ルエトワールの導き
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ある日、フォンテーヌ挺近くの海を散歩していたヌヴィレットは、生まれたばかりの小さな龍と出会った。
その小さな龍は傷だらけで、消えそうなほど小さな鳴き声をあげながら必死に助けを求めているようだった。生まれ落ちたその場所に恵まれず、荒海を通り抜け息も絶え絶えにフォンテーヌの海へ流れついた小さな龍。浜辺に打ち上げられたルエトワールのそばで、その小さな龍を見つけたヌヴィレットは、しばらく思案した後、その龍を優しく抱きかかえた。
そしてフォンテーヌ挺に連れられて保護された小さな龍はヌヴィレットに世話をされながら、日々を過ごしていた。そんなある日、ヌヴィレットのベッドの上でいつも通りお昼寝をしていた小さな龍は、目を覚ますと異変に気がついた。なんだか身体がおかしい。いつもよりも重く、それでいて動きずらい。自分の身体を見渡すと、ヌヴィレットと同じような手や足が生えており、身体を起こすと目線の高さが違う。それにいつもよりも頭が良く回る。そう、小さな龍は人型になっていたのだ。
まだ龍として生まれて数年である小さな龍の人型は、人間でいうところの幼子のような姿であった。
人型になった小さな龍は慣れない手足を使ってベッドから降りようと試みた。大好きなヌヴィレットを探しに行こうとしたからだ。いつもなら、ヌヴィレットが来るのをベッドの上で待っているけど、今日はなんとなく、今すぐにヌヴィレットに会いに行きたい気持ちになった。
しかし、人型になったばかりの龍は慣れない自分の手足に苦戦した。ようやく、大きなベッドの端にたどり着いた小さな龍、次はいつもヌヴィレットが出入りしているあの扉を目指そうと足を出したその時。小さな龍は思いきり足を踏み外した。小さな龍にとって、ベッドの高さは想定外だったのだ。バタンッと音を立てて床に身体を打ちつけた小さな龍は「きゅーきゅー」と小さな鳴き声を出して痛みに耐えた。
執務室でいつも通り職務をこなしていたヌヴィレットは隣の部屋から聞こえた大きな音に顔を上げた。
音の方向はヌヴィレットの私室、小さな龍が眠っているはずの部屋。いつもならぐっすりと眠っている小さな龍が目を覚ましたのだろうか。それにしても大きな音だった。小さな龍になにかあったのではないかと心配になったヌヴィレットは、チラリと資料の提出期限を確認してから私室へと向かった。
扉を空けるとそこにはベッドから転げ落ち、床に伏している龍…ではなく幼子がいた。ヌヴィレットにはその幼子が、いつも自身が大事に大事に世話している小さな龍であることにすぐに気がついた。そして幼子を見たヌヴィレットは、僅かに口角を上げ、ひどく慈愛に満ちた表情で微笑んだ。
「きゅーきゅー」と鳴きながら手足を頑張って動かしている幼子を、ヌヴィレットは優しく抱きかかえる。ピタと動きを止めた幼子はヌヴィレットの姿をその瞳に捉えると、嬉しそうに目を細めた。そして、今度は甘えたような声色で「きゅー」と小さく鳴くのだ。
甘えて擦り寄ってくる幼子の頭を優しい手つきで撫でるヌヴィレットは、嬉しそうに喉を鳴らす幼子を前に思わず目尻を落とした。
「先程の音は君がベッドから落ちたときのものだろうか。どこか怪我はしていないか。痛む場所はあるだろうか」
幼子を抱えベッドに腰掛けたヌヴィレットは幼子に問いかける。当然、言葉の理解ができない幼子はヌヴィレットの言葉に対して首を傾げるのみ。しかしヌヴィレットが構ってくれることが嬉しいのか、幼子はヌヴィレットの声を聞くたび楽しそうに笑っている。
そんな幼子の様子に安堵したヌヴィレットは幼子をベッドへと寝かし毛布をかけた。
「仕事を片付けたらまた戻ってくる故、しばしの間ここで待っていてくれ」
そう言って私室を後にするヌヴィレットの後ろ姿を眺めて小さな龍はまたひとつ、「きゅー」と鳴き声をあげた。
夜、仕事を早めに切り上げたヌヴィレットは夕食を持って私室へと戻ってきた。ヌヴィレットに言われた通り、大人しく待っていた幼子はヌヴィレットの姿を見るなり甘えたように喉を鳴らす。それに呼応するように青色の触覚を光らせたヌヴィレットは、食べやすく調理したコンソメスープを持って幼子の隣へと座る。
満足そうにスープを飲む幼子の様子を眺めながら、ヌヴィレットは酷く心が満たされる感覚に陥っていた。
ずっと、この小さな龍が人型になることを望んでいた。出会った時から、この小さな龍に言いようのない慕情を抱いていたヌヴィレットは迷わず小さな龍を連れて帰ることを選んだ。毎日自分と共に過ごし、自身の生み出す水を与え、自身の水元素で満たす。まだ生まれたばかりの小さな龍、様々な環境に対して適応性の高い龍。はっきりとした確証はなかったが、ヌヴィレットはそうすることで自分と同じ、人型の龍へと変化させられるのではないかと思っていたのだ。
そして今、ヌヴィレット自身の元素で染まった小さな龍は完全な人型となった。そしてこの時、正真正銘のヌヴィレットの番となったのである。
「ユキ」
「キュー?」
「どうだろうか。君と出会ってからずっと考えていたのだが中々決まらなくてな。遅くなって申し訳ない」
申し訳なさそうに眉を下げながら、もう一度ユキ、と新たに付けた名前を呼ぶヌヴィレットに反応して、幼子はニコッと笑った。自分の考えた名前が気に入ってもらえた。幼子の反応からそう感じたヌヴィレットは、幸福感に包まれたように心の奥がじんわりと暖かくなった気がした。
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