5. 清泉に反射する瞳
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朝、いつも通り起きていつも通り朝練に行く。毎日毎日おんなじことを繰り返して、今日もいつもと同じ景色の中を歩きながら校門を通った。そして部室に辿り着く直前、少しの変化を目の前に俺は足を止めた。それは、いつもこの時間には誰もいないはずの部室に人影があったからだ。
「あ、おはようございます北先輩」
「おはようさん」
神代ユキ、第一印象は人形みたいな子やった。
真っ白い肌に綺麗な金色の髪、ガラス玉みたいな瞳、面接が始まったら緊張してるのか、少し震えた声で自己紹介をするのを見てかわええと思った。だけど、今はバレー部を支えてもらうマネージャーを見つけなあかん、中途半端な気持ちやったら困んねん。正直この時期にマネージャーを募集して入ってくるやつに良い印象はない。
そもそもうちのバレー部にマネが居ないのは強豪校っていうのもあって大変だからっていうのが大半や。マネージャーとして部活に入ってもすぐにやめてしまう人が多くて、いつの間にかマネの募集はかけなくなっていた。今回は監督の意見で募集をかけることになったが正直あんまり納得はいっとらんかった。
案の定、曖昧な理由のやつらが多い。とりあえず昨日の放課後に張り出したマネ募集の紙を回収して、いったん集まった人達に面接をと思って矢先のことだ。貼り紙は回収したはずなのに、新しく希望の子やと監督から入部届けを渡されたのが昼の出来事。
まず、バレー部の2年と仲がええってことと、双子から誘われたっちゅうことは他とは何かがちゃうんやろなと思った。そしてなにより、アイツらのためにサポートしたいとハッキリ述べた時の目が、アイツらがバレーに向ける意志と同じくらい真っ直ぐやと思った。だから他の奴らよりも、少しの期待を込めて面接を通した。
けどまさか、俺よりも早う来ると思わなくてびっくりしたわ。俺がいつものようにボールを磨き始めると神代もボールを手に取って磨き始めた。めっちゃ綺麗な手で、爪もギラギラしてへん。
「神代、手伝ってくれてありがとな。マネージャーの仕事はこのノートに書いてあるからこれ見てやってくれ、なんか分からんことがあったら部員に聞いてくれればええから」
そう伝えると、ありがとうございますと丁寧に頭を下げてノートを読み始めた。そこで俺の中に彼女が真面目な子やと言う印象も追加された。
俺が体育館のモップ掛けを始めると神代も逆サイドからモップを掛け始め、終わったらそのまま流れるようにポールとネットの準備を始めようとする。
ポールは重いしネットは高いから、俺がやっとくことを伝えると、分かりましたと言って体育館を出ていった。ネットの準備を終えて体育館の外に出ると神代がドリンクの準備を始めるのを見て驚いた。
えらい仕事が早いな、もともとマネージャーやったことがあったんやろか。
「ドリンクは作り終わったらあそこのベンチに置いといてくれればええから」
「はい」
「神代は日本に来る前もマネージャーやっとんたんか?」
「いえ、マネージャーは初めてです」
「そうか、ほんならめっちゃ優秀っちゅうことやな。これなら俺らも助かるわ、これからもよろしゅうな」
そう言って頭を撫でてやると、神代は真っ白い肌に映えるように頬を赤く染めて、ふんわりと笑った。
「はい!よろしくおねがいします」
「ああー!!ユキちゃんもう居るやんけ!それにユキちゃんと北さんが仲良おしとる!!」
「なんやお前らちょっといつもより早いな」
「やって、ユキちゃんが朝練来るっちゅうから早起きたんです!」
「おはよう、治くん、侑くん」
「はっかわええな、おはようユキちゃん」
「おはよう侑くん」
「ユキちゃん今日の朝ご飯は梅おにぎりやで」
「ありがとう治くん」
「あれ、今日双子早くない?おはようユキ」
「ユキちゃんおはよう!!」
「おはよう、角名くん、銀くん」
いつもより早く双子が来たと思ったら、他の2年のレギュラーメンバーもちょっと早めに来よった。
あっという間に2年に囲まれて神代はふわふわと笑いながらみんなに挨拶する。
さっきまで神代の隣は俺が居ったのに、と2年に対して生まれた謎の対抗心を無視して体育館に戻る。
そしたら3年もちらほらと集まっていて驚いた。神代のことずっと見てたせいで気づかんかった。
「なんか信介も神代さんと仲良おしとったな」
「あの子新しいマネージャーってほんま?」
「ええな!かわいかったし!信介と仲ええんやろ?せやったら問題ないやろ!」
「せやな、とりあえずマネージャー募集期間の1週間は正式入部にはならんけど、神代はもううちのマネや」
* * *
「おはようございま〜す!」
「みなさん今日も頑張って下さいね!」
朝練の開始時間ギリギリにやってきた2人の女子を見て、そういえばユキ以外にも一応面接通してマネやってもらってるやつが居たことを思い出す。
この2人は昨日の放課後もマネやっとるから説明 は要らんかと思い、とりあえず何かわからんことがあったら聞いてなと声をかけて朝練を開始した。
・
休憩ー!という合図を聞き、みんなと共にいつもドリンクが置いてあるベンチへと歩いていく。すると、「お疲れ様で〜す」という明るい声と共にドリンクとタオルが手渡された。
ありがとうと礼を言って神代の姿を探す、どうせなら神代に渡してもらいたかったなんて考えながら体育館を見渡すと、神代はちょこちょこと走り回りながらあちこちに転がったボールを拾っていた。
「あれ、さっきの3対3って何対何やったっけ?」
「さっきってどの試合や」
「俺と治と赤木のチームでやったときの」
「どやったかわかるか?」
突然のアランの質問にえっと…と口ごもるマネ2人。なんやノートに記録取ってへんかったんか。まあでもまだ2日目やし、覚えとらんことのが多いのも仕方ない。
「ああ、まだノートの取り方わからへんよな。すまんな、録画見返しとくわ」
「次は得点とかの記録をノートに書いといてくれると助かるわ」
「あの、さっきの試合の記録なら取りましたよ」
アランがビデオを見るために移動しようとしたとき、凛とした神代の声が聞こえた。
どうぞ、とアランに手渡したノートを覗き込むと、さっきの試合の記録がよお見やすく書かれていた。
「はえ〜めっちゃわかりやすいわ、おおきに!」
「いえ、それなら良かったです」
それだけ言って今度は雑巾を持って汗で滑りやすくなったコートの中に入っていった。
ほんまに、マネージャー初日とは思えへんくらい優秀やな。
・
「神代さん!ノート取ること知ってたんなら教えてくれても良かったやんか」
「ご、ごめん、知ってると思ってて」
「も〜意地悪せんでな!」
朝練終わり、着替えに向かう途中、マネたちの話し声が聞こえた。神代と他の2人のマネが先程の試合記録の件の話をしている。2人のマネはヘラヘラと笑って神代にそう伝えているが、俺には少し神代を責めているように聞こえた。
試合をしたら得点を記録することはマネージャー業務のノートにもちゃんと書いてあったし、神代は今日初めてのマネージャーだ。他の2人は昨日からマネやっとるしノートもちゃんと読むように言ってあるのに、なんで神代が謝らなあかんねん。
「マネさんたちもお疲れさん、1限目遅れたらあかんで」
遠回しに神代を責めるような言い方をする2人にちょっと腹が立ってマネさんたちの話を遮った。
お疲れ様ですと言って体育館を出ていく前に神代だけ引き止めて、顔を合わせる。
「神代、お前はなんも悪ないで、だから簡単に謝るんはやめや。今日初めてなのによお働いてくれたわ、ありがとう」
「いえ、お役に立ててるのなら良かったです」
俺の言葉にふんわりと笑って返事をする神代。やっぱ、笑った顔が一番かわええ。なんかこの笑顔見たらなんか嫌な気持ちも吹っ飛んでまうわ。
「なんかあったらいつでも言ってや」
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