だんだんと花が咲き、春が始まる
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ユキには、非常にめんどくさがり屋な友人がいる。
無気力、めんどくさがり、ものぐさ、怠け者などなど、ユキの友人の中には、今あげたような単語に当てはまるような性格をしている者が何人か思い浮かぶが、その中でも群を抜いて全ての単語に当てはまるのが、この大きくて真っ白い男である。
新宿駅での待ち合わせ。人混みの中でも目立つ長身を丸めてスマホゲームに夢中の友人を見つけたユキは、お気に入りのヒールを鳴らして駆け出した。
知り合ったのはオンラインゲーム。数年前にyoutuberをやっている友人にすすめられて始めたゲームがきっかけ。当時は多分、中学生と大学生だったと思うが年齢差は気にしたら負けである。
先日、そんな究極にめんどくさがりな友人がまさかのお茶に誘ってくれたのである。普段はご飯を食べることすらめんどくさいと言っているような友人が、カフェに行こうと誘ってくれたのだ。これはユキとしてはかなり喜ばしい出来事であった。
目的のカフェに着くとSNSでトレンド入りしているだけあってかなりの行列ができていた。ユキの隣でうげっという顔をした凪がピタリと足を止める。あまりにも想像通りの反応で、思わず笑ってしまったのを隠すようにユキは俯いた。
せっかく頑張って歩いてきたのに…とただでさえ少ない気力を一気に失った凪は「今日はもう無理なんじゃない?」と言いながらユキの背中に寄りかかった。この行動はもう帰りたいという合図である。まだ会って15分しか経ってないけど。
ほら、早く行くよ。と手を繋げば、凪は口をバッテンに結んで不服そうに後を着いてくる。ユキだって凪に無理強いするつもりはないのだけど、もうお店は予約してしまっているので、スマホで予約画面を探しながらユキは凪を連れて店員さんへと話しかけた。
お店に来る前からユキの注文するものは決まっていた。季節限定の桜いちごパフェである。
なんと言っても見た目がいちばん可愛かったので。ユキは運ばれてきたパフェを見て目を輝かせた。完璧な角度で写真に納めたらさっそく…
「ん〜美味しいっ」
さくら味のカスタードとパンナコッタ、思ったよりもいける。いちごも甘くて最高。
凪くんも一口どお?とユキが尋ねれば、凪は食べさせろと言うように「あ」と口を開けた。
ぱくりと最後のひとくちを食べ終えて、ふとユキは思い出す。そういえば、この辺に友達から聞いたクレープ屋さんがあったような。新作のフレーバーが出た、と少し前に女友達との間で話題になった記憶がある。そうと決まればもう行くしかない。とりあえず、お会計を済ませ店を出てすぐ、凪にもクレープに興味を持ってもらうためお店のホームページを探して見せてみる。彼が興味を示せば行くし、そうでないならまた別の日に行く。そのくらいのノリで「次はココに行きたいんやけど」と凪に提案すると案の定、分かりやすく嫌そうな顔をされた。
「クレープがおいしいって有名なんだよ」
「えーまだ歩くの?」
「ううん、凪くんが行きたくないなら今日はもう解散にするよ」
え、と声を漏らして凪が立ち止まる。え、どうしたの、と横で同じように立ち止まったユキが凪の顔を覗き込むと、彼はなぜか少し焦ったように目を泳がせていた。
「あ、間違えた」
「今日は凪くんとカフェ来られて十分楽しかったし、クレープはまた別の友達誘うよ」
「それじゃあ今日はこの辺で」そう言葉を続けるつもりが、凪の突然の行動に遮られた。凪がユキの腕を掴みグイッと引っ張るので、バランスを崩したユキが凪の身体にぶつかった。へぶっと変な声を出してユキはぶつけた鼻をさする。
「凪くん…?」
「疲れてない」
「ん?」
「疲れてないよ」
「あ、そうなの」
「うん、全然、まったく疲れてないから早く次行こ」
危ない、いつもの癖でめんどくさいと口に出すところだった。と凪は口を噤む。いやめんどくさいのは事実だ。何かを食べるのも、歩くのも、喋るのも、全部がめんどくさい。だけどユキと一緒にいたい。めんどくさいよりも、ユキといると楽しい。それが上回るから、凪はちょっと頑張ろうかなと思えるのだ。困った顔のユキは見たくない。ユキがパフェを食べてるときの顔の方が可愛い。パフェを食べた後にクレープが食べたくなるのも可愛い。めんどくさいけど、ユキに嫌われる方がもっと嫌だと思った。
目当てのクレープを買うことができて満足そうなユキは、小さな口で大きなクレープを食べながら凪の横を歩く。
「凪くん、凪くんが行きたいところはないの?」
「んえ、えっと…」
「えっと、や、やっぱりもう帰りたい?」
「うん。帰りたい」
「そっか、じゃあ今日はこの辺で…」
「帰って一緒にゲームしよ」
「えっ?」
もしかしたら、凪にも行きたいところがあるのかもしれない。そう思ったユキが凪の袖を引いて尋ねると、凪はじっとユキを見つめて目を瞬かせた。何か良いことを思いついた、と言わんばかりの瞳の輝きである。
「ユキさんの行きたいカフェに付き合ったから、今度は俺の番」
そうだ、今日はユキの行きたいと言っていたカフェに凪は付き合ったのである。誘ったの凪の方であるがそんなことはどうでもいい。
我ながら名案だと機嫌の良くなった凪はクレープを食べているユキの背中に甘えるようにくっついてみる。突然、背中に重さを感じて驚いたユキがよろけたので凪は慌ててユキの腰を支えた。
その時に、あまりに至近距離で目が合って、今度は凪の方が驚いて咄嗟に目を逸らした。
「ど、どうしたの?急に疲れちゃった?」
「うん、疲れたかも」
少し恥ずかしくて凪はユキの肩に顔をうずめた。いつもより割増で挙動不審な凪の行動に戸惑いつつも、可愛い弟のように思っているのでユキは何も言わず凪の行動を受け入れた。
とりあえず自分の肩に乗ったふわふわの白い頭を撫でてみる。
「そう言えば凪くん、サッカーやってたんだね」
「え?なんで知ってるの?」
「なんでって、普通にテレビに出てたからね。えっと確か、ネオ・エゴイストリーグってやつ」
「それ見てたの?」
「見てたよ。凪くんかっこよかった」
「それは嬉しいけど…サッカーの話はいいよ、それより早く帰ってゲームしよ」
「凪くんの家には行かないよ」
「え」
「私は社会人で、君は高校生。しかも一人暮らしなんでしょ?さすがに無理やで。だからまあ、いつも通りゲーセンでも行こっか」
「う、めんどくさいよユキさん」
「じゃあ今日は解散で」
「わかった、ゲーセン行こ」
ーーーー以下おまけ
カラン、と氷の溶ける音がした。テーブルの上に顔を乗せて、凪はアイスティーの入ったグラス越しにユキの顔を見つめていた。凪の視線の先には美味しそうにいちごパフェを食べるユキがいる。
今日このカフェに2人で訪れたのは凪からの提案であった。凪とユキはもともとオンラインゲームで出会った友達である。最初はたまたまゲームにログインする時間帯が同じで、なんとなくフレンドになって同じパーティに入ってゲームをしていただけ。2人の関係が近づいたのはきっかけは、件のゲームが大型アップデートにより進化したことがきっかけだった。その日、件のゲームにはボイスチャット機能が追加されていた。
アップデート後に初めてゲームを開いた凪は、なんてめんどくさい機能が追加されたんだと思った。喋らなきゃいけないなんてめんどくさい。けれども新しい機能に夢中のプレイヤーたちはその新しい機能を使ってみたくて仕方がない様子だった。野良で見知らぬグループのパーティに入ればボイスチャット機能をオンにしろと騒がれる。めんどくさくなったし、もうやめようかなこのゲーム、と思いつつ、凪はフレンドリストにある唯一のフレンドの名前を見て、一度思いとどまった。
この人とゲームできなくなるのはちょっと嫌だな。そんなことを思って画面を眺めていると、フレンドの名前が灰色から青色に変わった。オンラインになった合図である。
「こんにちは!ナギさん!」という可愛らしい声が凪の部屋に響いた。あ、女の子だ。と凪は思った。そういえば、フレンドはフレンドのみで会話ができるんだっけ。アップデート情報のところに書いてあったことを思い出した凪は、ボイスチャット機能をオンにしてフレンドに挨拶を返した。めんどくさいけど、この人なら別にいいと、なんとなくそう思ったのである。凪が声を出すと、フレンドは明るい声色で「今日もやるでしょ?ランクマッチ」と凪に問いかけた。
「うん、やろ」
こんな出来事をきっかけに、凪誠志郎と双葉ユキは徐々に中を深めていったのである。
一緒にゲームをしている中での何気ない会話。最近できたお洒落なカフェがある。そんな話をユキがしていたような気がする。いつもは適当に相槌を打ちながらユキの話を聞くだけで、会話の内容なんてほとんど覚えてないけど、この話だけはなんとなく覚えていた。カフェの話なんて興味ない。けれどユキには興味がある。ブルーロックプロジェクトというものに参加してから数ヶ月、収監されているおかげで前まで定期的に開催していたオフ会がパタリと途切れてしまっていることに気がついた凪はハッとして顔を上げた。
「ねぇレオ、急に会えなくなった友達に愛想つかされないようにするにはどうしたら良い?」
「…は、え?それって誰の話…まさか潔か」
「違うし。まあいいや、俺今度の休みにちょっとだけ帰省する。めんどくさいけど」
呆気にとられるとはまさにこのこと。凪の言葉の意図を理解しきれずにいる玲王はポカンと口を開けて固まっていた。
ゲームにログインして、フレンド覧を開く。唯一のフレンドがログインしているのを見てからロビーへ入ると、「あ、ナギくんだ!」というユキの明るい声が聞こえた。
「ねぇ前に言ってたカフェってもう行った?」
「カフェ…あ!前に話した新しいお店の話かな?それやったらまだ行ってへんよ。東京行かないとやし」
「じゃあ来月、俺と行こうよ」
「行く!!」
▶▷友達と新作カフェ行ってきた!🍓
↪︎ yukie. 美味しそ〜ユキちゃんずるい
↪︎hagiwara. ユキちゃん今東京!?