気まぐれ天使
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ユキちゃんおはよう」
「おはよう、あつむくん」
教室の窓側、一番前の席で毎朝本を読んでいるユキちゃん。俺が声をかけると、視線を本から俺へと移し、ふわりと笑って挨拶を返してくれるユキちゃんは俺にとって最高の癒し。
朝練終わりにこんな癒しを貰えるなんて、俺はこんなに幸せでええんやろか。
俺がユキちゃんに初めて会ったのは入学式の日。
最初はただ、えらいちっさい女の子がおるなあと眺めてただけやった。長すぎる先生たちの話を聞き流しながらボケーっと彼女を見つめていたらいつの間にか入学式は終わっとった。
さて俺も自分の教室へ移動しようと立ち上がったとき、一斉に動き出した人の波に押し潰さそうになっとる彼女を見つけた。ふらふらと一生懸命歩く彼女の姿を見て、ほんまに潰されるんちゃうか、コケてまいそうや、なんてこっちがハラハラしてもうた。そしてついに、後ろから勢い良く歩いてきた男子が彼女にぶつかり、彼女がよろけたのを見て、つい彼女の手を引いてしまった。咄嗟の行動に自分でも驚いて「だ、大丈夫か?」と吃ったのもよく覚えとる。そのとき、いきなり手を掴まれたことに驚いて顔を上げた彼女が「ありがとうな」と笑った瞬間、俺の心臓がドクンッと面白いくらいに跳ねて、顔が赤くなるのを自覚した。
その後、なんとなくそのままクラスが張り出される廊下まで彼女と一緒に歩いて行くことになったのだが、俺の歩くスピードが速くて小走りになって着いてくる彼女にきゅんときた。
さらに、クラス表から自分の名前を探しているときも、「水無月ユキ」と書かれた名前を指さした彼女の目線の先、その下には「宮侑」の名前。とんでもなく運の良い俺は彼女と同じクラスで、しかも隣の席になったのだ。
「隣だったね」と控えめに微笑まれたとき、これはもう運命なんだと思った。
このときの俺の喜びは有頂天。クラスが分かれたため部活で再会した治にドン引かれたのは言うまでもない。
それから約半年、この片想いをこの半年以上ずっと拗らせ続けている俺は未だに告白する勇気が持てずにいた。それはなぜか、ユキちゃんとの今の関係を壊したくないから。もし告白なんかして断られたら立ち直れる気がしないし、それやったらむしろ今のままでも…というのが俺の考えや。断じて、断じて俺がヘタレやっちゅうわけやない!
「いや、それをヘタレって言うんやでツム」
「うっさいわ!別にええやん。俺やってユキちゃんと付き合うことができたら、そりゃめっちゃ嬉しいけど、嫌われとおないんや」
「あーはいはい」
「それに、もし今よりも近づけるよおなったら俺の心臓が持たへん!」
「それはそうかもしらんな」
「やろお」
はああ、と大きなため息をついてまさに、うっとりと恋する乙女のような顔をするのは自身の片割れ。治はマジでその顔は勘弁してくれ、とかぶりを振った。気色悪いからもう二度とその顔で俺に話しかけて来ないでもらいたい。まあでも、ツムがこんなに好きやってなるもんはバレーボール以外では初めてやし、ツムが想いを寄せている女の子、ユキちゃんやったか?その子も可愛らしくてええ子やから応援したい気持ちもなくはない。しかしこんな恋愛初心者なツムを見れるんは、ちょっと予想外やったわ。
「ゆっくり進むのもええけど、そんなノロノロしとったら誰かに横取りされてもおかしないで」
「そ、そそそれはアカン!なななに言うてんのやサム!」
動揺しすぎやろ。そんなん耐えられへん!と涙目になる自身の片割れを見て治は再び半目になった。だから、ほんまに俺の前でそういう表情するんはやめてくれや。
* * *
「ユキちゃん、今日日直なん?」
「うん」
「その資料運ぶの手伝うな」
「そんなんええよ、あつむくん部活あるやろ?」
「ぶ、部活は今日始まんの遅いから平気や」
「そうなん?じゃあ手伝って貰おうかな」
「おん!任しとき!」
ユキちゃんが半分ずつに分けてくれた資料を2人で運ぶのはええけどユキちゃん、どう考えても前見えてへんよな。紙束が半分になっても彼女にとっては多いようで、運ぶ資料が顔の辺りまで積み上がっていて、階段を降りるときはチラチラと下を見ながら進んでいる。
「ユキちゃん、もう半分貰うな」
「あ、ありがとう」
ごめん、と言いながら少し顔を赤くして資料をこちらに渡すユキちゃん。やばい、かわええ。
職員室まで資料を届けたあと、ありがとうと言ったユキちゃんの笑顔を目に焼き付けて部室へダッシュする。部室の扉を勢いに任せて開けると、驚いた顔の銀と、ニヤニヤとした笑みを浮かべる角名。
「あれ、侑いつもより遅いね」
「ま、まあな」
「で、水無月さんに告白でもしたの?」
「そんなんできるわけないやろ!!」
「侑うるさ」
1/5ページ