4. 透明な心が弾んだ
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「ちゅうわけで、1週間マネージャーを募集することになったわ、体験入部で今週の間マネ候補が来るけど気にせんでな」
北さんからの報告により、大半の部員のテンションが上がったせいで今日の朝練はいつもより浮ついてた。そういえば、昨日の放課後も見慣れない女子たちがこの体育館に来てたっけ。休憩の度に北さんが色々説明してたような気がする。
確かにマネがいたらモチベも上がるし、1年の仕事も減って練習に専念できるからチームを強くするには良いと思う。良いとは思うけど、なんで今なんだろ。
ぼーっとそんなことを考えながら教室に向かうと、机に突っ伏して眠るユキを見つけた。
まったく、ユキがマネージャーだったらいいのにね。
「ユキちゃん寝とるんか、かわええな」
「そうだね」
治と、ユキが眠る席まで近づいて寝顔を眺める。やっぱ肌白、まつ毛まで色素薄いんだな。
「ユキちゃん今日おにぎり食べられへんかな。よお寝とるし、起こすんもなんか嫌やな」
何食わぬ顔で眠るユキの前でそんなことを言う治。こいつの手作りおにぎり、最初はドン引きしたけど、ようやく普通のこととして認識できるくらいには慣れてきた。
ユキには無理しなくても良いと伝えたけど、朝ご飯食べなくても学校で食べられるからありがたいし、お昼も準備しなくて良くなっただけだから無理してないよって言われた。ほんと優しいよね。
普通知り合って2日目から毎日手作りおにぎり食べさせられたら引くんだけど。美味しそうにおにぎり食べるユキ見たらもうどうでも良くなった。治が作ったおにぎりってのが気に入らないけど。
「ねぇ治、ユキがマネージャーやってくれれば俺らのモチベは最高に上がるのにね」
「は?角名お前、天才か?ユキちゃんが起きたら頼んでみよか!」
* * *
マネージャーの件、どのタイミングでユキに言おうかと考えてたらあっという間に昼になった。とりあえず侑達も集まったら話そうかなんて思いながらユキの方を向くと、チャイムが鳴り終わると同時に俺らの席にやってきた治。ユキと席が隣なのは俺のはずなのに、なぜか目の前には治の背中あって、ユキの姿が見えなくなっていた。
「ユキちゃん、マネージャー興味あらへん?」
「マネージャー?」
「せや」
なんのことか、話が見えないけど…と言いたげに首を傾げるユキ。そりゃそうだ。でもそんな仕草もかわいい、、じゃなくて、
「バレー部が昨日からマネージャー募集してるらしいんだけど、ユキまだ部活入ってないでしょ?だからマネージャーに興味ないかと思ってさ」
「ん〜私バレーのこと良く分からないけど」
「そんなん大丈夫や、俺が教えたる」
「ユキちゃん!マネージャー興味あらへん?」
今度は侑が現れた。治の声を遮って急に視界に飛び込んできた侑が早口でユキにそう言った、あれデジャブ?
そして双子揃って俺の視界を遮るのやめてくれない?まじでさ超絶邪魔なんだけど。せっかくさっき治を退かしたばかりなのに、と思いながら侑の体もユキの机の前まで押しの退ける。
ユキは大きな瞳をぱちくりとしながら不思議そうに双子を眺めている、かわいんだけどその目線俺にも向けてくれないかな。
そして、悩むユキに追い打ちをかけるように、後からきた銀が「元気よく俺もマネージャーやってもらいたいです!」と声を張り上げた。それきっかけに、ユキがゆっくりと小さな口を動かすのを見て、ほんのりと期待が募った。
「えっと、私バレーのこともマネージャーのこともよく分からないけど、みんなにはいつも仲良くしてもらってるし、私ができることならやってみたい」
っっかわいすぎる。少し俯いて、恥ずかしそうに頬を染めて俺たちにそう言うユキの破壊力は完璧だった。真面目に心臓が握り潰されるかと思った。双子は顔を覆って悶えてるし、銀は心臓を抑えて地面に座り込んでる。
* * *
「じゃあ私入部届け出してくるね」
放課後、そう言ってパタパタと職員室に向かったユキをみんなで見送った。それまでは良かったんだけど…
「え?面接?」
「俺らユキちゃんにそんなこと言うてへん!」
「北さんの面接やでユキちゃんが泣いてまうかもしらん」
「いや、むしろユキなら北さんを味方に付けられるかもしれない」
「でもユキちゃんバレーのことよく知らへん言うてたし、心配やな…」
入部届けを出したら直ぐに体育館まで来ると思ってたユキの姿が見えないと思ったらまさかのマネージャー面接。
大耳さん曰く、昨日の放課後から募集をかけ始めたばかりなのに、思ったよりもマネージャー志望者が多くて大変なことになってるらしい。遊び半分で部活に入られても困るので、急遽北さんとアランさんが面接をすることになり、ある程度人数を捌いてから体験入部に参加させる。それから判断するということらしいが…。
まず、それを聞いた双子がこれでもかってくらい焦り始めた。
「面接ってどんなこと聞かれるんすか?」
「バレーに詳しくないとダメやったりして」
「なんや侑も治も、そんなにマネージャーのこと気にしよって」
「この前までマネなんか喧しいだけでも要らんわみたいな感じやったやろ」
「それとこれとは話は別や!」
「ま、まあ最終的に決めんのは北やからな」
まあユキのことだから遊び半分でマネージャーを志望したとは思われないだろうけど、他にどんな条件があるんだろうか。
今日の午後なんてバレーボールの本借りてきて授業中ずっと読んでたし、ユキ頭いいから基礎ルールくらいはもう覚えてそうだし。
とういか、俺らのために今日の午後ずっとバレーの勉強してたとかかわいすぎなんだけど。
「角名!なにボケっとしとんねんお前!ユキちゃんのこと心配じゃないんか!」
「まあ心配は心配だけど。ユキは今日ずっとバレーの本読んで勉強してたし、俺はユキのこと信じてるからね」
「はあ?俺やってユキちゃんのこと信じてるに決まっとるやろ!てかなんなん、今日ずっとバレーの本持ってたって、ユキちゃん健気過ぎて尊いわ!」
「神代ユキです。よ、よろしくお願いします」
えらいかわええ子や。この高校にこんな子おったんやな、てのがまず最初の俺の感想やった。
あかん、真面目に面接せな。可愛くても美人でもしっかりマネージャーやってもらわんといけないからな。見てみろ、隣の信介なんて表情1ミリも動かさずマネージャー候補の子をじっと見つめとる、その顔にビビって断念した子もぎょうさん居るから恐ろしいわ。案外この面接は効果があるかもしらんな。
「なんで、バレー部のマネージャーをやろうと思ったんや?」
「えっと、治くんたちに誘われて…」
「え、そうなんか?治とは仲がええんか?」
珍しく信介が目を見開いて驚いている。自分のことを棚に上げてそんなことを考えたが、俺かて驚いたわ。やってまさか2年どもから誘われたなんて想定外過ぎるやろ。特に治や侑がそこに入っとるのもびっくりや。
今まではマネージャー志望の理由聞いて、たいして中身がなかったり、バレーじゃない別の目的の理由で入部しようとしてるのがバレバレだったりすると直ぐに見切りをつけてたけど、この子はどうなんやろか。
「はい、お昼はいつも治くんや角名くんたちが一緒に食べてくれるんです」
「そうか、それじゃあ今までなんで部活やってなかったん?」
「わ、私2年に上がったときに稲荷崎に来て、それまではアメリカの学校にいたので…」
淡々と質問をする信介に緊張しながら頑張って答える神代さんを気の毒に思いながら例の噂の話を思い出す。噂の転入生ってこの子のことやったんやな。最近2年が騒がしかったのもそういうことかいな。たしかにこんなべっぴんさん来よったら騒ぎになるわな。
「ほんなら、治たちに誘われたんはわかったけど、なんでマネージャーをやろうと思ったん?マネージャーの仕事やって簡単やない。生半可な気持ちじゃすぐに挫折してまうで」
「…そうですね。私、この学校に転校してからバレー部の人たちには本当にお世話になってるんです。だから今はその恩返しをしたいっていう気持ちが一番強いです。でも、簡単な仕事だとは思ってません。仕事も一生懸命覚えます。もちろんバレーの勉強もちゃんとします」
「...それじゃあ神代さんやったか、明日の朝練から部活来れるか?」
「はい…!ありがとうございます!」
「あ!北さん帰ってきた!」
「北さん!ユキちゃんどやった?」
面接が終わって体育館に行くと双子がダッシュでこちらに走ってきた。ユキちゃんってさっきの子のことか。色々衝撃的で面接でも1番印象に残ったわ。やっぱ仲ええんやな。
「神代なら明日から朝練来るで」
「ほんまですか?さすが北さんや!」
「双子は神代と仲ええんやな」
「当たり前です!ユキちゃん俺らのこと話してたんですか?なんて言うてました?」
「お前ら…ほんまに神代さん大好きやな」
「当たり前やろ何言うてんねんアランくん!」
バレー以外でこんなテンション上がっとる侑は珍しいなあと思いながら、2年どもが輪になってガッツポーズをしている光景を眺める。
「なんや明日から騒がしくなりそうやな」
「せやな」
「神代さん人気者やったな」
「せやな」
「神代さん、えらい別嬪さんやったな」
「せやな」
「え!?」
「なんでお前が驚いてんねん」
「いや、信介がそんなん言うなんて珍しいな~なんて」
「なんやねんそれ。お前の方が何言うとんか分からんわ」
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