気まぐれ天使
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「あつむ、ポッキーいる?」
「へ!?い、いる!」
突然、隣の天使から話しかけられたと思ったら、ポッキーを3本手渡されて動揺した。え、なにこれ、もったいなくて食べられへんのやけど!! そしていつの間に呼び捨てで名前を呼ばれるようになった俺はもう優勝でええやろ。
昨日のお礼だよーと言いながら自身も幸せそうにポッキーをもぐもぐするユキちゃんが、とにかくかわええ。お礼にポッキー3本ってなんなん、かわいすぎかよ。確か昨日ユキちゃんが教科書忘れた言うてたから一緒に使ったんやっけ。あれ、俺もサムに借りたやつやってんけど、黙っとこ。とりあえずもらったポッキー食べな、いや、やっぱ食べられへん!!
「それでそのポッキーを握りしめてんのかいな。お前、さすがに俺でもドン引きやで」
「あれ?あつむまだポッキー持ってたの?もしかしてポッキー苦手だった?」
「いやちゃうねん!もったいないなと思って!」
「そうなの?じゃあはい!」
廊下ですれ違った侑がなぜか大事そうにポッキーを握っていたのを不思議に思った治は、ついそのポッキーはどうしたのかと聞いてしまった。それ、ユキちゃんにバレたらさすがに引かれるんちゃう?とアドバイスしてやろうかと思ったのだが、ちょうどそのとき、後方で友達と歩いていたユキちゃんがツムのポッキーに気づいてしまった。
ツムの謎の言い訳発言に何の違和感も待たずに鞄の中からポッキーを1袋取り出してきたユキちゃん。ほんま優しい子やな。
「…はあ、良かったなツム」
「ほんまに、俺、幸せや」
気持ち悪いくらいの笑顔を浮かべながら自分の元を去る片割れに、治はげっそりとした顔で、角名の方を見た。
「治、あれに毎日付き合うの大変だな」
「ほんまに、あれどうにかしてくれんか」
* * *
放課後、時間ギリギリまでバレーの自主練をしていた双子は急いで帰り支度をしていた。しかしどうやら侑がバッグの中を漁ってはロッカーの中を覗き込み、何かを探している様子。
「ツム、早よ帰んで何しとんねん」
「いや、俺の弁当箱お前持ってへん?」
「あ?持ってるわけないやろ、教室に忘れたんちゃう?」
「ああ!せや!」
「じゃあ俺先帰ってるわ」
そういえば今日弁当の袋を鞄の中じゃなくて机のサイドに掛けた記憶あるわ。と昼食時のことを思い出した侑は、以前に同じことをして母親にめちゃくちゃ怒られたことも同時に思い出して教室へ戻ることにした。弁当箱を取りに行くだけなのに、帰りを待ってもくれない片割れは相変わらず薄情なやつだ。
「……!?」
教室に入ると、机に向かって突っ伏している見慣れた天使の姿があった…。
え、ユキちゃん?寝とるんか?
起こさないように足音を消してゆっくり近づくと、すぅすぅという可愛らしい寝息が聴こえる。
んん゛かわええええ!!え、教室に弁当忘れた俺ナイスすぎる!こんなイベント聞いてない!
荒ぶる心を静めるために侑は一度大きく深呼吸をして天使の横に座った。
机に頬を付いてこちらに顔を向けて眠るユキちゃん。うわあ顔ちっちゃい、こんなん俺の片手で掴めてまうやん。手もちっちゃくてかわええ。肌白いなあ、めっちゃ柔らかそう。睫毛長いなあ。ちょっと開いた口元もかわええ。触ってもええやろか。おずおずと指を近づけてユキちゃんの唇を触る。
ふにっという感覚で侑はハッと我に返った。咄嗟に手を引いて立ち上がり、後ずさったせいで後ろにあった机に身体が当たり、ガシャッという騒々しい音が教室に響いた。その音に、パチッと目を開けたユキちゃん。
やばい、気づかれた?気持ち悪がられたらどないしよ。ドクドクドクという心臓の音がうるさい。顔がめっちゃ熱い。
「あれ、あつむ?」
「お、おん。ユキちゃんまだ残ってたんや」
「うん、なんか本読んでたら寝ちゃったみたい」
「も、もう帰るんか?」
「そうしようかなあ」
「じゃ、じゃあ一緒に帰らへん?」
「うん、そうしよっか」
勢いに任せて誘ったら、まさかの返事。ナイスや!俺!こんな状況でよお頑張ったなあ!!
もう心臓爆発してしまいそうだけど、これはもっとアピールするチャンスやろ!ここで仲を進展させて、サムを見返したるわ!!
「ユキちゃんはいつも学校残っとるん?」
「うーん、気分で?」
「あんま遅くなったらいかんやろ」
「えーあつむお母さんみたいや」
「え゛それは嫌や!」
「んふふ、じゃあまた次もあつむと帰ろうかな」
「は!?」
「いや?」
「いやちゃう!やなくて、うえ、おん!」
えええ!?ユキちゃん俺で遊んどるんか?え?めっちゃにこにこ笑っとるけど、可愛ええなあ。
てか俺なんかかっこ悪ない?なんでいつもこうなってしまうん?てか毎日ユキちゃんと帰るとかどういうご褒美?(毎日とは言ってない)。そんなんお願いされたら、そんなんええに決まっとるやんか!
「あつむは、私のこと大好きだよね」
「え゛」
今なんて?いや大好きだけども。急に言われたから変な声出てもうた。いや、これはどういう質問なんや?ユキちゃんに好きってこと伝わってんのは嬉しい、けどなんや、恥ず過ぎる!
「あれ、違ったかなあ。私はずっとあつむのこと好きなんやけど…」
「いや!ちゃうくない!ってええ!?!い、今ユキちゃんなんて言うた?」
「うん?あつむにずっと片想いしとるって言った」
「は、お俺もや!」
「うん」
「俺もユキちゃんのことずーっと好きやねん」
「うん」
「それって…俺と付き合うてくれるんか?」
そうやったら、私も嬉しいなあ、とほんのり頬を桃色に染めてこちらを向くユキちゃん。俺は咄嗟に火照る自分の顔を覆った。体が信じられんくらい熱くなってる。
待ってくれ、進展とは言うたけど、さすがにここまでは想定外やったわ…。
* * *
「ツム、えらい遅かったな」
「おおサム、ただいま!」
「んん!?」
治が帰宅してからしばらくして、バタバタと荒々しく玄関を開けながら侑が家に帰ってきた。思いのほか遅く帰ってきた侑に声をかけた治は、ふわっと花のエフェクトをまき散らし、ゆるゆるな顔を見せる侑にぎょっと目を見開いた。
え、ツムに何があったんや。弁当箱取りに行っただけにしては遅いなあとは思ってたけど、なんやあの間抜けズラは。
「サム、俺なユキちゃんと付き合うてん」
「え、ええええ!?」
まじかよ。コイツ、ついさっきまで告白なんてまだ無理や!って言うてたのに。急にどうした?てかユキちゃんと今まで一緒にいたっちゅうことか。おいお前、何俺の知らんところで青春イベント満喫しとんねん!いや、でもまあこれでツムの変な恋煩いの話を聞かなくても良くなるんか?何があったかはよお分からんけど、一応、この恋を応援していた身としては、喜ぶべきことなんか…?
「良かったな、ツム」
「おん」
いや、やっぱ前言撤回。こんな惚けた気色悪い顔を毎日見るのは、さすがにキツいわ。
・
「わたしね、何回かあつむのバレーしてるところ見たことあるよ」
「え、そうなん?」
「うん、かっこええなあって思っとった」
「ええ、そんなん嬉しすぎやって」
「また放課後見に行くね」
「ほんま?めっちゃ楽しみや!」
「あつむのこと応援しとるからね」
「ユキちゃん、、抱きしめてええ?」
「ふふ、ええよ」
やばい、嬉しすぎて死んでしまいそう。
ユキちゃんを抱きしめると、より小さく感じてしまう。俺よりも全然細っこくて、柔らかい。このまま力入れたら折れちゃいそうや。俺の背中に小さい手を回してギュッと力を入れて抱きしめ返してくれるユキちゃんが可愛い。ああ今俺めっちゃ幸せやなあ。
「ねえ、あれ何事?」
「なんか、昨日から付き合い始めたらしい」
めっちゃ目を見開いて驚く角名と銀を見て、治はそりゃそうだと頷いた。片思い中、あんだけうだうだしとるツム見とったら急にどうしたってなるわな。