運命の番
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公爵邸での生活に少女が慣れ始めた頃、レナードからようやく湯に浸かる許可が下りた。
ルナはその報せにほっと息をつく。これまで身体を拭うことしかできなかった彼女も、ようやくゆっくりと身体を暖められる。
夕刻、湯が張られた浴室には白い蒸気が立ちのぼり、石造りの床を柔らかに包み込んでいた。
ルナは薄手の布を少女の肩に被せ、そのまま布ごと抱き上げる。そうして静かに湯殿へと運んだ。
初めて見る湯気と水面に、少女の瞳が大きく揺れる。
湯に触れたことなど、きっと一度もなかったのだろう。
湯気が肌に触れるのが怖いのか、小さく肩を震わせている。
「大丈夫だ、これは怖いものではない。痛くもしない」
穏やかに言いながら、手桶ですくった湯を、そっと少女の足先に垂らす。
途端に、小さな吐息が漏れた。湯の感触に驚いたようで、足を引っ込めようとしたが、ルナの手に包まれてすぐに動きを止めた。
彼女の視線が、恐る恐る湯面に落ちる。
「ほら、君の肌が冷えてしまわぬように」
もう一度、少しだけ多く湯を流す。
しばらくすると、少女の表情の強ばりがわずかに緩んだ。
次第にお湯にも慣れてきたのか、緊張していた少女から体の力が抜け、いつの間にかその身を完全にルナへと預けていた。
湯に身を沈めると、少女はすぐにルナの首に巻き付き、そのまま身を寄せ、ルナの肩に頭を乗せる。
無意識なのだろうが、甘えるようなその仕草にルナは脳が焼けるような喜びを感じた。
こくりと少女の頭が揺れる。ルナの胸に頬をつけたまま、少女が眠そうに瞬きをすると、ルナは少女を抱き上げ、用意していた布で丁寧に水気を拭き取った。
彼女の身体は湯の温かさを残して柔らかく、長い包帯の下には新しい皮膚が少しずつ再生しているのがわかる。
ベッドに座らせて、少女の右足を掴み、薬を塗るために古い包帯を外す。
彼女の両足首には痛々しい傷がある。もっと正確に言えばアキレス腱の位置に、剣で切られた横一線の傷があった。それは少女がもう二度と正常には歩けないことを意味している。
片手で包み込めるほど小さな足を撫でながら、ルナは自身の無力さに唇を噛み締める。ただ、少女だけはルナが怒りに震える様子に首を傾げ、ルナの顔をじっと見つめていた。
「痛むか?」
問いかけに、少女は首を横に振る。
その返答にほっと息をつきながらも、少女の足をこれ以上傷付けぬよう、慎重に包帯を巻き直す。
その間、少女は静かに目を閉じ、時折、くすぐったそうに肩を震わせていた。
すべてを終え、手を離した時、少女がそっとルナの服を掴んだ。
ルナはハッと目を見開く。少女が弱く今にも折れそうな指でルナの服を掴んでいる。大きな丸い瞳が何かを求めるようにじっとルナを見つめている。
それはルナの手が離れて寂しかったからだろうか、それともルナに何かを求めて伸ばした手かもしれない。
ただ唯一言えるのは、少女が自らの意思で行動を取ったのはこれが初めてだった。
胸に込み上げてくる愛しさを噛み締めて、ルナはその小さな手を包み、囁くように言った。
「……ああ、そうだ。君はもう独りではないよ」