アルタイルの唄声が空に響く夏
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ピチャンと水の跳ねる音を聞いてユキは釣竿を握る手に力を込めた。
「うわっ」
予想よりも素早く、強い力で暴れる獲物にユキはバランスを崩さないよう地面を踏みしめる。
「おお!いいぞユキ!!そのまま引き上げろ!」
「うっ、ちょっと重いかも」
やはり予想よりも何百倍も重い。釣り初心者マークであるユキにはクルクルと猛スピードで旋回するリールを抑えるのもやっとだった。とりあえず助けを求めようとユキは隣で動画を回している親友を見た。
本日の海釣りに誘ってくれたユキの親友…西谷夕はユキの隣で喧しく野次を飛ばしている。
「うんうん、そうだよなあ!この重さでなんの魚が釣れるか予想する!これぞ釣りの醍醐味ってもの…」
「いやムリ!コレ重すぎる!絶対マグロやって!!」
うんうんと、両腕を組んで頷く西谷にユキは少しイラッときた。こっちは初心者なんだよ、なんでもいいから早く手を貸せ、気持ちはそう叫んでいるのだが、ユキはマグロとの勝負に手一杯だった。踏ん張ることに全精力を注いでいるため、思う通りの言葉がなかなか口から出てこない。
「良いじゃねぇかマグロ!お前なら出来るぞユキ!!」
「夕!!」
「おお!!何の魚か予想できたか!?」
「ちゃうわ!さっさと手伝え言うとんねん!」
「なんだそんなこと!!俺に任せ…」
「あ、」
「ああ!?」
西谷が船の上で動いたことで船が傾いた。その一瞬、気を抜いた隙にマグロに引っ張られたユキは船の上を放り出された。西谷が全力で手を伸ばすも僅かに届かない。
海に落ちることを察したユキは目を瞑って悟りを開いた。
「終わった…」
「ユキ!!!ダメだまだ死ぬんじゃねぇ!!!」
その瞬間、バッシャーン!!!と大きな音を立てた水飛沫が西谷を襲った。
* * *
7月某日、インドネシア、ジャワ島北岸に面した広大な海は、太陽の光を浴びて宝石のような輝きを放っていた。
「ごめん!!俺、ユキが大物釣るとこを動画撮るのに夢中で!!」
びしょ濡れの服が汚れるのを気にせず、船上に寝転がり波打つ潮の音を聞きながら青空を見上げるユキ。
ザバーンという心地よい海の音。ほとんど無心状態で海風を浴びているユキに、西谷は綺麗なスライディング土下座をかました。
現役時代、バレーボールの試合会場を沸かしたかのローリングサンダーアゲインに引けを取らないほどの華麗なターンをキメて、ユキと同じくびしょ濡れの頭を突き刺す勢いの土下座だ。
「夕…お前は本当に謝る気があるのか」
「当たり前だ!いくらユキとはいえ女性を海に突き落とすことになるなんて、俺としたことが…ホントにごめん!!」
「まあ別に良いけどさ、落ちたのは夕のせいやないし、助けてもらったわけやし…。まあ、貴重な経験をしたと思うことにするよ」
「おお、ポジティブだなユキ!俺はお前のそういうとこが好きだ!」
「うん、私も夕のその楽観的なところが好きだよ」
水浸しになった服を絞りながらユキは「よく分かってんじゃねぇか!」と何の悪びれもなく肩を叩いてくる西谷を見てため息を吐いた。
せっかくインドネシアまで来たというのに、開始早々に漁村に戻ることになるとは。はあ、と濡れた髪を拭きながら再びため息をつくユキに、西谷は持参のTシャツを手渡す。
「まあ元気出せって、コレやるからよ!」
「なにこれ」
「最近のお気に入りTシャツだ!」
中心にデカデカと『釣り人』という文字が印刷されているそれはいかにも西谷らしい。
「いや、それはいいよ。そっちだって服濡れてるんだから夕が着なよ」
「いやダメだ!ユキが着ろ!風邪引くかもしれないだろ」
「いや」
それなら西谷だって同じことでは…ユキがそう言ったところで話が振り出しに戻った。
けっきょく、バカは風邪引かないんだぜ?とドヤ顔をする西谷に納得してユキは『釣り人』Tシャツを受け取った。
「おお!似合ってるじゃねぇか!」
「そりゃどうも」
汽笛の音が鳴って船が停泊場に止まる。濡れた靴の水を払いながら地上に降り立った2人はとりあえず洋服が売ってるお店を探すことにした。
ユキが西谷に良いお店を知らないのか問えば、西谷は少し考える素振りをしてから急に走り出した。きっと思い当たるお店があったのだろう。
さてと、所変わって、西谷がよく行くと言う露店。確かに、彼の好きそうな柄物のTシャツがたくさん並んでいるが…どれも値段が高めだな。
ユキがそんな風に考えていれば、西谷が店主と仲良さげに話し始める。
おお、インドネシア語だ。なんて感心したのも束の間。店主の言葉に思いきり日本語で返事をする西谷。しかも、店主の問い掛けと話が噛み合っていない。
「やあ!ユウ!彼女は君のガールフレンドか?それなら三着でおまけしてやるよ!」
店主の言葉は意訳したらこんな感じだ。
一方で西谷の返答はこうだ。
「兄貴!そうなんだよちょっと服が濡れちまって…なんかおすすめのシャツねぇか?」
西谷の日本語を理解しているのかしていないのか。夕の言葉に大きく頷いた店主は、露天の裏からこれまたチカチカするような蛍光カラーのシャツを取り出してきた。
値段は25万ルピア、日本円で言うところの2500円ほど。バックパッカー向けの露店でこの値段はどう考えてもぼったくり。人当たりのよさそうな笑みを浮かべる店主だが、西谷のことはきっと良い「カモ」とでも思っているのだろう。
「お!それが今日の目玉か?ならそれ買わせてくれ!」
トゥマリ・カシ、そう言って上機嫌で頭を下げる店主に「ありがとうな〜」とお礼を言って店を後にする夕。
どいつもこいつもパッションで会話しやがって本当に腹が立つ。とりあえず、あの店のインスタでも荒らしてやろうか。そんな事を思いつつ、ユキは夕の背中に着いて歩く。
「ユキ!これやるから元気だせよ!な?」
不意に足を止めた西谷がそんな事を言って、先程買ったものを差し出した。
別に、こむぎは元気がないわけでは無い。ただ夕のことを騙して笑っているあの店主に少し腹を立てていただけ。
「ありがとう、夕。でもこれは夕が買ったものでしょ?私は既に一枚もらってるから要らないよ」
それに、こんな派手Tシャツは私の好みではない。その言葉を胸の内に留めたユキには、そんなことよりも気になっていることがあった。
海外で暮らしているにも関わらず英語すら拙いこのバカはいつか本当に手酷い詐欺にでも遭うんじゃないだろうか。
「それよりさ、夕。ずっと言いたかったんだけど、とりあえず外国語を学んでみない?」
「おう!それも楽しそ……」
へ?と首を傾げてフリーズした後、西谷は、学ぶ?勉強?とブツブツ唱えながら頭を抱えてだした。
相変わらず勉強が大嫌いのようで、ぼったくりにも気が付かないこの呑気な男にユキはプハッと吹き出して笑った。
まったく裏表のない男である。
基本的に西谷といると話が噛み合わないことの方が多いが、ユキは西谷と遊ぶのが好きだった。西谷の元気の良さや破天荒さ、その明るさを見ていると自然と笑顔になる。バカだけど、まるで魔法使いのようなこの男はユキが唯一親友と呼ぶ男だった。
▷▶インドネシアで海釣り!!!°・🐠
↪︎shoyo. ユキさんとノヤっさん!?!?
↪︎shinsuke. ちょっと出かける言うて帰って来おへん思ったらなんでインドネシアおんねん
「うわっ」
予想よりも素早く、強い力で暴れる獲物にユキはバランスを崩さないよう地面を踏みしめる。
「おお!いいぞユキ!!そのまま引き上げろ!」
「うっ、ちょっと重いかも」
やはり予想よりも何百倍も重い。釣り初心者マークであるユキにはクルクルと猛スピードで旋回するリールを抑えるのもやっとだった。とりあえず助けを求めようとユキは隣で動画を回している親友を見た。
本日の海釣りに誘ってくれたユキの親友…西谷夕はユキの隣で喧しく野次を飛ばしている。
「うんうん、そうだよなあ!この重さでなんの魚が釣れるか予想する!これぞ釣りの醍醐味ってもの…」
「いやムリ!コレ重すぎる!絶対マグロやって!!」
うんうんと、両腕を組んで頷く西谷にユキは少しイラッときた。こっちは初心者なんだよ、なんでもいいから早く手を貸せ、気持ちはそう叫んでいるのだが、ユキはマグロとの勝負に手一杯だった。踏ん張ることに全精力を注いでいるため、思う通りの言葉がなかなか口から出てこない。
「良いじゃねぇかマグロ!お前なら出来るぞユキ!!」
「夕!!」
「おお!!何の魚か予想できたか!?」
「ちゃうわ!さっさと手伝え言うとんねん!」
「なんだそんなこと!!俺に任せ…」
「あ、」
「ああ!?」
西谷が船の上で動いたことで船が傾いた。その一瞬、気を抜いた隙にマグロに引っ張られたユキは船の上を放り出された。西谷が全力で手を伸ばすも僅かに届かない。
海に落ちることを察したユキは目を瞑って悟りを開いた。
「終わった…」
「ユキ!!!ダメだまだ死ぬんじゃねぇ!!!」
その瞬間、バッシャーン!!!と大きな音を立てた水飛沫が西谷を襲った。
* * *
7月某日、インドネシア、ジャワ島北岸に面した広大な海は、太陽の光を浴びて宝石のような輝きを放っていた。
「ごめん!!俺、ユキが大物釣るとこを動画撮るのに夢中で!!」
びしょ濡れの服が汚れるのを気にせず、船上に寝転がり波打つ潮の音を聞きながら青空を見上げるユキ。
ザバーンという心地よい海の音。ほとんど無心状態で海風を浴びているユキに、西谷は綺麗なスライディング土下座をかました。
現役時代、バレーボールの試合会場を沸かしたかのローリングサンダーアゲインに引けを取らないほどの華麗なターンをキメて、ユキと同じくびしょ濡れの頭を突き刺す勢いの土下座だ。
「夕…お前は本当に謝る気があるのか」
「当たり前だ!いくらユキとはいえ女性を海に突き落とすことになるなんて、俺としたことが…ホントにごめん!!」
「まあ別に良いけどさ、落ちたのは夕のせいやないし、助けてもらったわけやし…。まあ、貴重な経験をしたと思うことにするよ」
「おお、ポジティブだなユキ!俺はお前のそういうとこが好きだ!」
「うん、私も夕のその楽観的なところが好きだよ」
水浸しになった服を絞りながらユキは「よく分かってんじゃねぇか!」と何の悪びれもなく肩を叩いてくる西谷を見てため息を吐いた。
せっかくインドネシアまで来たというのに、開始早々に漁村に戻ることになるとは。はあ、と濡れた髪を拭きながら再びため息をつくユキに、西谷は持参のTシャツを手渡す。
「まあ元気出せって、コレやるからよ!」
「なにこれ」
「最近のお気に入りTシャツだ!」
中心にデカデカと『釣り人』という文字が印刷されているそれはいかにも西谷らしい。
「いや、それはいいよ。そっちだって服濡れてるんだから夕が着なよ」
「いやダメだ!ユキが着ろ!風邪引くかもしれないだろ」
「いや」
それなら西谷だって同じことでは…ユキがそう言ったところで話が振り出しに戻った。
けっきょく、バカは風邪引かないんだぜ?とドヤ顔をする西谷に納得してユキは『釣り人』Tシャツを受け取った。
「おお!似合ってるじゃねぇか!」
「そりゃどうも」
汽笛の音が鳴って船が停泊場に止まる。濡れた靴の水を払いながら地上に降り立った2人はとりあえず洋服が売ってるお店を探すことにした。
ユキが西谷に良いお店を知らないのか問えば、西谷は少し考える素振りをしてから急に走り出した。きっと思い当たるお店があったのだろう。
さてと、所変わって、西谷がよく行くと言う露店。確かに、彼の好きそうな柄物のTシャツがたくさん並んでいるが…どれも値段が高めだな。
ユキがそんな風に考えていれば、西谷が店主と仲良さげに話し始める。
おお、インドネシア語だ。なんて感心したのも束の間。店主の言葉に思いきり日本語で返事をする西谷。しかも、店主の問い掛けと話が噛み合っていない。
「やあ!ユウ!彼女は君のガールフレンドか?それなら三着でおまけしてやるよ!」
店主の言葉は意訳したらこんな感じだ。
一方で西谷の返答はこうだ。
「兄貴!そうなんだよちょっと服が濡れちまって…なんかおすすめのシャツねぇか?」
西谷の日本語を理解しているのかしていないのか。夕の言葉に大きく頷いた店主は、露天の裏からこれまたチカチカするような蛍光カラーのシャツを取り出してきた。
値段は25万ルピア、日本円で言うところの2500円ほど。バックパッカー向けの露店でこの値段はどう考えてもぼったくり。人当たりのよさそうな笑みを浮かべる店主だが、西谷のことはきっと良い「カモ」とでも思っているのだろう。
「お!それが今日の目玉か?ならそれ買わせてくれ!」
トゥマリ・カシ、そう言って上機嫌で頭を下げる店主に「ありがとうな〜」とお礼を言って店を後にする夕。
どいつもこいつもパッションで会話しやがって本当に腹が立つ。とりあえず、あの店のインスタでも荒らしてやろうか。そんな事を思いつつ、ユキは夕の背中に着いて歩く。
「ユキ!これやるから元気だせよ!な?」
不意に足を止めた西谷がそんな事を言って、先程買ったものを差し出した。
別に、こむぎは元気がないわけでは無い。ただ夕のことを騙して笑っているあの店主に少し腹を立てていただけ。
「ありがとう、夕。でもこれは夕が買ったものでしょ?私は既に一枚もらってるから要らないよ」
それに、こんな派手Tシャツは私の好みではない。その言葉を胸の内に留めたユキには、そんなことよりも気になっていることがあった。
海外で暮らしているにも関わらず英語すら拙いこのバカはいつか本当に手酷い詐欺にでも遭うんじゃないだろうか。
「それよりさ、夕。ずっと言いたかったんだけど、とりあえず外国語を学んでみない?」
「おう!それも楽しそ……」
へ?と首を傾げてフリーズした後、西谷は、学ぶ?勉強?とブツブツ唱えながら頭を抱えてだした。
相変わらず勉強が大嫌いのようで、ぼったくりにも気が付かないこの呑気な男にユキはプハッと吹き出して笑った。
まったく裏表のない男である。
基本的に西谷といると話が噛み合わないことの方が多いが、ユキは西谷と遊ぶのが好きだった。西谷の元気の良さや破天荒さ、その明るさを見ていると自然と笑顔になる。バカだけど、まるで魔法使いのようなこの男はユキが唯一親友と呼ぶ男だった。
▷▶インドネシアで海釣り!!!°・🐠
↪︎shoyo. ユキさんとノヤっさん!?!?
↪︎shinsuke. ちょっと出かける言うて帰って来おへん思ったらなんでインドネシアおんねん
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