1. まさに晴天の霹靂
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朝練が終わり自分の教室へと戻る途中、いつもより周りが騒がしいことに気がついた。廊下の真ん中で束になり、通路を塞ぎながら喋る男子連中がものすごく邪魔だ。
「なんや騒がしいな、今日なんかあったか?」
隣でおにぎりを食べながら歩く治も少し気になったようで、俺たちの前を塞いでいる奴らに話しかける。
「あ?なんやお前ら知らんのか。転校生がくるんやってさ、それも女子な!」
「なんやそんなことかいや」
ああ、だから騒がしいのか特に男子が。まあ俺はあんまり興味ないけど。俺の隣を歩く治も、大して興味がないようで、大きな口を開けて欠伸をしながら教室へ入っていった。
* * *
「神代ユキと言います、よろしくお願いします」
そう言って噂の転校生はぺこりとお辞儀をした。少し緊張しているのか僅かに赤く染まった頬を隠そうと俯いている。今日からこのクラスの一員になんねんで、みんな仲良くしいや。という担任の紹介を経て、恥ずかしそうに控えめな笑顔をみせた神代ユキはこのクラスの目線を一瞬にして釘付けにしたことだろう。
日本人離れした真っ白い肌に色素の薄い金色のサラサラとした髪の毛、ガラス玉みたいに透き通った青色の瞳、少し高めの可愛らしい声。全てが注目を集めるのに十分だった。もちろん俺の目も釘付けだった。さっきの発言は撤回させてもらおう。転校生、めっちゃかわいい。
「じゃあ席は後ろの空いてる席に座ってくれ」
担任のその声に転校生は小さく返信をして静かに歩き出した、姿勢も良いんだなと思いながら眺めてると、彼女は俺の隣に着席する。ああ後ろの空いてる席ってここだったのか。そういえば前までこの席に隣の席はなかったっけ。
「じゃあHR始めるでー」という担任の声で、ようやくクラスのみんなの視線が神代ユキではなく教卓の方へ向かった。隣でほっと息を吐く音が聞こえたて、ちらっと視線を彼女へ戻す。
確かに、あんだけ視線を浴びてたら息も詰まるか。
とりあえずそんな可愛い転校生によろしくね、と軽く手を振ると彼女はこっちを向いてまた、控えめに笑って会釈してくれた。
「よ、よろしくお願いします」
そう言って恥ずかしそうに軽く手を振り返してくれる転校生が想像以上に可愛くて、ホームルーム中、担任の話なんてなにも頭に入ってこなかった。
* * *
「角名、お前見すぎやで」
「え、そんなに見てた?俺」
「おん、まぁ確かにむっちゃ可愛ええな」
一限の授業の準備をしてると先に準備を終えた治が俺の席にやってきた。てかそれが分かるってことはお前も見てたんじゃねえかと心の中でつっこんで、教科書を鞄の中から探してると治が転校生に話しかける。
「ユキちゃん、宜しくしてや。次移動教室やから一緒に行こう」
「あ、ありがとう、えっと…」
「ああ、俺は宮治な、こっちは角名倫太郎」
「みやくんとすなくん」
白くて細い腕に教科書とノートと筆箱を抱えて、神代さんは治と俺の名前を小さな声で呟く、うんかわいい。隣で治も心臓を抑えてぐぅという変な声をあげていた。
いつもなら女子と移動教室なんて考えられないし面倒臭いと思う、治だっていつもだったら自分か話しかけるようなこともないのに、俺らの間に挟まって小さな歩幅で歩く神代さんに俺も治も目が離せなかった。
はぁ〜と大きく欠伸をして、とりあえず黒板に書いてあることをノートに写す。あんまり内容は頭に入ってない、授業眠すぎ。
ふと、隣を見ると今朝と同じ綺麗な姿勢でノートをとる転校生。
授業も真面目に受けるのか。数学教師が黒板に書く設問も、ペンを止めることなくスラスラと解いている。この子、頭も良いのかな なんてくだらないことを永遠と考えてたらあっという間に午前中が過ぎた。
「やっと昼やー!飯が食えるで!」
「お前は授業中にも食ってたやろ!」
ガタガタと忙しく走って購買に向かったり、隣のクラスのやつが来たり、机を移動させたり、お昼になってやたら騒がしくなる教室の隅っこ、自身の席にちょこんとと座ってる神代さん。
俺も1年のとき、この騒がしさに慣れなくて疎外感凄かったなと思い出して、なんとなく彼女に話しかける。
「この騒がしさ慣れないでしょ、俺も一緒に食っていい?」
急に俺に話しかけられてびっくりしたのか一瞬、肩をビクッと揺らして俺の方を向く。
「う、うん!すなくんが良いなら」
俺が良いならって俺から声から声かけたのに、という言葉は飲み込んだ。それよりも俺が話しかけたことで嬉しそうに、ふにゃっと表情を崩した神代さんがかわいすぎた。
「ユキちゃん!俺も一緒に飯食ってええ?」
神代さんの可愛さの余韻に浸ってたら突然治がやってきた。お前さっきまで夢中で自分の弁当食って癖に、目ざとすぎ。
急な治の登場にびっくりしたユキさんは大きな瞳をぱちぱちとさせてから、宮くんも一緒に食べよう、と微笑んだ。
「ユキちゃんほんまに可愛ええなあ。なんか肌も白くて雪見だいふくみたいやわ」
雪見だいふくってどういう例えだよ、とまた心の中でつっこんでから神代さんの手元を見ると、可愛らしい黄色のランチョンマットを広げてお弁当箱のなかからサンドウィッチを取り出した。なんかおしゃれだな。
* * *
本日何度目か分からない眠気と戦いながら頑張って板書をする。この先生容赦なく英語で授業するから何言ってるかわかんねえんだよ、と悪態をつきながら隣を見ると、やっぱり綺麗な姿勢で授業を受けている神代さん。
ぼんやりした頭で先生の呪文を聞いていると。「Ms.神代」という言葉が聞こえた。
隣の席がガタッと揺れて神代さんが立ち上がる。うわあ性格悪ぅというクラスメイトの声が聞こえる。元々評判の悪い先生たが、流石に転校してきたばかりの神代さんが可哀想だなと思った。なんとか助け船でも出してやりたいが、授業を聞いていなかった俺には無理そうだ。と思った矢先、突然聞こえた流暢な英語にクラス全体がざわついた。ああ、あの先生の悔しそうな顔、しばらくネタにされるんだろうな可哀そうに。
「神代さん凄いね、先生もびっくりしてたし」
授業が終わって神代さんにさっき思ったことを伝えると彼女は何が?と言いたげにこちらに顔を向けて首を傾げる。彼女にとってはあれは普通のことなのか。
「いや、俺英語苦手だからさ」
「それは、私がたまたま1年前までアメリカに居たから。私の場合は古典と現代文の方がむずかしいよ」
うん。教科書で照れた顔を隠しながら謙遜するところも可愛いけど、これまた驚きの事実だ。日本人離れした容姿だとは思ったけど、やっぱり純日本人じゃないよな、と考えながらユキさんを凝視してたらパチッと目が合った。
「えっと、角名くんわたしの顔に何かついてるかな…?」
「…いや、神代さんが可愛すぎるから目が離せなかっただけだよ」
ずっと神代さんのことを見ていたことがバレた。妙に恥ずかしかったから、仕返しのつもりで素直にそう答えると、彼女は赤い頬をさらに真っ赤に染めて俯いてしまった。顔を手で覆ってすごく小さな声で「恥ずかしい」と呟くユキさんが可愛かったのはもう言うまでもない。
「じゃあまた明日ね」
「うん、ばいばい角名くん、部活頑張ってね」
「ん」
小さな手を振ってばいばいと言ってる姿がかわいい、最後に頑張ってねと応援してくれる姿に俺の心臓がギュッとなった。
ああ俺、この子のこと好きだわ。
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