全てが想定外!!
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すべてが想定外!
コロコロコロと緩やかな風とともに足元に転がってくる空き缶。コツンとつま先にぶつかってきたソレがなんとなく癇に障った。気分転換のために外へ出て来たのに、これじゃちっとも気分が晴れないじゃないかと、ユキはヤケになってその薄汚れたに空き缶を蹴りあげた。
今日、警視庁からの指示で1ヶ月の間ある賓客の警護を行っていたユキはようやくその仕事を終えた。しかしながら、やっと仕事から解放されたというのにユキはモヤモヤとした気持ちのまま。だから気を紛らわすために夜道を散歩していたのだ。
今回の警護対象はまあまあ酷い人物であった。それに伴って、今回の任務もユキにとっては本当に散々なものだったのである。杜撰なハニトラにも簡単に引っかかってしまうようなその護衛対象。あらゆる方面からの恨み妬みを買っており、道端に突っ立ってたらすぐに命を狙われる。自ら事件に巻き込まれるし、頭の足りないワガママお嬢様を護らなければならないというのに、何故か派遣された人員はユキ1人。たとえ警備のしっかりしたホテルにいたとしても、一瞬たりとも気を緩められなかった。 けれどもこの1ヶ月間、完璧にその人物を護りきったユキ。優秀なSPであるユキは見事なまでに完璧に任務を全うした。
いつもなら、あまり好きではないこの仕事もミスなくこなすことが出来れば達成感を味わえるものなのに、今回はそうもいかなかった。任務は無事に終わったけど、この任務を機に、ユキの中にある疑問が明確になってしまった。
あのワガママお嬢様のために、どうして私がここまで命を張る必要があったのだろうかと。さすがに腹が立った。上司の奴らも、あんな人物の護衛を私に任せっきりにしやがってと。もうパワハラだよこれ。というか、そもそもあのお嬢様誰?私知らないんだけど。
だいたい、私なんでこの仕事やってるんだっけ?本当なら保母さんとかパティシエとかもっと可愛らしい仕事をしていたはずなのに!
小さな街灯が並ぶ路地で子どものように地団駄を踏むユキは、点灯する明かりの下で大きなため息をついた。
(ああでも、私就活失敗してるんだったや。これしか選択肢がなかったから仕方なしに仕事してたけど…もう限界だったし、私の選択は間違ってないはず、きっと)
こうして1ヶ月の最悪な仕事を終えたあと、その護衛対象であった人物のスキャンダルをジャーナリストに売り、いっときの感情に任せてユキは仕事をやめたのである。
そして自分が職を失ったことを改めて意識したユキ。これからどうしよう...と顔を青くさせ、フラフラとした足取りで再び歩きだした。
ふと目に入ったのはいつものおにぎり屋さん。約1年前にふらりと立ち寄ったそのお店。店主が超好みだったため常連と呼べるくらいには通っているこのお店の暖簾を見るのも、およそ1ヶ月ぶりだった。
本当に、店主が良い人なのだ。背も高いし、顔もかっこいいし、性格も優しいし、雰囲気も穏やかで、その店主はもうユキのタイプドンピシャであった。
そうだ、ここ1週間のことも彼に話そう。私の愚痴をいつも聞いてもらって申し訳ない気持ちもあるけど、でも彼はいつも真剣に聞いてくれるから。あの最悪な護衛対象の話も、勢いで仕事を辞めてこれからの見立てが何一つないことも。
「それでね、その相手がホントに最悪で、女だから弱そうって私を舐め腐ってるのよ!」
「確かに、そんな人を見た目で判断するんは腹立つな」
「そうでしょ?それに、帰宅した後も散々だったんだよ。せっかく良いホテルを予約したのにさ、アイツ外へ出たいってうるさくて」
「えっ」
「え?」
ガシャンと皿がシンクに落ちる音が響いた。パチリと瞬きをするユキさんと一瞬目が合って、慌てて皿を拾って洗い直す。
「ええ、ちょっと大丈夫?」
「お、おお大丈夫やけど、 え待って、ホテル?」
「うんホテル。しかもアイツ、性格悪すぎて裏ですごい妬みを買ってるみたいで大変なのよ」
「そ、そりゃ大変やな」
「そう!本当にここ1ヶ月は大変だったの。だから、今日は仕事を辞めてきたんだ」
「な、なるほど仕事も辞めてもうたんか。そりゃ大変やな」
「うん大変だったよ」
「へーそれはまた大変やったなあ…」
「だから、新しい仕事を探しててね?」
「なるほど…それもまた大変やな…」
「治くん…なんか今日は心ここに在らずって感じだけど。もしかして、ついに私の愚痴に付き合うの嫌になっちゃった?」
「え!?いやちゃうねん。すまんちょっとボーッとしてたわ」
俺がそう言い訳をすると、具合が悪いの?と目尻を下げてこちらを見上げるユキさん。彼女の優し気なその眼差しを受けて思わずため息をついた。ほんまに、綺麗な顔を貼り付けて、そんな心配そうな優しい顔をしないで欲しい。
はあ…と小さくため息をついて、再びユキさんを見ると、サービスで付けた卵焼きを美味そうに食べてくれていた。ほんまに、飯食うとる時のユキさんめっちゃ可愛いねんで。
だから今日、1ヶ月ぶりに彼女が店に来てくれたと舞い上がっていたのに、いつも通り彼女の愚痴を聞いてたら予想外の単語が聞こえてきて動揺してしまった。
ユキさん、やっぱり彼氏おってんな…。
彼女と初めて会ったのは約1年前くらい、今日と同じように仕事でやな事があったと言って、すごい勢いでヤケ酒しとったからよお覚えてる。もう何十杯目やっちゅうくらい飲んでんのに全然酔わへんねん。そんな酒ばっかり飲んだら体調悪くなるで、と思いながら客足も少なくなってたし適当にツマミを作って出してやったのがきっかけだった。
この人、めっちゃ美味そうに飯食いよるねん。それに、よお見ると可愛らしい顔立ちしとって表情もコロコロ変わっておもろい客やなあと、そのときに思ってん。
その後も、定期的にこの店に顔を出してくれる彼女の話を聞くのがなんやかんや習慣になっとった。なんか仕事でやな事があったらしい彼女は、いつもいつも頬を膨らましながら上司の文句を垂れていた。
ユキさんはなんの仕事しとる人なんやろ。彼女と出会って数週間後にそんなことを思った。いつもいつも仕事の愚痴ばっかり言ってるけど、実際になんの仕事をしているのかは聞いたことがなかった。彼女の雰囲気的には司書さんとか、そんな優しい感じの仕事も似合うけど、上司の愚痴とかが良く出てくるし、やっぱりバリバリのキャリアウーマンやったりするんやろか。だけど可愛らしい雰囲気からはちょっとイメージがつかへんねんな。
そんなこんなで、ここ一年は彼女と店仕舞いの時間まで駄べるのが楽しみやった。これだけ愚痴を話せるくらいには俺のこと信用してくれてるんやな、とか。こうやって話しをする人は俺以外にもおるんやろか、とか。俺が話聞くだけで彼女の負担が軽くなれば良いかななんてアホみたいなことも考えてしまってた。やけど、どうやら俺の思いも今日までらしい。
にしても、仕事帰りに2人でホテル行って喧嘩なんて確かに災難やけど、やっぱりユキさん彼氏がおったんやな…。と本日何度目か分からないため息をついたとき、この遅い時間に、珍しくもう1人のお客さんがやって来た。いつもやったらユキさんと2人きりの時間やのに...と店主としてバチあたりなことを考えたかもしれないが、今回ばかりは少し有難いと思ってしまった。
いらっしゃいませ!と言いかけたとき、その客の懐から出てきたものを見て俺は咄嗟に両手を上げた。
「よお兄ちゃん、死にたくなかったら店にある金を全部この袋に入れろ」
* * *
睨み合う強盗犯と俺。拳銃をこちらへ向け、早口で要求を述べる強盗犯に、俺はいま脅されている真っ最中だ。
ほんまなんやねん今日は厄日か?そして、隣で起きてる出来事に見向きもせず、呑気におにぎりを口にするユキさんを見て焦りが止まらへんねんけど。ユキさん強盗犯に気づいてへんのか?そんな呑気に飯食っとる場合じゃなくて、アンタの横にヤバいやつがおんねん!はよ気づいて!
なんていう俺の心の声が彼女に届くことなく、呑気なユキさんの様子が気に触ったのか、彼女の方へ視線を移した強盗犯を見てさらに焦った。おい!!とカウンターから飛び出して、ユキさんを庇おうと身を乗り出したとき、ようやくユキさんの意識が強盗犯へと向いた。
その時、片手に持っていた湯呑みをトンとテーブルの上に置いてゆっくり立ち上がったユキさん。当然、犯人も突然動き出したユキさんを警戒するわけだが…。これはまずい、頼むからこれ以上動んで!と思いかけたその時、キッと強盗犯を睨んだユキさんは、向けられている銃口には目もくれず、ガシッと強盗犯の胸倉を掴んだ。
あれ?俺も状況がよおわからんけどもう一度だけ言うわ。ユキさんがすごい勢いで強盗犯の胸倉を掴んだ。
「あ〜もう!なにお前、拳銃なんか持って店に直接乗り込んで来てさ。今、私が治くんとお話してたのに…てかなんで強盗なの?強盗のくせに店への突っ込み方が適当すぎだし、そんな武器を手に入れられるくらいならもっと綿密に計画を立ててよ。これじゃ見逃すことも出来ないじゃない!」
邪魔しないでよバカ!と涙目になって地団駄を踏むユキさん。
(え、ええ〜何やっとんのや!?随分と勇敢なな行動やけど危険すぎやろ!)
そんな感じでビビってる俺とは裏腹に、俺の目の前に出てきて、真っ直ぐに強盗犯を見据えるユキさん。片手でさり気なく俺をカウンターへ押し返して避難させようとするユキさん、男前過ぎんねんけど。
あまりに突然の行動で、犯人も俺も一瞬時が止まったかのようにフリーズした。
そして数秒後、我に返った犯人が、拳銃を握り直し、再びユキさんの方へと向けた。
「なんだテメェ、突然騒ぎやがって。コレを発砲されなくなければこれ以上その口を開く…」
カチャリと、拳銃の独特な金属音が響いた。強盗犯が握っている拳銃に目を向けて、ひとつ不思議なことに気がついた。
(強盗犯の手元めっちゃ震えてる。てことはさっきの金属音、犯人が拳銃をいじった音ちゃうんか。それじゃあどっから聞こえた音や…)
そうして強盗犯ではなく、堂々たる佇まいで強盗犯の目の前に立つユキさんを見た俺の視界に映ったのは、ユキさんの懐から出てくる拳銃。
は、何でみんなそっから拳銃出てくんの!?
「お前こそ強盗なんて諦めた方がいいよ。ほら発砲したければしてみれば?でも、もしそんなことしたら私も正当防衛しないといけなくなるけどね?」
そう言いながら彼女は強盗犯の額に拳銃の先を向けた。震える手で拳銃をユキさんへ向ける強盗犯。そして威圧的な目で強盗犯を睨み、少しも怯むことなく拳銃を構えるのがユキさん。
あれ、なんか逆じゃない?いつの間に立場が逆転したんや?いやもとからユキさんは少しも怯んでなかったような、ん?いや待て最初から何かがおかしい気がする。
彼女が一歩前へ出ると強盗犯が一歩引き下がる。そうして口角を上げたユキさんは、一瞬犯人と距離をとったあと、犯人に向かって右足を振り上げた。無駄のない綺麗なハイキック。それによって犯人が持っていた拳銃が宙を舞い、店の壁にぶつかった。
ユキさんに蹴られた手が痛むのだろう、片手で負傷した部分を抑えながら悶える犯人。そんな犯人を見てユキさんは呆れたように口を開いた。
「も〜、やり方が色々雑なんだよ!なんで撃つことも出来ないのに拳銃持ってきたの?そんなんだから強盗犯はみんな捕まっちゃうんだよ全く。ああほら、警察が来たから」
こうして、いつの間にかやって来た警察に、犯人を引き渡すユキさん。いつ通報したんやろか。
そして1人の若い警官がユキさんの顔を見るやいなや目を輝かせて彼女に近づいた。
「あれ?ユキさんじゃないですか!なんでこんなとこに」
「お疲れ様ですユキさん」
「ああえっと…確か山田くんと佐藤くんだっけ?お疲れ様、じゃあソイツよろしく」
「は、はい。ご協力感謝します!それと私は橘で、こっちは水上です!」
「ああそう…じゃあ2人とも頑張って」
「はい!ありがとうございます!」
目の前の光景を眺める俺はなんとも間抜けな顔をしてることだろう。
いや待って?なんなんこれ、ユキさんって警察官やったん?まあまあ解釈違いやねんけど、にしてもさっきのはカッコよすぎやって、強盗犯目の前にして堂々とし過ぎやろ。
警官たちが強盗犯を拘束してパトカーへと連行する。その際に先程の若い警官がユキさんの名前を呼んでビシッと敬礼をした。ハイハイとそれを適当に受け流すユキさんを見ながら、俺はパンクしそうな頭を抑えた。
「自分、警察やってんな。それにしても随分と慕われとるみたいで」
「まあ、私はあんまり覚えてないんだけどね」
「なんや、薄情な先輩やな」
「そんなこと言われても…部署も所属も違う人のこといちいち覚えられないよ」
「そんな色んなとこから慕われてるっちゅうことは、自分は相当上の立場やったんちゃう?」
「まあね、私めちゃくちゃ優秀だから。
.....ところでさ、私さっき超カッコよくこのお店を護ったわけだけど」
「ん?そらまあめっちゃカッコ良かったけど...」
「でしょ?それで、私を雇ってみようとは思わなかった?」
「は?き、急に何言うとんのや」
「わ、私はけっこう本気なんだけど、私めっちゃ強いんだよ?しかもめっちゃ可愛いし、おにぎり宮の専属SPとしては申し分ないでしょ?」
「自分言ってることめちゃくちゃやな。そもそもウチで専属SPなんて募集してないで」
「…」
「それに、そんなに優秀ならもっと他に向いてる仕事もあるやろ?こんなちっぽけな店なんかよりもっと」
「…私、今日ニートになったんだ」
「ま、まあそれはさっき聞いたで。やから、警察っていうキャリアのある自分ならもっと...」
「わ、私めっちゃバカなの!」
「うわぁ!急に声が大きくなったな。めっちゃビビったわ」
「私、色んなとこで面接受けたのに、唯一受かった就職先がSPだったんだよ?」
「それはそれですごいな」
「でしょ!だから、私を今から専属SPとして」
「待て待て、なんでここでもSPなん?さっきも言った通りSPは募集しとらんねん」
「…」
俺がそう言うと、ガックリと肩を落としあからさまに落ち込むユキさん。えーそんな…とついに座りこんでしまったユキさんを見てキュッと胸が傷んだ。なぜか酷い罪悪感だ。
ちょっと待ってくれ、いきなりのことで頭が追いつかん。なんだ、強盗犯が現れたと思ったらユキさんが助けてくれた。そんでユキさんの職業が警察やってことが判明して、ユキさんはめちゃくちゃ後輩に慕われている。ここまではわかったけど…。
目の前できゅるきゅるした瞳でこちらを見るユキさん。ここで働かせてください!とどこぞのジブリで聞いたようなセリフを言いながらアピールをしてくる今の状況がさっぱり理解出来ない。
いや、なんか思ってた展開とちゃうねん。確かに、ユキさんと一緒に働けたらなとか妄想したことはあったし、そんなに会社の愚痴言うなら辞めてウチで働けばとか思ったことが無いわけではない。
だけどちょっと状況が思ってたんとちゃうねん。こんな形で近づくとは思わんやろ。もっとゆっくり信頼関係を築いて、仲良おなって…じゃなくて、ちゃうやろ彼女には彼氏がおるってさっきわかったやんか。何考えとんねん俺。
「そこまで言うんなら俺やなくて、彼氏に頼ったらええやんか」
「は、彼氏?」
「おん、さっき喧嘩した言うてたけど、ちゃんと仲直りして、俺のとこやなくてソイツのとこ行ってやれや」
「え?な、なんの話?私彼氏なんていないけど」
「え、そうなん?」
「うん、全然。むしろいた事もないけど」
「でもさっき彼氏とホテル泊まった言うてたやんか」
「ええ!?そんなこと言ってないよ!ホテルは仕事で行ったんだよ?それに一緒に泊まったのはあのワガママお嬢様だし」
「そ、それほんまか?」
「うん、ほんとやで?」
「せやったら...」
この流れに便乗するのもありかもしらんな。ユキさんの言ってることの2割も理解できてないし、思ってたよりも急展開やけど、これは本当にチャンスなのかもしれない。
ユキさんと俺は所詮ただの店員と客という関係にすぎないはずや。だから気味悪がられないように慎重に距離を縮めていこうなんて思っとったけど、こんなチャンスをみすみす逃す奴はおらんやろ。
「最近この店も軌道に乗ってきてんのは事実やねん。だからもう1人くらい従業員がおってもええなあとは前から思っててん」
「ということは...」
「ということは、おにぎり宮の店員としてなら雇ってもええっちゅうことや」
「ほ、ほんとに?」
「でもちゃんと、仕事は覚えなあかんで」
「うん!頑張る!」
「後からやっぱ嫌や言うのもなしやで?」
「うん!なし!」
「せやったら、明日からよろしゅうな」
「うん!ありがとう店主!大好き!」
「大好きはけっこうやけど、店主やなくていつもみたいに治くんって呼んでや?」
「うん、ありがとう治くん!」
天性の運動神経を得たユキは、幼い頃から柔道や空手、剣道などの習い事をさせられていた。そして、無事に運動能力だけが取り柄の脳筋バカに育ったユキは、高校卒業後の就活に失敗した。泣く泣く就活浪人となることを決意したユキ。しかし1週間後、警察官の何やらかなり上の立場で働いているらしい父親から伝えられたことにユキは困惑した。
なぜか警察学校の試験をパスしたことになっていたユキはSP候補生なるものになっており、翌日から訓練が始まった。そして約半年後、比類なき才能を発揮したユキは見事に逮捕術、格闘術、射撃術を身につけSPとなったのだ。
うん、なったのは良いけど、本来自己犠牲精神など持ち合わせていないユキに仕事を続けるのには限界があった。オマケに追い打ちをかけるように回された最悪の賓客の護衛。なんでこんな奴のために身体を張らなけれればならないのか。ユキには心底意味が分からなかった。そう思ったユキは、ついに今日、衝動に駆られて退職を決めてしまったのである。
これからはノープラン。完全に仕事がなくなってこのままではニートになってしまうことを悟ったのが今さっき。そしてフラフラと夜道を徘徊していたときに、閃いてしまったのである。そうだ彼のところに転がりこもうと!
そして、見事に治の店に転がり込むのに成功したユキは、満足気に持っていた拳銃をクルクルと回して懐に仕舞う。
そして、はたと何かに気がついたユキは、自分の手元を見て瞬きする。
「あれ、私なんで拳銃まだ持ってたんだ?返すの忘れてたや」
後日
「おはよう!治くん!」
「おはようさん。えらい早い出勤やな」
「今朝、店前で吐瀉物をぶちまけようとした酔っ払いがいたので処理しておきました!」
「待て待て、処理ってなんなん?ユキちゃん暴力振るったわけやないよな?」
「まさか!適当にシメて近くの交番に突き出しましたよ」
「な、ならええけど…ほな仕事について教えたるから、はよ店に入り」
「うん!よろしくお願いします店主!」
すべてが想定外!
「なあツム、俺専属SP雇ってん」
「は?なに言うとん、ついにアホになったんか」
「あ?ほんまのことやで。めっちゃ可愛らしくてかっこいい従業員兼SPがウチに来てん」
「なんやお前キモイな。拗らせて変な妄想始めたんか。にしてももうちょい現実的な妄想しろや。どこからきた設定やねんそれ。おにぎり屋にSPって...発想が独特すぎやろ」
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