20 ショッピングデート
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「和菓子の祭典」と大きく書かれた広告を見つけ、つい手に取ってしまった。和菓子好きとして、一応、生菓子なるものを普段から作っている身として、これは気になると言わざるを得ないだろう。
広告下段にある詳細を見るに、今度の休日2日間に渡って某大型ショッピングモールの中央広場で行われるらしい。
それを見て少し肩を落とす。焦凍くんは週末ほど忙しいはず。それにショッピングモールに1人で行くなんて彼が聞いたら絶対心配するに決まってるし、私だってもしそこで何かあっても彼に迷惑をかけるだけなんて嫌だもの。仕方ないか、と思いつつも未練がましくゴミ箱へは捨てずに広告をテーブルの上に置いたまま、夕食の準備のため台所に向かった。
* * *
出来上がりつつあるシチューの中に牛乳を少しずつ入れてゆっくりと煮込みながら味を整える。お匙で少し掬って口に含む、ちょっと熱いけど美味しく出来上がりそうで良かった。鍋に蓋をしてから今ある洗い物を先に済ます。
カチャカチャと最後の食器を洗い終わると同時に玄関から彼が帰ってくる音が聞こえて慌てて手を拭いた。
「焦凍くんおかえりなさい」
「ただいま、ユキ」
私が慌てて玄関に現れたことに彼は少し驚いたような表情をした。どうしたのかと首を傾げると、玄関まで走って来るのをやめろと彼に咎められてしまった。
「良い匂いだな、シチューか」
「うん、そうだよ」
「今日は体調に問題ないか?」
「大丈夫」
いつも仕事から帰ってくると決まって口にするその言葉に大丈夫と返すと、そうかと少し安心したように彼は私の頬に触れる。すぐにご飯を食べるか聞いたら食べるというので、準備をする間に着替えてくるように促し、私は再び台所でご飯の準備をする。
数分してすぐに戻ってきた彼が慣れたようにシチューと白米の入ったお皿を居間に運んでくれる。そんな光景を目で追っていてテーブルの上に置きっぱなしの広告に気がついた。
慌ててそれを回収しようと紙に手を伸ばすと、何故か先に彼の手によって回収されてしまった。
「ごめんなさい、それ捨て忘れてて」
そう言って広告に手を伸ばすと、ひょいと手を上げて何故か避けられた。
彼はしばらくじっと広告を見つめ満足したのか、1度こちらを向いて、そのまま広告を近くの棚の上に置いてから席に着いた。しかも私が普通に手を伸ばしても届かない高さのある棚の上だ。彼の謎の行動に困惑したまま固まる私に、「早く食べないと冷めちまうぞ」と言って彼は私に席に着くように催促する。とりあえず言われたまま座ってシチューに手をつけた。そして落ち着かないまま食事を続ける。
「日曜日の午後で良いか?」
「えっ」
何食わぬ顔でそう言う焦凍くんに思わず驚きの声をあげてしまった。そんなに行きたいオーラとかなにかが出てただろうか。
行きたいんじゃないのか?とこちらを向いて聞いてくる彼の言葉になんて返そうか口ごもってしまう。
行きたいは行きたいけれど、彼の仕事の負担にはなりたくない。だけど、たまにはお願いするのも…いやでも彼は優しいから困らせることもしたくない。いつもの感じだと休日はお仕事のはずだし…。
ずっと俯いて両手を重ねたり擦り合わせたりして落ち着かない様子を見せるユキ。言いたいことがあるのに言い出せない、何か悩んでるときの彼女の癖だ。大方、俺の仕事に気を使ってるのだろう。確かに、この週末は休みじゃない。1週間の予定を鑑みて日曜の午後なら休みを取れそうなので提案してみたのだが、それすら彼女は考慮して俺に迷惑をかけまいと思っているのか。だけどすぐに否定しないのはやはり行きたいと思ってるからだ。
彼女は普段から気を遣っていると思わせないくらいに気遣い上手な人だ。俺自身それに感謝してもしきれないくらいに支えてもらってる。だが、今までそれに甘えてきたばっかりに彼女にどれだけの我慢を強いたか分からない。彼女自身は我慢してるだなんて思ってないだろうが、この前の夏祭りのときにそれに気付かされて自分に失望した。
俺だって彼女のために何かしてやりたい。以前峰田がサプライズがどうとか言っていたが、そういうことが俺は苦手だ。加えて人の心情とか、表情とか、そういうのを遠回しに察するのが人より苦手な自覚はある。だから、彼女の欲望が見えないのが俺にとっては歯がゆくて仕方がない。
いま、せっかく彼女の願望がはっきりと見えてるんだ。その願望をなんとしてでも叶えたい。
「大丈夫だ。日曜はもともと午後から予定はなかったし、俺も和菓子には少し興味がある」
「ほ、ほんと?」
今までの自分が招いた結果ではあるが、正直ユキに遠慮されるのは落ち込む。もっと頼って欲しいし願望を口に出て欲しいと思う。
少々嘘も混じっているが、今の言葉で大丈夫だろうかと彼女の方を見ると彼女は、ぱっと顔を上げ空色の瞳を輝かせて顔を綻ばせた。まだまだ遠慮気味だが、行きたいと、そう口にした彼女に、今度はこちらが表情を緩ませた。
「具合悪くなったりしてないか」
「大丈夫だよ」
「ならいい、絶対に俺から手を離すなよ」
焦凍くんは車の扉を開けてから紳士のように手を差し出して私をエスコートしてくれる。ショッピングモール駐車場のコンクリートの上に足が着くと、彼はぐっと私の腰を引き寄せた。されるがままに彼の右側にぴったりくっついて彼のしっかりとした腕に自分の腕を巻き付けると彼は満足そうに私の頭を撫でてから行くぞと歩き出した。左足が不自由になってから、こうして2人で歩くときは彼が私の左側について歩いてくれるのはいつものことだ。
「この最中も美味しいね、あれ!あそこのあんみつも食べてみよう焦凍くん」
色んな和菓子に目移りしてあちらこちらに行こうとするユキ。久々の2人でのお出かけと、好きな和菓子に囲まれて気分が上がっているのか、子どものようにはしゃぎ、焦凍くん焦凍くんと何度も俺の名前を呼びながらこちらに花が咲き誇るような笑顔を向けてくるユキが可愛くて仕方がない。問いかけにに俺が頷くだけで彼女はふわりと嬉しそうに笑うのだ。感情の高ぶりで体調に影響が出ないといいが。
屋台から買ってきたあんみつを空いてる食事ブースに運んで2人並んで席に着く。どうしたものか、もぐもぐと幸せそうに破顔してあんみつを食べるユキが可愛いすぎて自分が食べることに集中できない。なんなら一生このユキの姿を見てられる。いっその事、俺のあんみつもユキにあげるか。
そうしてあんみつを食べるユキをガン見していたから、こちらに迫ってくる人影に気が付かなかった。
「あ゛あああ!轟!!」
その大きな声にビクッと肩を揺らしたユキを見てすぐに抱き寄せた。警戒態勢に入り声の方向へ目を向けると、目の前には見慣れた同僚2人が立っていた。
なんだ峰田と上鳴もここに来てたのか。
「なんなんだお前、こんなところでデートかよ!くそ羨ましいじゃねぇか!!オイラだって…オイラだってぇ!!」
「おい、大声出すのやめろ」
轟のその一言で峰田は目から血を流して昇天して倒れた。俺は轟から何度か惚気け話を聞いていたからまだ耐性があったが、いきなりの遭遇に峰田は耐えられなかったようだ。
それにしても…奥さん可愛いすぎだろ。いや美人系か?どっちにしろ美男美女、俺らに対しての火力は凄まじい。
「だ、大丈夫ですか?」
「め、女神が…」
「おい、そんなとこに座り込んでたら通行人の邪魔だろ」
地に伏した峰田を見て恐る恐る声をかける天使(奥さん)に峰田が頬を赤らめ手を伸ばすと、轟は真顔で峰田と奥さんの間に入り込んだ。そのまま轟が峰田の手を取り立ち上がらせた。峰田に対する火力が高いような。お前、それは天然か?わざとなのか?
「み、峰田、落ち着け俺らの戦いはまだ終わってねぇこんなところで倒れる訳には行かねぇだろ」
そう、俺らが何故ここにいるのか。それはこの和菓子の祭典、そんなの女の子がたくさん集まりそうだからに決まってるだろ。運良く休みが合ったので峰田と作戦を練ってここに来たというのに思わぬ刺客が俺らの前に姿を現した。
「焦凍くんの知り合い?」
「ああ、同僚だ」
「なら、お2人もヒーローなんですね。ああ、えっと私は轟ユキと言います」
そう自己紹介をする彼女につられて俺らも自己紹介を済ますと、ふわりと微笑まれた。て、天使がいる。
いや天使とか言ってる場合じゃない。なんか隣の男の目線に殺されそうなんだけど。暖かい天使の微笑みと絶対零度の目線で風邪ひきそうだよ俺。もうこれ以上リア充を見てられるか。
「じゃ、じゃあ俺らこの辺で失礼するわ」
「お、オイラも…じゃあまたな!ユキさん!」
「峰田お前バカなの!?勇者なの!?」
「良いじゃねえかこれくらい最後に天使に手を振って貰いてえんだよ俺は!」
本当に欲望に忠実過ぎる友人だ。俺はお前を勇者と称えるよ。
*
「元気な人達だったね」
「いやうるせぇだけだろ」
「ふふ、焦凍くんが友達と話してる姿が見れてなんか嬉しかった」
俺としてはユキとの時間を邪魔された感覚しかなかったが、ユキが嫌な思いをしてないならまあ良かった。俺の睨みが効いたのか友人2人は思いのほかすぐに去っていってくれたし。
最中、あんみつ、どら焼き、団子と最後に1番目当ての生菓子を買って満足そうなユキ。しかし彼女にはもうひとつ目的があるようで、気に入ったものをお土産として持ったあと、早速上階へ上がるエレベーターへと足を進めた。
何か欲しいものがあるのか聞くと彼女は首を横に振って否定する。それじゃあなんだと首を傾げる俺に、彼女はにこっと笑いかけてから目的の場所を指さした。
そこには大きなモニターがあり、でかでかと某洋服店の広告が映し出されていた。1分おきに画面が切り替わる仕様になっているそれを眺めていると、次の瞬間、この前ユキにあげたパーカーを着ている自身の姿が一面に表示された。
絶妙に恥ずかしい気持ちをどうしようかと視線をさ迷わせる俺とは違い、それを見たユキは わああと感嘆の声を漏らし目を輝かせる。
「これが見たかったの、やっぱりとてもかっこいい!」
嬉しそうな顔をしながらモニターに映るショートに顔を近づける彼女を見てなんだか妙な感覚に襲われた。一言で表すなら、不服だ。今隣にいる俺ではなくて、モニターに映る俺を見つめる彼女が気に入らなくて、彼女の顔を掴んでこちらへ向ける。
頭にはてなマークを浮かべるユキを無視して彼女の視線をモニターではなく自身に固定する。
「ユキ、俺よりそっちの方が良いのか」
どっちも俺ではあるし、正直自分が何を言ってるか分からないがとにかくこの妙な気持ちをどうにかしたくて、彼女にそう伝えると、ユキは一瞬驚きの顔を見せたものの再びふわりと笑った。
「ふふふ、私は贅沢者だね」
そう言って右手に組まれた手を俺の腰に回して抱きつくように胸に顔を埋めるユキ。
その言葉と行動に、これ以上ないくらい胸が締め付けられた。今度はもやもやした感情ではなく、どんどん溢れてくる愛おしい感情を噛み締めて俺も彼女の肩を抱きしめた。
「ユキ、好きだ愛してる」
「知ってるよ、私も焦凍くんが大好き」
「ああ知ってる、だからもう帰るか」
「ええ!?もうちょっと…」
「む…じゃあ、あと少しだけな」
((おい上鳴あのバカップルどうにかしろよ!))
((嫌だよ、てかなんで俺ら尾行なんてしてんの!?))
((あのイケメンの弱みを握るために決まってんだろうが よ!))
((そ、そうだった。ただ美男美女のバカップル見てダメージ受けただけで終わっちまうなんて…))
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