィロス
………俺は、あの時…
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セフィロス
…自分は、モンスターと同じ……技法で、造り出されたのだと…
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ケフカ
…其れがショックだったのですね…その後、虚偽に縋り付き…
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ケフカ
優越感とヒトへの侮蔑…引いては憎悪を増幅させる事で、心の均衡をようやく保つ事が叶う程に…
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セフィロス
…心など…其の時はもう、破綻していた……
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ケフカ
私もね、そうです。移植と言って良い程に魔導を強引に取り入れた、あの時に…
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セフィロス
…………
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ケフカ
我々の様な者は、もう全ての破壊を早めて差し上げるか己が滅ぶ迄、立ち止まったり、ましてや元に還るなど、願う事すら叶わない…
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セフィロス
……………
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ケフカ
けれど、其の様に葛藤される今の貴方のお姿は…とても、人間らしいですよ
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セフィロス
……ケフカ、
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セフィロス
…このリンゴ…手付かずでも、良いだろうか
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ケフカ
ええ。私が明日にでも温め直し、頂きますから
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セフィロス
…済まない……
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ケフカ
…………
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セフィロス
……っ…、………
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ケフカ
…今は只、泣きたいのですね。宜しいですよ…
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セフィロス
……う…、うっ……
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ケフカは隣席で涙を流すセフィロスの震える両肩を抱くと、穏やかに語り掛ける
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ケフカ
良いのですよ、此処では…泣いても、甘えても……
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セフィロス
…ううっ…、くっ……
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ケフカ
……寂しがっても……
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途端、ケフカの胸に縋り、慟哭するセフィロス
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セフィロス
あああ…、ああああ…!!
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ケフカ
…よしよし……
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セフィロス
ああぁ…、…あ…あ…!!
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セフィロスが子供の様に泣きじゃくる間、ずっと其の背を、優しい掌でさすり続けるケフカ
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セフィロス
……うぅ、…っく……
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ケフカはそっと身体を離すと、卓上のテーブルナプキンを取り、相手に勧める
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ケフカ
此れで宜しければ…
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セフィロス
……………
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セフィロスが其れで涙を拭い、呼吸が粗方整えられた所で、
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ケフカ
……お顔を上げて、下さいますか
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セフィロス
…未だ……酷い有様だ…
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ケフカ
大丈夫…どんな貴方でも、
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ケフカはセフィロスのおとがいを捉え、半ば強引に上向かせる
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ケフカ
…愛しいですから……
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泣き腫らしたセフィロスの頬を、新たな涙が一筋伝う
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セフィロス
…よせ…泣きやめない…
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ケフカ
…今迄、ずっと…我慢されていたのでしょう?
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ケフカ
…だから、涙も止まらずに…
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ケフカ
…セフィロス…貴方は、厄災で有る前に…
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近付き行くかんばせの、其の唇同士が触れ合う寸前
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ケフカ
…いまだ一人の…人間です
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セフィロス
…お前、も……
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セフィロスは自分からも腕を伸ばしケフカの頭部を引き寄せると、其の口腔を貪欲に蹂躙し始める
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ケフカ
…ンっ…、ふッ…
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セフィロス
………、ッは…
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ケフカの口中に生き物の様に舌先を這わせて、己のざら付いた感触を上顎に頬裏に刻み込み、溢れ出る唾液を大量に注ぎ込み飲ませ、
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更に相手の舌先を己の中へ誘い込むと、散々に絡ませ擦らせて、温かく滑らかな其れを唇で食み、強く吸い上げる事を延々と繰り返す
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セフィロス
…………………………
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ケフカ
…ン、ンっ……!
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ケフカに胸元を軽く叩かれてようやく我に帰り、唇を開放するセフィロス
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ケフカ
…っ、はあっ、はあ……
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ケフカ
…んもう、苦しいじょ…
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熱された息も荒く口端から派手に流れ落ちる唾液を手の甲で拭い、避難を孕んだ視線を向けて来るケフカ
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セフィロス
す、済まない…
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ケフカ
…フフッ…
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ケフカは相手の頬に手を添えると、慈しみを込めた軽いキスをして、
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セフィロス
…………
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ケフカ
其の記憶を保ったまま…お前は次の周回で、件のお友達と会うわけでしょ?
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セフィロス
ああ。向こうからは初見になるが…
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ケフカ
そいつのリンゴ、陰でこっそり食べちゃえ、食べちゃえ!
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セフィロス
……そんな訳にも…
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ケフカ
何よ。お前をどんどん辛くさせるスク○ニの脚本なんかに、糞真面目に付き合う事ぁ無いっての
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ケフカ
お前は人気者で、日頃充分貢献してるんだから。折を見てそいつと口裏合わせてさー、サクッと!
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セフィロス
…フフッ、ハハハハ……
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セフィロス
アイツが其れに応じるかは解らないが、
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セフィロス
お前独特の見解には、何時も気持ちが救われる…
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ケフカ
やだ、また救っちゃった?ホラぼくちん、やっぱ神だからさー
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セフィロス
…ケフカ
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ケフカ
なーに?
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セフィロス
…なるべく……死なないでくれ…
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ケフカ
……プッ、
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ケフカ
ウヒャヒャ…ヒャハハハハハ!!
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セフィロス
笑い事じゃ…いや、笑われても仕方無いのかも知れないが!
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ケフカ
大丈夫、大丈夫!
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ケフカは手の平をヒラヒラと振ってみせながら、
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ケフカ
ぼくちん近頃、ゼーンゼン滅ぶ気がしないんだじょ!
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セフィロス
…何故だ?
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ケフカ
お前と知り合ってから…何だか身体が、ガンガン丈夫になってくみたいでね
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セフィロス
其れは、まさか…
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ケフカ
いやん…頻繁に貰っちゃってる、お前の細胞の影響かも
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セフィロス
だっ…大丈夫か?!身体や精神に、支障は出ていないのか?
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顔色を失い問うて来るセフィロスに、ケフカは何時もの戯けた仕草を取り、
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ケフカ
だーっはっはっは!冗談、冗談!!
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セフィロス
…しかし、俺が言うのも何だが、母さんの細胞は厄介だ…
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セフィロス
俺は、お前には絶対に、お前のままでいて欲しい…
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ケフカ
だーかーらー、大丈夫だって!魔晄だって浴びてないんだし
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セフィロス
…そうなのか……?
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ケフカは人差し指で、セフィロスの鼻の頭をツンとつついて
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ケフカ
このぼくちんを見てりゃ、解るでしょ?そんなもんに影響されて無いって事くらい
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セフィロス
…………
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ケフカ
こんな泣き虫で心配性なセフィ坊を残して、誰が細胞に呑まれたり、
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ケフカ
ましてやあいつらに滅ぼされるなど、出来るもんですか!
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セフィロス
…ケフカ…
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ケフカ
…ま、もし不可抗力でエンディング行っちゃっても、次のぼくちんの身体を乗っ取って、
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ケフカ
お前への意識の同一化まで、顔を出したげるから御安心を…前のぼくちんみたいにね
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セフィロス
気付いていたのか…(苦笑
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ケフカ
フフフ…記憶が飛んでた後の躰に残る違和感…解らないと思う?
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セフィロス
…済まなかったな
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ケフカ
いえいえ…とまあ、こう言う訳でね、
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ケフカ
今泣いたセフィっちゃんがもう笑った所で、冷めたお茶でも入れ直しましょうかねっと
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ケフカは双方の冷めた紅茶と焼きリンゴをキッチンへ下げると、暫くして新たな茶葉と熱湯、ミルクに砂糖壺を持って来る
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ケフカ
感情の普段使い慣れないとこ、お互い酷使しちゃったから…ミルクティーでも甘くして、飲も?
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セフィロス
ミルク入りでは、また茶葉が変わって来るのか?
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ケフカ
そう。何事も、相性ってものが有るの
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ケフカ
フルーツ系にはさっきの夏摘み、ミルクティーには、このアッサム!
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セフィロス
フフッ…そして、お前には?
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ケフカ
ホントはとっても甘えん坊な、其処の貴方!
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