わたしの考える最強のコイビト
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4.
大きな一軒家、デザインは至ってシンプルモダンなスタイルの家だが外周をぐるりと囲むクローズ外構の庭がある。
先日、黒尾のもとには「引っ越した」という簡素な連絡が幼馴染から送られてきた。なので今日は引っ越し祝いとして手土産を持って幼馴染の家に訪れたわけなのだが…。
黒尾は想像以上の立派な住宅に呆気にとられていた。
しかし黒尾にとって驚きの事実はこれだけでなかった。恐る恐る門の左側に取り付けられているインターフォンを押せば、「はーい」という明るい女性の声が聞こえて黒尾は固まった。あれ、住所を間違えたかと幼馴染からのLINEを確認するも、特に間違いは見当たらない。そうこうするうちにガチャリと鍵の開く音につられて顔を上げれば、なんとまあ可愛らしい女性と目が合った。
女性と目を合わせて数秒、頭の中で理解の追いつかない黒尾は何とか声を出そうと言葉を捻り出そうとするが、なかなかいい言葉が見つからなかった。だって、女の影など少しもなかった、あの引きこもりで人見知りな幼馴染の家から女性が出てくるなんて思わなかったからだ。
「…えっと、なんの用でしょう?」
しばらく黙り続ける黒尾に、痺れをきらした女性が先に口を開いた。
「すみません、あの僕研磨くんの友人なんですが、研磨くんはいらっしゃいますか?」
「ああ!もしかして「クロさん」ですか?」
「えっと、そうです!研磨から話聞いてますかね」
「はい、近いうちに幼馴染が来るかもしれないという話を聞いてました。今日だったんですね、とりあえず上がってください」
女性に促されるまま、玄関を通されリビングまでたどり着く。心地の良いソファに座らされ、女性が手際よく紅茶を運んできた。予想よりもはるかにふわふわしたソファに座る黒尾の前に、紅茶の良い香りが広がる。しかし、そんな暖かい空間とは相反するように、黒尾の心中は穏やかではなかった。「研磨くん、呼んできますね」と言ってリビングを出ていく女性の背中を見つめながら黒尾は考える。
あの女性は、研磨にとっていったいどのような存在なのかと。
* * *
「はあ!?同棲中!?!?」
「クロうるさい」
「いやいや普通にびっくりするだろ、あの研磨にだよ?そもそも俺、お前に彼女がいた事すら知らなかったんですけど?」
「わざわざクロに言う必要もないでしょ。言う機会もなかったし」
「まあ確かに最近は会ってなかったけど、それにしても一言くらい連絡くれても良かっただろ」
「はあ…」
「で?出会いはいつ?」
「なにそれ、そんな話はいいでしょ」
「いーや、俺は今日研磨から彼女との馴れ初めを聞くまで帰らねぇぞ」
「…」
クロめんどくさい、そう言いたげな研磨に視線を無視して、黒尾はテーブルに置いてあった角砂糖を紅茶にひとつ入れた。
研磨を呼び出してくれた彼女は、黒尾と研磨に気を使ってか、これから買い物に行くと言って出ていった。それを良いことに、黒尾はまだもうしばらくこの家に居座ることにした。
彼女の名前は音城ユキというらしい。YouTubeの切り抜き動画を作成してくれる人を募った際に応募してくれたことが出会いのきっかけらしい。
「つまり、音城さんは研磨のファンだったったわけか?」
「いや、それは多分違う。ユキはあんまり動画とかSNSとか見ない人だから、本当に副業を探してただけだと思う」
黒尾が、音城ユキという人物を少し疑っていたのは事実だ。有名人になったとはいえ、黒尾の幼馴染の本質は変わっていない。内気で面倒くさがりや、人との関わりは以前嫌いなままだし、基本的には家に引きこもって生活している。学生の頃から彼女などいたこともないし、多分大人になってからもそんな話はなかった。つまり、孤爪研磨という男は色恋などというものに慣れていないはずなのである。
それなのに急に、幼馴染の家からいかにも社交的そうな可愛らしい女の子が出てきたのだ。しかも出会い方だって怪しい。黒尾が幼馴染を心配になるのも仕方がないことである。
あの研磨に恋人が?
いや、有名人を狙った彼女のハニートラップかなんかか?
などと、全方位に喧嘩を売るような思考に陥った黒尾はかぶりを降った。一度落ち着こうと残り少なくなった紅茶を飲み干してひと息つく。
「クロ、なんか面倒くさいこと考えてるでしょ」
研磨にとって黒尾は昔から面倒見のよい幼馴染であった。そんな黒尾の思考を察した研磨は、ひとつため息をついて、黒尾の顔を見た。
「別に、ユキがKODZUKENのファンでおれに近づいてきたとかっていうのはないから安心してよ。それに、多分世間的にはユキの方が有名人なんじゃないかな」
ほら、聞いた事あるでしょ?「コトハ」つていう小説家。研磨の言葉に黒尾はまた思考を停止させた。
「え、マジで?」
「うん」
コトハといえば、最近世間に名を馳せる若手小説家である。黒尾の家にも彼女の連載している小説が何冊か置いてあるのでその名前に見覚えがあった。
「マジか、それを早く言えよ!後でサイン貰わねぇと」
すると、手のひらを返したように黒尾は目を輝かせる。先程の疑いなど忘れたように、「俺、あの警視庁桜物語シリーズ好きなんだよな」などと言いながら黒尾は慌ててバックの中からペンを取り出した。
そんな黒尾に対して、自慢気に微笑む研磨がいた。
まるで自分の彼女を自慢するような、そんな誇らしげにこちらを見る研磨に、黒尾は目を丸くする。
まさか、研磨にそんな表情をさせる女性が現れるとは。
へぇ、あの子のことがそんなに好きなんだ。と黒尾がニヤケた顔で研磨を見るので、研磨は自分の表情が緩んでいたことを自覚した。そして堪らず、恥ずかしそうに目を逸らした。
大きな一軒家、デザインは至ってシンプルモダンなスタイルの家だが外周をぐるりと囲むクローズ外構の庭がある。
先日、黒尾のもとには「引っ越した」という簡素な連絡が幼馴染から送られてきた。なので今日は引っ越し祝いとして手土産を持って幼馴染の家に訪れたわけなのだが…。
黒尾は想像以上の立派な住宅に呆気にとられていた。
しかし黒尾にとって驚きの事実はこれだけでなかった。恐る恐る門の左側に取り付けられているインターフォンを押せば、「はーい」という明るい女性の声が聞こえて黒尾は固まった。あれ、住所を間違えたかと幼馴染からのLINEを確認するも、特に間違いは見当たらない。そうこうするうちにガチャリと鍵の開く音につられて顔を上げれば、なんとまあ可愛らしい女性と目が合った。
女性と目を合わせて数秒、頭の中で理解の追いつかない黒尾は何とか声を出そうと言葉を捻り出そうとするが、なかなかいい言葉が見つからなかった。だって、女の影など少しもなかった、あの引きこもりで人見知りな幼馴染の家から女性が出てくるなんて思わなかったからだ。
「…えっと、なんの用でしょう?」
しばらく黙り続ける黒尾に、痺れをきらした女性が先に口を開いた。
「すみません、あの僕研磨くんの友人なんですが、研磨くんはいらっしゃいますか?」
「ああ!もしかして「クロさん」ですか?」
「えっと、そうです!研磨から話聞いてますかね」
「はい、近いうちに幼馴染が来るかもしれないという話を聞いてました。今日だったんですね、とりあえず上がってください」
女性に促されるまま、玄関を通されリビングまでたどり着く。心地の良いソファに座らされ、女性が手際よく紅茶を運んできた。予想よりもはるかにふわふわしたソファに座る黒尾の前に、紅茶の良い香りが広がる。しかし、そんな暖かい空間とは相反するように、黒尾の心中は穏やかではなかった。「研磨くん、呼んできますね」と言ってリビングを出ていく女性の背中を見つめながら黒尾は考える。
あの女性は、研磨にとっていったいどのような存在なのかと。
* * *
「はあ!?同棲中!?!?」
「クロうるさい」
「いやいや普通にびっくりするだろ、あの研磨にだよ?そもそも俺、お前に彼女がいた事すら知らなかったんですけど?」
「わざわざクロに言う必要もないでしょ。言う機会もなかったし」
「まあ確かに最近は会ってなかったけど、それにしても一言くらい連絡くれても良かっただろ」
「はあ…」
「で?出会いはいつ?」
「なにそれ、そんな話はいいでしょ」
「いーや、俺は今日研磨から彼女との馴れ初めを聞くまで帰らねぇぞ」
「…」
クロめんどくさい、そう言いたげな研磨に視線を無視して、黒尾はテーブルに置いてあった角砂糖を紅茶にひとつ入れた。
研磨を呼び出してくれた彼女は、黒尾と研磨に気を使ってか、これから買い物に行くと言って出ていった。それを良いことに、黒尾はまだもうしばらくこの家に居座ることにした。
彼女の名前は音城ユキというらしい。YouTubeの切り抜き動画を作成してくれる人を募った際に応募してくれたことが出会いのきっかけらしい。
「つまり、音城さんは研磨のファンだったったわけか?」
「いや、それは多分違う。ユキはあんまり動画とかSNSとか見ない人だから、本当に副業を探してただけだと思う」
黒尾が、音城ユキという人物を少し疑っていたのは事実だ。有名人になったとはいえ、黒尾の幼馴染の本質は変わっていない。内気で面倒くさがりや、人との関わりは以前嫌いなままだし、基本的には家に引きこもって生活している。学生の頃から彼女などいたこともないし、多分大人になってからもそんな話はなかった。つまり、孤爪研磨という男は色恋などというものに慣れていないはずなのである。
それなのに急に、幼馴染の家からいかにも社交的そうな可愛らしい女の子が出てきたのだ。しかも出会い方だって怪しい。黒尾が幼馴染を心配になるのも仕方がないことである。
あの研磨に恋人が?
いや、有名人を狙った彼女のハニートラップかなんかか?
などと、全方位に喧嘩を売るような思考に陥った黒尾はかぶりを降った。一度落ち着こうと残り少なくなった紅茶を飲み干してひと息つく。
「クロ、なんか面倒くさいこと考えてるでしょ」
研磨にとって黒尾は昔から面倒見のよい幼馴染であった。そんな黒尾の思考を察した研磨は、ひとつため息をついて、黒尾の顔を見た。
「別に、ユキがKODZUKENのファンでおれに近づいてきたとかっていうのはないから安心してよ。それに、多分世間的にはユキの方が有名人なんじゃないかな」
ほら、聞いた事あるでしょ?「コトハ」つていう小説家。研磨の言葉に黒尾はまた思考を停止させた。
「え、マジで?」
「うん」
コトハといえば、最近世間に名を馳せる若手小説家である。黒尾の家にも彼女の連載している小説が何冊か置いてあるのでその名前に見覚えがあった。
「マジか、それを早く言えよ!後でサイン貰わねぇと」
すると、手のひらを返したように黒尾は目を輝かせる。先程の疑いなど忘れたように、「俺、あの警視庁桜物語シリーズ好きなんだよな」などと言いながら黒尾は慌ててバックの中からペンを取り出した。
そんな黒尾に対して、自慢気に微笑む研磨がいた。
まるで自分の彼女を自慢するような、そんな誇らしげにこちらを見る研磨に、黒尾は目を丸くする。
まさか、研磨にそんな表情をさせる女性が現れるとは。
へぇ、あの子のことがそんなに好きなんだ。と黒尾がニヤケた顔で研磨を見るので、研磨は自分の表情が緩んでいたことを自覚した。そして堪らず、恥ずかしそうに目を逸らした。
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