どう考えても松田陣平がいちばんカッコイイと思うんだけど
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どう考えても松田陣平がいちばんカッコイイ
これはかねてより私が思い続けていたことである。松田陣平とは高校が同じだった。とは言っても、同じクラスになったことはないし、喋ったことすらない。
しかし校内で何かと目立っていた萩原研二という男とよく一緒にいたため、私も松田陣平の存在を認知していた。その時に思ったのである。萩原研二君。確かに愛想が良く、コミュケーション能力が高い彼がモテるのは分かるが、どう考えてもその隣を歩く松田陣平の方がかっこよくないか、と。それを友人に言ったら「アンタ、童顔が好きなんじゃない」と言われた。そうなのだろうか。
とにかく、学校の男の子で誰がいちばんカッコイイのか、モテるのかなど。女子の中でそんな話が出れば間違いなく萩原研二の名前が最初に出てくる。私が松田陣平は?と言えば女の子たちは口々にこう言うのだ。「いや松田くんは態度が」「口悪いし」「目つき悪いし」などなど。どうやら性格が災いして彼の顔の良さを帳消しにしているらしい。私は松田陣平と話したことがないから分からないけど、あんなにカッコイイのになんだか勿体ないと思った。
それは警察学校でも同じことだった。
私が将来警察官になると誓ったのは小学六年生の時のこと。大切な妹が誘拐されたことがきっかけだった。私は昔から頭が良かったし、運動神経も抜群だった。両親や家に来た警察官の話を盗み聞きして、私は妹の足跡をたどって妹の居場所を見つけ出し一人で妹を救出した。たくさん褒められてたくさん怒られたけど、そのときの私の中で明確になった感情は「私なら誘拐された子どもを助けることができる」ということだけだった。
というわけで私は無事警察学校へ入校出来たわけだけど、まさか彼らの姿をここで再び目にするとは思わなかった。そんなことより驚きなのが、やはり女子からの人気はあの萩原研二がかっさらっていること。それに加えて、入学式で代表に選ばれていたあの金髪の人。確か降谷とかいう名前だった気がするけど、女子たちから出てくるのは萩原研二とその降谷くんの名前ばかりだ。
非常に不服であった。だってどう考えても、あの目立っている5人の中でいちばんかっこいいのは松田陣平であるのに。
そして、警察官になったのち。大人っぽくなった松田陣平と直接会うことになり…私は言葉を失った。直接会うと言ってもただ爆発物処理班と特殊犯捜査係に所属する私のチームが合同で捜査するというだけで、私は情報交換する先輩の背中に着いていただけ。松田陣平とは目すら合ってない。けれども久しぶりに見た松田陣平に私はとてつもない衝撃を受けたのだ。
だって…あれだけカッコよかった彼が、さらにカッコよくなっていたからである。ちょっと男前になり過ぎてるし、背も高くなっている。それになに、そのサングラス、ちょっと似合いすぎでは?それにしても、頭のふわふわ天然パーマは全く変わらないな。けど似合っている。
やっぱり松田陣平はカッコよかった。そんな感想を心に留めて私は自分のやるべきことを振り返る。私がやることはただ一つ。今回の騒ぎを起こした爆弾魔を捕まえること。事前に聞いた情報によれば犯人は2人組の男であるという。
チーム内で作戦を立て、念入りに準備をしてから先輩の後に続いて動き出したその時、犯人の1人から電話がかかってきたという無線により私たちは一度足を止めた。
どういう風の吹き回しか分からないが犯人のうちの一人が爆弾解除の方法を教えてくれると言っているらしい。
そこからは単純だ。作戦を変更して犯人の居場所を逆探知により調査する。そしてその情報をもらった私たちが犯人確保へ向かうだけ。
その場所は米花五丁目、米花公園の近くにある電話ボックス。そこにたどり着いた途端、車から飛び降りた先輩が犯人のいる場所に向かって走って行った。先輩に気が付いた犯人が電話ボックスから出て逃げ出そうとする。その様子を確認して、私は咄嗟に犯人に向かって警棒を投げつけた。上手く犯人の足に絡まった警棒により、電話ボックスから出た瞬間に大きく転んだ犯人。その目の前を大型車が勢いよく通り過ぎて行った。
犯人のうち、この一人はそのまま逮捕。そして集まってきた野次馬の中に、強い殺意を感じ取って振り向いた。その先には人混みに紛れてこちらに殺意を向ける帽子を深く被った男。ああ、あれが主犯か。直感的にそう思った私は野次馬の中に身を隠した。
確かこの犯人の要求は10億円だったか。そのために人が大勢いる場所に爆弾を仕掛け、大勢の人たちを危険に曝した。その10億円にどんな大きな夢があるのか知らないけど、その行為は到底許されることではないと思うよ。
じっと相方が逮捕される光景を見つめるもう1人の犯人は私の存在に気が付かない。息が荒く、少し興奮している様子の犯人が、ポケットに手を入れようとするのを見て、私は犯人の手を掴んだ。
「っなんだテメェ!」
「警察だよ。ねぇ今、何しようとした?」
「クソッ離せ!!」
腕を捻りあげられてグッと顔を顰める犯人。犯人の上着のポケットから、先程犯人が捜査しようとしていた機械を取り上げれば犯人が大きく吠えた。
「犯人2人目確保」
そう言って手錠をかければ駆けつけた他の警察により犯人は連行されていった。
爆弾を遠隔操作をするための機械だったらしい。私が犯人から取り上げたものの正体が分かった時、ゾッと寒気が全身を巡った。もし、私があの時犯人に気が付かなければ、爆弾解体が遅れていた萩原研二のチームは大惨事になっていたかもしれない。そんなことを考えるとなんだかソワソワしてその場から動けなかった。
でも、今回の件はどこにも被害を出さずに解決した。良かった、誰も死ななくて。心の底からそう思った。自分のデスクでホッと息をついてコーヒーを口にする。そんな時、「おい」と私を呼ぶ声を聞いて振り返った。
「松田陣平…」
「…お前、俺のこと知ってんのか」
「まあ、高校も警察学校の教場も一応同じだったし名前くらいは」
「そうかよ。それなら萩原のことも知ってんだろ」
「まあ知ってるけど」
だからなんなのだ…という話だ。取り敢えずなんで松田陣平がここにいるという疑問が浮かんだ。ここは捜査一課のフロアなのに、どうして機動隊の彼がここに居るんだ。という言葉を飲み込んで松田陣平を見上げればそこには相変わらずのイケメンがいた。
「その、昨日の爆弾魔の事件だが、最後の犯人を確保したのがお前だって聞いた」
「ああうん、そうだけど」
「それで、その犯人が遠隔操作で爆弾を爆発させようとしていたことも聞いた」
「うん、そうだね」
「だからその、お前がいなければ萩原は今ごろ死んでたかもしれなかったんだ」
ああなるほど。今彼は私にお礼を言おうとしているのだと察した。ただ一言、ありがとうと言えば良いのに、どうにも言葉に詰まる松田陣平は見ていて新鮮だった。それにしても顔がカッコイイのは変わらないけど。
遠隔操作の件は私も今さっき、先輩から話を聞いてゾッとしたから分かる。きっと萩原研二と親友の彼からしたら、私が感じたものよりもずっと恐ろしい感情に見舞われたのだろうと。一歩違えば親友が死んでいたなんて、想像もしたくなかっただろう。
「でも、萩原くんは死んでないよ。だって犯人は私が捕まえた。これが私たちの仕事だから。松田くんも、萩原くんも、みんなで協力して事件を解決したんだよ」
私がそう言うと、さっきまでソワソワと落ち着きなく左右に動いていた彼の瞳が、きょとんとこちらを向いた。
え、なにその表情。松田陣平はそんな可愛い顔も出来たの?そういえばいつものサングラスは今日着けてないみたいだけど、サングラスがないとちょっと昔みたいに幼く見えて、なんだろう…カッコいいというよりは、可愛いね?
「とにかく、萩原はお前のおかげで命拾いしたんだ、だから礼を言わせてくれ。萩を助けてくれてありがとう」
コホンとひとつ咳払いをして、私の前で頭を下げるのはあの松田陣平だ。まさか、そんな勢いでお礼を言われるなんて思わなかったから驚いた。けれど、それだけ親友の命が危険にさらされたという事実が怖かったのだろう。でも、だから凶悪犯を逮捕する私たち刑事がいるのだ。私はそのために刑事になったから、こうやって面と向かってお礼を言われるのは素直に嬉しいと思った。
「私としては仕事をしたまでだけど、そういう風にお礼を言われるのはやっぱり嬉しいね。どういたしまして」
松田くんってこんなに友達想いなんだって、私の中で松田陣平の株がさらに上がったところで、松田陣平が再び口を開いた。どうやらお礼を伝えること以外にも私に用事があるらしい。
「…あと、それから俺ら同期なわけだし連絡先交換しねぇ?」
「えっ私と?」
「他に誰がいんだよ」
「それはそうだけど」
「なんだよ、嫌なのか?」
「そんな、嫌なわけないでしょ。まさか松田くんとこうして話せると思わなかったからびっくりしただけ」
「そりゃ一応昔馴染みだろーが」
「ふふ、そうだね。それじゃあこれからよろしくね松田くん」
「ああまた連絡する」
そう言ってフッと微笑み踵を返した松田陣平を見て感じるのはやはりカッコイイという事実。いつの間にあんなダンディーな笑みが似合う男性になっていたのか。
やはり警視庁でいちばんカッコいい男は間違いなく松田陣平である。異論は認めない。
あれから私は松田陣平と仲良くなった。そしてなぜか萩原研二とも仲良くなった。松田くんと初めての会話をしてから約1週間後、ようやく自宅謹慎を終えたらしい萩原研二が「お礼が遅くなってゴメンね」と高級な和菓子と共にお礼をしに来てくれて、それからなんというか、萩原くんの口車に乗せられて松田陣平を含めて3人で飲みに行った。
そうして爆発物処理班に所属する2人と私は度々ご飯を食べに行く仲となったのである。人生何が起こるか分からないものだ。そして今日も、松田くんから誘われていつもの居酒屋に集合する。居酒屋に入り案内された個室へ向かうと、そこにいたのは松田くん一人だった。
「あれ、萩原くんは?」
「今日は残業があるらしくて遅れるって」
「そうなんだ…じゃあ先にご飯頼んじゃおっか」
「そうだな」
そんな会話をしてから数十分。なんとなく、いつもより速いペースでお酒を飲む松田くんが心配になりながらも、私は黙って目の前の枝豆をつまんだ。
「なあ、お前って俺のことどう思ってたんだ?」
「どうって…?」
「いや、高校も教場も一緒だって言ったのはそっちだろ。一回も話したことないのに俺のこと知ってたから…」
「…だって松田くんたち目立ってたから」
「それだけか?」
「それだけというより、そうだな…私はずっと"いちばんカッコイイのは松田陣平なのに"って思ってたよ」
「っは?」
「…なに?その反応。自分が聞いてきたんじゃん」
「いや、お前酔っ払ってんのか」
「はあ?何それ、酔っ払ってるのは松田くんの方でしょ?」
今日の松田くんはよく喋る。いつも率先して話をする萩原くんが居ないからか、お酒を飲んでいるからか分からないけど、今日の松田くんはいつもより饒舌だった。
どう考えても松田陣平がいちばんカッコイイのに、ずっとそう思ってた。だけど私のセリフを前にして素っ頓狂な声を上げ、酒のおかげで少し赤らんだ顔でこちらを見上げる松田陣平は、少し可愛いと思った。
「男性を可愛いと思ったらね、それはもう恋に落ちたも同然なのよ」かつて私の友人は私にそう言った。途端にその友人の言葉を思い出した私は松田陣平の顔を見て首を傾げる。
「んだよ」
小さな声でそう呟いて、松田くんは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「ううん、ずっとカッコイイと思ってた松田くんが急に可愛く見えてちょっと混乱してる」
「っはあ!?何言ってんだお前!」
「ちょっと、大きな声出さないでよ」
「あ、悪い…じゃねェよ、お前が変なこと言うからだろ」
ガタガタと音を立てて席を立ち、松田くんは慌てた様子で個室の襖に手をかけた。そして「ちょっとタバコ吸ってくる」と、ひとこと残して出ていった。
そんな松田くんと入れ替わるようにして萩原くんが入ってくる。
「いま松田とすれ違ったけど、松田となんかあった?」
「え?いや何もないけど、松田くん煙草を吸いに外に出ただけだよ」
「そっか、松田がなんか変なこと言ったとかじゃないよな?」
「いや松田くんはちょっと酔ってたけど、別に普通だったよ。それより、私が変なこと言っちゃったかも」
「へー、変なことって?」
「最近松田くんが可愛く見えて混乱するって」
「あっあー、なるほどね…その心は…?」
「うーん、もしかしたら私、松田くんのことを好きになっちゃったのかもしれないと思って」
私がそう言うと、なぜか拳を天井に掲げガッツポーズをした萩原くん。急にどうしたのかと怪訝な表情を向ける私を他所に、ルンルンと鼻歌を歌いながら萩原くんは注文用のデジタルパッドを手に取った。そして「松田のやつ、多分いま相当舞い上がってるだろうな…」なんて呟きながら上機嫌でメニューを見始める。
なんで、松田くんが舞い上がるのだろうか、どちらかと言えば、萩原くんの方が舞い上がっているように見えるけど。なんて言葉を飲み込んで、私も追加のお酒を注文した。
これはかねてより私が思い続けていたことである。松田陣平とは高校が同じだった。とは言っても、同じクラスになったことはないし、喋ったことすらない。
しかし校内で何かと目立っていた萩原研二という男とよく一緒にいたため、私も松田陣平の存在を認知していた。その時に思ったのである。萩原研二君。確かに愛想が良く、コミュケーション能力が高い彼がモテるのは分かるが、どう考えてもその隣を歩く松田陣平の方がかっこよくないか、と。それを友人に言ったら「アンタ、童顔が好きなんじゃない」と言われた。そうなのだろうか。
とにかく、学校の男の子で誰がいちばんカッコイイのか、モテるのかなど。女子の中でそんな話が出れば間違いなく萩原研二の名前が最初に出てくる。私が松田陣平は?と言えば女の子たちは口々にこう言うのだ。「いや松田くんは態度が」「口悪いし」「目つき悪いし」などなど。どうやら性格が災いして彼の顔の良さを帳消しにしているらしい。私は松田陣平と話したことがないから分からないけど、あんなにカッコイイのになんだか勿体ないと思った。
それは警察学校でも同じことだった。
私が将来警察官になると誓ったのは小学六年生の時のこと。大切な妹が誘拐されたことがきっかけだった。私は昔から頭が良かったし、運動神経も抜群だった。両親や家に来た警察官の話を盗み聞きして、私は妹の足跡をたどって妹の居場所を見つけ出し一人で妹を救出した。たくさん褒められてたくさん怒られたけど、そのときの私の中で明確になった感情は「私なら誘拐された子どもを助けることができる」ということだけだった。
というわけで私は無事警察学校へ入校出来たわけだけど、まさか彼らの姿をここで再び目にするとは思わなかった。そんなことより驚きなのが、やはり女子からの人気はあの萩原研二がかっさらっていること。それに加えて、入学式で代表に選ばれていたあの金髪の人。確か降谷とかいう名前だった気がするけど、女子たちから出てくるのは萩原研二とその降谷くんの名前ばかりだ。
非常に不服であった。だってどう考えても、あの目立っている5人の中でいちばんかっこいいのは松田陣平であるのに。
そして、警察官になったのち。大人っぽくなった松田陣平と直接会うことになり…私は言葉を失った。直接会うと言ってもただ爆発物処理班と特殊犯捜査係に所属する私のチームが合同で捜査するというだけで、私は情報交換する先輩の背中に着いていただけ。松田陣平とは目すら合ってない。けれども久しぶりに見た松田陣平に私はとてつもない衝撃を受けたのだ。
だって…あれだけカッコよかった彼が、さらにカッコよくなっていたからである。ちょっと男前になり過ぎてるし、背も高くなっている。それになに、そのサングラス、ちょっと似合いすぎでは?それにしても、頭のふわふわ天然パーマは全く変わらないな。けど似合っている。
やっぱり松田陣平はカッコよかった。そんな感想を心に留めて私は自分のやるべきことを振り返る。私がやることはただ一つ。今回の騒ぎを起こした爆弾魔を捕まえること。事前に聞いた情報によれば犯人は2人組の男であるという。
チーム内で作戦を立て、念入りに準備をしてから先輩の後に続いて動き出したその時、犯人の1人から電話がかかってきたという無線により私たちは一度足を止めた。
どういう風の吹き回しか分からないが犯人のうちの一人が爆弾解除の方法を教えてくれると言っているらしい。
そこからは単純だ。作戦を変更して犯人の居場所を逆探知により調査する。そしてその情報をもらった私たちが犯人確保へ向かうだけ。
その場所は米花五丁目、米花公園の近くにある電話ボックス。そこにたどり着いた途端、車から飛び降りた先輩が犯人のいる場所に向かって走って行った。先輩に気が付いた犯人が電話ボックスから出て逃げ出そうとする。その様子を確認して、私は咄嗟に犯人に向かって警棒を投げつけた。上手く犯人の足に絡まった警棒により、電話ボックスから出た瞬間に大きく転んだ犯人。その目の前を大型車が勢いよく通り過ぎて行った。
犯人のうち、この一人はそのまま逮捕。そして集まってきた野次馬の中に、強い殺意を感じ取って振り向いた。その先には人混みに紛れてこちらに殺意を向ける帽子を深く被った男。ああ、あれが主犯か。直感的にそう思った私は野次馬の中に身を隠した。
確かこの犯人の要求は10億円だったか。そのために人が大勢いる場所に爆弾を仕掛け、大勢の人たちを危険に曝した。その10億円にどんな大きな夢があるのか知らないけど、その行為は到底許されることではないと思うよ。
じっと相方が逮捕される光景を見つめるもう1人の犯人は私の存在に気が付かない。息が荒く、少し興奮している様子の犯人が、ポケットに手を入れようとするのを見て、私は犯人の手を掴んだ。
「っなんだテメェ!」
「警察だよ。ねぇ今、何しようとした?」
「クソッ離せ!!」
腕を捻りあげられてグッと顔を顰める犯人。犯人の上着のポケットから、先程犯人が捜査しようとしていた機械を取り上げれば犯人が大きく吠えた。
「犯人2人目確保」
そう言って手錠をかければ駆けつけた他の警察により犯人は連行されていった。
爆弾を遠隔操作をするための機械だったらしい。私が犯人から取り上げたものの正体が分かった時、ゾッと寒気が全身を巡った。もし、私があの時犯人に気が付かなければ、爆弾解体が遅れていた萩原研二のチームは大惨事になっていたかもしれない。そんなことを考えるとなんだかソワソワしてその場から動けなかった。
でも、今回の件はどこにも被害を出さずに解決した。良かった、誰も死ななくて。心の底からそう思った。自分のデスクでホッと息をついてコーヒーを口にする。そんな時、「おい」と私を呼ぶ声を聞いて振り返った。
「松田陣平…」
「…お前、俺のこと知ってんのか」
「まあ、高校も警察学校の教場も一応同じだったし名前くらいは」
「そうかよ。それなら萩原のことも知ってんだろ」
「まあ知ってるけど」
だからなんなのだ…という話だ。取り敢えずなんで松田陣平がここにいるという疑問が浮かんだ。ここは捜査一課のフロアなのに、どうして機動隊の彼がここに居るんだ。という言葉を飲み込んで松田陣平を見上げればそこには相変わらずのイケメンがいた。
「その、昨日の爆弾魔の事件だが、最後の犯人を確保したのがお前だって聞いた」
「ああうん、そうだけど」
「それで、その犯人が遠隔操作で爆弾を爆発させようとしていたことも聞いた」
「うん、そうだね」
「だからその、お前がいなければ萩原は今ごろ死んでたかもしれなかったんだ」
ああなるほど。今彼は私にお礼を言おうとしているのだと察した。ただ一言、ありがとうと言えば良いのに、どうにも言葉に詰まる松田陣平は見ていて新鮮だった。それにしても顔がカッコイイのは変わらないけど。
遠隔操作の件は私も今さっき、先輩から話を聞いてゾッとしたから分かる。きっと萩原研二と親友の彼からしたら、私が感じたものよりもずっと恐ろしい感情に見舞われたのだろうと。一歩違えば親友が死んでいたなんて、想像もしたくなかっただろう。
「でも、萩原くんは死んでないよ。だって犯人は私が捕まえた。これが私たちの仕事だから。松田くんも、萩原くんも、みんなで協力して事件を解決したんだよ」
私がそう言うと、さっきまでソワソワと落ち着きなく左右に動いていた彼の瞳が、きょとんとこちらを向いた。
え、なにその表情。松田陣平はそんな可愛い顔も出来たの?そういえばいつものサングラスは今日着けてないみたいだけど、サングラスがないとちょっと昔みたいに幼く見えて、なんだろう…カッコいいというよりは、可愛いね?
「とにかく、萩原はお前のおかげで命拾いしたんだ、だから礼を言わせてくれ。萩を助けてくれてありがとう」
コホンとひとつ咳払いをして、私の前で頭を下げるのはあの松田陣平だ。まさか、そんな勢いでお礼を言われるなんて思わなかったから驚いた。けれど、それだけ親友の命が危険にさらされたという事実が怖かったのだろう。でも、だから凶悪犯を逮捕する私たち刑事がいるのだ。私はそのために刑事になったから、こうやって面と向かってお礼を言われるのは素直に嬉しいと思った。
「私としては仕事をしたまでだけど、そういう風にお礼を言われるのはやっぱり嬉しいね。どういたしまして」
松田くんってこんなに友達想いなんだって、私の中で松田陣平の株がさらに上がったところで、松田陣平が再び口を開いた。どうやらお礼を伝えること以外にも私に用事があるらしい。
「…あと、それから俺ら同期なわけだし連絡先交換しねぇ?」
「えっ私と?」
「他に誰がいんだよ」
「それはそうだけど」
「なんだよ、嫌なのか?」
「そんな、嫌なわけないでしょ。まさか松田くんとこうして話せると思わなかったからびっくりしただけ」
「そりゃ一応昔馴染みだろーが」
「ふふ、そうだね。それじゃあこれからよろしくね松田くん」
「ああまた連絡する」
そう言ってフッと微笑み踵を返した松田陣平を見て感じるのはやはりカッコイイという事実。いつの間にあんなダンディーな笑みが似合う男性になっていたのか。
やはり警視庁でいちばんカッコいい男は間違いなく松田陣平である。異論は認めない。
あれから私は松田陣平と仲良くなった。そしてなぜか萩原研二とも仲良くなった。松田くんと初めての会話をしてから約1週間後、ようやく自宅謹慎を終えたらしい萩原研二が「お礼が遅くなってゴメンね」と高級な和菓子と共にお礼をしに来てくれて、それからなんというか、萩原くんの口車に乗せられて松田陣平を含めて3人で飲みに行った。
そうして爆発物処理班に所属する2人と私は度々ご飯を食べに行く仲となったのである。人生何が起こるか分からないものだ。そして今日も、松田くんから誘われていつもの居酒屋に集合する。居酒屋に入り案内された個室へ向かうと、そこにいたのは松田くん一人だった。
「あれ、萩原くんは?」
「今日は残業があるらしくて遅れるって」
「そうなんだ…じゃあ先にご飯頼んじゃおっか」
「そうだな」
そんな会話をしてから数十分。なんとなく、いつもより速いペースでお酒を飲む松田くんが心配になりながらも、私は黙って目の前の枝豆をつまんだ。
「なあ、お前って俺のことどう思ってたんだ?」
「どうって…?」
「いや、高校も教場も一緒だって言ったのはそっちだろ。一回も話したことないのに俺のこと知ってたから…」
「…だって松田くんたち目立ってたから」
「それだけか?」
「それだけというより、そうだな…私はずっと"いちばんカッコイイのは松田陣平なのに"って思ってたよ」
「っは?」
「…なに?その反応。自分が聞いてきたんじゃん」
「いや、お前酔っ払ってんのか」
「はあ?何それ、酔っ払ってるのは松田くんの方でしょ?」
今日の松田くんはよく喋る。いつも率先して話をする萩原くんが居ないからか、お酒を飲んでいるからか分からないけど、今日の松田くんはいつもより饒舌だった。
どう考えても松田陣平がいちばんカッコイイのに、ずっとそう思ってた。だけど私のセリフを前にして素っ頓狂な声を上げ、酒のおかげで少し赤らんだ顔でこちらを見上げる松田陣平は、少し可愛いと思った。
「男性を可愛いと思ったらね、それはもう恋に落ちたも同然なのよ」かつて私の友人は私にそう言った。途端にその友人の言葉を思い出した私は松田陣平の顔を見て首を傾げる。
「んだよ」
小さな声でそう呟いて、松田くんは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「ううん、ずっとカッコイイと思ってた松田くんが急に可愛く見えてちょっと混乱してる」
「っはあ!?何言ってんだお前!」
「ちょっと、大きな声出さないでよ」
「あ、悪い…じゃねェよ、お前が変なこと言うからだろ」
ガタガタと音を立てて席を立ち、松田くんは慌てた様子で個室の襖に手をかけた。そして「ちょっとタバコ吸ってくる」と、ひとこと残して出ていった。
そんな松田くんと入れ替わるようにして萩原くんが入ってくる。
「いま松田とすれ違ったけど、松田となんかあった?」
「え?いや何もないけど、松田くん煙草を吸いに外に出ただけだよ」
「そっか、松田がなんか変なこと言ったとかじゃないよな?」
「いや松田くんはちょっと酔ってたけど、別に普通だったよ。それより、私が変なこと言っちゃったかも」
「へー、変なことって?」
「最近松田くんが可愛く見えて混乱するって」
「あっあー、なるほどね…その心は…?」
「うーん、もしかしたら私、松田くんのことを好きになっちゃったのかもしれないと思って」
私がそう言うと、なぜか拳を天井に掲げガッツポーズをした萩原くん。急にどうしたのかと怪訝な表情を向ける私を他所に、ルンルンと鼻歌を歌いながら萩原くんは注文用のデジタルパッドを手に取った。そして「松田のやつ、多分いま相当舞い上がってるだろうな…」なんて呟きながら上機嫌でメニューを見始める。
なんで、松田くんが舞い上がるのだろうか、どちらかと言えば、萩原くんの方が舞い上がっているように見えるけど。なんて言葉を飲み込んで、私も追加のお酒を注文した。
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