2.異世界での馴染み方

  •  市立図書館。想像していたよりも随分と小さな図書館だったが、なんとか目的の場所を見つけることができた3人はさっそく中へと足を踏み入れた。

  • chapter2
  • 異世界での馴染み方
  • ガーネット

    えっと、ウチらは同じインターナショナルスクールに通っていた幼馴染…だっけ?

  • 鈴音

    そう。我ながらけっこう自然な設定をつくれたと思うわ

  • コロン

    鈴音が言うならきっと大丈夫だね。さっきの書物も物凄い速さで読んでいたし、近くにいた人たちドン引きだったよ?

  • 鈴音

    コロンはもっと効率的に情報収取できたと思うわよ

  •  図書館である程度の情報収取を済ませた3人はこの世界に馴染むための“設定”を作ることにした。記憶力、頭の回転、理解力◎の鈴音を筆頭に考えた設定は上記の通り。この短期間でこの世界の地理を完全に把握した鈴音が、この世界、とりわけこの“日本”という場所においてかなり特殊な容姿をしている3人を考慮して考えた設定だ。

  • 鈴音

    さてと、少しお腹が空いてきたわね

  • ガーネット

    うん…ウチもそろそろ生き物の血を摂取しないと

  • 鈴音

    何言ってんのアンタは吸血鬼じゃなくて悪魔でしょ?しかも雑食の

  • ガーネット

    ちょっとやめてよ鈴音。それじゃなんかダサい悪魔じゃんか

  • 鈴音

    悪魔にダサいもなにも…まあいいや、コロンは何か食べたいものありそ?

  • コロン

    えっと…わたしは別にお腹空かないし、水が飲めればなんでも

  • 鈴音

    ああエルフは確かそうだったわね。それじゃあ…

  •  あ、あそこにしましょ!と鈴音が指さしたのは「喫茶ポアロ」と書かれたレストラン。図書館を出てブラブラと歩いていたらちょうどいいところによさげなお店が。

  •  さっそく、「喫茶ポアロ」へと足を踏み入れた3人は可愛らしい女性店員に案内され席へと着く。テーブルに置いてあるメニューを手に取り、真っ先に値段を確認したガーネットはあることに気が付いた。

  • ガーネット

    うわ、財布の中身、思ったよりも入ってないかも

  • 鈴音

    まじで?どのくらい食べられそう?

  • ガーネット

    このお店のだと…二品が限界そう

  • コロン

    それじゃあ2人が好きなもの頼むといいよ。わたしはこのお水があれば大丈夫だし

  • ガーネット

    マジかコロン!ありがと!!

  •  結局、メニュー表を見てもこの世界の食べ物についてはほとんど知らないため、表紙に乗っている「特性カラスミパスタ」と「ハムサンド」を注文した3人。もうこれで先程手に入れた(※盗んだ)財布の中身は空っぽだ。水が無償でもらえたことが幸いだった。

  •  しばらくして、3人のテーブルに運ばれてきた食事。今まで見てきた食べ物とはまた違う、不思議な見た目の食べ物に3人は目を輝かせた。

  • ガーネット

    すごく見た目がおしゃれね。えっと、このハムサンドは6つあるし、コロンも1つくらい食べてみな、ね?

  • コロン

    うん。ありがとう

  •  こうして雑談をしながら食事を楽しむ3人。雑談の話題の方向はこれからの生活についてに移り変わる。すると、途端に手を止める鈴音ガーネット。突如として笑顔を消した2人はこの由々しき事態に気が付いた。

  •  …まずい。これではこのお店でお金を使い切ってしまうのではないだろうか。

  • 鈴音

    お金のこと、普通に忘れてたよ…

  • ガーネット

    ま、まずいね。また誰かから盗むしか…

  • 鈴音

    いや、それは最終手段にしましょう。さっき読んだ六法全書とかいう本からするとこの世界の"盗み"はかなり厳しく禁止されているみたいだし

  • ガーネット

    記憶操作をしても?コロンの転送魔法はどう?

  • 鈴音

    それも危険よ。この世界の人間のことをまだわかりきってないのよ?どんな能力を持っているかもわからないじゃない

  • ガーネット

    た、確かに…。じゃあコロンはどう思う?

    ねえコロン

  •  そう言ってコロンに目線を向けたガーネット。ボケっとしてないでいい加減お前も話し合いに参加しろという念を込めて声をかけたのだが…。ハムサンドを口にしながら小首を傾げるコロンを見たガーネットは絶句した。

  •  視線を落とすと、テーブル中央にあったはずの皿がいつの間にかコロンの前まで移動している。しかも、さっきまでハムサンドが6つあったはずの皿の上には、千切れたレタスのかけらが転がっているのみ。

  • コロン

    んぐ……。ん、なんの話?ごめんハムサンドが思ったより美味しくて…

  • ガーネット

    コロン

  • コロン

    んー?

  •   コロンの間延びした返事。何かあった?と言わんばかりのその態度に、ついにキレたガーネットは、立ち上がって向かいに座るコロンの首に手を伸ばした。

  • ガーネット

    コロンお前ぇぇええ!!何やってんの?バカなの?食べきるの早すぎじゃない?

  • コロン

    んんんーー!
    (絞まる!首が絞まってる!)

  • 鈴音

    ああ、ちょっとガーネット落ち着いて

  • ガーネット

    鈴音は黙ってて。ねえコロン、お前お腹空いてないって言ってたよね?どう考えてもウチらが優先じゃないかなあ?

  • コロン

    んんんーー!
    (し、死ぬー!首締まってる首絞まってる!)

  • 鈴音

    ちょ、ちょっと(ヤバい!なんか周りの人からめっちゃ見られてるよ)

  •  バタバタと両手両足を動かすコロンに集まる周りの視線。鈴音の忠告を経てようやくコロンから手を離したガーネット。首を抑えながら涙目で顔を上げるコロンの目に写ったのは般若みたいな顔をしたガーネットだった。

  •  そんな折、喧嘩する3人のもとへ現れたのは褐色の青年。流石に騒ぎすぎたかと鈴音が謝ろうとしたその時、青年が爽やかな笑顔で口を開いた。

  • 降谷零

    お客様、もしよろしければケーキの試食はいかがですか?お代は要りませんので、サービスだと思ってください

  •  青年のその言葉に、揉み合いになっていた手を止め一斉に振り返った3人は、パチリとひとつ瞬きをする。

  • 降谷零

    お話を聞いていたところ、所持金が少ないということだったので…。今回は特別ですよ?

  •  人差し指を顔の前に立て、イケメンにしか許されないキメ顔をする青年に、もちろん3人はときめいた。

  • ガーネット

    な、何この人神様?

  • 鈴音

    それにかなりの美形だわ

  • コロン

    金髪に青い瞳…

  • 降谷零

    あの、お客様いかが致しましょうか?

  • ガーネット

    はいぜひ!そのサービス下さい神様!

  • 降谷零

    それでは、後ほどお持ち致しますね

  •  そう言ってカウンターへと戻っていく青年。恐らく、店内で騒がしくする客を穏便に黙らせるためのサービスなのだろう。3人に対する効果はバツグンだ。

  •  先程の怒りなどとうに忘れたガーネットはサービスのケーキとやらを今か今かと待ちわびている。

  •  そして、あれほど勢い良く怒られたことなどとうに忘れたコロンもまた、にっこにこの笑顔を再び青年が来るのを待っていた。

  •  そんな時、次に3人のもとへ現れたのは青年ではなく可愛らしい1人の少年だった。

  • コナン

    ねぇねぇお姉さんたち。僕もさっきのお話聞こえちゃったんだけど、お姉さんたちどうしてそんなにお金がないの?

  • ガーネット

    へ!?えっとそれは…

  •  コテンと愛らしく首を傾ける少年のその問いかけも、今の彼女たちにとっては効果抜群だった。思わぬ刺客からの思わぬ質問に動揺したガーネットは、ソファの肘掛けに右腕を強打しながら適当なことを口走った。

  • ガーネット

    そうそう!コロンが無くしたんだよ!

  • コロン

    ええ!?

  •  何言ってんのガーネット!!と言おうとするコロンの口を塞ぐのは必死の形相の鈴音

  • コロン

    (ちょっと何するの鈴音!これじゃ私の名誉が)

  • 鈴音

    (お願いだからあんたは黙ってて!見てみなさいよあの少年。明らかに私たちのこと疑ってるわ。とりあえず今はガーネットに任せましょ)

  • ガーネット

    ああそうそう!ほらウチらって昨日この街に旅行しに来たわけなんだけど、到着して早々にウチのカバンが壊れちゃって!とりあえずコロンに財布とかを預けてたんだけど…その今度はコロンが自分のカバンごと無くしたのよ!それで、昨日の宿代も鈴音持ち、そしてひとまず残ってるお金で昼食を食べにここに来たってわけよ。ね?コロン

  • コロン

    えっと…

  •  ここで、ようやく非常事態に気がついたコロン。ウィンクをしてアイコンタクトを取ってきたガーネットの意思を受け取ったコロンは、突如としてその場に崩れ落ちた。

  • コロン

    うっ…ゔん、そうなの!わたしがバッグを無くしたせいなんだ…だから2人にも迷惑をかけて…うう、ごめんね2人とも

  • 鈴音

    え?(なに、どうしたのコロン。急な演技スイッチ入っちゃってるけど)
    うんうん、大丈夫だよコロン。だからそんなに泣かなくても…

  • ガーネット

    ほ、ほらね!この通りなんだよ。だからウチら困ってて…

  •  あはは…と白々しく目を逸らしたガーネットだったが、意外にもなんとか誤魔化せているようで、眼鏡の少年の疑いは彼女たち3人から別の何かへと移ったようだった。

  • コナン

    ねぇお姉さんたち。それって失くしたんじゃなくて盗まれた可能性はないの?

  • コロン

    へ!?ど、どうだろう…わたし普段からボケっとしてて物とかなくしやすいし…

  • 鈴音

    えっとボク?どうしてそんなことを?

  • コナン

    最近多いんだ…そういう被害。お姉さんたち観光客でしょ?それに見るからにお金持ってそうな容姿だし…それに(言っちゃ悪いけどコロンって女の人、明らかに狙われやすそうだし…)

  • コナン

    それと、もう1つ気になったことがあるんだけど…お姉さんたち今ここでお金使い果たしたらこの後どうやって帰るの…?

  • 鈴音

    そ、それは…

  •  少年の質問に沈黙する3人。あからさまに目を逸らして冷や汗を流す3人を前に少年は大きくため息をついた。

  • コナン

    (この人達本当に何も考えてなかったのか…3人の様子を見ると嘘をついてるようにも見えないし、最近この町で窃盗被害が多いのも事実だ。ここまで話を聞いておいて放置するのも気が引けるし…)

  •  少年が俯いて何かを考え込んだその時、先程の青年がケーキを持って戻って来た。
     そして、ケーキを見て子供のような3人を前に、青年の口から思わぬ吉報が飛び出したのだ。

  • 降谷零

    あの、僕からひとつ提案があるのですが…

  • 閑話休憩
  • 翌日
  • ガーネット

    か、神様仏様魔王様!

  • 鈴音

    本当に良いんですか?

  • 降谷零

    ええ。店長に相談をしてみまして、給料については3人の働き次第で決定すると言ってましたが、とりあえずここでアルバイトとして雇ってくれるそうです。

  • 降谷零

    (この子達…どう見ても悪人には見えないが、明らかに怪しい部分が多い…。申し訳ないがしばらくここに留まってくれたら色々と都合がいい)

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