エエか！
定時過ぎて俺の許可無く残ってたら

残業代払うどころか、光熱費請求すんで！
覚悟しとけ！

え？なんや、川村くん？

ん、ええよ。
君が定時で退社できるんなら。

なんや、エライ、カワイイ事言う新人やな～

おっしゃ、今夜は俺の奢りやで！

ほな、定時に、な。

ゴメン、ゴメン！
待たせてしもたな。

キミ、ヤバいなあ。
ヤバいくらいにカワイイこと言うやん♪

おっちゃん、帰りのタクシー代も出したるわ。

は？
あ、ま、そうなん？

え？この子って、俺んちの近所に住んでんの？

そんなん、無理に決まってるやん。
ウェイウェイの出張中に、若い男連れ込んだとか思われたらヤバいやん！

ん～。
それも気楽でいいんやけどさ～。

今、ウチの冷蔵庫空っぽやし、料理したり、片付けたりするの、面倒やん。

まあまあ。
今夜はそんなに気張らずに、どっか美味しいトコ行こう。

あ～、あっこな。
まあ、外れないし…。

え？
やっぱりこの子、俺んちの近所に住んでない？

まあ、ウェイとはあんなベタな店には行かへんし…。

この子がそう言うなら、「鼎泰豊」で台湾料理でもエエか～。

いやいや、別にかまへんよ。

ほな、行こか。
タクシー呼ぶ？

へえ。
キミ、なかなかデキる子やね。

能見3班は、エエ新人が入って良かったなあ。

ん～、ホンマにエエ子や。

はいはい、ありがとう。

この店は日本語通じる店員さんがいるし、安心やな。

え？なんて？

は？
どういう意味？

いやいや、川村くん…。
キミ、なんかどさくさに紛れて変なこと言わへんかった？

え？
気のせいなん？
俺の気のせい？

なんなん？これ何かマズイ？
ウェイウェイの出張中に、こんな事言う子とメシ食うのってマズイ？

あ、は、はいはい。
何やったけか？
注文？俺、小籠包とエビ焼売とスペアリブがあれば…。

あ、そう。

え～っと。
で、話ってなんやったっけ？

はあ？
いや、核心も何も。キミが相談したいことがあるって言うたんやん、川村くん。

察するって、何を？

き、キタ～!!
ヤバい、こんなん、ウェイに知られたら、メッチャヤバい！

そうなん？
俺、割と部下に好かれてる方やと思うけど、口に出してハッキリ言われることって、あんまし無いなあ。

素直にありがたく受け取っておくわ。

うわ～。
何、メッチャ真顔やん！
アカン、アカン。
これ、アカンやつやん。

誤魔化す？
何のことかなあ。

コレ、ウェイにバレたら、絶対に怒られる。それか、メッチャ拗ねてしまう。

郎主任は、関係無いんちゃうか？

待てや。

それ以上、余計なことを口にするな。

郎主任は、関係無いやろ？

俺と、お前の事やないのんか？

お前の気持ちは今、聞いた。

その分なら、俺の答えも分かってたんと違うんか？

どうしたいねん。
俺を困らせたい？
自分のモンにならへんから、怒ってる？

ん～、無理やね。

そやな。

それだけと、ちゃうけどな。

うん、そうやな。
キミは、郎主任にはなれへんからな。

彼は彼。川村くんは、川村くんなんやから。
比べても意味無いわな。

俺も、彼に初めて会った時から好きやで。
今までずっと。

そりゃ、無理やから…。

……。

いじらしいこと言うけどさあ…。
やっぱりウェイとは違うよな。

なんかこう…。
あざといというか、こういう事に慣れてると言うか…。

アカン、ウェイに知られたら、俺が殺されるか、ウェイが憤死する…。

念のために言うけど、俺は好きな人を裏切ったりはせえへんで。

俺が、キミのこと、好きでも何でもないのに？

ダメやねえ。

なんの義理があって？

仕事のことならともかく、プライベートで何で俺がキミに同情せなアカンのん？

今、手一杯なんでな。
キミの事まで構ってられへんねん。

うん。
俺の事好きなら、俺の幸せのために、身を引いてくれる？

そりゃ、他に好きな人が居るんやから、しゃあないわな。

大好きで、大事な人を守るのが最優先やから。
キミの気持ちは二の次、三の次になるのはしゃあないねん。

……。

なあ、川村くん。

キミ、そんなん言うの何度目なん？

そういう泣き落とし、慣れてるやろ？

場数踏んでるって、バレバレやで。

こう見えても、俺、元官僚やねん。

なんやかんやいわれても、日本の官僚の優秀さをナメてもろたら困るわ。

キミのソレ、ハニートラップやん。

今夜、俺と寝て既成事実作ったら、どうするん？
俺の大事な人にそれを暴露して別れさす？

それとも、俺に対する脅しのネタとして使うん？

一回キミとセックスしたら、俺が彼よりキミに夢中になるとでも？

無いわ～。
この俺が、キミに夢中になるなんて無いわ～。
あり得へん。

大事やねえ。
俺が命を懸けて守ってやりたいほど、大事な人や。

本気で俺を口説き落としてどうしたいねん。

キミ、そんなんが目的ちゃうやろ。

こんなこと何回もやってるってことは、1人の相手に長続きせえへんってことや。

違うな。
キミの方から捨ててるか、捨てられるよう画策してるやろ。

キミ、まだ運命の相手に出会ってへんから次から次へと探し回ってるだけや。

あ～、それはない。
俺にはもう運命の相手がいるから。

そうかそうか。
俺のノロケをもっと聞きたいか。

よう言うわ。
キミこそ本気や無かったクセに。

ん～、まあ俺とセックスしたい、までは本気やったかもな。

減ります、減ります。
この歳になると、よそで消耗したら大事な人を愛する分が減ってしまいますぅ。

納得すんなや。

好きでもない人に、相手にしてもらわんでエエんやって。

キミには、キミだけを愛してくれる人に大事にされる権利があるんやから。

キミ、夜の方、相当好きなん？

いや、そうやなくて…。
相手するの、大変やろな～って。
あはは…。

言うとくけど、自分を大事にしいや。
行きずりの相手とか、自分を傷つけるようなこと、したらアカンで。

川村くん。
この程度のビールで酔わんといて。

あ、アカンて。
こんな健全な店で酔って泣くなんて最悪やん。

無理無理！
そんな怖い事できひんって。

だって、襲う気やろ？

いや～、もう怖い～。
俺、帰るし。

ほな、お先！
これで足りると思うし。