だんだんと花が咲き、春が始まる
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『ユキちゃん、来月によっちゃんが帰ってくるみたいなんだけど、うちの誕生日パーティ参加しない?報告したいことがあるのよ』
同級生の山本猛虎の妹である山本あかねはユキの親友である。彼女の誕生日パーティを終えた日の夜、布団を並べて女子会をしていたときのことだ。あかねちゃんとアリサちゃんが音駒高校時代の話に花を咲かせている頃、ユキは枕元に置いていた自身のスマホが光ったのを確認した。
なんだろう、と叔母である潔伊世から送られてきたLINEを見てみると世一くんの誕生日パーティへのお誘いだった。
どうやら新英雄大戦が終わったのでこのタイミングで従兄弟の世一くんが一時的に帰ってくるらしい。伊世ちゃんの報告したいことは恐らく世一くんのサッカーでの躍進のことだろう。あのホワホワとした話し方で世一くんの活躍を語る伊世ちゃんの顔が想像できる。とりあえず知らないふりしとけばいいか。と思いながらユキはポチポチと返信する。
もちろん行くに決まっている。誕生日のことも、サッカーのことも、もともとお祝いするつもりだったし。去年まではずっと海外にいたのもあって最近はめっきり会っていなかったからこのチャンスは逃すまい。
音駒高校バレー部の話からリエーフ君の話、そしてリエーフ君の嫌いな食べ物がなんだという話に切り替わったところでユキはふと思ったことを口にした。
「ねぇ2人はさ、きんつば好き?」
「きんつば?私はあんまり食べたことないかも」
「きんつばって和菓子よね?私は好きでも嫌いでもないけど、急にどうしてきんつば?」
「いや、ちょっと作ってあげたい人がいてね」
くるりと指で毛先を巻きながら優しく微笑んだユキ。そのあまりに愛らしく、いじらしい表情に、あかねとアリサは「え」と口を開けて固まった。
しばらくしてユキの言葉の意味を察した2人はハッと目を輝かせてアイコンタクトを取る。
「ユキちゃんそれって…!!」
「ちょっと何よその面白そうな話は!!良いわよ、きんつばの作り方調べましょう!」
「そ、そうよ!私も協力するわ!ユキちゃんからの手作りなんてきっと喜んでもらえるわ!」
「さ、そうと決まればコンビニよ!まずは材料からね、そして今から特訓よ!」
「え、今から!?」
「そうよ!恋はもたもたしてたら実らないの!善は急げって言うでしょ!」
「こい…?」
* * *
数日後、埼玉県にある潔家に訪れたユキはさっそくキッチンを借りたいと申し出た。
ユキの手に持つ袋には粒餡と粉寒天とはちみつ。それを見てユキの作ろうとしてる物を察した伊世は、さすがユキちゃん!と言って快くきんつば作りの準備を手伝ってくれた。
練習通り、完璧なきんつばを作り終えたユキ。自分でも驚くほど見栄え良く作られたそれに満足してパシャパシャと撮影する。
今日の投稿はこれで決まりやな。そう独り言を呟いて撮った写真を飾り付けていると、ちょうど本日の主役である従兄弟が帰ってきた。
「おかえり〜」
「ただいま…ってあれ!?」
家には母親しかいないと思っていた世一は、玄関を開けた瞬間、想定外の声が聞こえてきて固まった。母親とはまた別の、心地の良い落ち着いた声色。世一が小さな頃から「ほんまに可愛いねぇ」と言って優しい笑みで語りかけてくれていたその人物を想像して、世一はスタンディングオベーションを決める。玄関をスタートに家の中をバタバタと走り、リビング、浴槽、キッチンと扉を開けて大好きな従姉妹の姿を探した。
「おかえり〜世一くん」
「ユキちゃん!?なんでいんの!?」
「そりゃもう世一くんの誕生日だからに決まってるでしょ!さ、早く手洗ってきて!」
「ちょ、ちょっと押すなよ」
ユキに急かされるまま洗面台へ向かった世一は、にこにこと楽しそうにするユキの顔を見て自分の心が浮ついていくのを感じる。
(まさかユキちゃんが家に来てるだなんて思わなかった。知ってたらもう少し早く帰ってきたのに…)
世一とユキが直接会うのは実に2年ぶり、世一が中学生のとき、部活の大会を見に来てくれたのが最後だった。
世一はユキのことが好きである。住んでいる場所が埼玉と兵庫で離れているせいで会う機会こそ多くはなかったが、世一は自分のことを可愛がってくれるユキにとても懐いていた。美人だし、優しいし、しっかりしていて頼もしい姉のような存在。
けれども、なかなか会うことのできない距離にいるのが事実だった。ユキが大学生の頃は東京に住んでたからちょくちょく会いに来てくれてたけど、社会人になってからはそうはいかなくて、ちょっと寂しかった。
なんといっても双葉ユキという人物は忙しい人だから。頭が良くて仕事ができるユキは、常に世界中を飛び回って活躍しているのだ。会えなければせめて連絡だけでも、と思ったが今まで母親経由でやり取りをしていたため連絡先を知らなかった。それからは徐々にユキと距離が離れていくような感じがして、そのせいで世一の中でユキが遠い存在のような感覚になっていた。
けれどもそれは違った。家に帰ったら記憶にある通りの優しく笑顔を向けてくれるユキがいた。久しぶりでちょっと緊張するけど、今は確かに世一の手の届く距離にいる。
ふと自分よりも背が低くなったユキを見て世一には小さな欲が芽生えた。よし、と心の中で気合いを入れた世一はひと足先にソファで寛ぎ始めたユキの横に座る。
ブルーロックで自らのエゴを育ててきた潔世一は、今までの遠慮がちな潔世一ではないのだ。そして世一は決意する。
ユキちゃんの連絡先が欲しい!!と。
チラリと盗み見たユキの横顔。最後に会ったときよりも、数段綺麗になったユキに、世一はカッと顔を赤くした。
「世一くん?」
「え?な、どうしたのユキちゃん」
「ううん、何でもない。なんか凄いかっこよくなったなって思って」
「かっ!?いやいや、それよりユキちゃんの方がすごく綺麗になっててびっくりしたよ」
少し視線をそらして、恥ずかしそうにする世一。そんな世一を見てユキは思う。え?何この可愛い生き物。あ、私の従兄弟だったと。
最近は連絡もそんなに取ってなかったからどんな様子かと思ったけど、相変わらず可愛い可愛いユキの従兄弟であった。けれどもさっきのかっこいいという言葉は嘘じゃない。潔世一はなんだか頼もしくなった。前よりも身長も伸びたし、筋肉もついて男らしい感じになった。それに、女性に向かって綺麗だなんてセリフを吐けるようになってたなんて、なんか感動。
涙腺が少しうるっときたのでユキは目元を抑えた。
そんなとき、ガッとユキの肩を掴んだ世一。その突然の行動に え、なに、と驚くユキの声を無視して世一は勇気を振り絞った。
「な、なあユキちゃん、あの、忙しいのはわかってるんだけどさ、俺にも連絡先を教えてくれないか?」
「それは全然いいけど…というか世一くんって私の連絡先知らなかったの」
「よっしゃ!」
「…?」
「こ、これからは連絡とかしてもいいか?」
「そんなん良いに決まってるでしょ」
「ほんとか!?俺、けっこう頻繁に連絡するかもだよ?」
「むしろウェルカム。はいこれ、インスタも教えとく」
はいQR読み込んで〜とスマホ画面を出すユキに対して、少し緊張しながらQR画像を読み込んだ世一は、わあっと瞳を輝かせる。自分のスマホにユキのアカウントがあることが嬉しかったからだ。
とても純粋なキラキラスマイルで「あ、ありがとうユキちゃん!」という言葉を受け取ったユキはそのあまりの眩しさに目が潰されるかと思った。
か、かあいいいいい〜〜!!世一くんってなんなの!?!?さすが私の良心!!もういくらでもきんつば作ってあげる。
「ありがとうユキちゃん」
「うん、お礼はさっきも聞いたよ」
「でも本当に嬉しいから」
は?可愛すぎるやろ、どうなっとんねん!というツッコミを心の中に押し込めて、ユキは話を切り替える。
「あ、そうだ。今日ここに来た理由なんだけどね?」
「え?それは俺の誕生日だからじゃないのか?」
「そうそう世一くんの誕生日だからっていうのがひとつ」
「それ以外にも何かあるのか?」
「ふふ、そうなの。今日はね、世一くんサッカー日本代表おめでとう!!って言いにきた!」
「えっユキちゃんなんで知って…」
「テレビに出てたからね。あの時はびっくりしたよ。だって世一くん、すごいかっこよくゴール決めてたから」
テレビで見た世一のゴールの瞬間を思い出しながら、ユキはその時の感動を伝える。ソファの上で向き合った状態、瞳を合わせながら本当に嬉しそうに世一の活躍を語るユキに、ああそうか、ユキちゃんも見てくれてたんだ…と、世一はじんわりと心が満たされていく感じがした。
「あの、ありがとうユキちゃん!俺すごい嬉しい!」
ニコッと笑った世一の顔に、ユキはぎゅっと心が掴まれる感覚がした。世一がまだ小さな頃、サッカーに憧れてキラキラとした瞳で夢をみていた頃と同じ顔だ。ただ純粋に、子どものように喜ぶ世一の笑顔を見て、ユキはこの上ない幸せを感じる。やっぱり、何かを一生懸命に頑張っている人の姿は太陽よりも眩しい。
その何よりも美しい笑顔を脳裏に焼き付けて、ユキは以前よりも成長して大きくなった世一の手を握った。
「うん、おめでとう世一くん」
▶▷ これは上出来✨👏✨👏✨👏✨
↪︎ keiji. きんつばめっちゃ美味そう
↪︎ akane. 練習より上手くなってる!これならいけるよユキさん!
↪︎ alisa. ユキちゃんファイト🔥