俺の推しカップル
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「ユキ、おはようさん」
そう言って机に突っ伏して眠る神楽ユキという少女の頭を優しい手つきで撫でているのは、北信介という男。実は機械なんじゃないかと誰もが一度は疑うほどの隙なし人間で、基本的に表情の変化も見られないようなこの男が、目の前の少女に向けてものすごく優しい表情を浮かべている。
最初こそ目ん玉が飛び出るかと思うくらい驚いたが、毎日のように見ていたら慣れた。このカップルを見守ることは最早、俺の日常の一部と化していた。
というより、このクラス全体で2人を見守っているといっても過言ではない。
そして、何故この2人が俺の推しカプなのか。
・北信介のギャップ
・いじらしいほどの純愛
・羨ましいくらいの美男美女
・既に婚約まで済ませている
・程よいバカップル感
などなど…理由をあげればキリがない。
「んん…あ、しんすけおはよう」
「おはようさん、具合悪ないか?」
「うん」
「そうか、登校中に変なやつ絡まれたりとかせんかったか?」
「うん、大丈夫だよ」
これもいつもの光景。ちょっと過保護な気もするが、ユキちゃんを思う信介の気持ちを知ったらそんなことも言えなくなってもうた。
ユキちゃんは小学生の頃に大きな病気を持って大変な手術をしたことがあるらしい。今は普通に暮らせているけど小さな頃から一緒に過ごしている幼馴染の信介からしたら心配で仕方がないのだろう。しかも、そんな自分に自信がなくて信介に迷惑やないかとか思ってまうユキちゃんを安心させるために婚約までしたとか、こんな想いあってるカップル、もう推すしかないやろ!!というわけで今日も今日とて俺はこのバカップルを見て癒される。
あーもうすぐ1限が始まってしまう…。
俺は最後にもう一度推しカプを拝んで自分の席に戻った。
「じゃあ昨日の小テストの結果からな」
うわぁ、昨日小テストやったん忘れとったわ。なんやいつもより難しくて全然できんかったから記憶消してもうたかもしらんな。
いや、ほんまむずかってん。クラスの奴らも小テスト帰ってくることにざわついとるし。点数半分いかんかったら再試せなあかんからな。
お願いします!どうか半分取れてますように。ってなんで20点満点の小テストにこんな気い張らんといけんのや。
「お前ら部活も恋愛も良いけどな。勉強もっとちゃんとせなあかんで。北と神楽を見習え。今回も満点やったんは2人だけや」
ああ、せやった。こいつら勉強もできんねん。頭良いバカップルとかなんなん。最強かよ。
ということで先生からも好評の稲高カップル。俺はそんな2人の貴重な親友枠として日々を楽しんでいる。
—見つけた初紅葉
「北さんって笑うことあんねやろか」
「何言うとんねん、月バリのインタビューで笑ろてたやろ」
「いや、お前ちゃんと見たか?目がぜんっぜん笑ってへんかったで」
「まあ確かに北さんって微笑むとかイメージないよな」
部活終わり、部室で駄べりながら着替える2年の話に耳を傾ける。信介は意外と冗談も言うし笑うと思うけどな。双子がやらかしまくるおかげで冷たい目になっとるだけやろうな。でもまあ、信介のあの笑顔…あれを引き出せるんはユキちゃんしかおらんだろうなあ。
「アランくん!アランくんは見たことあるか?北さんの笑顔」
「え?いやまぁあるけどや」
「あるんか!?あの北さんの笑顔やぞ!ちゃんと心から笑っとる姿!」
「いや北は普通に笑うで」
「嘘やん!ほんならアランくんが笑わして見てや!」
「え!?そんなん急に言われたって無理に決まってるやろ!」
「なんっっでやねん!」
「おい、お前ら喧しいで」
おい!双子が騒ぐから俺まで怒られたやないか。でもまあ、確かにこれじゃあ信介の笑顔は見れんわな。
「北さんすんません!ところで北さんちょお笑って見てくださいよ!」
「おい侑やめえや」
「何言うとんのや、早よ着替えて帰りや」
侑の言葉を無視し、真顔のまま着替え始める信介。ぐぬぬぬぬとしかめっ面をする侑。お前のその勇気だけは褒めたるわ。
・
「ちょおサム!あれ見ろや!」
「おいツム!なんやねん押すなや!」
「いやあれ北さんやろ」
「それがどうしたんや」
「いや見ろて!北さんが微笑んどる」
「…ほんまや」
弁当が足りんくて食堂に来たわええけど、とんでもないもんを目撃してしもうた、と双子はその場で足を止めた。
((購買で、心なしか柔らかい表情でパンを買うとる北さん。スタスタとアランくんたちがおる席に行って、買ったパンを"笑顔"で誰かに手渡した...))
北の行動を目で追いながら心の声を一致させる双子はパチパチと二度瞬きした。そう、今さっき北さんは"笑顔"で手渡した。誰に渡したかは大耳さんに隠れて見えへんかったけどバレー部の人やないよな...と双子は顔を突き合わせた。
「ツム、北さんめっちゃ優しい笑顔やった」
「せや、でも誰に向けての笑顔やってん!」
「大耳さん立ってくれへんかな」
「双子何やってんの」
「角名と銀や!ちょおあれ見て!」
「え、あれまじ北さん?」
「めっちゃ優しい顔やな」
「せやろ?北さんたちと一緒にいる人って女子か?」
「え、女子?俺上手く見えへんねんけど」
「多分。背が小さいし、あれネクタイじゃなくてリボンでしょ」
「ほんまや!彼女さんとかなんかな」
「彼女!?おい銀!冗談はよせや北さんに彼女ってどないなっとんねん!」
「いや、侑それは失礼すぎ」
「あ、北さんこっち見た」
「あれなんか近づいて来てね」
「お前ら、ここは食堂や。少しは周りの迷惑考えて喋れんのか」
盛り上がってた2年の空気が一瞬にして凍った。お前が謝れや!と目を合わせて肘をつつき合っている双子は本当に相変わらずである。
(なんやねんサム!さっきの北さんの目!怖すぎやろ!なんで!?さっきまでの優しい笑顔は何処へ!?)
(俺に聞くなアホツム!にしてもめっちゃ気になるなあ!ここまで来て笑顔の正体が分からんて、悔しすぎる...!)
・
「アランくん!食堂に一緒におったやつ誰!」
「北さんが微笑んどったのを見たんや!」
放課後、体育館に来るやいなや鬼の形相で俺に向かってくるのは双子。今度はなんやねん。双子揃って顔やばいことなってんで。
食堂で一緒におったやつ?誰のことや?確かに今日は教室やなくて食堂でお昼を食べてた。なぜならユキちゃんがクリームパンを食べたいと呟いたからだ。
食が細いユキちゃんをいつも心配しとる信介がユキちゃんの呟きを聞いた瞬間立ち上がって食堂に走った。驚いて着いて行こうと走るユキちゃんを止めて一緒に食堂に行く。そしたらちょうど大耳と赤城がおって少し雑談をしてたらクリームパンを片手に信介が俺らのもとへ戻ってきた。
信介がクリームパンを渡すと、ユキちゃんが花が咲いたように可愛らしく笑った。それを見た信介も嬉しそうに笑ってユキちゃんの頭を撫でて一緒にクリームパンを食っとたなあ。
…もしや微笑んどったっていうはこのことやろか?
「もしかしてユキちゃんのことか?」
「ユキちゃん?誰やソイツ」
「信介の彼女やで」
「なるほど北さんのかの……?」
「「彼女おおおおおおお!?」」
「うっさいわ!」
こいつら黙ることを知らんのか。信介早よ来てくれ。というか、2年はユキちゃんのこと知らんかったんか。まあ信介とユキちゃんを初めて見たらそりゃ驚くやろな。双子が余計なことせんとええけど。
「そいつどんな人なん?」
「可愛ええんか?」
「お前ら、ほんま信介に怒られても知らんで。まあ、ユキちゃんはいつもバレー部見学しとるから2階見たらおるんちゃうか?」
「おい、サムわかったか?」
「わからんて、女子っていう手掛かりしかないねんで」
「ガチでわからん。ギャラリーにはいつも人がぎょうさんおるし、ほとんど女子や。こんな中見つけられるわけないやろ!キャーキャー騒ぎよって喧しいわ!ほんまにこん中に北さんの彼女がおるんか?」
「うーん角名!」
「なに?そのユキさんって人は知らないけど」
「銀!」
「俺も知るわけないやろ!北さん見てればわかるんちゃうん?」
「ええなあ!それ」
「確かに北さん見とれば分かるかもしらんな」
「北さん、スコアボードを見ながら休憩をしてんで」
「そんなん見ればわかるわ。てか全く表情動いてへんな」
「はよギャラリーの方向いてくれんかな」
「あ、北さんと目が合った」
「ちゃうで北さん、こっちやなくてギャラリーの方を見て欲しいねんて!」
「侑、何か用か」
「え、あ、いや」
「なんやはっきりせえ」
「えっと、ユキちゃんはどの人ですか!!」
「ブフォ」
「おいツム!それは急すぎやろ」
「なんやユキのことか、ユキならそこにおるで」
信介が示す方向へと一斉に目線を向ける二年。それにつられて俺も顔を上げて二階席を見ると、騒がしいギャラリーから少し離れた席でちょこんと座っているユキちゃんを見つけた。彼女がこちらに向かって小さく手を振るので信介の方を見ると、案の定めっちゃ優しい顔して手を振り返している。ほんま可愛いカップルやで。
信介のユキちゃんに向ける表情を見た侑がカチンっと音が着きそうな勢いで固まった。他の2年も同時に目を見開いて固まっている。なんかちょっとおもろいなあと思いつつ、とりあえず休憩が終わるので侑に声をかけると、侑はそのまま崩れ落ちた。そして、体育館の床をバンッと叩きながらバカでかい声でこう叫んだ。
「尊すぎるやろっ!!!!」
侑のその叫びに全力で同意する2年。
うんうん2年共、その気持ち分かるで。
ついにお前たちも信介とユキちゃんカップルの尊さに気づいてしまったか。
これはまた、部活が騒がしくなりそうやな。
俺の推しカップル
見つけた初紅葉
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