14.さくらが色付く頃
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最近、ユキちゃんがさらに可愛くなった。何がっていうと多分、俺らに甘えてくるようになったんやと思う。今までは、俺らがユキちゃんに甘えに行くことはあってもユキちゃんから甘えてくることはなかった。なのに、最近ちょっとずつ俺らに甘えてくれるようになった。それで気づいたんやけど、ユキちゃんは案外甘え下手やねん。
なんなんそのギャップ。かわいすぎるやろ。
ほら、今やって
「おさむくん、あ、あのね、明日のおにぎりも、梅干しを入れて欲しいの」
食べ終えたばかりのおにぎりを包んでたアルミホイルで口元を隠し、恥ずかしそうにお願いしてくるユキちゃん。
そんなん、そんなんええに決まっとるやろ!
「ええよ、またリクエストあったら言ってな」
「ほ、ほんと?」
「おん、ほんまや」
俺の言葉にわあっと目をキラキラさせるユキちゃんの頭を撫でてやると、ユキちゃんは ふふ と嬉しそうに笑う。
その表情につられて俺の表情筋もゆるゆるになっていくのを自覚した。やばいめっちゃ抱きしめたい。愛くるしいってこのことを言うんやろな。それにしても、以前にも増してユキちゃんが可愛く見えるのは、やっぱり気のせいじゃない。
…抱きしめてもええやろか。今、一番うるさいツムは腹痛いとか言ってトイレにこもってる。銀は隣のクラスの女子に中庭まで呼び出されとった。そして角名は先生から呼び出されたとかで職員室に行っている。それはつまり俺とユキちゃんを邪魔する奴が今おらんっちゅうことや。
隣で、角名からもらったおやつの包みを開けているユキちゃんを見て少し魔が差した。
ユキちゃんの背中と後頭部に手を持っていき、少し力を入れて引きつけると、わ!という声とともにユキちゃんは俺の腕の中にすっぽり収まった。びっくりしたからか反射的に俺の制服をぎゅっと握るユキちゃんに、俺の心臓も一緒にぎゅうってなったわ。なんなんユキちゃん、ホンマ可愛ええなあ。
やわらかい抱き枕を抱きしめる要領でぎゅうぎゅうとユキちゃんを堪能してると、突然頭を後ろに引かれる感覚と共に腕の中の温もりが消えた。
「おい、サム調子乗ってんとちゃうぞ!」
「何1人だけ抜け駆けしてんの」
「羨ましいなおい!」
せっかく2人だけの時間を堪能しとったのに、喧しいのが来てしもうたわ。不躾に人の髪の毛引っ張ってくるツムを睨みつける。いつもなら、なんやねんその顔はとか言って睨み返されて、そのまま喧嘩になってもおかしくない状況だ。けれどもツムは俺には目もくれずある一点を見つめている。
(はあ?なんやねんコイツ…人の髪の毛引っ張っといて俺のことは無視とか有り得んやろ)
しかしツムにこれ以上噛み付いてくる様子はない。腑抜けた面を晒しているツムの頬を抓ってみても無反応な片割れになんとなく空振りした気持ちになった。
ため息をついた俺は自分の手のひらを見て先程の感触を思い出す。
まあ、ハルちゃん抱きしめられたしええわ。
そう思ってはたと気がつく。そういえばユキちゃんどこいった…?
ツムに肘をつかれて顔を上げると、そこには角名に慰められてるユキちゃんがいた。角名の腕の中で顔を真っ赤で瞳に涙を溜めてわなわなと震えとる。
(ええ、めっちゃかわい…。うさぎさんかな?)
じゃなくて、なんでそんな怯えとんの?そんなに俺の抱擁が嫌やったんか…?
「ユキちゃんそんなにサムが嫌やったんか、すまんな、次は俺が抱きしめたるから」
「いや、治も侑もほぼ同じだから嫌だってさ。ね、ユキ俺が1番安心するでしょ」
「はあ?お前ら好き勝手言いやがって…って待ってユキちゃんほんまに嫌やったんか?」
さすがに俺の抱擁が嫌すぎてその反応はショックやねんけど…そんなことを思いながら角名の腕の中で丸まるユキちゃんに近寄ると、ユキちゃんはキュッと目を瞑って小さく呟いた。
「は、恥ずかしい」
耳まで真っ赤になって両手で顔を覆い、少し震えたユキちゃんの声が脳内に響いた。
(ええ…か、か、かわええええ)
シャツの上から突然バクバクとなり始めた心臓を抑えて膝を着くと、同じタイミングで隣からドゴッという鈍い音が聞こえた。俺と同じように心臓を抑えた銀とツムが机に顔面をぶつけたみたいだ。目の前でユキちゃんを抱きしめたまま片手で心臓を抑え悶える角名。お前、何ユキちゃん横取りしてんねん、マジでその位置代われや。
* * *
今まで散々俺らを誘惑してきたユキちゃんが思いのほか甘えるのが下手くそで、こっちから責めると初心な反応をして、だけどめちゃくちゃに甘やかしてやると、嬉しそうに擦り寄ってくる。
「ええ、ユキちゃん白うさぎみたいや」
「いやそこは猫やろ。俺らにだけ懐く高貴な猫ちゃん」
部活中、ツムとそんな会話をしながら何十にも重なったタオルを運ぶユキちゃんを見守る。
前よりか幾分雰囲気が柔らかくなったユキちゃん。例の事件から稲荷高校男子バレー部の癒し担当という役割が追加され、みんなからでろでろに甘やかされるようになった。ただ問題なのは、今までの近寄り難い印象が薄れたせいでユキちゃんに近づこうとする奴らが増えたことだ。俺らと北さんのモンペ具合が加速したのは言うまでもない。もちろん、マネの仕事は完璧やけど。
それに、俺らみたいに心を開いているわけじゃない相手には相変わらず無関心でツンとしとるのも、俺らがユキちゃんにハマる理由やな。
「せやったらやっぱりハリネズミちゃうか。警戒心は強いけど案外マイペースなとことか」
「は?ユキちゃんそんなトゲトゲしてへんし」
「誰も見た目の話してへんわ」
* * *
朝練が終わって適当に授業を受けたらあっという間にお昼休み。いつも通り教室の角に集まったらみんなで昼ご飯を広げる。向かいに座るユキちゃんが、空のタッパを持って可愛らしく俺を見上げた。
「ユキちゃん今日はリクエスト通り梅おにぎり作ってきたで」
「わあ!ありがとう、おさむくん」
「次はなんかお願いないんか?」
「えと、じゃあおにぎりの作りかたを教えて欲しいな」
「っ〜〜もちろんええで!」
ほんまかわええなあ。ユキちゃん俺におにぎり握ってくれるつもりなんかな。
あれ、けど待って、自分で作れるようなってもうたらユキちゃんにおにぎりを作るっていう俺の役割がなくなってしまうかもしれない。
(そ、それはダメや!)
「ユキちゃん、教えるんはええけど、ユキちゃんのおにぎりはこれからも俺が作るからな」
「おい!そこでイチャイチャすんなや!」
「ユキ、治から離れてこっちおいで」
「ユキちゃん、俺がサムの飯より美味い朝食教えたるわ」
「なんやねんお前ら、嫉妬は醜いで」
以下、モンペする2年組と北さん
「神代先輩!今のサーブどうでしたか?」
「ユキちゃん先輩!ドリンク運ぶの手伝います」
「神代先輩、寒そうですね、僕の上着着てください」
毎度毎度、休憩の度にユキちゃんに話しかけやがって練習中やぞ。何度言ったらわかんねん1年の癖して、ホンマに図々しい奴らやで。
いくらバレー部に馴染んできたからといって、やっぱり俺らのユキちゃんは目が離せへんなあ。
それと最後のやつ、俺らの存在よお見とんのによくそんな下心丸見えのセリフ言えたな。その度量だけは褒めたるけど、そらアカンで。
「おい、ユキは仕事中やろ、サーブなら俺が見たるからやってみ」
「ユキちゃん、ドリンクは俺が持つで」
「ユキ、寒いならこれ着てて」
順番に北さん、銀、角名。みんな狙ったように1年のセリフを奪っていく。あーあ、俺の出番なくなってもうたわ。北さんにガン見されてサーブ練させられるる1年おもろすぎやろ。
まあ、1年がユキちゃんに話しかけるなんてまだまだ早すぎるっちゅうことやな。
こんな風に俺らがユキちゃんをしっかり見てないと直ぐに図に乗るやつが出てくんねん。
例えば練習終わり、体育館からぞろぞろとみんなが出ていく時を狙って話しかける野郎とかな。
「ユキ先輩!モップ掛け変わりま…」
「ユキちゃん、今日もありがとうな、そういえばさっき北さんが呼んでたで、モップは俺がやっとくわ」
「うん、ありがとうおさむくん。えっと、佐山くんもありがとう」
ほーん、あいつ佐山って名前やったんか。体育館に人が少なくなるタイミングを狙ったんやろうけど、残念やったな。
* * *
「ユキ。来週から合宿始まんねんけど、その予定表や」
「はい、ありがとうございます」
「2年に回しといてくれ」
「分かりました」
「あと、ちゃんと危機感持って行動してな」
「?はい、わかりました」
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