だんだんと花が咲き、春が始まる
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高校時代の同級生、部活仲間でもあった双子から遊ぼうと誘われたユキ。正確に言えば先月稲高メンツと集まった時に来られなかった侑が拗ねてるからと、治から相談されたことに起因するのだが…。昨晩東京から兵庫まで帰ってきたばかりにも関わらず、ユキは朝早い時間の電車に乗るために忙しなく支度をしていた。
「ユキ昨日帰って来たばっかやろ。今日もどっか行くん?」
「双子と遊び行ってくる、昨日誘われてん」
「…そおか、遊ぶのはええけどちゃんと休むときは休まなアカンで」
「わかっとるよ」
新大阪駅、西改札、待ち合わせの駅前でぽけーっと空を眺める治を傍目に、ユキはちらりと腕時計を確認する。
「ほんまごめんな、ツムのせいで」
「ううん、まだ時間には余裕あるし大丈夫やろ。それよりちょっとそこの雑貨屋見てきても良い?」
「ほな俺も行くわ」
侑の合わせてわざわざ兵庫から大阪まで来てやったのに遅刻とは何事だ。
大阪に到着して早々に据わった治の目を見て、ユキは自分の発言を後悔した。気を使いながらも苛立ちを隠しきれていない治を見てユキは思う。ほんまに、キレてるときは治の顔のが割増で恐ろしいわ。
とわいえ、普通にキレられても面倒臭いので、ユキは治の意識を逸らすため雑貨屋へ行こうと提案した。
「なあ、この透明の地球儀かわええと思わん?」
「おん、かわええ……のか?」
淡い青色と金色、ユキは気に入った2つの地球儀の置物を手に取って、治の目線まで手を伸ばす。すると治は微妙な反応をした。
治にはユキの手にある地球儀の可愛さはよくわからなかった。でもユキが可愛いというなら可愛いのだろう。そもそもユキの芸術的な価値観は高校生の頃から独特だったし、治はユキの持つ価値観に理解ある男でありたいので今更ツッコむなんて野暮な真似はしないのだ。そのことを分かっているユキは何も隠しきれてない正直な治の反応を見て楽しんでいる。
「あ、ツムようやく来よったわ」
ふと窓の外を見た治が侑の姿を見つけて呟いたので、ユキは待ち合わせ場所に戻るために持っていた地球儀を棚に戻す。名残惜しそうに数秒地球儀を見つめて、ようやっと歩き出すユキ。「はよ行こや」と治の腕を掴んで早足で進もうとするユキだったが、治がその手を逆に引くので驚いて足元がふらついた。
「そんな急いだやユキコケてまうやろ」
「私そんなドジなキャラやったっけ?」
「せやで。やからお前はいつまでも俺らに頼っとけばええねん」
「私はあんまし人に頼らんタイプやけど」
「せやから言うとんねん。俺らに"だけ"甘えとったらええやんか」
「…?何言うとんの」と治を見上げるユキ。治がその小さな頭に手を乗せてくしゃっと撫でればユキはまた不思議そうに治を見た。
なんなんだいったい…。とユキは治の行動に文句のひとつでもつけてやろうと思った。しかしその前に侑の「おい!お前らイチャイチャしとんちゃうぞ。俺が来見えてへんのかい!」というバカでかい声がユキと治の耳に届いた。
「おい、遅刻したやつは黙っとれや。今ええとこやったやろ」
「せやから止めたに決まっとるやろ。サム、ユキはアカンで」
「わかっとる」
まじで侑うるさ、と思いながら揃った双子を見てユキはカメラを構える。この光景も久しぶりで懐かしい。非常にエモい光景であったので、太陽をバックに加工アプリで狐の耳を付けた双子を撮影したユキは「信介組」と呼ばれる旧稲高男バレのグループLINEに送っておいた。
(やっぱ双子の言い合いがないと物足りひんよな)
* * *
「あ、信ちゃんと倫太郎から返信きとる」
侑のススメで入ることにした某お好み焼き屋店内、案内された座敷に着くとユキはスマホ画面に通知が2件来ていることに気がついた。「え、ユキいま双子といるの?」という角名のコメントと、「元気そうでなによりや」という信介のコメント。2つのコメントを眺めていれば続いてピコピコとグループLINEが賑やかになっていく。
「は?なんやねんさっきからうっさいわ」とテーブル脇に置いてあるスマホを見る侑。律儀にグループLINEの通知をオンにしている侑はようやく自分の写真が送られていることに気づく。
「俺撮るならもっとイケメンに撮れや」
「侑はもとからイケメンやし気にせんでええやろ」
「おう、まあせやな…」
「なに照れとんねんキショ、ユキは何頼む?」
「あー、チーズ豚玉ともち明太子のやつで」
「おおええな、ほんなら俺は…」
侑の小言を適当に躱しつつ、治から渡されたメニューを見ていちばん人気そうなものを選ぶ。双子もそれぞれ自分の注文を確定して賑やかに待機していれば、最初に運ばれてきたのはユキの頼んだお好み焼きだった。
しかしどうしてか、ユキの前に置かれたチーズ豚玉の皿を侑が横取りした。
「あ、それ私が頼んだやつやで」
「待て待てユキ、ここは俺に任せてみ。ごっつ美味そうに焼いたるわ」
「ほんなら任せるわ」
じゃあ私はこっちでも焼くか、ともう1つのもち明太チーズの皿を持とうとすると、今度は横から治にかっさらわれた。
「治、それも私のやけど」
「そんなん知っとるわ。俺がツムより上手に焼けるとこ見せたる言うとんねん」
私も焼きたいねんけど、お好み焼きを焼いている双子の横でポツリと呟くユキに、「ほんなら俺の焼いたらええやんか」とハモる双子。結局双子のぶんのお好み焼きを全て焼くことになったユキは最終的に後片付けまで任せられる羽目になり、鉄板をいかに綺麗に掃除できるか、ひとりで夢中になっていた。
お好み焼き屋から出てふらふらと歩いていると、通天閣の前を通り過ぎた。せっかくやし友人と遊んだアピールでもしとくか、と侑が言うのでその場で記念撮影が始まった。
「は?ユキ舐めとんのか。なんでサムとの距離のが近いねん。もっかい撮るで」
「は?ユキなんでツムの方寄ってんねん。もっとこっち寄れや。ツム、もっかい撮ってや」
「嫌や」
「は?なら俺が撮る」
「もうええやろ、さっさと次のとこ行こや」
「おいツム!!」
ああ、始まってもうた。とユキは心の中で呟く。これだから双子と写真撮るのは嫌だ。毎度喧嘩して中々撮影が終わらないのはわかってたのに。
「ちょお、こんなとこで喧嘩しやんで。もう私が撮るから2人とも私に寄ったらええやん」
面倒くさいのでユキがそう言えば、ええな、と揃って喧嘩を止めた双子はそのままぎゅっとユキを両サイドから挟んだ。え、なに、私のことサンドイッチの具材かなんかだと思ってる?マジで潰れるんだけど。と愚痴るユキだったが、双子の圧力が強すぎる挙句、ユキの抵抗などガン無視していこうという態度が見えたので諦めた。
カシャっと撮影して確認すれば良い笑顔の双子と窮屈そうな顔をしているユキがいた。気に入らないのでユキが再撮影を望めば、またも双子がお互いの写真映りで言い争いを始める。
2人の喧嘩をBGMとして脳内で処理し無視し始めたユキ。そっと2人の間を抜けてカメラを構える。
なんやの、今日集合してからずっと喧嘩してるやん。と呟きながらユキはじんわりと胸に広がる懐かしさに浸る。ユキは宮双子が大好きである。高校3年間、嫌というほど双子に構われてきたのだ。そんなの嫌いになれという方が無理に決まってる。
いまさっき撮った写真を見て、「俺の方がイケメンやな」と自画自賛する侑を呆れた顔で見る治。
ああ今日は治の方が侑のウザさに根負けしたか、なんて思ってユキも撮ったばかりの写真を見る。「やっぱどっちもかっこええけどな」とユキの口から零れた言葉に双子は揃って黙り込んだ。
ああそうだ。イケメンと言えば。ふと先日出会った赤髪の美人を思い出したユキ。そしてユキの口から飛び出した話に双子のテンションは一気に荒ぶることになる。
「せや、2人とも聞いてや。私な、この間とんでもない美人に会ってん」
「はあ!?!?誰やソイツ男か!?」
「うん、男の人」
「「はあ!?!?」」
「せやから都会は気を付けろ言うてんねん!!」
「まさかソイツと友達になったとか言うんちゃうやろな!?」
ガタガタを肩を掴んで揺らしてくる双子。けっこう容赦なく揺らしてくるので酔いそうだ。それに耳元で叫ばれるのも最悪、鼓膜破れそう、勘弁して欲しいよ本当に。
(あーあ、今日も双子がうるさすぎてかなわんわ。信ちゃん助けてや〜)
「おいユキなにニヤついとんねん、キショいで」
「うわ、ライン越え発言や。やから侑モテへんねん」
「ほんまそーゆーとこやでツム。さすがに女子に言うセリフちゃうやろ、お前の方がキショいわ。人として終わっとんで」
「おい、サムの方が言い方キツイやろ…」
ーーーーおまけ、宮治から見た双葉ユキ
双葉ユキという女は、高校の同級生で、同じ男子バレー部の仲間。そして俺ら双子にとって特別な存在のひとつでもあった。
可愛らしい顔の割には淡白な性格をしていて、自由気ままなタイプのユキは癖の強い侑と相性が良かった。なんと言っても侑の圧に負けない意志の強さを持っていたから。そんなユキに治は少し興味が湧いた。だって、初対面で侑にあれだけ動じない女子なんか珍しかったから。侑の態度を見て、怒るわけでもなく、ビビる訳でもなく、ただただ不思議そうにしていたユキがひどく印象的だった。
侑と治が将来のことで大喧嘩したあの日、俺は侑とユキが何やら言い合っている場面を目撃した。体育館裏の階段で不貞腐れてる侑に、ユキがゆっくりと近づいて座る。こっちに来るな、と言わんばかりに侑はギロリと睨みを効かせるが、ユキは全く気にすること無く侑に話しかけた。
「私、侑の生き方好きやわ」
「は?なんなんそれ、俺の事なんも知らん癖に適当なこと言ってんとちゃうぞ」
「侑こそ何言うてんの、私がお前のこと知るわけないやろ」
「あ?」
「ただ、私は自分に正直に生きる人間が好きやねん」
「は、そんなん当たり前やろ」
「なんや、分かっとるやん」
「侑はかっこいいで」
「そんなん知っとる」
「あっそう。じゃあ、治のなにが気に食わへんの」
「あ?」
「自分のこと周りが理解してくれへんのは当たり前やのに、なんで侑は治に自分の意見通せると思ったん?」
最初は、ああ侑のことも慰めに行ったんやなあと思った。ユキは俺のことも侑のことも好きやから、どっちも放っておけなかったんやろなって。でもそうではなかった。突如として、北さんばりのストレート正論パンチがユキから侑へ飛んでいった。物陰でその様子を伺う治は、ユキの問いかけに目を点にして黙り込む片割れの顔が面白すぎて笑い声を殺すのに必死だった。
「私は治の夢、めっちゃ応援してる。もちろん侑のバレーボールもな」
「侑は?治の夢、応援せんでええの?」
「…してる」
「なんて?」
「応援しとるに、決まっとるやろ!!!」
「ははっ侑うるさすぎ。まあ、それだけ叫んだら治にもちゃんと届いてまうな」
後日、なんで侑にあの話をしたのかと問えば、ユキは「やって、私治のご飯食べたいねんもん。侑マジで余計なこと言わんといてって思ったわ」なんて真顔で言うものだからマジかコイツと思った。それでこそ俺たちのユキである。
別にユキの言葉があってもなくても、俺ら双子の将来は変わってなかったと思う。だけどユキの言葉が嬉しかったのは事実だし、あの後すぐに侑と和解出来たのも、少なからずユキの存在が俺らにとって大切なものだったからなんだと、今になって思うのだ。
▶▷やかましい双子と大阪旅行 *⋆✈️𓂃𓈒𓏸𓐍
↪︎sunarin. ユキ双子と遊んだの?ズルくない?俺は?
↪︎tsumu. 角名、男の嫉妬は醜いで