運命の番
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夜更け。
少女の寝息だけが響く静寂のなか、ルナは椅子に腰を下ろしたまま、ずっと彼女の手を握っていた。
細く、冷たい指先。それが少しでも温もりを取り戻していることに、胸の奥でほっと息をつく。
部屋の扉が小さく叩かれる音がして、騎士のオーウェンが姿を現した。グラディウス公爵家の部下の中でも腕の立つ優秀な諜報員である。
蝋燭の光に照らされたその顔は、何か重たい報せを抱えた気配を帯びているようにみえる。
「閣下。小国〈エルネア〉についての続報をお持ちしました」
「……ああ、ミアが眠っているから声を落としてくれ」
ルナが視線を少女から離さぬまま低く言うと、オーウェンはうなずき、手にしていた書簡を開いた。
「我々が地下牢を襲撃した件で、国は現在大混乱に陥っています。牢の衛兵たちは全員が意識不明、出入りの記録は焼失。もちろん、それらは我々の仕業ですが…どうやら奴らは、御番様が消えたことに対して不思議なほど動揺しているようです。今では国を挙げての捜索が始まっています」
オーウェンの報告に、ルナは眉をひそめた。
指先が、少女の手を無意識に強く握る。
「国を……挙げて?」
「はい。貴族だけでなく、王直属の諜報部までが動いているようです」
「……牢に繋がれていた、ただの幼子ひとりにか」
ルナの声には明らかな疑念が混じっていた。
あの光景――鎖に繋がれ、尊厳を奪われた彼女の姿を思い出すたび、怒りと共に、言いようのない不気味さが胸を占める。
彼女はエルネアにとってそこまで重要な存在であったのか。だが、それにしてはその扱いはあまりにも酷いものだった。
「なぜだ……。なぜミアがそこまで特別視されている」
「それを探っておりますが、御番様が牢にいた理由については限られた者しか知らないようです」
オーウェンは一瞬、言葉を詰まらせた後、視線を落とした。
「ただ……ひとつ、気になることがありました」
「気になること?」
「はい、御番様の出生についてです。我々も御番様は外見的な特徴から人間だと思っておりましたが、どうやら妖精族の血を引いているようなのです」
「なに、妖精族だと?」
「はい…」
寝台の上で眠る少女の頬に、やわらかい灯の光が揺れている。寝台に横たわる少女の寝顔を見ながら、ルナは頭を抱えた。
「……そうか」
かすかな声で呟き、ルナはゆっくりと立ち上がった。少女の髪を撫でながら、静かに言葉を続ける。
「ご苦労だった、オーウェン。調査は続けてくれ。
彼女がなぜ牢にいたのか――そして、エルネアが何を隠しているのか、必ず突き止めろ」
「はっ。必ずや」
オーウェンが頭を下げて部屋を出ると、静寂が戻った。
ルナはもう一度、少女の手を取る。
生まれてからずっと、暗闇の中で生きてきた少女…己の唯一。
その存在を、ようやく掬い上げられたことが、どれほどの奇跡なのかを噛み締めるように、彼は目を閉じた。