だんだんと花が咲き、春が始まる
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優作さんとの打ち合わせは3日後の昼、それまでは特に予定なし。大阪からの帰り道、スケジュール帳を確認しながら今後の予定を組み立てるユキは、現在受け持っている翻訳の仕事で少し調べたいことがあったのを思い出した。そのため少し予定を変更し、今日はそのまま東京に直行することにした。
帰るのは来週になりそう、幼馴染にそう連絡をしてユキは今から取れる東京行の新幹線のチケットを探した。
* * *
「やっぱりここにもないか…?」
場所は国立図書館、ユキはアメリカのフォークロア(民間伝承)についての本が読みたかったのだが、さすがに洋書として置いてあるものは少なく、目的のものは見つからなかった。
まあ予想通りと言えばそうなんだけど。気持ちを切り替えて館内を見て歩くユキの目に止まったのは新聞資料室。適当に手に取った記事にある「工藤新一」の文字を見てユキは思い出す。そういえば先々週くらいに新一くんの誕生日だったか。
ふむ、と時計を確認してからユキは考える。目的の資料が見つからなかったので今日のところはまた別の勉強でもしようかとも思ったが…
「でもなあ、なんか目的の本なくて萎えちゃったし」
すっかり勉強する気のなくなったユキは、くるりと体の向きを変えて料理本がたくさんある場所へと移動した。
約1時間、レモンパイの作り方を片っ端から調べ、7通りのレシピを頭にインプットしたユキは国立図書館を出てスーパーへ向かう。
優作さんは何時でも家に遊びにおいでと言っていたし、今日は新一くんに誕生日ケーキならぬ誕生日レモンパイでも作りに行こうとユキは思い立った。
「あ!ユキお姉さん!」
気合いを入れるように袖を捲し上げ、レモンパイに必要な材料を頭の中で反芻しながら住宅街を歩いていると、自分を呼び止める声が聞こえた。その元気な声の振り向くと、いつぞやの事件に巻き込まれた時に仲良くなった子どもたち。ここ最近、東京に来る度によく絡まれるようになった。
「お、久しぶりだねみんな」
スーパーへ向かう途中、自分たちを少年探偵団と称する小学生に捕まったユキは手を引かれるがまま公園までたどり着く。
「コナンくん!哀ちゃん!あのね、この人歩美たちの友達なの!」
そう言って元気よくユキの紹介をする歩美だったが、ユキの姿を見た江戸川コナンはゲッという声を漏らし、持っていたサッカーボールを地面に落とした。
人の顔を見てその反応とは、失礼な子どもだな。そんなことを思いながも、ユキは穏やかな笑みで公園に足を踏み入れた。
「あら、2人は歩美ちゃんたちのお友達?」
「そうなの!この2人も少年探偵団のメンバーなんだ」
へー、そうなんだ。と強弱のない平坦な感想を述べたユキは江戸川コナンと呼ばれた少年の顔を見て僅かに眉を寄せる。スっと「哀」と呼ばれた女の子の背後へと隠れる少年の姿を見たユキの心境はいたってシンプルだった。
新一くん、こんなところで何してんの?である。
* * *
バチッとユキと目が合ったことでコナンは咄嗟に灰原の背後へと隠れた。バクバクバクと急激に加速する心臓を抑えて深呼吸をすれば、灰原に怪訝な表情を向けられた。当然、挙動不審なコナンに対して子どもたちは不思議そうな顔をしている。コナンの奴何やってんだ?と元太。もしかしてコナンくん、ユキさんに惚れてしまったんですか?と光彦。え!?でもコナンくんユキさんは大人の人だから!と畳み掛けてくる子どもたちにコナンは頼むから黙ってくれと思った。
しかしコナンの思いは虚しく、子どもたちの追求は止まらない。「ちょっと、お友達を困らせるのは良くないよ」と助け舟を出すために子どもの間に割って入ってきたユキと目が合わないように全力で顔を背けるコナンの様子に、灰原はさらに面倒くさそうに顔をひきつらせる。
「ちょっと江戸川くん、さっきからなんなのよそれ。あの人と知り合いなの?」
「ああ、まあちょっとな。俺というか工藤新一の知り合いなんだよ」
「それって」
「いや、俺の正体は知らないはずなんだけど…」
そう言って続きの言葉を濁したコナンは、子どもたちと話をするユキを盗み見る。ユキは工藤新一が江戸川コナンとなる前から親しくしていた大人の1人である。そして、同時に江戸川コナンにとっては要注意人物でもあった。なにせ頭の良さは言うまでもないが、それ以前に勘がものすごく鋭い人なのだ。
超直感とも言えば良いだろうか、恐らくユキ本人は無自覚だが一般的に言う直感と言われる能力が著しく高い人だとコナンは見ている。何度か一緒に事件に巻き込まれた経験があるが、「あの人なんか怪しくない?」と根拠のないユキの発言が尽く当たる。最終的に工藤新一の推理が答え合わせとして「なあ、ユキさん誰が怪しいと思う?」と聞くほどだった。
だからさっき目が合ったとき、一瞬だけ見抜かれたと思ってコナンは思わず隠れてしまった。
「それじゃあ、博士の家に行こう!ね、哀ちゃん!コナンくん!」
グイッと歩美に手を引かれてコナンと灰原は、ハッと子どもたちの方を見る。どうやら先程から子供たちに遊ぼう遊ぼうとしつこく誘われるユキが折衷案としてお菓子作りを引き合いに出したらしい。もちろん、ユキの提案に乗った子どもたちは既にユキを博士の家に連れて行こうとしている。
「おいユキ!うな重は作れねぇのか?」
「うな重…?それはちょっと、おやつには重くない?」
結局、灰原とコナンは流されるままにお菓子の材料を買って博士の家まで来た。ユキの顔を見た博士は久々に孫にあった祖父かのように喜び、なんの抵抗もなく家へ招き入れるので、灰原とコナンには抵抗する余地もなかった。
江戸川コナンの正体がバレませんように、と祈りながらお菓子作りをすること数分、買ってきたレモンを搾りながら「そういえばユキお姉さん、なんでレモンパイなの?」と歩美がユキに質問をする。
そう、ユキはレモンパイを作るためにスーパーへ向かう途中だった。なので遊ぼうと絡んでくる子どもたちにお菓子作りを提案することで上手いこと丸め込んだのだ。
歩美の質問を聞いて、ユキはコナンの方を見る。
「ああ、この前新一くんの誕生日だったからさ、作ってみようと思って」
だよね?とコナンを見るこむぎに、コナンは「え?」と背筋が凍ったような感覚に陥った。ダラダラと冷や汗を流しながら全力で目を逸らすコナンに顔を近づけて、「あれ?」と小さく呟いたユキはゆっくりと瞬きする。
ぱちくりと、瞼を動かしたユキは、記憶の中にある工藤新一と、江戸川コナンを見比べて大きく首を傾ける。
「君、誰?」
「ぼ、僕は江戸川コナン、だけど…」
「江戸川?本当に?」
「う、うん」
全く納得できない、というように頬に手を当て難しい顔をするユキ。今日は、目当ての本が見つからなかったので、たまたま思い出した新一くんの誕生日をお祝いしようと、彼の好物であるレモンパイを作ろうと意気込んだ。そして材料を買いに行く途中に、親しい子どもたちに囲われた。
子どもたちと遊ぶのも吝かではなかったのだが、ちょうどよく工藤新一を発見したので、お菓子作りの提案をして当初の計画を続行することにした。
それなのに、工藤新一だと思って接していた子どもが想像よりも随分と小さいのだけど…。とユキの双眸はじっとコナンを見つめている。
まるでホラー映画でも見ているみたいだ。コナンとユキは互いにそう思った。
――あれ?そういえば新一くんって今は高校生くらいじゃなかったっけ?私の記憶違い?
――待て待て待て待て、これはユキさんは俺のこと気づいてんのか?なんで?今日はまだユキさんと話すらしてないのに?
「まあいいや。確かレモンパイが好きだったよね」
「ユキお姉さん、それ誰に聞いてるの?」
「誰って新一くんしかいな…ん?」
「ん?」
無理だ。むむ、と顔を顰めて混乱を極めているユキを見て、コナンはこれ以上誤魔化すのはもう無理だと思った。むしろどんどんややこしいことになっている気がする。
「ユキさん見てください!パイ生地が良い感じに焼けてます」
「お、そろそろかなぁ。光彦くん報告ありがとね」
オーブンで焼いているパイ生地の様子を確認しながら後何分くらい焼こうかな、と独り言を呟くユキ。コナンはユキの意識が自分から逸れたことにひとまず安堵した。
しかし…もうバレてしまったものは仕方がない、ユキには後でちゃんと説明しよう。
* * *
「なるほどね。それにしてもすごいな」
レモンパイを食べ終えて子どもたちと解散した後、使った食器を片付けながらコナンはユキに自分が小さくなった経緯を事細かに説明した。
その結果がこれだ。けっこうシリアスな雰囲気で回想をしていたコナンだったが、そんなコナンをまじまじと見ながら、人ってこんな縮むこと出来るの?すごくね?と感心しているユキに、「まったく脳天気な人ね」と灰原は呟いた。
江戸川くんは相当頼れる人だとか言ってたけれど、ほんとうにこと人を巻き込んでも大丈夫かしら?というのが灰原が感じたユキへの素直な印象だった。それと同時に随分とあっさりネタばらしするコナンに、灰原は少しの不信感を覚える。
なぜならこれでユキも危険な組織についての情報を知ることになったからだ。灰原は全く関係の無いユキを危険なことを巻き込んでしまったという罪悪感が胸の内に渦巻くのを感じていた。
その罪悪感を誤魔化すように、 コナンの横で目を伏せる灰原をユキは不思議そうに見遣る。
「哀ちゃんはどうしてそんな暗い顔をするの?普通、悩みを打ち明けたら明るい顔になるはずなんだよね」
どうして、いったい何があなたをそんな顔にさせるの?そんな疑問を浮かべたユキはひとつ溜息をついて、とりあえず灰原の頭を撫でてみる。
「とりあえず、はいこれプレゼント。本当は誕生日の彼だけにあげる予定だったんだけど。今回は特別に哀ちゃんにもあげるね」
バチッと完璧なウィンクをしたユキはそう言ってペラペラの紙をコナンと灰原に渡した。
手のひらサイズの小さな紙の中央に名前、その下に電話番号、ユキさんの名刺か?と思いながらコナンは右下に書いてある文字に目を滑らせる。
"いつでもお悩み解決!語学万能探偵双葉ユキがあなたをお助けします…!"
「ってなんだこれ」
「困った時はいつでも相談に乗るよ券に決まってるでしょ」
明らかに今作ったであろうと分かる手書きの名刺。名刺の左側が妙にガタガタだし、明らかにメモ帳から千切った即席の産物だ。
語学探偵ってなんだそれ、それっぽく言ってるけど意味わかんねぇし、もはや俺たちのことおちょくってんだろ…そんなことを思い苦笑するコナンとは裏腹に、ユキはコナンと灰原の前で「どうかな」と穏やかな笑みを向けた。
「私が君たちの仲間になった!これほど頼もしいことはないでしょ」
困ってるときはお互い様。そう言って笑ったユキの、いかにも呑気なセリフに呆れたように笑うコナンの横で、灰原はふっと自身の緊張が解けていくのを感じた。
「あなた、よくバカだって人から言われない?」
「あれ、哀ちゃんってけっこう辛辣なことを言うんだね。でもそうだな…こう見えて私はけっこう優秀だって言わる方が多いんだよ。だからね、心配は何もいらない」
「…そう」
そこまで自信満々に言うなら安心ね。そう言って僅かに口角を上げた灰原。今日、ずっと固かった灰原の表情が初めて緩んだ。隣でその変化を感じとったコナンは、改めてユキの顔を見て、その存在の心強さを実感した。
いつでも穏やかで、他人に勇気を与えられる人、そんなユキのことが出会った頃からずっと好きだったのを新一は思い出す。
▶▷え?人ってそんな縮むことある?笑
↪︎ hitoka. 私も去年より2ミリ縮みました😭
↪︎ hagiwara. 大丈夫!ユキちゃんは小さくても可愛いから!
帰るのは来週になりそう、幼馴染にそう連絡をしてユキは今から取れる東京行の新幹線のチケットを探した。
* * *
「やっぱりここにもないか…?」
場所は国立図書館、ユキはアメリカのフォークロア(民間伝承)についての本が読みたかったのだが、さすがに洋書として置いてあるものは少なく、目的のものは見つからなかった。
まあ予想通りと言えばそうなんだけど。気持ちを切り替えて館内を見て歩くユキの目に止まったのは新聞資料室。適当に手に取った記事にある「工藤新一」の文字を見てユキは思い出す。そういえば先々週くらいに新一くんの誕生日だったか。
ふむ、と時計を確認してからユキは考える。目的の資料が見つからなかったので今日のところはまた別の勉強でもしようかとも思ったが…
「でもなあ、なんか目的の本なくて萎えちゃったし」
すっかり勉強する気のなくなったユキは、くるりと体の向きを変えて料理本がたくさんある場所へと移動した。
約1時間、レモンパイの作り方を片っ端から調べ、7通りのレシピを頭にインプットしたユキは国立図書館を出てスーパーへ向かう。
優作さんは何時でも家に遊びにおいでと言っていたし、今日は新一くんに誕生日ケーキならぬ誕生日レモンパイでも作りに行こうとユキは思い立った。
「あ!ユキお姉さん!」
気合いを入れるように袖を捲し上げ、レモンパイに必要な材料を頭の中で反芻しながら住宅街を歩いていると、自分を呼び止める声が聞こえた。その元気な声の振り向くと、いつぞやの事件に巻き込まれた時に仲良くなった子どもたち。ここ最近、東京に来る度によく絡まれるようになった。
「お、久しぶりだねみんな」
スーパーへ向かう途中、自分たちを少年探偵団と称する小学生に捕まったユキは手を引かれるがまま公園までたどり着く。
「コナンくん!哀ちゃん!あのね、この人歩美たちの友達なの!」
そう言って元気よくユキの紹介をする歩美だったが、ユキの姿を見た江戸川コナンはゲッという声を漏らし、持っていたサッカーボールを地面に落とした。
人の顔を見てその反応とは、失礼な子どもだな。そんなことを思いながも、ユキは穏やかな笑みで公園に足を踏み入れた。
「あら、2人は歩美ちゃんたちのお友達?」
「そうなの!この2人も少年探偵団のメンバーなんだ」
へー、そうなんだ。と強弱のない平坦な感想を述べたユキは江戸川コナンと呼ばれた少年の顔を見て僅かに眉を寄せる。スっと「哀」と呼ばれた女の子の背後へと隠れる少年の姿を見たユキの心境はいたってシンプルだった。
新一くん、こんなところで何してんの?である。
* * *
バチッとユキと目が合ったことでコナンは咄嗟に灰原の背後へと隠れた。バクバクバクと急激に加速する心臓を抑えて深呼吸をすれば、灰原に怪訝な表情を向けられた。当然、挙動不審なコナンに対して子どもたちは不思議そうな顔をしている。コナンの奴何やってんだ?と元太。もしかしてコナンくん、ユキさんに惚れてしまったんですか?と光彦。え!?でもコナンくんユキさんは大人の人だから!と畳み掛けてくる子どもたちにコナンは頼むから黙ってくれと思った。
しかしコナンの思いは虚しく、子どもたちの追求は止まらない。「ちょっと、お友達を困らせるのは良くないよ」と助け舟を出すために子どもの間に割って入ってきたユキと目が合わないように全力で顔を背けるコナンの様子に、灰原はさらに面倒くさそうに顔をひきつらせる。
「ちょっと江戸川くん、さっきからなんなのよそれ。あの人と知り合いなの?」
「ああ、まあちょっとな。俺というか工藤新一の知り合いなんだよ」
「それって」
「いや、俺の正体は知らないはずなんだけど…」
そう言って続きの言葉を濁したコナンは、子どもたちと話をするユキを盗み見る。ユキは工藤新一が江戸川コナンとなる前から親しくしていた大人の1人である。そして、同時に江戸川コナンにとっては要注意人物でもあった。なにせ頭の良さは言うまでもないが、それ以前に勘がものすごく鋭い人なのだ。
超直感とも言えば良いだろうか、恐らくユキ本人は無自覚だが一般的に言う直感と言われる能力が著しく高い人だとコナンは見ている。何度か一緒に事件に巻き込まれた経験があるが、「あの人なんか怪しくない?」と根拠のないユキの発言が尽く当たる。最終的に工藤新一の推理が答え合わせとして「なあ、ユキさん誰が怪しいと思う?」と聞くほどだった。
だからさっき目が合ったとき、一瞬だけ見抜かれたと思ってコナンは思わず隠れてしまった。
「それじゃあ、博士の家に行こう!ね、哀ちゃん!コナンくん!」
グイッと歩美に手を引かれてコナンと灰原は、ハッと子どもたちの方を見る。どうやら先程から子供たちに遊ぼう遊ぼうとしつこく誘われるユキが折衷案としてお菓子作りを引き合いに出したらしい。もちろん、ユキの提案に乗った子どもたちは既にユキを博士の家に連れて行こうとしている。
「おいユキ!うな重は作れねぇのか?」
「うな重…?それはちょっと、おやつには重くない?」
結局、灰原とコナンは流されるままにお菓子の材料を買って博士の家まで来た。ユキの顔を見た博士は久々に孫にあった祖父かのように喜び、なんの抵抗もなく家へ招き入れるので、灰原とコナンには抵抗する余地もなかった。
江戸川コナンの正体がバレませんように、と祈りながらお菓子作りをすること数分、買ってきたレモンを搾りながら「そういえばユキお姉さん、なんでレモンパイなの?」と歩美がユキに質問をする。
そう、ユキはレモンパイを作るためにスーパーへ向かう途中だった。なので遊ぼうと絡んでくる子どもたちにお菓子作りを提案することで上手いこと丸め込んだのだ。
歩美の質問を聞いて、ユキはコナンの方を見る。
「ああ、この前新一くんの誕生日だったからさ、作ってみようと思って」
だよね?とコナンを見るこむぎに、コナンは「え?」と背筋が凍ったような感覚に陥った。ダラダラと冷や汗を流しながら全力で目を逸らすコナンに顔を近づけて、「あれ?」と小さく呟いたユキはゆっくりと瞬きする。
ぱちくりと、瞼を動かしたユキは、記憶の中にある工藤新一と、江戸川コナンを見比べて大きく首を傾ける。
「君、誰?」
「ぼ、僕は江戸川コナン、だけど…」
「江戸川?本当に?」
「う、うん」
全く納得できない、というように頬に手を当て難しい顔をするユキ。今日は、目当ての本が見つからなかったので、たまたま思い出した新一くんの誕生日をお祝いしようと、彼の好物であるレモンパイを作ろうと意気込んだ。そして材料を買いに行く途中に、親しい子どもたちに囲われた。
子どもたちと遊ぶのも吝かではなかったのだが、ちょうどよく工藤新一を発見したので、お菓子作りの提案をして当初の計画を続行することにした。
それなのに、工藤新一だと思って接していた子どもが想像よりも随分と小さいのだけど…。とユキの双眸はじっとコナンを見つめている。
まるでホラー映画でも見ているみたいだ。コナンとユキは互いにそう思った。
――あれ?そういえば新一くんって今は高校生くらいじゃなかったっけ?私の記憶違い?
――待て待て待て待て、これはユキさんは俺のこと気づいてんのか?なんで?今日はまだユキさんと話すらしてないのに?
「まあいいや。確かレモンパイが好きだったよね」
「ユキお姉さん、それ誰に聞いてるの?」
「誰って新一くんしかいな…ん?」
「ん?」
無理だ。むむ、と顔を顰めて混乱を極めているユキを見て、コナンはこれ以上誤魔化すのはもう無理だと思った。むしろどんどんややこしいことになっている気がする。
「ユキさん見てください!パイ生地が良い感じに焼けてます」
「お、そろそろかなぁ。光彦くん報告ありがとね」
オーブンで焼いているパイ生地の様子を確認しながら後何分くらい焼こうかな、と独り言を呟くユキ。コナンはユキの意識が自分から逸れたことにひとまず安堵した。
しかし…もうバレてしまったものは仕方がない、ユキには後でちゃんと説明しよう。
* * *
「なるほどね。それにしてもすごいな」
レモンパイを食べ終えて子どもたちと解散した後、使った食器を片付けながらコナンはユキに自分が小さくなった経緯を事細かに説明した。
その結果がこれだ。けっこうシリアスな雰囲気で回想をしていたコナンだったが、そんなコナンをまじまじと見ながら、人ってこんな縮むこと出来るの?すごくね?と感心しているユキに、「まったく脳天気な人ね」と灰原は呟いた。
江戸川くんは相当頼れる人だとか言ってたけれど、ほんとうにこと人を巻き込んでも大丈夫かしら?というのが灰原が感じたユキへの素直な印象だった。それと同時に随分とあっさりネタばらしするコナンに、灰原は少しの不信感を覚える。
なぜならこれでユキも危険な組織についての情報を知ることになったからだ。灰原は全く関係の無いユキを危険なことを巻き込んでしまったという罪悪感が胸の内に渦巻くのを感じていた。
その罪悪感を誤魔化すように、 コナンの横で目を伏せる灰原をユキは不思議そうに見遣る。
「哀ちゃんはどうしてそんな暗い顔をするの?普通、悩みを打ち明けたら明るい顔になるはずなんだよね」
どうして、いったい何があなたをそんな顔にさせるの?そんな疑問を浮かべたユキはひとつ溜息をついて、とりあえず灰原の頭を撫でてみる。
「とりあえず、はいこれプレゼント。本当は誕生日の彼だけにあげる予定だったんだけど。今回は特別に哀ちゃんにもあげるね」
バチッと完璧なウィンクをしたユキはそう言ってペラペラの紙をコナンと灰原に渡した。
手のひらサイズの小さな紙の中央に名前、その下に電話番号、ユキさんの名刺か?と思いながらコナンは右下に書いてある文字に目を滑らせる。
"いつでもお悩み解決!語学万能探偵双葉ユキがあなたをお助けします…!"
「ってなんだこれ」
「困った時はいつでも相談に乗るよ券に決まってるでしょ」
明らかに今作ったであろうと分かる手書きの名刺。名刺の左側が妙にガタガタだし、明らかにメモ帳から千切った即席の産物だ。
語学探偵ってなんだそれ、それっぽく言ってるけど意味わかんねぇし、もはや俺たちのことおちょくってんだろ…そんなことを思い苦笑するコナンとは裏腹に、ユキはコナンと灰原の前で「どうかな」と穏やかな笑みを向けた。
「私が君たちの仲間になった!これほど頼もしいことはないでしょ」
困ってるときはお互い様。そう言って笑ったユキの、いかにも呑気なセリフに呆れたように笑うコナンの横で、灰原はふっと自身の緊張が解けていくのを感じた。
「あなた、よくバカだって人から言われない?」
「あれ、哀ちゃんってけっこう辛辣なことを言うんだね。でもそうだな…こう見えて私はけっこう優秀だって言わる方が多いんだよ。だからね、心配は何もいらない」
「…そう」
そこまで自信満々に言うなら安心ね。そう言って僅かに口角を上げた灰原。今日、ずっと固かった灰原の表情が初めて緩んだ。隣でその変化を感じとったコナンは、改めてユキの顔を見て、その存在の心強さを実感した。
いつでも穏やかで、他人に勇気を与えられる人、そんなユキのことが出会った頃からずっと好きだったのを新一は思い出す。
▶▷え?人ってそんな縮むことある?笑
↪︎ hitoka. 私も去年より2ミリ縮みました😭
↪︎ hagiwara. 大丈夫!ユキちゃんは小さくても可愛いから!