-
郎威軍
…ふふふ。
-
加瀬部長
え、なんや?
-
郎威軍
いえ…。
この前見た夢を思い出して。 -
加瀬部長
夢?
-
郎威軍
ええ。
あまりにあり得ない夢だったので、今思うとおかしくて…。 -
加瀬部長
へえ。
ウェイが夢の話なんて珍しいやん。
どんな夢なん? -
郎威軍
聞いたら、不愉快かもしれませんよ?
-
加瀬部長
え~、なになに~?
ウェイが浮気とかする夢?
それは不愉快やな。 -
郎威軍
違いますよ。
-
加瀬部長
じゃあ、どんなん?
-
郎威軍
夢の中で、あなたと能見3班の川村くんが付き合ってるんです。
-
加瀬部長
……。
…は? -
加瀬部長
な、何なん?
この前の夜のこと、知ってるとか?
え?川村くん、なんか言うたん? -
郎威軍
ふふふ。
おかしいでしょう? -
加瀬部長
そ、そやな。
あり得へんやん、そんなん!
あはは~。 -
加瀬部長
どうしよう、コレ。
何かの作戦?
俺、カマかけられてる? -
加瀬部長
イヤイヤ、結局、川村くんとは何も無かったわけやしな。
ウェイに後ろめたい気持ちを抱く必要はない…はず。多分…。
-
郎威軍
どうかしました?
-
加瀬部長
な、何が?
別に何も。
で、どうなったん、その夢? -
郎威軍
あなたと川村くんが付き合っていて、私はあなたに片想いするストーカー扱いされたんです。
-
加瀬部長
え~!うそ~!そんなんヒドイ!
哀しかったやろ、ウェイ。
可哀想に…。 -
郎威軍
そうですね、夢の中では傷付きました。
あなたに嫌われるくらいなら、死んでしまいたいって。 -
加瀬部長
そんなに思い詰めたんか。
可哀想に、ツラかったな。 -
郎威軍
そんな顔しないで下さい。
ただの夢ですから。 -
加瀬部長
そやけど…。
お前が傷ついたのんは夢の中でもホンマのことやん。 -
加瀬部長
俺のせいでウェイがツライ思いしたんて、俺もツライわ。
-
郎威軍
良かった、これが現実で…。
あなたが私を裏切るなんて夢、私が変なんです。 -
郎威軍
心配かけて申し訳ありません。
-
加瀬部長
ウェイは、悪くないから…。
夢は夢やん。ただの夢…。 -
加瀬部長
にしても…勘が良すぎる…。
-
郎威軍
あなたと川村くんなんて…。
ふふふ。
現実では想像も出来ないですよね。
2人でいるところなんて見たこともないし…。 -
加瀬部長
ど、どうなん、コレ?
ホンマのこと、正直に言う方が良くない?
-
加瀬部長
いや、何にもなかったんやし、敢えて言うことなんて無くない?
-
郎威軍
でも…。
川村くんが、志津真のことを好きになるのは仕方が無いかもしれませんが…。 -
加瀬部長
何なん~?
コレ、ウェイの作戦?
それとも天然なん? -
加瀬部長
ウェイウェイの場合、どっちもありうるからな~。
怖いほど明晰な時と、ド天然な時と…。
この発言はどっちなん? -
加瀬部長
な、何が?
-
郎威軍
だって、志津真は私が夢中になるほど魅力的なんですよ。
川村くんが好きになっても、仕方が無いと思います。 -
加瀬部長
やめて~、何かそんな意味深長な態度やめて~。
-
加瀬部長
は!
そ、そう言えば…この感じ、なんかデ・ジャ・ビュなんですけど…?
昔付き合ってた彼女に浮気を疑われてこんな感じの事があったような…。 -
郎威軍
志津真が私を裏切るとは思いませんけど…。
川村くんの方が若くて可愛くて魅力があるというなら…。 -
加瀬部長
無い無い!
そんなこと、絶対に無い!
ウェイの方が、キレイやし、カワイイし! -
郎威軍
?
なんでそんなにムキになるんですか?
まあ、私の事を…そんな風に思ってくれるのは嬉しいですけど…。 -
加瀬部長
結局、アレちゃうん。
ヘタに隠そうとすると、却って誤解されるというか…。 -
加瀬部長
何にもなかったんやから、正直に言うてしもたほうが、お互いにスッキリするんちゃうん?
-
加瀬部長
そ、そりゃ川村くんかて部下なんやし、一緒にメシを食いに行ったことくらいはあるけど…。
-
郎威軍
そうなんですか。
初耳ですけど? -
郎威軍
食事って…川村くんと2人きりで?
そんな…、まさか…。 -
加瀬部長
ん?
いつも通りに表情には出えへんけど…。
怒ってない、よな? -
加瀬部長
そうやんな。
ウェイウェイは俺の事、信じてくれてるんやから、部下と食事に行ったくらい、何とも思わへんよな。
俺の自意識過剰か…。 -
加瀬部長
ん~。
この前、ウェイが瀋陽に出張に行った時、川村くんに相談があるって言われて、2人で食事に行ったんや。 -
郎威軍
ど、どういうことですか?
川村くんと2人?2人っきりで食事? -
郎威軍
仲の良いアンディや百瀬くんだって2人で食事とか行かないじゃないですか。
-
郎威軍
上司として、部下の相談にも乗るなんて、大変ですね。
お疲れ様でした。 -
郎威軍
相談って何ですか!
川村くんから何の相談をされたんですか?
-
加瀬部長
ま、大した相談やなかったけどな。
ほら、新天地の「鼎泰豊」に行ってな、小籠包食べたんや。 -
加瀬部長
だ、大丈夫?
まあウェイの事やし、そんな下衆の勘ぐりなんてするわけないよな。 -
郎威軍
「鼎泰豊」?
志津真の家から近いのに、私と2人の時にはそんな店行かないですよね。
川村くんは特別?
彼となら、私と行かないような店にも行くほど特別な存在なんですか? -
郎威軍
「鼎泰豊」?
ああ、日本人の好きなレストランですよね。
清潔で、日本語も通じるし…。 -
郎威軍
なんなんですか?
やっぱり日本人は日本人と一緒の方がイイんですか?
-
加瀬部長
良かった。
ウェイも冷静やし、話しやすいわ。 -
加瀬部長
まあ、アレやな。
たまにはあんなベタな店もエエよな。
あはは! -
加瀬部長
けど、ウェイとやったら、もっと変わった店とかいろいろ冒険できるし楽しいけどな。
-
加瀬部長
観光客の行くような店って、やっぱりちょっとな…。
ウェイとやったら、高級店でも、下町の小汚い店でも行けるし、2人やったら何でも美味しい♡ -
郎威軍
で、川村くんの相談って何だったんですか?
-
郎威軍
仕事の相談なら、まずは直接の上司である能見主任に相談するはずですよね。
なんでいきなり志津真なんですか。 -
加瀬部長
ん?サラっと聞いて来るけど、本気で興味あるんかな?
そんな感じじゃ無いけど…? -
加瀬部長
それがな、もう、笑わせるんやけどな
-
加瀬部長
あ、ウェイ笑ってる。
ぜんぜん川村の事なんて歯牙にも掛けてないってことなんかな。
俺がウェイの事愛してるって分かってるから余裕ってことか! -
加瀬部長
なら、ここは正直に…。
-
加瀬部長
川村くん、俺の事好きやっていうんや。
もう、何言うてんねんって感じやんな! -
郎威軍
へえ~。
-
郎威軍
どういうつもりなんですか!
私が出張中だからって、自分のことを好きだという若い男と、2人きりで食事? -
郎威軍
それ、浮気ですよね。
完全に私の留守を狙っての精神的な浮気じゃないですか! -
加瀬部長
あれ?
ウェイウェイ?
俺が他の男に言い寄られてるっていうのに、関心無い? -
加瀬部長
もちろん、相手にせえへんかったけどな。
-
加瀬部長
それってどうなん?
俺に興味無い?
俺が他の子に言い寄られてもなんとも無いの? -
加瀬部長
郎主任が1番で、自分は2番でエエとか言いよんねん。
アホか、言うねんな。 -
加瀬部長
どない?ちょっとはイラっとかせえへん?
-
郎威軍
謙虚なんですね。
-
郎威軍
何を言ってるんですか!
私が1番なのは当然として、ソコ確信犯じゃないですか!
私と志津真の関係を知っていて迫るって! -
郎威軍
私との関係を知っていてあなたに迫るって言うことは、川村くんなりに勝算があったってことですよね。
志津真が私より川村くんを選ぶ可能性があると思って誘惑してますよね。 -
郎威軍
それって、本当に川村くんが悪いんですか?
志津真がわざと付け入る隙とか与えたんじゃないんですか!
-
加瀬部長
あれ?
何か変とちゃう? -
加瀬部長
え?怒ってる?
全然見た目は冷静で分からへんけど、なんか…こう…。
あれ? -
郎威軍
酷い…。あの悪夢と同じじゃないですか…。
私が居ない間にそんな…。
志津真にとって、私はその程度の相手なんですか…。 -
郎威軍
私では物足りなくて、川村くんも?
川村くんだけ?他にはそんな人居ない?
川村くんとは…「浮気」?
本気になったりしない? -
加瀬部長
えっ!
な、何?どうしんたん、ウェイウェイ!
なんで泣いてるん!
-
加瀬部長
うそ、うそ!
ウェイ…泣いてるやん。
俺、泣かしてしもたやん。
-
加瀬部長
ど、どうなってんの?
-
郎威軍
もう…私には魅力がないのですか?
川村くんのように、同じ日本人で、若い子のほうが、魅力がありますか? -
郎威軍
夢の中のように酷いことを言われて捨てられるのはイヤだ…。
ちゃんと気持ちを整理して身を引きたい…。 -
加瀬部長
な、なんでそうなるん?
川村くんとは何にもないし。
食事しただけで、俺、すぐに一人で帰ったし! -
加瀬部長
な、何で俺、こんなに必死で言い訳してんの?
-
郎威軍
あ…。
私のした「魅力が無いのか?」って質問に答えてくれない…。 -
加瀬部長
どういうことなん?
知らん顔してたんは、余裕やなくて、職場の「アンドロイド」の仮面と同じやったってこと? -
加瀬部長
なんでそんなややこしいことを…。
俺と居る時くらい、素直になってくれてもエエやん…。 -
加瀬部長
なんで…?
なんでこんな面倒くさい男を好きになってしもたんや、俺…? -
加瀬部長
……でも、ま、そういう面倒くさいとこがウェイウェイやってことやけどな。
そこが…まあ、魅力でもあるわけで…。 -
加瀬部長
ふふふ…。
-
郎威軍
な、何を笑っているんですか?
-
郎威軍
何?終わりってこと?
一方的に焦がれている私を、笑ってるんですか? -
加瀬部長
そやかて…。
ウェイが泣いてる理由は、俺の事が好きやから、やろ? -
郎威軍
それは…。
-
加瀬部長
いやいや、皆まで言うな。
ウェイが、こんな俺を泣くほど好きや、なんて、もう嬉し過ぎて笑うしかないやん。 -
郎威軍
嬉しい?本当に?
本当は、迷惑なんじゃないですか? -
加瀬部長
え~、かなんなあ~。
そんなわけ、あるわけないやん。 -
加瀬部長
ほら…、もう、こっち来いって。
-
郎威軍
肩なんか抱き寄せたって、信じてあげませんよ。
-
加瀬部長
うわ~。
ウェイウェイが怒ってる~!
てか、俺のためにジェラシーで悶々としてる~。 -
郎威軍
イヤです!もう、ふざけないで下さい。
-
加瀬部長
ごめんな。
不安にさせて…。 -
郎威軍
…私こそ…。
ごめんなさい。あなたを疑ってしまいました。 -
加瀬部長
それは、愛してたら当然ちゃうの?
俺かて、ウェイが他の男と浮気するなんて1ミリも思わへんけど…。 -
加瀬部長
それでも、他の男と仲良くしてたらイライラするで。
-
郎威軍
志津真…。
-
郎威軍
あ…志津真の顔が近付いてくる…。
息が…かかる…。
唇…熱い…。 -
加瀬部長
ああウェイの唇って柔らかくて気持ちエエなあ…。
舌でちょっとねぶったら、ピクンって体が跳ねて…。
カワイイ…。 -
郎威軍
やだ…。
志津真の舌、入って…。
どうして、こんなに、気持ちいいんだろう…。
口の中、ぬるぬるしてるだけなのに…。
気持ち良くて…、ドキドキして…。 -
加瀬部長
しっかり抱いてたら、ウェイの体温が上がっていくのが分かる…。
心臓の音もドキドキ大きく、早くなってきてる…。 -
郎威軍
志津真の心音が聞こえる。
力強くて、安心する…。
この命が、愛しい。 -
加瀬部長
なあ、ウェイ…。
ベッド、行きたい…。 -
郎威軍
私も…。
-
加瀬部長
心配せんでも、いつでも俺はお前のモンやで。
お前だけの…。 -
郎威軍
私も、全てがあなたのものだって分からせてあげます。
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加瀬部長
うわ~、早く、早く~!ウェイウェイの気が変わらんうちにベッド行こう~!
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郎威軍
ん~と、結局何かがウヤムヤになった気がしますが…。
-
郎威軍
まあ、志津真が喜んでくれるなら、今日はちょっと頑張りましょうか!
-
こうして、2人の週末はまたも楽しく過ぎていくのでした。
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