9. とうに帰する事実
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「お前ら中間テストは大丈夫なんやろな。もし赤点取ったら、合宿は連れて行けへんで」
もし赤点取ったら、合宿には連れて行けへんで
もし赤点取ったら、合宿には連れて行けへんで
朝練のときのミーティング、北さんが最後に言った言葉を心の中で反芻して俺は頭を抱えた。
あかーーーーん!!無理や!授業なんて真面目に受けてへんし、ノートもほとんど取ってへん!今までだって全教科赤点回避なんてしたことないのに。よりによって補習期間と合宿期間が被ってまうなんて!もし赤点取ってバレーが出来ひんなんてことなったら、そんな最悪なことあらへんで!!
「今回の中間は去年よりも難しくしといたからな、覚悟して勉強せえよ」
数学の教師、山本先生がそう言い残して本日の授業が終了した。これはやばい。山本先生は鬼かなんかか?せや、とりあえず銀にノート見せてもらわな。
ガタッと音を立てて席を立った俺は、窓側の後ろで呑気に教科書を整理してる銀のもとへゆっくりと近づき、その肩に手をかける。まずは提出物を片付けないとあかんからな。
「おい銀、数学のノート見せろや」
「うわ!侑顔怖すぎやろ!てか俺のノート当てにせんほうがええで、ほぼ寝ながら授業受けてたせいで何書いてあるかわからへん」
「なんやと!?」
「あー角名のクラスと数学の先生一緒やろ。やから俺もあいつらに見せて貰えばええかと思っててん…それにあっちにはユキちゃんも居るしなんとかなるやろ」
「それや!今の俺らにはユキちゃんが居るやんか!ユキちゃんは真面目にノート取ってるに違いないで!」
そうや、今年はユキちゃんが居るやんか。前に角名がユキちゃん頭ええって話してたし。ユキちゃんにノート見してもらって、ついでに勉強も教えてもらう。どう考えてもこれは神様が俺に見方をしているに違いない。ふっふ、これでテストは完璧や。
* * *
ところ変わって某ファミレス店。ユキちゃんに勉強教えて欲しい言うたら笑顔でOKをもらえたのでさっそく俺たちは移動することにした。角名も治も俺の顔をみるなり「え、お前も一緒かよ…」なんて揃って顔を顰めやがって、少しはユキちゃんを見習えっちゅうねん。かいらしい笑顔で快くノート貸してくれたで。
そんなことを思いながら先程受け取ったノートに視線を落としてはたと首を傾げる。
ペラっとページを一枚めくって目を擦る。あ、あれ?俺さっき数学のノート貸して言うたはずやねんけど。
「ユキちゃん、次は英語やなくて数学のノート貸してくれん?」
「…?えっと、今貸してるノートが数学のだけど…」
「へ…?」
再び視線を落としてノートを見ると、やっぱり書いてあるのは英語と数式…。あれ、ほんまに数学のノートやねんけど。公式の説明らしき文章も、重要ような語句のメモもちゃんと書いてあんねん。やけど、なんで数式以外の文字が英語なん!?ユキちゃんって普段からノート英語で取ってんの?そんなことある??
ノートとユキちゃんを交互に目で追って戸惑っていると、「オッホホ」と変な笑い方をする角名が視界に入ってきた。なんかイラっときたわ。さてはお前、知ってたな。
「てか、角名お前がノート見せろや!」
「えーじゃあ今日は侑の奢りね」
「なんで俺やねん!サムと銀やって写そうとしとるやろが!」
「あーうるさい、じゃあ3人の奢りね」
そう言ってしっかり板書してあるノートを差し出す角名はしてやったりという表情だ。アホほど腹立つけどとりあえず角名のノートを写さな。背に腹は代えられん。
必死でノートを写す俺らのそばで、角名はユキちゃんに英語を教えて貰っとる、くそ羨ましい!!ユキちゃん!俺の方がピンチやねんで!てか席が狭いな、なんで俺とサムと銀で同じ席でユキちゃんと角名が2人やねん!どう考えてもおかしいやろ、誰だ荷物まとめて角名の隣に置いたやつ。
* * *
ああ、集中してノートにペンを走らせるユキちゃんもかわええな。勉強するときだけ髪をサイドに結んでるのも最高や。気が付いたら写さなあかんノートのことなんか忘れてた。頬杖をついて、ユキちゃん眺めてると、ぱちっとユキちゃんと目が合った。
「あつむくん、どうしたの?」
「あ、ユキちゃん英語得意なん?」
「うん得意かも、私前アメリカに居たから」
「ええ!?そうやったんか!」
まさか目が合うなんて思わんくて、咄嗟に適当な質問をしたら、アメリカにおったという事実。初耳やねんけど。隣の銀の方が大袈裟に反応しよる。
・
「私ちょっと御手洗行ってくるね」
そう言って数分前に席を立ったユキちゃんがふと気になった。女子のトイレ事情なんて気にするだけ野暮なことやけど、少し遅いような気がして、ただなんとなく気になったから、俺も飲み物を取りに行くと言って席を立った。
「なあ、俺らと一緒に勉強しようや」
「神代ちゃん頭良さそうやし、勉強教えてや」
「いえ、私も友達と来てるので」
「え、じゃあ友達も一緒で良いからさ」
なんか変な感じがする思ったら、やっぱり絡まれとった。しかも同じ高校の奴らや。複数人で囲ってユキちゃんの行く手を塞いどる。
俺のユキちゃんに近づくな。
グッと胸の内側から怒りが湧いてきて拳を握った。ユキちゃんがやんわり断ってるのが分からへんのか。お前ら、誰の許可を得てユキちゃんに触れてんねや。そんな黒い感情を全面に出して、1番しつこく話しかけてる男の肩を思いっきり掴んでやると、ユキちゃんに絡んでいた男は不機嫌そうにこちらを向いた。
「いてっなんやねんお前…」
「それはこっちのセリフや、お前らさっさとユキちゃんの前から消えろや」
俺よりも幾分か背の低い男を見下ろして、怒りのままに睨みつけると男は短く舌打ちをして後退った。
その隙を狙って道脇を通り抜けたユキちゃんが俺の方へパタパタと走って近づいてくる。そして、俺のシャツをギュッと掴んで後ろへ隠れた。ん゛ーーっかわええ!!
「ユキちゃん、困ったときはいつでも言いうんやで、俺が1番に助けたるわ」
自分の目線よりもはるか下にあるユキちゃんの頭に手を乗せて、ぐしゃっと撫でるとユキちゃんは嬉しそうに笑って頷いた。
それでええねんもっと俺らを頼ったらええ。
ユキちゃんに服を掴まれたまま、自分たちの席へ戻ると、みんな俺らの方を見て目を見開く。
どうや、俺ら仲ええやろと見せつけるようにユキちゃんの肩をギュッと抱き寄せると、容赦のないサムの蹴りが飛んできた。そんで気が付いたら隣のユキちゃんがいなくなっていた。角名に回収されたユキちゃんはすっぽりと角名の腕の中に収まっていて、サムに殴られる俺を目を丸くして見つめている。さっきまで俺の隣にいたはずやのに、なんでや。
* * *
ファミレスで騒いで追い出されたので、そろそろ解散しようと話をしていたとき、ポケットからピコン!と音がなってスマホを取り出した。
「げっ北さんからLINEや!」
《ちゃんと勉強しとるか?》
「ちょお、なんて返そう」
「今日はちゃんと勉強したんやから正直に返事すればええやろ」
「せ、せやな」
《今日はみんなでファミレスで勉強しました!》
《そうか、騒がんで勉強したか?ユキに迷惑かけてへんか?》
「ややややばい、北さんもしかしてどっかで見てたんちゃうん」
「これはなんて答えるべきや」
「見てるわけないんだから、ちゃんとやりましたって言えば大丈夫でしょ」
「せ、せやな」
《はい!ちゃんとやりました》
《明日の予定はもう決まっとるんか?》
《明日もみんなで勉強する予定です!》
「よしこれでええやろ」
《そうか、ほんなら明日は俺の家で勉強するで》
「え、なんで!?」
「え、これはセーフか?アウトか?」
「なんやねん北さん怖すぎやろ」
「明日北さん家って、恐怖しかないんだけど」
それよりもちょお待って、北さんいつの間にユキちゃんのこと呼び捨てにしてん。ユキちゃんと北さん、いつの間にそんな仲良くなってんの!?
「なあツム、明日休日やで」
「それがなんやねん。俺ら今、北さん家で勉強会すること決まってもうたで」
「せやからユキちゃんの私服!!」
「はっサムお前天才か!」
3年バレー部グループLINE
《明日俺の家で勉強することになったから》
《え、なんで急に!?》
《2年が今日ファミレスで勉強した言うてたからや。明日も騒がしくして迷惑かけられんやろ》
《なるほどな~確かに双子がファミレスで静かに勉強できてるとは思えへんな》
《あと、ファミレスなんか言ったらユキが変なやつに絡まれるかもしらんからな》
《な、なるほど》
《北はユキちゃんのこと心配やねんな》
《当たり前や》
《まあ俺らの大事なマネやからな》
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